ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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闇を見通す者・リリィ 二

「クロヴィス殿下、その発言は不敬と取られても仕方ないかと──」

「言い方が悪かったな。何も『父上が隠し事をしている』と断定しているわけではない。皇妃の誰かが子供の存在を隠している、あるいは父上の兄弟の子という可能性ももちろんある」

 

 現ブリタニア皇帝シャルルは幼少期から激しい後継者争いの渦中にあったという。

 彼は、当時ナイトオブシックスであったマリアンヌと共に大立ち回りを繰り広げた末、現在の地位を手にした。

 なので、彼の兄弟姉妹、およびその子は生存していないはずなのだが、

 

()()()()()()()()()()()が、彼も十歳前後で死亡したとされている。それだけ大きな混乱のさ中だ。密かに生き残っていた子がいたとしてもおかしくはあるまい」

「ですが! たかが似顔絵でそのような嫌疑をかけるなど……!」

「わかっている。数年前の、誰もが忘れたい出来事の記憶とあっては鵜呑みにするわけにもいくまい。単にそういうこともあり得ると心に留めてもらいたかっただけだ」

 

 実際は、目撃者の魂を降ろしたジェレミアの記憶を元に作成したものだ。

 犯人の容姿にかなり近いのは間違いないが、ジノのいる場では口にできない。だからこそ、クロヴィスは隠し子の可能性がある、などとカモフラージュしたのだ。

 彼が本当に言いたかったのは、皇帝に双子の兄が存在したこと。

 幼少期に死んだのなら今から五十年は前の話になる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()兄当人である可能性は無いが、シャルルと瓜二つの兄だ。何かしら関わっている可能性は高い。

 

 ジノは息を吐き、一同──特に俺と咲世子を見た。

 

「本件は内密に願います。少しでも不穏な動きがあれば、私は皇帝陛下の剣として非情な決断をしなければならなくなってしまう」

「心得ております」

「まがりなりにも祖国が再興されようというこの時、ブリタニアへの叛意を示すなど、何故そのようなことができますでしょうか」

 

 俺と咲世子の答えを聞いても、ジノは硬い表情を崩さなかったが──それでも、ある程度は納得してくれたように見えた。

 

「……リリィ様にはもう一つ、お伺いしたいことがあります」

「なんでしょう?」

「先日、謎の少女に迫られた際、何か特別なことを私にしませんでしたか?」

 

 桃色の髪の少女にカフェテリアで迫られた件だ。

 彼女はキョウトでスザク達に捕まったらしいが、ジノの元にその情報が入っているかはわからない。ユーフェミアには地下室で伝えたものの、情報の出所を漏らせないのでジノには伝えようがない。

 

「どうして、そんなことを?」

「あの時、私は名を呼ばれただけで指一本動かせなくなりました。それを貴女は軽く触れただけで治した。通常、起こりうる現象とは思えません」

「そう仰られましても、触れる以外のことは何も」

 

 触れることでギアスディフェンダーが自動起動したので、全くの嘘ではない。

 意図的にはぐらかしているのは間違いないが、ジノにギアスの件を話すわけにもいかないので、こればかりはどうしようもない。

 コーネリアも肩を竦め、少年騎士を窘めるように言ってくれる。

 

「敵の殺意を無意識に感じ取った、ということではないのか? 新兵なら震えが止まらなくなるところだが、貴殿のような実力者ならむしろ緊張が勝るだろう」

「いいえ。ナイトオブスリーとして、あの程度の状況で動けなくなるような鍛え方はしておりません。たとえ死地に置かれようとも皇帝陛下をお守りできなければラウンズ失格です」

「勇敢なことだが、動けなくなったのは事実なのだろう?」

「はい。だからこそ奇妙だ、と申し上げているのです」

 

 ジノにとっては屈辱だったはずだ。

 襲撃だったと断定されたわけではないため「失態」と見做されてはいないが、護衛対象であるユーフェミアの危機に何もできなかったことには変わりない。

 騎士として納得できるはずもない。

 これがまだ、真っ向から実力で下されたのなら納得のしようもあるが、得体の知れない力で抵抗さえ封じられたのでは気持ちの持っていきようがないだろう。

 

 再度、少年の真摯な瞳が俺に向けられる。

 

「リリィ様。貴女は本当に、何もしていないのですね?」

 

 俺は息を吐き、ジノの視線を見つめ返した。

 

 クロヴィスやユーフェミアは「言うべきではない」という顔。

 ギアスについて何も知らないコーネリアはどこか興味深そうな表情だ。

 

「ジノさま。この世には、既知の概念では測れない物事が存在します」

「? 何を……?」

「理屈では説明しきれない、謎の残る事件などありふれている、ということです。枢木ゲンブ首相暗殺事件しかり、マリアンヌさま殺害事件しかり。私は、そうした出来事をつい二か月ほど前にも経験しています」

 

 言うまでもなく、ロロの件だ。

 

「あの事件の際、屋上に人が集まってきたのは全てが終わってからでした。私が防犯ブザーを撒いていたにも関わらず、です」

「貴女の周りで二度もおかしな事件が起きている、と、自ら認めると?」

「そう受け取っていただいても構いません」

 

 俺は微笑んで答える。

 

「ですが、ジノさま。当事者であるからといって全てを知っているとも、説明できるとも限らないのです」

「それは……!」

 

 違うとは言い切れなかったのだろう。

 何か怪しげな力で身動きが取れなくなった、というジノの主張自体、信憑性はないに等しい。

 何だかわからないが俺が触ったら動けるようになった、という話を否定する材料もまた存在しないのである。

 

「正直、私も恐ろしいのです」

 

 ここで、俺は本音を混ぜる。

 

 ギアスなどというわけのわからない力が存在して、しかもその使い手が俺かユーフェミアを狙っているのだ。そんなものは怖いに決まっている。

 幸い、ここまでの襲撃はギアスディフェンダーで防ぐことができたが、俺のギアスも全てのギアスに有効というわけではない。

 というか、開き直って物理的に殺しに来られたら俺なんかあっさり死ねる。

 

「ジノさまが今抱いていらっしゃる疑問は、世界の闇に触れるものかもしれません。軽い気持ちであれば思いとどまった方が賢明でしょう」

「待ってください。貴女は何を知っているというのです!? 私に何を警告しているというのですか!?」

 

 ジノの声に切実なものが混じった。

 単に難しそうなことを言って煙に巻こうとしているだけなのだが──なんだかんだ、真面目に取ってしまうあたり人がいい。

 人数不足が続いているとはいえ、若くしてラウンズに任じられるというのは並大抵のことではない。

 相応の努力と熱意、それをジノ・ヴァインベルグは抱えているのだ。

 

「大したことは知りません。単に、不審な点を突き詰めていくと見えてくるものがある。そして、そこに触れてしまった時点で、おそらく私は踏み込みすぎてしまったのだ、ということです」

 

 それ以上、ジノはあの件について追及して来なかった。

 

 おそらく、これで俺はこれでもかと怪しまれただろう。

 だが、同時にジノへ釘を刺すことができた。

 

 ラウンズである彼にはできればギアスに触れてほしくない。

 若いうえに真面目すぎるジノでは皇帝の暴挙を知った上でなお、止まることができずに戦い続ける──そんなふうになってしまいかねない。

 せめて、俺やルルーシュ達の前に立ちはだかるのだとしても、自分で納得したうえでその道を選んでくれたら、と、思わずにはいられなかった。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

「ジノ、大丈夫ですか?」

「……不甲斐ないところをお見せしてしまい、申し訳ございません。ユーフェミア様」

 

 帰りの車内、ジノ・ヴァインベルグは意気消沈した様子だった。

 らしくない少年の様子に、ユーフェミアは胸が締め付けられるような想いを抱いた。

 

(リリィ様の言葉について考えているのでしょうね……)

 

 件の少女は車に同乗していない。

 気を遣ってくれたのだろう。今日は家の方に帰るからと言って、家の車を呼んで帰っていった。

 

 正直、少女の言葉は重かった。

 

 話をはぐらかすための会話ではあったが、込められた思いは本物。

 おそらく、リリィはジノに踏み込んで欲しくなかったのだ。

 

「リリィ様も難しい立場でいらっしゃるのです。どうか気を悪くしないでくださいませ」

「理解しているつもりです。……ですが、どうもダメですね」

 

 あの後、クロヴィスが告げた内容もジノに追い打ちをかけた。

 

『ユーフェミアを狙った殺し屋の少年について、機密情報局からの要請により本国への移送が決まった』

 

 機密情報局とはその名の通り、諜報活動等の機密事項を扱っている部署だ。

 皇帝直属であり、その活動内容は謎に包まれている。軍としての諜報部は別に存在しているため、外部から受ける印象としては「何か怪しげなことを行っている組織」というのが正直なところだ。

 同じく皇帝直属であるナイトオブラウンズにとっても、それは同じことらしい。ジノもこの話には驚いた顔を見せていた。

 

 皇帝にとって表の部下であるラウンズに対し、機密情報局は裏の部下。

 リリィの言葉に繋がるような動きだと感じずにはいられなかっただろう。

 

 ギアスの存在を知っているユーフェミアは猶更、この流れにきな臭いものを感じてしまう。

 皇帝がギアスユーザーを確保しようとしている、あるいは、先の事件そのものが皇帝の手引きであった、という風に見えなくもない構図だからだ。

 もちろん、ユーフェミアとしては父がそんなことをするとは思いたくない。

 しかし、父親としてではなく、ブリタニア皇帝としてのシャルルの行動に奇妙な部分があるのもまた事実だ。

 現在、彼は「皇子、皇女達を王位継承権をかけて競わせる」という名目で政務の大部分を任せており、自分は時折重要な命令を下す程度。

 シャルルの子供時代の政争に比べればクリーンな継承争いだといえるし、シュナイゼルらの働きによって国も上手く運営されているとはいえ、「皇帝陛下が何をお考えなのかわからない」という声はどうしても散見される。悪口を言っただけで処罰されかねない専制君主制の国にあってなお、である。

 

 マリアンヌが生きているかもしれない、という件も加味して考えれば、何かが動いているのは間違いない。

 

「やはり、リリィ様が信用できませんか?」

「……そうですね」

 

 顔を上げたジノは常とは違う、陰のある笑顔を浮かべた。

 

「正直に申し上げれば、今の私にはユーフェミア様やクロヴィス殿下、皆様を信用しきることができません」

「そう……。当然でしょうね、わたくし達はジノに黙って、マリアンヌ様殺害の件を調べていたのですから」

「ラウンズである私に言いにくい話であったことは理解しています。ですが、だからこそ歯がゆく、悔しい、と言わざるをえません」

 

 率直すぎるジノの言葉は、不敬として処罰の対象になりうるものだ。

 皇帝直属の騎士であるナイトオブラウンズに他の皇族に従う義務はないが、だからといって失礼な態度を取っても構わない、というわけではない。

 しかし、もちろんユーフェミアは、そんなことでジノを罰しない。

 ただ、そっと少年に声をかけるだけだ。

 

「悩んでください。貴方が納得のいくように。そして、答えを出してください」

「その結果、私がどんな答えを出しても、ですか?」

「ええ。わたくしは、自分の行いが間違っていないと信じています。お父様もきっと、わかってくださると思います。ですが、それでも糾弾を受けるというのなら、それはきっと仕方のないことなのでしょう」

 

 リリィを巻き込んでしまったのは申し訳ないが。

 きっと、あの少女にそう言えば「私がユーフェミアさまを巻き込んだのです」と言うだろう。そう思うと、なんだか笑ってしまいそうになる。

 そういうところで、あの少女とは気が合うのだ。

 

 ジノは、神妙な表情でユーフェミアを見た後、ふっと笑った。

 

「ユーフェミア様は騎士をお決めにならないのですか? きっと、貴女の騎士になる方は幸せでしょう」

「そうですね。いつか、素敵な方が現れてくださるのではないかと思っております」

 

 何故かルルーシュの顔が思い浮かんだが、彼を騎士につけることはできないというか、むしろ彼にこそ騎士が必要だろう。

 そう思ったユーフェミアは、今度こそくすりと笑みをこぼした。

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