ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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婚活女子 篠崎百合 四

 皇暦2010年、日本と神聖ブリタニア帝国の開戦が間近に迫っていた。

 一般にはまだ公開されていない情報だが、情勢から鑑みれば聡い者は気づくだろう。これから、日本人にとっては前代未聞の激しい戦争が始まるということに。

 

(本当に、戦争が始まる)

 

 篠崎咲世子はこの戦争を以前から予期していた。

 否、妹──百合の予言によって知らされていた、というのが正しい。

 百合は非常に聡い子だ。

 まだ幼いというのに知識を猛スピードで吸収し、開戦を以前から言い当てたばかりか、政府の重要人物に進言して戦争準備に影響を与えてさえいる。

 

 戦い。

 

 幼少期から篠崎家の跡取り候補として育てられてきた咲世子に戦いへの忌避感はない。家の男衆とは日常的に技を競い合っているし、いざとなれば人を殺す覚悟もできている。並の軍人よりも自分の方が強いという自負もある。

 しかし、兵器と兵器のぶつかり合いは古色蒼然とした戦とは違う。

 策略家と策略家が知恵比べを行い、彼らの駒として鉄の塊が、人が、湯水の如く消費されていく。個の武勇を競う余地など殆どない。

 飛行機や軍艦に無力なのであれば、戦争になる前に手を打つべきだったのだろうに、咲世子は未だ学生の身。仕事をするどころか一人前と認められてさえいなかった。

 

「百合。準備はできた?」

「はい、姉さま。万端です」

 

 夜。

 空は雲に覆われていた。時折、雲間から月が顔を出すものの、星まではとても見ることができない。

 明日の朝、百合は屋敷を発つ。

 最後の夜は二人で綺麗な夜空を眺めたかったのだが。

 

 本当は二か月ほど後の予定だった百合のブリタニア行きは、シュタットフェルト家の意向により早められた。

 向こうも開戦の予兆を察知したのだろう。

 既に根回しは終わっているとはいえ、戦いが始まれば日本人の少女の受け入れも難しくなる。逆に今のうちにブリタニアへ行けば問題なく全てが行える。

 百合は「孤児からシュタットフェルト家に拾われたブリタニア人」として生きていくことができる。

 

「……本当に一人で行くの?」

「もう、姉さま。それはもう何度も聞きました」

 

 寝間着に身を包んだ妹は小さく頬を膨らませる。

 

「送っていただく必要はありますし、二、三日は居ていただくことになると思いますが、それ以上は駄目です。私はブリタニア人としてシュタットフェルト家の養女になるのですから」

「でも、その家は日本人に寛容なのでしょう? だったら使用人の一人や二人──」

「駄目です。姉さまや皆さんにもそれぞれの役割があるのですから。私のために振り回すわけにはまいりません」

「……全くもう、いつもそうなんだから」

 

 小さくて、戦う力を持たない最愛の妹。

 彼女はいつだって人のことを考えている。世界を見ている。遥か未来を見据えている。

 自分のことなんてどうでもいい、とでも言いたげな言動を度々発する。

 咲世子は溜め息をつくと少女の身体を抱きしめる。

 

「あなたの心配をするのだって、私の大事な役目よ。だって、家族なんだから」

「……ありがとうございます。ごめんなさい、姉さま」

 

 旅に出る百合が英気を養えるよう長い時間はかけず、しかし、いつもよりは少しだけ夜更かしをして、姉妹は長い別れを惜しんだ。

 

「姉さま、きっとまた会えます。それまでお元気で」

「ええ。百合も、元気で」

 

 ブリタニアに行った百合とは姉妹ではなくなる。

 それでも、血の絆はなくならない。半分だけとはいえ血が繋がっているのだ。

 

(私も、私にできることをしましょう)

 

 自室に帰ってから泣きはらした咲世子は、翌日、妹を笑顔で見送った。

 

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 

 ブリタニア入りは思ったよりもギリギリになった。

 もう少し時間に余裕があれば日本に情報を流したりしやすかったのだが……まあ、間に合っただけマシと思うしかないだろう。

 原作よりは日本も持ちこたえてくれるだろうし、ロイドと話す機会があればKMF(ナイトメアフレーム)の情報を送れるかもしれない。そのための暗号は一生懸命勉強した。

 

 ──と、ここで一つ懸念事項がある。

 

 開戦とは別の原作イベント。

 本格的に何もできない案件なので優先順位を下げていたのだが、開戦前後に()()()()()()で大きな出来事が起こる。

 原作主人公であるルルーシュの母・マリアンヌが何者かによって殺されるのだ。

 この事件をきっかけにルルーシュはブリタニア、特に皇帝への不信感を抱き、更には妹のナナリーと一緒に日本へ送られてしまう。そして日本の地でスザクと出会い、共に戦火に見舞われるのだ。

 

 母の死はルルーシュにとって辛い出来事。

 変えられるなら変えてやりたいという思いはあったが、何しろブリタニアでの事件なので介入が非常に難しい。

 顔合わせでブリタニアに行った時がチャンスと言えばチャンスだったが、ルルーシュもマリアンヌも皇族なので気軽に会えるわけがない。手紙を送ろうにも検閲が入るだろうし、もし無事に「暗殺に気をつけろ」などと伝えられたとしても上手く対処してくれるとは限らない。

 原作と同じ流れなら犯人も相当ヤバイ奴なのでそっちをどうにかすることもできない。

 加えて、ここでルルーシュが「ブリタニア憎し」と思ってくれないとブリタニア最大の敵が消滅してしまう。ぶっちゃけあの男が親ブリタニアのまま日本の敵に回ったら無理ゲーだ。主人公を敵に回して勝てるわけがない。

 

 だから結局、俺はマリアンヌ殺害の件について何もしなかった。

 すぐにでも開戦しそうなこの状況下、もし事件が起こるなら既に起こっているだろう。

 殺されるマリアンヌは可哀想だが、原作では「とある方法」で後にルルーシュと再会することになる。その時の彼女の言動はその、なんというか思っていたのと違っており、その印象もあって俺としては「別に助けなくてもいいんじゃ……?」と思う。

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです。無事、この日を迎えることができたことを嬉しく思います」

「よく来たね、百合。……いや、リリィ」

 

 シュタットフェルト家でカレン父らに出迎えられる。

 

 リリィ・シュタットフェルト。

 それが俺の新しい名前だ。

 篠崎百合という存在はこの世から消え、新しくリリィという存在が誕生した。

 篠崎家での思い出は、ブリタニアで生活する限り心に秘めていかなければならない。そうでないと俺だけでなく家族に、そして他の日本人にも害が及びかねない。

 

「これからよろしくお願いいたします、お養父さま、お養母さま」

 

 俺にはシュタットフェルト家の屋敷内にある奥まった一室が与えられた。

 他の部屋に比べると小さめのようだが、綺麗に掃除されていたし、あまり広い部屋をもらっても逆に落ち着かない。必要最低限の調度品も安物には見えないので、むしろ感謝したいくらいだ。

 付いてきてくれた使用人に持ってきた荷物を下ろしてもらい、さっそくベッドに腰を下ろした。思った通りふかふかだった。

 

「今後、リリィさまのお世話は私どもがいたします」

「よろしくお願いします。なにぶん、勝手が違うことばかりですので戸惑うことが多いと思いますが、なるべく早く馴染めるように頑張ります」

 

 後の世話はシュタットフェルト家のメイドさん達にバトンタッチされる。

 篠崎家の使用人は引き継ぎもあって大忙しだ。俺の食べ物の好みやかかりやすい病気、細々とした癖などを伝えないといけない。伝え漏れがあったからといってまた来るわけにはいかないので、帰るまでに全てこなすことになる。

 こういう時に俺は役立たずだ。

 というか、お嬢様なんだから世話されるのも仕事のうち。武家というか忍者の家系だった篠崎家は割と無骨なところもあったが、シュタットフェルト家ではそうもいかないだろう。

 

「では、百合様。……いえ、リリィ様。私達はこれで」

「はい。今までお世話になりました。どうか皆さんもお身体に気をつけて」

 

 使用人の滞在期間の数日はあっという間に過ぎた。

 深く頭を下げてお礼を言うと、彼女達はぐっと涙ぐんでいた。意外と愛着を感じてくれていたのかと今更ながらに驚く。篠崎家の家風とは合わない子だっただろうに。いや、だからこそ、なんだろうか。

 俺には彼女達に頭を下げるしかできない。

 これからは他人になるのだ。彼女達にも、帰る前にできるだけブリタニアの情報を集めるという任務があるはず。お互いに感傷に浸ってばかりもいられない。

 

 別れは全て、新しく与えられた自室の中で済ませた。

 

 

 

 

 

 

 新しい生活を始めた俺は気候の違いから風邪を引いたり、水の違いからお腹を壊したり、情けなくも大変な日々を過ごすことになった。

 洋食には前世で慣れてるから身体が馴染めば平気だとは思うのだが、そのうち白いご飯と味噌汁が恋しくなりそうな気もする。

 で、まあ、一か月くらいが経って体調を崩す頻度も落ちてきた頃、養父から申し出があった。

 

「リリィ。学校に通う気はないかな?」

「学校……。そうですね、年齢的にもちょうどいいタイミングです」

 

 俺ももう十二歳。小学校を卒業する年齢だ。

 中学から、ということなら新しい学校にも馴染みやすいだろうし悪くない。

 ロイドと結婚するにもある程度の実績(というほど大層なものでもないが)が必要だろうから、通っておいた方がいい。

 

「はい、是非。ただ、入学式から通うかは体調と相談させていただけませんか?」

「ああ、それは構わない」

 

 と、話は案外あっさりと片付いた。

 

 当初はすぐ体調を崩す俺に大慌てしていたメイド達も何度か繰り返すうちに慣れてきて「また風邪ですか」「はいはい温かくして寝ましょうね」みたいな反応になってきた。

 まあ実際、日焼けさえしなければただの風邪くらい、安静にしていれば治る。

 養父は仕事が忙しいのか女遊びが忙しいのか家を空けていることが多い。

 養母は俺から一定の距離を置いて接してくる。礼儀作法や学問の勉強をするように、と言い渡して教材や本の手配をしてくれたりはするが、フレンドリーな会話は殆どない。嫌がらせとかされるかとも思ったが案外優しい。下手に嫌がらせすると死ぬからかもしれないが。

 

 ロイドとはこっちに来てから会えていない。

 俺の健康状態がもう少し良くならないと風邪を移しかねないし、何よりあの男がわざわざ会いにくるはずもない。落ち着いたら頃合いを見てこっちから会いに行くしかないだろう。

 

 ベッドの上での読書を中心とした日々を過ごす。

 そしてある日、ブリタニアと日本との戦争が始まった。

 

 

 

 

 

 

 神聖ブリタニア帝国は日本の富士山周辺を中心とするサクラダイト採掘地の譲渡を日本に要求。

 日本は「サクラダイトは我が国にとっても重要な資源」とこれを拒否。外交の場において熾烈な値段交渉が繰り広げられた結果、交渉は決裂。

 ブリタニアが日本に宣戦布告を行い、日本もこれに応じる形で両者の戦端が開かれた。

 

 ブリタニアのメディアはこれを淡々と報じた。

 基本的に屋敷から出られない俺には市民の声も十分に入らないが、テレビから確認できる範囲とメイド達の様子からすると、一般市民の反応は「また戦争かあ」といった感じだった。

 どこか別世界の話というか、ブリタニアが他国と戦争をするのはわかったけど、いつものことでしょ? という反応。

 誰もブリタニアが負けるとは思っていない。

 それどころか、本国が戦火に包まれることもないと確信している。

 

「この国と戦争するなんて日本人は愚かね」

「そうですね。無駄な血を流すのは愚かな行為だと思います」

 

 誇りを守ることは無駄ではないからこそ戦うのだが。

 俺は養母が投げてきた珍しい世間話に表情を変えず応じながら、内心で呟いた。

 

 ブリタニアと日本の戦いはまず海上が主戦場となった。

 軍艦による撃ち合い、空母から発艦した航空機が鎬を削る戦い。ブリタニアの艦船は高い国力のお陰で強力だが、日本海軍も負けてはいない。量では劣るものの艦の質ではむしろ勝っており、乗組員やパイロットの練度もあって健闘した。

 接舷しての白兵戦なんかはさすがサムライ、と、ブリタニアのメディアでも報じられた。

 

 しかし、形勢は徐々にブリタニア側に傾く。

 

 次第に敗戦を重ねるようになった日本側は戦線を下げることを余儀なくされ、遂には湾岸に住む住民を立ち退かせての本土決戦が敢行される。

 本土を守るための対空戦力をしっかり温存していた日本軍に対し、ブリタニア軍はここで新たな一手を切る。

 

 サクラダイトを動力とする人型の機動兵器。

 ナイトメアフレームが史上初めて実戦投入されたのだ。

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