ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
話はV.V.を撃退した頃に遡る。
「お前にだけは話しておいても良いだろう」
C.C.はそう言って、俺に自分の知っていることを話してくれた。
「少し昔の話だ」
十代としか思えない見た目で五年前、十年前を「少し昔」と言えるあたりが不老不死の魔女らしい。
彼女の越えてきた時の流れはそんなものでは済まないのだと、あらためて実感させられた。
「私とブリタニア皇帝シャルル、そしてマリアンヌ、V.V.は友人だった。私達は志を同じくする同志だったんだ」
「皇帝陛下にギアスを与えたのはC.C.なんですか?」
「違う。ブリタニア王家はギアスと『コード』を独自に伝えている。シャルルとV.V.にギアスを与えたのは彼らの先祖にあたる者だ」
『コード』。
コードギアスというタイトルの片割れにして、ギアスの奥に存在する力。
これは簡単に言うと「不老不死の力」と「他者にギアスを与える力」が一つになったものだ。これまで『魔女』と呼んできた存在──現在で言えばC.C.とV.V.がこのコードの保有者である。
コード保有者の身体にはギアスの紋章に似た模様が浮かび上がる。C.C.の場合は額だ。
「V.V.もギアスの持ち主だったのですね? コードではなく」
「ああ。コードは一定以上に成長したギアスの持ち主にのみ引き継ぐことが可能なのだ。コードを受け取った時点で持っていたギアスは無くなってしまうが──私もV.V.も、元はギアスの持ち主だった」
「コード保有者がコードを引き継ぐ目的は?」
「決まっているだろう。
コード保有者は死なない。
正確には、肉体がダメージを受けた際、バックアップされている健康な状態をロードして損傷を復元してしまう。これによって「死んでも生き返る」。
つまり、何があろうと死ぬことができない。
生きることに飽きて死を望んでもだ。
「コードを引き継ぐ際に『引き継がれる側』の意思は関係ない。生を終わらせたいと願うようになったコード保有者は後継者を育てるのさ」
苦しんでいる者、何かを渇望している者に声をかけ、言葉巧みにその気にさせて契約させる。
後は母のように姉のように恋人のように守り育て、後継者のギアスが十分に育ったその時には、相手の意思など関係なくコードを引き渡す。
普通の人間に戻って死ぬ、ただそのためだけに。
C.C.は「私もそうやってこの身体になった」と、どこか寂しそうに言った。
「ギアス嚮団とは、コード保有者を嚮主とした宗教団体であり、ギアスの力を追及する研究団体。そして、コードを引き継げる者を生み出すためのゆりかごでもある。……元々は、な」
「今は違うんですね?」
「ああ。数年前──私がV.V.に嚮主の座を渡してからは秘密結社の意味合いを急速に強めている。以前からそういう性質が全くなかったとは言わんが、暗殺者やらスパイやらを積極的に養成するようになったのはその頃からだろう。V.V.は若いからな」
V.V.は皇帝シャルルの双子の兄である。
歳で言うと六十を超えているのだが、それを若者扱いできるC.C.の年齢は推して知るべし。
「嚮主交代のきっかけになったのは、マリアンヌさま殺害の件ですか?」
「……そうだ。我々は同志として一つの目的に向かって動いていたのだが、V.V.は突如としてマリアンヌを殺害した。シャルルや私には黙ってな」
だが、V.V.にとっては誤算となる出来事が発生した。
「マリアンヌは死に際になってギアスを発現させた。……契約は行ったものの、資質が低かったせいかそれまで発現していなかったのだが」
マリアンヌのギアスは「死に際、他者に魂を引き継ぐ」というもの。
こうして彼女の魂はV.V.も知らないところで一人の少女──当時アリエス宮で行儀見習いをしていた幼い少女、現ナイトオブシックスであるアーニャ・アールストレイムへと引き継がれた。
ジノが言っていた「アーニャには記憶障害がある」というのは、度々ギアスが発動してはマリアンヌが表に出ているのが一つ。
加えて、マリアンヌの魂が生き残っていることをV.V.に知られないため、皇帝がギアスを用いて記憶を操作したせいでもある。
「皇帝陛下のギアスは『記憶操作』なのですね?」
「ああ。他者の記憶を消すことも、偽の記憶を植え付けることもできる。同じ対象に用いられる回数にも制限がない。最強クラスのギアスと言っていいだろうな」
例えば誰かに命を狙われたとしても、暗殺でなければどうとでもなる。
「お命頂戴、覚悟!」とか悠長に言ってる間に相手の目を見て「お前は私の忠実な部下で、別の者に仕える振りをして二重スパイをしていたのだ」とか記憶を改ざんしてしまえばいい。
説得とか洗脳とかそういうのがチープに思えるほどのチートである。
何しろ記憶自体を変えられてしまったのでは抵抗のしようがほぼない。抗うベースとなる思想や信条そのものを作り変えられるのだから。
「話が逸れたか。……私はV.V.の心変わりをマリアンヌ当人から聞いて知り、嚮団を離れた」
皇帝ともV.V.とも袂を分けた──というほど明確な心境ではなかっただろう。
おそらくC.C.は疲れてしまったのだ。
一つの目的に向かって進んでいた仲間達が些細なことで仲間割れし、一人が命を落とした。
楽しかった日々が一瞬にして色あせてしまったとしても仕方がない。
「以来、私は自分のためだけに動いていた。各地を放浪し、マオと出会ってギアスを与えた。徹底的に甘やかして後継者──いや、次の犠牲者にするためにな」
「コードを引き継ぐ条件とは、やはり」
「ああ。ギアスが暴走──制御できなくなり常時発動状態となるのが目安と言っていい」
しかし、C.C.はマオにコードを渡さなかった。
死ぬという目的さえ果たせれば世界がどうなっても構わない、とは思えなかったのだろう。
コードの力はギアスの力とは比較にならない。
悪しき者、未成熟な者の手に渡れば、世界にどのような影響を及ぼすのかわかったものではない。
だから、『聴心』を暴走させ狂気に陥ったマオには渡せなかった。強い言葉でマオを拒絶し日本に渡った。彼は人の多いところに来られないだろうと見越して。
「では、あなたは皇帝陛下やマリアンヌさまと対立しているのですか?」
「いや。彼らとも利害は一致している。シャルル達が成そうとしている計画にはコード保有者が二人必要になる。……そして、計画が成った場合、使用されたコード保有者は死ぬことができるからだ」
まとめよう。
皇帝とマリアンヌの計画にはコード保有者が二人要る。
そして、彼らが把握している限りでコードを持っているのは二人。C.C.とV.V.である。
(『亡国のアキト』において別のコード保有者が登場しているものの、原作において皇帝はC.C.に固執していたため、発見できていないかC.C.でないといけない理由があったものと思われる)
にもかかわらず、片やV.V.はマリアンヌを殺すなど勝手な行動に出ており、協力する気があるのか疑わしい状態。片やC.C.は気力を失っており、皇帝の庇護下から離れた状態。
つまり、皇帝が目的を達成するにはC.C.を取り戻した上でV.V.を従わせるか、別のコード保有者を用意しなければならない。
さて。
そんな状況において、C.C.を匿っており、V.V.の行動を悉く邪魔している俺──リリィ・シュタットフェルトの近くに
……やっぱり死ぬんじゃないだろうか、俺。
「まあ落ち着け。向こうが即、殺しに来るとは限らん」
アーニャがやってきたことを告げてもC.C.は落ち着いていた。
「それはそうですが、殺しに来られたら即アウトですよ?」
前ナイトオブシックスである皇妃マリアンヌは生身、KMFの操縦いずれにおいても並外れた実力を持つ化け物──もとい、天才である。
現状でも十三、四歳でしかないアーニャの身体なので多少勝手は異なるだろうが、百メートル全力疾走しただけで心臓がバクバク言うような虚弱娘を一人殺すくらいはわけない。
これにC.C.はふん、と鼻を鳴らして、
「お前だって対策の一つや二つは思いつくだろう」
「……まあ、無いわけではありませんが」
マリアンヌはアーニャの身体に入っているものの、アーニャと協力しているわけではない。
つまり、現ナイトオブシックスの身体というのは利点であると同時に枷でもある。
ある程度はアーニャの体面を気にしなければならないため、人目の多いところで仕掛けてくる可能性は低い。
「人気の少ないところでアーニャさまと一緒にならない、可能な限り咲世子さんの傍にいる。それで危険は減らせるでしょう」
「それでいい。向こうが普通にしている分にはこちらもできることは少ないだろう」
咲世子やマオにもある程度の事情は説明した。
ナイトオブスリーことジノが本国へ帰ったことは当然二人も知っている。ということは、ジノの報告内容と皇帝の判断次第では俺の抹殺命令、あるいはC.C.の奪還命令が下っていてもおかしくはない。
新しいナイトオブラウンズを警戒しておくべき、と伝えたら二人とも納得してくれた。
「相手が誰であろうとリリィ様をお守りするのみです」
「リリィが刺されそうになったら僕が守るよ!」
「ありがとうございます、二人とも」
だが、マオには無理をしないようにと言っておいた。
そして。
いつまでも避けては通れない、とびくびくしながら学園に向かうと、あっさりとアーニャを連れたユーフェミアに出くわした。
歩いてきたユーフェミアも俺に気づいて「あ」という顔をしたものの、不自然に避けるわけにもいかないのでそのまま歩いてくる。
「ごきげんよう、リリィ様。今日もいいお天気ですね」
「こんにちは、ユーフェミアさま。そちらは新しい護衛の方ですか?」
できるだけ自然に話そうと心掛けながら水を向けると、ユーフェミアに付き従うようにして立っていた少女が前に踏み出してくる。
ボリュームのある桃色の髪を頭の後ろで束ね、左右に分けた可憐な少女。
服装は紋章が入った独自の騎士装束。なんというか、その、動きやすさ以外のすべてを捨て去ったような、水着あるいはスポーツウェアと見紛うような最低限の着衣の上から前開きのマントを羽織っているのだが、それでもなお腹とへそが見えている。
起伏には乏しいものの引き締まったプロポーションときめ細かな肌がなければとてもできない──いや、俺だったら絶対恥ずかしくてできないだろう姿。
「初めまして。私はアーニャ・アールストレイム。ナイトオブシックス」
「お初にお目にかかります、アールストレイム卿。リリィ・シュタットフェルトでございます。ユーフェミアさまとは親しいお付き合いをさせていただいております」
微笑んで一礼すると、少女は表情を変えないままに俺を見つめて、
「知っている。ジノからいろいろ話は聞いた」
「まあ、ジノさまから? やはりナイトオブラウンズ同士、交流があるのですね」
学園内なら大丈夫だよな、と思いつつ返事をすると、アーニャは更に踏み込んできて──俺の手を両手でがしっと掴んだ。
「私個人としても会いたかった。ううん、むしろ、ジノが羨ましかった。ユーフェミア様の護衛を代わってもらえて運が良い」
「え、ええと……?」
「あなたの会社が作ったゲーム、全部プレイしてる。ゲームの話を聞きたい。対戦もしたい」
心なしか目がきらきらしている。
見た目は幼さが残る少女なので微笑ましいことこの上ないのだが、俺は命の危機からのゲーム話で、どういう反応をしていいか迷ってしまう。
と、見かねたユーフェミアが助け舟を出してくれて、
「アーニャ。リリィ様が困っています。それに、わたくしの護衛なのですから放っておかれても困りますわ」
これにはさすがにアーニャも答えて、
「わかってる。ちゃんと周囲は警戒してる。それに、ゲームの時はユーフェミアさまも来ればいい。ゲームは人数が多いほうが楽しい」
「それは楽しそうですわね。ですが、それは次の機会にいたしましょう? 授業に遅れてしまいます」
「わかった。残念だけど仕方ない。……リリィ、また今度」
「ええ、是非お話しましょう」
微笑んでアーニャを見送りながら、俺は内心で思った。
怖いから、できればもう会いたくない、と。