ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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白い魔女・リリィ 五

「僕は全てを失った。全てを奪われた。今更僕に何をさせようっていうんだ」

「奪ったの間違いだろ」

「スザク様。ここは抑えてくださいませ」

 

 文句を言いたいのは山々だが、まずは冷静に話し合いから。

 転がしていた椅子を立たせ、口を自由にしたV.V.と向かい合って、

 

「協力してください、V.V.。皇帝陛下の野望を止めるんです」

「止める? なんで僕が。勝手にやればいいだろう」

 

 幼い少年の顔に皮肉げな笑みが浮かんで、

 

「罰するのも好きにすればいい。罰せられるならな」

「確かに、V.V.の行いをどこまで法で裁けるかは問題ですね」

「捕縛した嚮団の一員から証言は取れるだろうが……」

「組織の性質上、本人でないと知らない事実も多くあるでしょう。実行者が既に亡くなっており、闇に葬られた事件も。それから、ブリタニア以外で暗躍した分についてはどう裁くのか」

「確かに、な」

 

 おそらく、V.V.の罪を全て並べるのは不可能だろう。

 問題は全部並べなくても死刑が確定していそうだということ。というか、最悪の場合は「皇族の名を騙った不届き者。死刑」で済んでしまう。

 

「ですが、V.V.。あなたは死にたいのですか?」

「死にたいと思う?」

「思いません。死にたい人間は不老不死にしがみついたりしないでしょう」

 

 ここで問題なのは、

 

「あなたの望みはなんですか? ラグナレクの接続を、あなたは本当に願っているのでしょうか」

「……何を言いだすかと思えば」

()()()()()()。ですよね?」

「うん」

 

 意外にもあっさりと頷かれた。

 

「仲間割れだと……!? いや、皇帝がV.V.を切り捨てた時点で仲間割れ自体は起こっているのだが……」

「おそらく最初は共通目的だったのでしょう。ですが、途中からそうではなくなった。少なくともマリアンヌさま殺害の時点では」

「そうだね。……きっと、僕は途中からどうでもよくなってたんだ。ラグナレクの接続なんて」

「どうして、なのですか?」

 

 ユーフェミアが尋ねる。

 マリアンヌのあの執着ぶりを見た後だと余計にそう感じてしまうだろう。

 

「別に。大した理由じゃないよ。飽きただけさ」

「愛し合うマリアンヌさまと皇帝陛下を見て寂しくなったのでしょう。二人から始まった計画にいつの間にか他の者が加わり、皇帝陛下の心を動かしている。一方、あなたの時間は止まったまま。だから」

「そうやって何もかもわかったような口を利かないでくれないかな、リリィ・シュタットフェルト」

 

 お前が言うか。

 

「でも、まあ、そうだね」

 

 疲れたように溜息をついたV.V.は視線を彷徨わせ、頷いた。

 

「そうかもしれない。僕は、変わっていくシャルルが許せなかった。だからもう一度、シャルルの心を取り戻そうとした」

「ですが、マリアンヌさま殺害の犯人は露見したばかりか、マリアンヌさま自身の魂さえ生き残ってしまった」

「ああ。僕の知らないところでね」

 

 知ったのはかなり後になってからだっただろう。

 前会った時に俺が「皇帝かアーニャに聞け」とか言わなければ、もしかしたら気づかないままだったかもしれない。

 

「道化だよ。結局、僕は自分の望みさえ碌に果たせなかった」

 

 もしかしたら、V.V.はシャルルに並々ならぬ想いを抱くと共に、マリアンヌにも惹かれていたのかもしれない──という考察もある。

 変わっていくシャルル、変えていくマリアンヌの両方に惹かれながらどっちも手に入らなかったからこそ、彼はあそこまで歪んでしまったのではないかと。

 

「ですが、皇帝陛下ともう一度共に過ごす。その望みだけなら、もしかしたら叶うかもしれません」

「え?」

「リリィ?」

 

 疑問の声はV.V.からだけでなく背後からも聞こえた。

 振り返った俺は声の主──クロヴィスを見上げて告げる。

 

「推測通りなら、皇帝陛下は現在不老不死です。当然、死刑を執行しても意味がありません。可能なのは『コード』を奪うか、永遠に軟禁状態に置くことくらいです」

「だが、『コード』を強制的に奪うには条件が──そうか、だからか」

「はい。皇帝陛下ともどもV.V.を終身刑とすることであれば、あるいは可能なのではないかと」

 

 死なない囚人、しかも元皇族を普通の刑務所に入れるわけにもいかない。

 一部の者しか知らない秘密の場所に閉じ込め、二人だけで暮らさせるのはある意味現実的だ。

 これにはV.V.もまた目を見開いて、

 

「お前、本気で言ってるのか……?」

「はい。……と言っても、私にそのような権限はありません。できるのは提案することだけですし、判断するのは上の方々です。そもそも、このような話は不敬すぎて、今の段階では絵空事ですが」

「だが、その案なら罰自体を消しているわけではない。話の持って行き方次第だが、可能かもしれないな」

「もし実現すれば、ちょうどいいのではないでしょうか。今はV.V.が歳をとる状態で陛下が『コード』保有者。外見が同じくらいになるまで二人で共に過ごせるかもしれません」

 

 五十年間男二人で軟禁されろと言っているわけで、なんというか悪魔のような提案ではあるが、

 

「このまま死ぬよりはマシでしょう? どうでしょうか、協力していただけませんか?」

「……僕達はこんな奴を相手にしていたのか。負けたよ。君の方がよっぽど『魔女』だ」

 

 肩を竦め──ようとして拘束で「ぐきっ」てなったV.V.は、これまでの自らの行いについて証言することを了承してくれた。

 

 

 

 

 

 

「すごいや! ギアスがちゃんと操れる! 頭が痛くならないよ!」

 

 V.V.はついでにマオのギアス経験値を吸い取ってくれた。

 おかげで初期状態に戻ったマオのギアスは制御可能になり、オフにすることが可能に。とはいえ対症療法であって、ばんばん使っていればまたもとに戻ってしまうわけで、気をつけるように言っておいた。

 これで俺のところにいる意味もなくなったわけだが、

 

「ううん、リリィのところにいるよ。向こうに戻っても一人だしね」

 

 と、残ることを決めてくれた。

 ギアスを制御できる状態のマオなら一人でも大丈夫かもしれないが、今日本を離れると狙われる可能性もなくはないので、俺としてもその方が良いと思う。

 

「さて、先輩。洗いざらい話してもらいましょうか」

「そうだね。リリィはどうも隠し事が好きらしいし」

 

 で、俺はルルーシュ達に詰め寄られたのだが、

 

「い、いえ、その。さすがにもう全部話したと思いますよ……?」

 

 あらためて思いかえしてみても、ちゃんと話していないのは

 

 ・アーニャの幼少期の記憶喪失は別件(皇帝の記憶操作)だと思われること

 ・ナナリーの目も皇帝の記憶操作が原因かもしれないこと

 ・ラウンズの中にギアス能力者がいてもおかしくないこと

 

 くらいだった。

 

「まあ、俺もおおよそ推測していたとはいえ、結構あるな……」

「では、私の目は見えるようになるのでしょうか……?」

「ええ。目を開けたいと強く願うか、時間をかけて『目はなんともない』と認識を強められれば、きっと」

 

 これを聞いたナナリーは「私、頑張ります!」と可愛らしく決意していた。

 

 なお、ナイトオブワンが超短期的な未来視のギアスを所持していること、アーニャとナナリーの記憶操作の件などはV.V.からも証言が取れた。

 『亡国のアキト』で明かされた更なる超常存在のことやBRSのわけのわからない可能性については言及しなくてもいいだろう。そのあたりは直接関わるつもりがないし、ルルーシュ達の今、進んでいる物語には関係がない。

 

 そんなこんなで戻ると、総督府内からはだいぶ人が減っていた。

 ロイドやセシルなどは帰っていたし、兵達も順次通常任務や宿舎、家などに戻っていた。残っているのは警備の者とごく一部で、

 

「ああ、やっと帰ってきた。義姉さん、お客さんよ」

「遅かったな、待ちくたびれたぞ」

 

 ()()()()()()振り返ったのは顔立ちの整った少女だった。

 髪の色も目の色も地味なブラウンだし、化粧をしているのでだいぶ印象が違っているが、

 

「まあ、C.──むぐぅーっ!?」

 

 思わず、といった様子で声を上げた神楽耶の口をルルーシュが咄嗟に塞いだ。

 神楽耶が「ギブギブ!」とばかりに腕を叩いても無視である。果たして、少女の顔が赤いのは息が苦しいから、だけの理由だったかどうか。

 なお、カレンは微妙にあきれ顔である。

 なんだかんだよく顔を合わせているし、さすがに気づいているらしい。となれば色々言いたいこともあるはずだが、

 

「積もる話もあるでしょ? 話してきたら?」

「ありがとうございます、カレンさん。代わりにスザクさん達を置いていきますね」

「は? いや、枢木スザクを置いていかれても困るんだけど──」

「まあまあ、カレン様。素の貴女とお話できるのは初めてですし、色々とお話いたしましょう?」

「う、まあ、神楽耶がそう言うなら……」

 

 復活した神楽耶が義妹の相手を引き受けてくれたので、スザクやナナリー、ジェレミアを残して別室へ移動する。ルルーシュとクロヴィス、ユーフェミアはついてきた。

 咲世子とマオも当然のように一緒だが、またしても周りが皇族ばっかりである。

 

「すごく場違いな気がするのですが……」

「何を今更なことを言っている」

 

 地下室へ逆戻りした俺達。

 小さくぼやけばC.C.がふんと鼻を鳴らし、

 

「だいたいの事情は察しているが、大まかにどうなったかを話せ」

「はい。ええと……」

「……呆れた奴だな。V.V.まで手なずけるとは。お前の頭はどうなっているんだ?」

「手なずけたんじゃありません。利害が一致したので協力を申し出ただけです」

「意味が分からん」

 

 そこまで言わなくても……。

 思わず憮然とすると、ルルーシュが苦笑してとりなしてくれる。

 

「先輩がおかしいのはいつものことだ。それより、どうしてわざわざここに来た、C.C.?」

「決まっている。そろそろ私が必要だろうと思ってな」

「そうですね。戻ってきていただけて助かりました」

 

 V.V.が味方についた以上、C.C.を隠しておく理由もあまりない。

 皇帝が秘密結社と繋がっていたことを公表、その他のいかがわしい行動と併せて糾弾し、皇帝の座から引きずり下ろせばいい。

 万が一にも逆転されないよう、切り札はむしろ手元にあった方がいいだろう。

 

「マオは落ち着いたのか。ギアスの進度を奪いとるギアスとは、また妙なものが出てきたものだが──ギアスのバーゲンセールが起きた結果か?」

「かもしれません。できれば、ここからはギアスを減らす方向で行きたいですが」

「では、一つ減らしておくか?」

 

 C.C.の瞳が俺を見つめる。

 いつ誰が来てもいいようにカラーコンタクトはしたままだが、その瞳の鋭さ、深さは十分に伝わってくる。

 

「どうせ、もう『至っている』のだろう?」

「ええ」

 

 俺は眼鏡を外す。

 マオのギアスが制御可能になったため、ギアスディフェンダーの発動条件は満たしていないが──俺の目は青い紋章を宿したままになっている。

 クロヴィスが唸って、

 

「『コード』を移せる状態というわけか」

「ああ。私も長年の荷物をようやく降ろせる。こいつが望めば、の話だがな」

「強引に移せるのだろう?」

「やらんさ。渡してから『時期が悪い』とか言われても困る」

「……リリィ様なら言いそうですわね」

「ユーフェミアさままでそんなことを仰るんですか……!?」

 

 みんなが「お前が悪い」という目で見てきたので抗議を諦める。

 俺は少しばかり考えて、

 

「受け取りましょう。持っている人物がここで変わるのはフェイクとして有効です」

「そんな理由で『コード』を受け取る奴は初めて見るが」

「状況的に仕方ないので受け取るだけで、別にそんなものいりませんし」

 

 とはいえ、とりあえず俺が持っておくのがいいだろう。

 ギアスディフェンダーが必要な相手は考えられる範囲でいなくなった。皇帝が記憶操作を持っておらず、マオの問題もアーニャの問題も解決したのなら、俺のギアスは役目を終えている。

 ギリギリまでC.C.を狙ってもらって、いいところで「残念でしたー! もう『コード』は持ってませんー!」とやればいい感じに労力の無駄を誘発できるだろう。

 

「本当に妖怪になる日が来るとは思いませんでしたが、短い間で誰かにパスしますので」

「はははっ! 本当におかしな奴だな、お前は!」

 

 笑ったC.C.が髪をかき上げ、額に浮かんだ紋章を晒す。

 

「具体的にはどうするんですか?」

「難しい動作は必要ない。この紋章を相手の身体に接触させ、念じるだけでいい。そうすれば触れた箇所に移る」

 

 なるほど、原作でシャルルの紋章が手のひらにあったのはV.V.を鷲掴みにでもしながら奪ったからか。

 どこがいいだろう。

 ぶっちゃけ俺の場合、基本的に手袋をしているので手の甲とかでも問題はないんだが──ロイドに気づかれたら微妙に面倒臭そうだ。

 となると、

 

「首の後ろ側辺りでいいでしょうか?」

「抱きつけというのか。まあ、構わんが」

 

 俺の後ろにそっと回るC.C.。

 あわせて髪をかき上げると、少女は軽くかがみこむようにして俺の身体を後ろから抱きしめ、首に額を押し当てた。

 

「怒って私を刺し殺したりするなよ」

「しませんよ、そんなこと」

 

 触れ合った部分はほんのり熱を持ったかと思うと、熱は程なくむず痒いような感覚に変わった。

 どくん、と。

 「何か」が身体に流れ込むと同時に全身が脈打ち、

 

「シャンプーの匂いが消えかけているぞ。風呂に入った方がいいんじゃないか」

「終わったなら終わったって言いましょうよ」

 

 咲世子が差し出してくれた手鏡を覗き込むと、俺の瞳は通常の色に戻っていた。

 

「……全力疾走して倒れた場合でも蘇生が発動するんでしょうか」

「そんな経験はないので知らん」

 

 魔女から少女へと戻ったC.C.は、あっさりと答えてからくすりと笑った。

 

「さて。しばらくはセシリア・クラークとでも名乗るとするかな。お前はどうする?」

「そうですね……」

 

 リリィでもあり百合でもある、という意味では『L.L.(エルツー)』になるのだが、ルルーシュを意識したみたいでなんか気が引けるんだよな。

 

「私は今まで通りで構いません」

 

 結局、微笑んでそう答えることにした。

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