ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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※『菊花』と『桜花』の搭乗者を逆にしました。


白い魔女・リリィ 八

 『菊花』『桜花』『翠蓮』『白百合』。

 

 花の名前を冠したこれらのKMF(ナイトメアフレーム)はとある共通したコンセプトを持つ試作機であり、姉妹機である。

 そのコンセプトとは、思考を動作へフィードバックするBRS(ブレインレイドシステム)の搭載。

 提唱者であるランドル博士や協力者のラクシャータはもちろん、ロイドやセシル、さらにはキョウト系の技術者やブリタニア系技術者までが集まって知恵を絞ってなんとか実用化されたその技術は、KMFの操縦に関する既成概念を一気に変えた。

 

 機械の操作をあくまで補助とし、考えるまま、感じるままの戦闘が可能になったのだ。

 結果、どういうことが起こったかというと──。

 

『遅い』

 

 通信機から咲世子の声が聞こえた次の瞬間、比較的近くにいた敵KMFの反応が一つ途絶えた。

 かと思えば、近くにいた機体が一機、また一機と消えていく。

 まるで無双ゲーでもやっているかのような戦いぶり。

 シミュレータで訓練する彼女の雄姿は俺も見たが、敵のライフルやマシンガンをひらひらとかわし、高速で接敵しては実体剣でぶった切る、というシンプル極まりない戦法でとんでもないスコアを挙げていた。

 近づかれなければ、と油断しているとワイヤー付きアンカー(スラッシュハーケン)を飛ばして四肢をもいでくるし、各部に搭載した小型爆雷を攻撃だけでなく目くらましに使ったり、敵から奪った銃器を撃ち尽くしては捨てる、などということまで平然とやるので、外国の人間のみならず日本人からも「アンビリバボー」と称賛されていた。

 

 咲世子が搭乗している『桜花』は四機の中で──いや、おそらくは今、戦場にいる全KMFの中で最も運動性に優れた機体だ。

 新素材を用いることで最低限の剛性を確保しつつ、装甲を極限まで減らして軽量化。動作時間さえ犠牲にしてギリギリまで強化された運動性によって「当たらなければどうということはない」を実現しており、なんというか、作る方も使いこなせる方もちょっとヤバイと言わざるをえない。

 全開で動かしていると通常機の三分の一くらいしか動作しないので、本陣に近づく敵を蹴散らしては隙を見て戻り補給を受ける、という方法で欠点を補っている。

 

 まあ、今のところ、本陣に近づいてくる敵そのものが殆どいない。

 たまたま防衛ラインを抜けてきた一団が散発的に仕掛けてくるといった程度で、

 

『暇だな』

 

 『翠蓮』に乗ったC.C.の言葉が今の状況を物語っている。

 

「暇に越したことはありませんよ」

『それはそうだがな。やることがなさすぎると集中力が切れる』

『まあ、ではしりとりでもしましょうか』

 

 弾んだ声で話に乗ってきたのは日本国のお姫様。

 本陣前、最終防衛ラインを任された機体の一つ『菊花』の基本操縦を担当する彼女は、片目を『幸運』のギアスで輝かせている。

 複座式の機体で火器管制と現場指揮の一角を担当しているのは、

 

『おい神楽耶。操縦も忘れるなよ』

 

 と、皮肉げな声を上げた少年である。

 

『わかっておりますわルルーシュ様。私の愛の力を甘く見ないでくださいませ』

『いや、そういう冗談はいい』

 

 日本国の重要ポジションである二人が出撃しているのは士気高揚という建前もあるが、本陣が落とされるような状況になればもうどうしようもないから、というのもある。

 切羽詰まった状況になってから車や航空機で逃げても間に合うかどうかわからない。

 ならば最初からKMFに乗せておいて、危なくなったらそのまま逃げてもらった方がいい、という考えである。

 

 そのため、ルルーシュ達の『菊花』と俺の『白百合』は咲世子の『桜花』とは対照的な設計思想となった。

 

 『桜花』において極限の運動性を得るために用いられた新素材や衝撃吸収システム等を全てつぎ込み、揺れないブレないちょっとやそっとじゃ大破しないという、堅牢性と安定性を得ている。

 おかげで性能はそのへんの第五世代機と大差ないのだが、むしろ、パイロットへのストレスを極限まで減らしたうえでそれだけのスペックが出ていることに驚くべきか。

 

 適温に保たれ、操縦システムをキーボードとコントローラーに置き換えられたコクピットで俺は小さく息を吐く。

 身体にぴったりしたパイロットスーツは何度着ても慣れる気がしない。

 前に「イベントで使いましょう」とか言ってネタで製作されたコスプレ衣装のデザインを元にしている(ラクシャータがあらためて作ったので性能は良い)せいか若干エロい気がするのも困りもの。

 まあ、俺の身体を見て喜ぶ奴もいないだろうが。

 

「マオ。C.C.をよろしくお願いしますね」

『うん、大丈夫! C.C.の心の声が聴こえるのも新鮮でいいよ!』

『やめろ。人のプライバシーを侵害するんじゃない』

 

 C.C.の乗る『翠蓮』はマオが攻撃を担当している。

 周りの心が読めるマオなら「どの敵から倒すべきか」を的確に判断できる。

 『聴心』を利用して安全を確保し、不老不死でなくなったC.C.を万一にも死なせないようにしてもらわないといけない。

 

 そんなデコボコチームを護衛するのは、

 

『みんな楽しそう』

 

 専用に作られた高台からグレネードやら長射程ライフルやらをどんどこ撃ちこんで遠距離火力支援を行っているアーニャである。

 砲撃機体は弾数、あるいはエネルギー残量が問題となるのだが、それを「あらかじめ装弾済みの武装をたくさん置いておいて撃っては捨てる」という方法で解消し、咲世子以上に撃墜数を増やしている。

 

『私も交ざりたい』

『待て、アーニャ・アールストレイム。作戦を忘れてないだろうな?』

『わかってる』

 

 短く答えたアーニャは弾のなくなったライフルをまた一つ、高台から放り捨てた。

 

『勝負はもうすぐ』

 

 

 

 

 

 そして、その時がやってきた。

 

『ギャラハッドを発見。これより交戦に移る!』

 

 スザクからの通信である。

 

 KMF『ギャラハッド』に乗るのはナイトオブワンことビスマルク・ヴァルトシュタイン。

 皇帝直々に任命された皇帝の剣。肉弾戦、KMF戦共に最強の一角でありながら、超短期的な未来を予知するギアスまで保有している、まさにチートキャラ。

 原作では性能の勝る機体に乗ったスザクがルルーシュの『絶対遵守』によるブーストを受けてようやく倒した相手であり、その対処がこの戦いの肝。

 

 なるべく早く発見して強者を当てなければ被害が増えるばかりなので、こちらは『ギアスアナライザー』を持つスザクにビスマルクの対処をお願いすることになった。

 彼のギアスがアナライザーを通り越して簡易的なサーチャー機能を有するようになっていたからだ。

 お陰でギアス持ちの位置が感覚的に把握できる。敵方にギアス持ちはほぼいないため、かなりの確率でビスマルクを引き当てられるというわけだ。

 

 そして。

 

『ルルーシュ。行っていい?』

『問題ない。行け、ここは我々だけでも凌ぎきれる』

『了解。……リリィ、危なくなったら逃げて』

「私が危なくなるということは皆さんが負けたということです。そうはならないと信じています」

『うん』

 

 アーニャのモルドレッド・カスタムが持てるだけの武装と共に移動を開始。

 道中の敵を最小限の時間と弾薬消費で片付けつつビスマルクへ直行する様は、さすがナイトオブラウンズとしか言いようがない。

 

「姉さま。いったんお戻りを」

『ええ。この三機だけ片付けたら──と、終わったわ』

 

 さすが姉さま。

 アーニャの進撃と入れ替わるように咲世子の『桜花』が補給のためいったん戦線離脱。エネルギー補給が終わるまでの僅かな間は俺とルルーシュ達、C.C.達をメインに守り切らなければならない。

 カレンも、コーネリアも、他のラウンズ二人も前線で縦横無尽の活躍を見せている。

 ここまでの戦いで結構な数を撃墜していることを考えれば、そもそもこのまま暇で終わってもおかしくないが、

 

『すまん! 吸血鬼を取り逃がした!』

『なんだと!?』

 

 ブリタニアの吸血鬼ことナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー。

 彼の親衛隊「グラウサム・ヴァルキリエ隊」からの集中攻撃を受けたコーネリアが当のルキアーノを食い止め損ねた。

 とはいえ、並の部隊ならエース級であろうヴァルキリエ隊を相手に二対一や三対一で競り勝っている時点ですごいというべきであり、彼女の落ち度とは言い難い。というか皇女殿下に無理をされて取り返しのつかないことになっても困る。

 

『咲世子。補給はどのくらいで終わりまして?』

『あと一分はかかります。それまでどうか持ちこたえてください』

「大丈夫です。いくら吸血鬼が相手といえど、一分持ちこたえられないほど、私達も弱くありません」

 

 スピーカーの向こうで神楽耶がくすりと笑って、

 

『さすが。魔女様は貫禄が違いますわね』

「神楽耶さま。からかうのは勘弁してください」

 

 俺達は吸血鬼と邂逅した。

 

 

 

 

 

 

『白に翠、ピンク! 高嶺の華は摘み取るに限る!』

 

 わざわざ通信ではなく外部スピーカーから言い放ち、高速で向かってくるルキアーノ。

 彼の乗騎『パーシヴァル』も例によって原作と同じものではなく量産機の大幅カスタム版だが、薄紫色をした機体からは並々ならぬオーラが放たれている。

 

『近づけさせるな!』

「はい!」

『わかっている!』

 

 『菊花』『白百合』『翠蓮』はそれぞれに携行火器を連射、弾幕によって敵機を阻もうとするも、ルキアーノはスラッシュハーケンによる立体起動も駆使してこれを回避。

 やってできないことはないのかもしれないが、弾の雨に突っ込みながらそれって、なかなかに頭がおかしいと思う。

 

『散開!』

 

 俺達は戦闘が開始してから初めて大きく機体を動かし、三方に散る。

 さすがは安定性特化KMF、ちゃんと動かしてもバスに揺られているくらいの振動しか感じない。これなら俺でもある程度は動かせる。

 さっきまで自分達がいた位置──飛び込んできたパーシヴァルに更なる銃火を浴びせかけ、俺は嫌な予感を覚えてマシンガンを空中に投げる。

 

 投げた先に跳躍したパーシヴァルが迫り、マシンガンを払いのける。

 同時に放たれたスラッシュハーケンをかろうじてかわし、近接戦用の短刀を左右一振りずつ引き抜く。三機のうち、よりによって俺を狙わなくてもいいだろうに!

 

『リリィ!』

 

 援護しようとしたルルーシュ達に、パーシヴァルのシールドから放たれたミサイルが浴びせられる。

 僅かな時間を稼いだルキアーノは近距離で俺と対峙。

 睨み合いの時間も一瞬、腕部に装着された三連クローを回転させ、ドリルのようにして攻撃してくる。

 

「まともに付き合ってはいられませんね……っ!」

 

 飛びのきつつ左の短刀を投擲して牽制。

 ドリルの向きを僅かに変えるだけで防御したパーシヴァルは再び前進、やっぱりこの程度では止まってくれない。立ち直った『菊花』『翠蓮』から弾が降り注いでもおかまいなしだ。

 ならばと、俺は右の短刀を両手で構えると、正面からドリルを迎え撃つ──と見せかけて、三連クローの隙間に短刀を挿し入れる。目押しの要領でなんとか成功。

 がきん、という良くない手ごたえ。無理やり回転を止められたクローが短刀とかみ合い、相互に砕けるのを見ながら、俺は『白百合』を後退させる。反射的に追って来ようとしたパーシヴァルにはチャフグレネードを射出し、目くらましを敢行。

 

「私だって忍者の娘なんですからね……!」

 

 リリィ・シュタットフェルトの運動神経は悪くない。

 BRSを用いてシミュレータを使うようになって初めて知った事実である。正確に言うとリズム感というか脳神経の反応速度とでもいうべきか、ともかく、運動の際に命令を出す脳の働き自体はむしろ優秀な部類だったのである。

 咲世子と同じ篠崎の血が俺にも流れている証拠かもしれない。

 お陰でシミュレータ(ふかふかシート限定)かこの『白百合』でなら、なんとか見栄えのする動きができる。腕前で言うとC.C.とは勝ったり負けたりするくらい。揺れを軽減しても酔うのは酔うので長時間の操作は厳しかったりするし、エース級相手に何合も打ち合ったらぼろが出るに決まっているが、

 

『吸血鬼! あまり好き放題できると思うなよ!』

『C.C.、僕の言うタイミングで接近して!』

 

 あいにく、こちらは単騎ではない。

 クロー破壊で動揺させたところに『菊花』と『翠蓮』が援護に入ってくれ、パーシヴァルの足止めに成功。

 

『命を奪うのが趣味なのでしたか。悪趣味な。……残念ながら、やらせはしません』

 

 復帰した『桜花』によって、ルキアーノ・ブラッドリーは打倒、四肢を全てもいだ状態で捕縛と相なった。

 

『ナイトオブテン、討ち取ったり!』

 

 戦場に大きく響いた声は敵方に動揺をもたらした。

 もともと向こうの士気は高くない。

 短期決戦のはずがここまで抵抗され、消耗させられた時点で「もう駄目だ」という空気が漂っている。

 そして。

 

『戦場にいるすべての者達よ。どうか聞いてください』

『これは、争い合う人達への私達の想いです』

 

 鎮魂歌とも平和の歌とも取れる穏やかな歌詞が、皇女と元皇女の声によって紡がれた。

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