ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
「リリィ先輩! 一緒にお昼ご飯食べませんか?」
「ミレイさん。はい、喜んで」
何らかの縁で結ばれているのか、あの後、俺はミレイと仲良くなった。
ミレイ・アッシュフォード。
姓からも推測できる通り、原作でルルーシュが通っていた『アッシュフォード学園』の理事長の孫娘である。
性格は明るく自由奔放、学園の生徒会長として各種イベントを企画し、ルルーシュやスザクを含む生徒達を振り回していた。
性格は中一の時点からあまり変わっていないようで、異様なフットワークの軽さで学園内を歩き回っている。
俺の方も情報収集の関係であちこち歩いているので事あるごとに出くわし、その度に話しかけられ、気づけば定期的に昼食を共にするようになっていた。
さっぱりとした気持ちのいい気性の持ち主なので相手をしていて楽しいし、色んな話が聞けて重宝してもいるのだが、
「先輩、お昼、またそれだけですか? もっと食べないと大きくなれませんよ?」
「ミレイさん……。私、先輩なのですが」
お弁当のサンドイッチをちまちま齧っていると、俺のランチボックスの小ささを見て唐揚げ(正確には骨なしのフライドチキン)を一個差し出してくるミレイ。
子ども扱いしないで欲しいとやんわり言えば、彼女は瞳をくりくりと動かして、
「先輩が小さくて可愛いのがいけないんですよー」
と、全く取り合ってくれない。
この、お節介かつ自由奔放すぎるところが玉に瑕である。
「先輩って本当に飛び級してないんですか?」
「はい。間違いなくミレイさんより年上です」
「胸張っちゃって可愛い! 抱きしめてもいいですか?」
「駄目です」
ミレイはぺろっと舌を出して「残念」と笑った。
ミレイと知り合ってから、俺の交友関係は更に広がった。
二人でランチしているだけでミレイの友人が寄ってくる上、ミレイが直接友人を連れてきたりもするからだ。
「じゃあ、ミレイさんの家は貴族なんですね?」
「元、ですけどねー。お陰でお父様やお母様はお家再興に燃えちゃってます」
「元なら気楽ではありませんか」
「そうですわ。わたくし達なんてしょっちゅうパーティに連れていかれて、肩の凝るお話を聞かされているのですから」
二人だけの会じゃないとわかると俺の友人も参加してくるようになり、一年生と二年生合同の華やかなランチになることも多かった。
「私だって十分大変ですよ。リリィ先輩ならわかってくれますよね?」
「残念ながら、私はもう婚約者が決まっているんです」
「え、初耳なんですけど、誰ですか!?」
驚いて尋ねてくるミレイにロイドの名前を教えてやると、そのやり取りを聞いていた貴族組が「まあ」と声を上げた。
「アスプルンド家のご子息といえば、変わり者で有名な」
「変態と陰口を叩かれて『その通り』と胸を張ったという……」
「先輩? つまりその人はロリコンってことですね?」
「違います」
女の子に興味がない類の変態なのだと弁解したら「じゃあホモか」と余計ややこしいことになりかけたので、ロイドの名誉のために全力で否定しておいた。
情報収集が前にも増して捗るようになり、お小遣いで買ったノートパソコンに手に入れた情報を纏める日課も活発になった。
学校の勉強はもちろん、合間に色んな専門書を読んだり、シュタットフェルト家の使用人に料理を習ってみたり、独自の事業を始めるための準備をしてみたり、やることが多すぎてめまぐるしい日々を過ごしているうちに、また生徒会役員選挙の時期が近づいてきた。
「リリィ。もうすぐ新役員の立候補・推薦期間ね」
「そうですね、会長」
生徒会室で書類仕事をしていると、同じく仕事をしていた会長がぽつりと言った。
気づけば二人きり。
窓の外からは夕日が射し込んでいて、家に帰るのに気楽な時間になりつつあった。
「会長に立候補する気はない?」
「ありません」
「じゃあ、私から推薦しておくから」
「待ってください」
生徒会長なんてやりたくない、という意味で即答したのだが、伝わっていなかったらしい。
慌てて抗議すると会長はにっこり笑って、
「うちの学園は立候補者と被推薦者の力関係が対等だから」
「前生徒会長に推薦されたら、私、すごく有利なのでは……?」
「私の推薦でなくとも、出れば当選するんじゃないかな」
「え……?」
初耳である。
「だってあなた、一年生と二年生の間で有名人だし」
「う」
「なんなら普通に過ごしているだけで目立つし」
「うう」
「婚約のためにも実績を積んでおきたい、って自分で言ってなかった?」
「……そうでした」
と、思ったらあっという間に言い負かされた。
いわく、生徒会長とは学園の顔であり、いい意味で目立つことが求められる。となれば俺の容姿は非常に強い武器となる、と。
なんというか、反論のしようもないほど正論だったので、
「わかりました。推薦していただけるなら出るだけ出ます」
「ありがとう。……ちなみに、前言撤回は無しだからね?」
生徒会長に立候補するという話が広まると、ミレイを始めとする友人達はこぞって応援してくれた。
結果、二位に大差をつけて当選、翌年の学園には「日傘をさした白い髪の生徒会長」が誕生し、生徒達の間で話題になった。
とはいえ俺もただでは死ななかった。
「ミレイさん。どうせなら生徒会、一緒にやりませんか?」
ミレイを巻き込──もとい、貴重な戦力としてスカウトしたのだ。
応援演説にも俺が出たのでもちろん当選し、生徒会の企画担当としてその手腕を振るってもらうことになった。
「ありがとうございます、リリィ先輩! 全力で学園を盛り上げますね!」
ちっとも嫌がられなかったので作戦としては失敗だった。
そして、俺が中学三年に上がる前に日本は負けた。
◆ ◆ ◆
「皆、今日までよく励み、仕えてくれました」
篠崎流三十七代目当主、篠崎咲世子は座敷の奥まった場所に座し、使用人や門下生達を見据えて告げた。
「今日この時を以て篠崎流は解散します。皆、これからはそれぞれの道を生きてください」
誰もが言葉を失っていた。
何も言えないまま座っている者、静かに涙を流す者、嗚咽を漏らし俯く者──それぞれ、反応は異なっていたが、誰もが別れを、そして失われていくものを惜しんでいた。
当然、咲世子も。
自分の代で篠崎流の長い歴史に終止符を打たなければならないことに胸を締め付けられるような思いだった。
「お嬢はこれからどうなさるんですか」
誰かが言った。
別の誰かが「馬鹿、当主だろ」と窘めたが、これで篠崎流が終わる以上、呼び方に大した意味はない。何より、当主に就任してまだ間もないのだ。咲世子より年上の者の方が圧倒的に多いのだから、彼らにとってはまだまだ「当主の娘」という認識だろう。
それでも、いや、だからこそ、咲世子は毅然と答える。
「使用人としてブリタニア人に仕えたいと思っています」
「馬鹿な」
「篠崎流の当主が敵に仕えるなど」
ざわめきが生まれる。
咲世子は「静まりなさい」と一喝すると、先の言葉に補足する。
「無論、私とて本意ではありません」
「では何故」
「いつの日か日本を再興するためです。そのために、今は力を蓄えなければなりません。私も、そして皆もです」
「……っ!?」
「ブリタニアの貴族、あるいは資産家に仕えられれば情報も得られるでしょう。あるいは皇族に接触する機会もあるやもしれません。といっても、確証はありませんが……」
濁した説明にはなったが、ざわめきは静まった。
理解したからだ。
咲世子もまた悔しいのだと。その上で苦渋の決断をしているのだと。
聡く、優しい仲間達に心の中で感謝しながら、咲世子は宣言する。
「いつの日か、我々にチャンスが訪れた時はもう一度集いましょう。もちろん、全員とは言いません。未だ戦う意思を絶やしていない者は、共にそれぞれのやり方で戦いましょう。日本のため、篠崎流の誇りのために」
そして、いつの日か篠崎流をもう一度。
楽しかったあの日々を取り戻すのだ。
開戦から約二年で日本とブリタニアの戦争は幕を下ろした。
戦争の泥沼化を悟った日本政府がブリタニア側に
盛り込まれた主な条件はブリタニアに降る代わり、自治権を引き続き保持すること。サクラダイトの採掘に関しては日本側が四、ブリタニア側が六の割合で権利を得ること。日本国民を神聖ブリタニア帝国の国民として認めること、などだった。
調印式は枢木ゲンブ首相と神聖ブリタニア帝国第三皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアを代表として執り行われることになった。
日本はもちろん、ブリタニアにとっても歴史的な出来事。
そう。
そのまま降伏が成っていれば、どんなに良かっただろうか。
調印式は行われなかった。
前日の夜、
犯人は不明。監視カメラの故障により映像記録は残っておらず、また、ゲンブに付いていた護衛は咲世子の父──篠崎流の三十六代目当主を含め全滅していた。
綿密な事情聴取の結果、犯行はごく短い時間にて行われたことがわかっている。警備の状況から見ても賊はごく少数、あるいは単独とみられる。交戦の跡はなかったことから全員、抵抗せずに殺されたらしい。
信じられない話だ。
不世出の天才と評された咲世子でさえ不可能だろう。全員殺すだけでいいのなら話は別だが、気づかれず抵抗もされずにとなると難易度は跳ね上がる。
よって、犯人は不明。
日本側はブリタニアの陰謀と断定、逆にブリタニア側は日本側の仲間割れが原因との見解を発表。
騒然となった国内は意外にも早急に鎮圧された。
臨時国会を開き会議を始めた政治家達をブリタニアの戦闘部隊が急襲、半数以上を銃殺した上で捕縛、総督府の設置を宣言したからだ。
表向きの理由は首相不在による混乱を収めるため。
実際、総督府が設置され、ブリタニア軍が治安維持を代行するようになったことで静かにはなったのだが、それはあまりにも荒っぽく、策謀の匂いがするやり方であった。
日本を裏で操るキョウト六家は降伏条件の履行を条件にブリタニアの支持を表明。
政治家の多くが死亡したこともあって事実上、日本国はブリタニアに完全占領されることとなった。
せめてもの救いは流れた血が少なかったことか。
結局、日本本土は大規模な空爆を経験しなかった。これは日本空軍と日本製KMFの活躍による成果だ。
しかし、ブリタニアは降伏条件を履行するフリをしながら自国本意な方針を次々に打ち出していった。
日本国は消滅、日本の国土はブリタニアの植民地『エリア11』になった。
元日本国民のブリタニアへの参入は認められたものの、一定額の金銭を支払うことと簡単なチェックを受けることが義務付けられた上、純粋なブリタニア人ではなく『名誉ブリタニア人』という扱いをされることになった。
サクラダイトの採掘は日本人あらため『イレブン』にも可能とされ、取り分の四割も守られたものの、主な産地である富士山は採掘プラントとして大規模な改造が行われ、日本人が誇りとしてきた富士の山は見るも無残な姿に変貌した。
日本の自治は引き続き認められたものの、それは「自治が可能になった段階で、ブリタニアが代行している統治を日本側に委ねる」という意味であり、日本政府の復活を前提としていた。そしてそれはゲンブ首相以下、多くの政治家が死亡した状態では困難と言わざるを得なかった。
各地にブリタニア用の領域である『租界』が作られ、名誉ブリタニア人でない元日本人、通称イレブンは『ゲットー』と呼ばれる区画に押し込められることが決まった。
篠崎家がある土地はゲットーの範囲外であり、このまま住み続けていれば違反者として取り締まりの対象となる可能性があった。
また、これまでのような政治・経済活動が行えなくなった時点で『SP』としての篠崎家の本業は機能しなくなったも同然であり、死んだ父に代わって当主となった咲世子は家の者達を守るためにも屋敷・土地の売却、財産の分配を決断せざるをえなかった。
幸い、十分な金銭が残されていたため、家人達はみな当座の資金に困ることなく新しい生活を見つけることができるだろう。
ただ、
「……あの子の帰る場所を、守れなかった」
大した額にならないからと家財道具を売らずそのままにされた妹の部屋(家の者達も一人として反対しなかった)で、咲世子は一人呟いた。
戦争開始を待たずしてブリタニアへと赴いた──日本人としての存在を抹消された少女、百合。
家人の中にさえ「逃げた」「ブリタニアに魂を売った」と揶揄する者がいたが、咲世子はそうは思っていない。
彼女はたった一人で敵地に赴いた。祖国を蔑み、嘲る者達と話を合わせて微笑み、ブリタニアを祖国と呼んで暮らさなければならない。それはむしろ、祖国を失うよりもずっと辛いはずだ。
だから。
「絶対に諦めたりはしない。……いつかきっと、日本を取り戻す」
ブリタニアには持っていけないから、と、残されたままになっていた妹の着物を抱きしめ、かすかな残り香を感じた後、咲世子は決然と立ち上がった。