ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
「ほ、本日はお忙しい中お時間を取っていただき、誠にありがとうございます!」
午前十一時。
出社して打ち合わせを済ませてから来ました、といったところだろうか。ブリタニアに本社を置く有名ブランドのスーツに身を包んだ若い青年は、必要以上に畏まった態度で頭を下げた。
対する俺──リリィ・アスプルンドはいつも通り。大きな子供のいる身でもあるので可愛いデザインの服は避けているものの、生まれつきの童顔と老化が表に出にくい体質(という建前の、コードの影響)のお陰でミセスマダムが着るような服は似合わない。
見た目で言えば目の前の青年と大差ない年齢にしか見えないのだから、畏まられても困るというものだ。
「そんなに緊張なさらないでください。知らない仲でもありませんし。……小さい頃に何度か遊んで差し上げたの、憶えてらっしゃいませんか?」
自分よりも身長の高い彼を上目遣いで見上げると、リリィソフトの第二開発チームで責任者を務めている若きホープ、
「勿論覚えていますが、猶更失礼な態度は取れません」
「残念です」
他ならぬニーナの息子だ。俺も可愛がっていたし、うちの娘ともよく遊んで貰った。小さい頃のように「リリィおねえちゃん」と呼んでくれても一向に構わないのだが。
週に五日は篠崎家で采配を振るっている咲世子の代わりに俺の世話をしてくれている若いメイドに頼んでお茶の用意をしてもらい、準備が終わったら退室してもらう。
これで部屋には二人きりだ。
もちろん、部屋の外には人が待機しているし、ハイテクなセキュリティがばりばりに機能しているが──普通に話をする分には聞かれる心配はない。
「では、話を始めましょうか」
社長職を退き、会長という役職と手当をもらって悠々自適の生活をしている俺の元へ、昔馴染みの青年が『仕事として』やってきたのは、リリィソフトの新作ゲーム製作にあたり相談したいことがあるから、ということだった。
『大政略NG(仮)』。
第二開発チームが今度製作することになるそのゲームは人気シリーズ『大政略』の累計七作品目。
企画書のコピーをぺらぺらとめくり(電子データが主流の時代だが、面と向かって話をする場だと紙面ベースの方が感覚に即している)、ふんふん、面白そうだと頷いて、
「いつ出るんですか? 予約はいつから?」
「……み、未定です」
青年は愛想笑いを浮かべて答える。
各種調整しないと発売日なんて出せないのはあんただって知ってるだろ、と表情に出てしまっているが、気づかなかったフリをする。
「プラットフォームは両面展開ですか……。どっちで買おうかなあ。アカウント連携できるなら両方買うのもありですよね」
「あの、会長。完全にユーザー目線なんですが」
「だって私、経営からは退いてますし」
ちなみに二代目社長はイベント担当から出世したミレイ・アッシュフォードである。
ともあれ、雑談ばかりでは話が進まない。
俺はこほん、と、小さく咳払いをしてから本題に戻った。
「相談ということでしたが、私はあくまでも経営者です。ゲーム内容についてはスタッフの皆さんが協力して作り上げてきたもので、今更私が何か言えるものでもないと思うのですが」
「……いいえ、そんな事はありません」
しかし、アインシュタイン青年は首を振って答えた。
「今なお一ユーザーとしてゲームを楽しみ続け、スタッフが協力する大切さを忘れていない……やはり、我が社の初代社長は偉大だと痛感しました」
「買いかぶりすぎですよ」
若い発想と言っても、身体が若いんだからある意味当然だ。
あと、もしも会長派と現社長派の派閥抗争とかがしたいんならよそでやって欲しい。
幸い話はそういう方向へは行かず、
「ご相談したいのはゲーム内容のことではありますが、同時にそうではないとも言える案件でして……」
「? というと?」
「釈迦に説法ではありますが……『大政略』は戦略SLGと経営SLG、
「はい」
頷きつつ、ああ、そういうことかと大方を察する。
『大政略』はおおむね説明があった通りのゲームだ。プレイヤーはブリタニアや日本、中華連邦等の国から一国を選んで自国として操作する。
他の国はCPUが操作するか、通信機能等を利用して他のプレイヤーと対戦する。
一定の年代からスタートして時間を進めながら自国を発展させ、戦争をしたり文化的に成長を遂げたりして勝利条件を満たした者が勝利だ。
ゲームの性質上、歴史のifを楽しめるのも魅力の一つ。
例えば、ブリタニアではなく日本が先に
第三作目のアップグレードパッチ公開記念イベントで俺とルルーシュが対戦した時なんかは特にカオスだった。
『ルルーシュさんがブリタニアを使うと誰も勝てないので禁止しましょう』
『なら、先輩も日本以外を使ってください』
こんな会話によって俺がブリタニア、ルルーシュが日本を使うことになり、システム上可能なことなら何をやってもいいという
なんで
一応、予測のつかないことをして攪乱する作戦だったのだが、ルルーシュが「ええいっ!」とか言いながら全部対処してくるので惜敗に終わってしまったんだよな……。
って、そんなことはどうでもいい。
思い出話から思考を切り離して青年を見つめると、彼は予想通りのことを言った。
「日本のデータを見直したいと考えているんです」
「なるほど」
更に差し出されたのは、日本とブリタニア双方の歴史学者に依頼して製作したらしい、日本対ブリタニアに関する考察だった。
「基本的にこれまでのシリーズでは、日本は『順当に行けば史実をなぞることはできない』バランスで作られています」
「妥当だと思いますが」
「そうでしょうか」
目線で歴史の調査資料が示される。
資料には、ブリタニアからの侵攻を受けた際、日本は「まるで攻められることがわかっていたかのような」鮮やかな手際で抵抗してみせたことが丁寧に記されている。
対日本戦で初めて投入されたはずのKMFに様々な手段で抵抗したこと、鹵獲したKMFをすぐさま運用に転じたこと、更には自国製のKMFまで投入したこともだ。
それらはまあ、事実なので、調べることは不可能ではない。
シャルルを打倒後、体質改善が行われた神聖ブリタニア帝国は正しい戦史の編纂にも力を入れていたので、皇家の協力を得られればかなり正確なデータも出てくるはずだ。
……あらためて考えてみると、これ、諸外国は仰天しただろうな。
ブリタニアが日本を攻めた時点で「詰んだな」って感じなのに、新兵器まで投入されてもなお年単位で持ちこたえたのだ。
日本がKMFを使い始めたあたりとか、俺が外国の政治家なら「は?」と言っている自信がある。
「これだけの戦果が運だけで生まれたものとは思えません」
「諜報員が優秀だったからでしょう。日本には篠崎家をはじめ、忍者の家系がいくつも残っていましたから」
「ええ、そうですね。会長の生家、篠崎家は特に著名な家系です」
篠崎の名前を出したのは藪蛇だったか。
微笑と共に紅茶のカップを傾け、話の腰を折る。アインシュタイン青年は冷静になったのか、少し間を置いてから再度口を開いた。
「……失礼しました。私が言いたいのは、きちんと使えば同じことができる程度の戦力を与えるべきではないか、ということなのです」
「これまでの『大政略』でも十分可能ですよ?」
「ルルーシュ・ランペルージ率いるブリタニアを相手に日本で善戦できるのは会長くらいです」
いや、俺でもさすがに九割がた負けるし。
あの男、忙しくてプレイ回数は少ないのにランカー入りしてるからな……。具体的には勝率がほぼ100%なせいで。
遠い目になった俺はトラウマを追い出して、
「ゲームですからね。バランス的に日本が勝ちづらい、と現場が判断するのであれば、それはもちろん変えていただいて構いません」
「……よろしいのですか?」
探るような視線。
まさかとは思うが、俺の関与を疑っているのだろうか。
だとしたら勘が良いなんてものじゃないと思うが……。
内心の動揺は表に出さず、俺は微笑んで、
「ゲームはより楽しくあるべきです。皆さんが真剣に作ったものを頭ごなしに否定したりはしませんよ」
プレイしてつまらなかったら一個人として「クソゲー」と罵りはするが。
アインシュタイン青年は俺の言葉に勇気づけられたのか大きく頷いて、
「ありがとうございます。……では、隠しキャラとして『リリィ・シュタットフェルト』を追加するのも問題ありませんね?」
「それは断固として拒否します」
「カリスマが高い代わりに武力は最低値なので使いづらいキャラなのですが……」
それこそ日本に投入したら無双するじゃないか。
粒揃いの人材が揃っている癖に協調性と士気が足りないのがネックなんだから。
……って、そんなことを言ったら自白しているようなものである。
「とにかく駄目です。全ステータス最低値とかならまだしも」
「じゃあそうします」
「え」
本当、失言には気をつけないといけない。
社長のミレイに相談したところ「今更じゃないですか」と一蹴され、めでたく『大政略NG』に隠しキャラ『リリィ・シュタットフェルト』は実装された。
本当に全ステータス最低値で実装されたのだがコアなユーザーはいるもので「難易度ナイトメアのブリタニアにリリィちゃんで勝ってみた」動画や「中華連邦の首脳陣を白髪美少女で固めてみた」動画などが次々公開され、もう笑うしかなかった。
仕方ないのでちょっと強くなった日本で無双した。
野生のルルーシュが勝負を仕掛けてきたのでリベンジを仕掛けたらギリギリのところで負けた。やっぱり原作主人公に勝つのは無理そうである。
余談だが、アインシュタイン青年は後にミレイの娘と結婚した。
一時期はうちの娘といい雰囲気になりかけたらしく、ニーナが「残念だ」とこぼしていたのが妙に印象に残った。