ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
「アッシュフォード家?」
「ああ、そうだ。……何か問題でもあるのか?」
「いいえ。ただ、貴族位を失った家にそのような余裕があるものかと」
堅物親父の問いにもっともらしく返答しながら、俺は内心の動揺をなんとか抑えた。
まさか、ここでその名前が出てくるとは。
ブリタニア人相手の養子縁組話。最悪、前妻を亡くした貴族のおっさんとかが出てくることも覚悟していたのだが……。
父は俺の内心を知ってか知らずか淡々と答えてきた。
「失ったからこそ、という事もある。返り咲くために優秀な駒を求めているとすれば」
「仮に、外国人でも構わないと考えているならば、かなり追い詰められていますね」
「うむ。……であれば、付け入る隙もあろう。双方の求める情報を交換することも、あるいは」
その辺りは賭けというか、話の持って行き方に気を遣う必要がありそうだが──家同士の交渉は当主同士がすればいい。
俺は日本式に頭を垂れて「かしこまりました」と答えた。
「当家にとってそれが良いとのご判断であれば、何の異存もございません」
「そうか」
こうして、俺の養子縁組先はいともあっさりとアッシュフォード家に決定した。
「お初にお目にかかります、ミレイさま。百合と申します。今後はリリィと名乗らせていただきます。僭越ながら貴女さまの『姉』を名乗らせていただきますこと、どうぞご容赦いただければ──」
「堅苦しい挨拶はなしにしましょう、
由緒正しい家柄のお嬢様への精一杯礼儀をこめた挨拶は、当のお嬢様によって即座に「不要」と断じられた。
「私はミレイ。ミレイ・アッシュフォード。歳はリリィお姉様の一つ下になるけど、仲良くしてくれる?」
「はい、もちろんです。ミレイさま──ミレイさん」
「もう、お姉様、喋り方がまだ硬いわ」
敬語口調は素なのでどうしようもない、というのを説明して納得してもらった俺は、一つ年下の義妹からぐいっと手を引かれた。
「さ、遊びましょう、お姉様!」
「は、はい。でも、ミレイさん。私はその、身体が弱いのでお手柔らかにお願いします」
「あ、そっか。んー、じゃあ、身体を使わない遊びならいいのよね? ゲームとか」
「はい。それでしたら喜んでお相手いたします」
自分なりに緊張していた俺は、正直ミレイの明るさによって救われた。
代わりにミレイ考案の変なゲームにさんざん付き合わされたり、一人だとなかなか勉強しないミレイに付き合って宿題をさせられたりしたが、それくらいはまあ必要経費だろう。
アッシュフォード夫妻──ミレイの両親は俺のことをそのまま「体のいい駒」と考えているようで、礼儀作法の修得や学校にて良い成績を収める事を求めてきた。幸い篠崎百合は頭の出来も良かったので、彼らの期待には一定以上応えることができた。
ある意味、一番曲者だったのはミレイの祖父だ。
後にアッシュフォード学園を設立することになる彼は孫娘に似て細かい事を気にしない性格らしく、俺の事ももう一人の孫として扱ってくれた。閲覧を許された彼個人の蔵書の中にはなかなか興味深い物が幾つもあり、それは大いに俺の役に立った。
一方で、
「時に、リリィよ。枢木総理の家にブリタニア人の兄妹が居候しているという話は知っているか?」
「ブリタニア人の兄妹、ですか? ……ええ、噂程度にでしたら存じておりますが、生憎、私が総理にお会いしたのは少々昔の話ですので、その時にはそういった話はございませんでした」
前世の俺的には良く知っているものの、この世界に来てからはまだ面識がない。
スザクとなら一回会っているんだが。
「ふむ。……ちなみに話は変わるが、ブリタニア人との結婚についてはどう考えているかな? 好みのタイプなどがあれば教えて欲しい。例えば年下は駄目だとか」
「いいえ、特別ございません。篠崎の家でも政略の駒として教育されておりましたので、どうぞご随意に。……強いて申し上げるのであれば、あまり年上過ぎる方や乱暴な方は遠慮したいかと」
「なるほど。それならば問題無かろう。それならばな」
なんか含みのある言い方をされたが、まさか
ともあれ俺はブリタニア本土のお嬢様学校で生徒会長をしたりしながら時を過ごし──日本とブリタニアは避けようのない戦争へと突入、長きに渡る戦いの末、日本はブリタニアの植民地エリア11へと姿を変えた。
そして。
「戦争によって身寄りをなくしたブリタニア人の兄妹を保護することになった」
祖父から呼び出しを受けた俺は、二人きりの部屋を見回して目を瞬かせた。
「ゲンブ首相の下に身を寄せていたという兄妹でしょうか?」
「詳しい説明は必要ないか。さすがはリリィだ」
口元を綻ばせ、祖父は二枚の写真を提示してくる。そこに写っているのは利発そうな少年と可愛らしい少女。転生してからは初めて見る顔を、しばしじっと見つめる。
「彼らには一時的な住処を与え、
「お祖父さま、それは何故でしょうか?」
「ああ。それはこのルルーシュ・ランペルージが君の婚約者になるからだ」
「な……っ!?」
本気で絶句する俺。まさかとは思っていたが、俺がルルーシュの婚約者だと? ミレイとシャーリーとユーフェミアに刺されて死ぬんじゃないか? いや、ユーフェミア以外はまだ出会う前なのだから惚れさせなければいい話だが。
「おや、不服かな?」
「そういうわけではありませんが……私の嫁ぎ先が平民でよろしいのでしょうか?」
「構わない。もともと、君の相手は私が決めるという取り決めになっていたからね」
ああ、なるほど。どうやら最初からそのつもりで俺を養子にしたらしい。
何故俺なのかといえば──ブラフだろうか?
ランペルージ兄妹、特にルルーシュの素性がバレた場合、皇家への叛意を疑われかねない。では、そのルルーシュが養子と婚約していたら? 皇族の血を入れたいならミレイとくっつければいい。となれば「アッシュフォード家は兄妹の出自を知らなかった」という推測に信憑性が出てくる。
優秀な子供をあの手この手で囲っているだけ、と見られれば間接的に兄妹を守ることになる。仮に俺達の間に子が生まれても日本人との混血なので継承権は低くなるだろうし。
俺としても、ルルーシュの傍にいればある意味安全……か?
物語の渦中に放り込まれかねない代わりに、主人公の動向をチェックしやすくなる。根は優しい癖にヤバイ手段ばっかり取りたがるあの少年をある程度制御することもできるかもしれない。
そこまで考えてから、俺は微笑んで頷く。
「かしこまりました。対面は学園施設の完成後でしょうか?」
「ああ。……よろしく頼むぞ、リリィ」
こうして、リリィ・アッシュフォードはルルーシュ・ランペルージと婚約することになった。
◆ ◆ ◆
これが俺の婚約者だと?
リリィ・アッシュフォードの第一印象は「まるで硝子細工だ」だった。ルルーシュの知っている女子は皆──ユーフェミアはもちろん、足が動いた頃のナナリーもまた明るく快活だった。なんなら彼女の
白すぎる髪と肌。運動に長けているとはとても思えない体躯。それでいて彼女の赤い瞳には理知の光が宿っており、自身が「虚弱な身体を嘆くだけの存在」でないことを示していた。足と目に障害を持つナナリーに心無い言葉一つかけることなく「仲良くしてください」と言い、手遊びや歌などの遊びを提案してくれた。
意味が分からない。
理事長から彼らの「真の出自」を聞いて取り入ろうとしているのかとも思ったが、そういった風にも見えなかった。
「ルルーシュさんは、どういった遊びがお好みですか?」
「そうだな。俺は身体を動かすより頭を使う遊びの方が好きだ。例えばチェスとかな」
「そうですか。では一局お相手願っても?」
リリィの筋は悪くなかった。残念ながらルルーシュの相手になるレベルではなかったが、負けた後の彼女は「さすが、お強いですね」と世辞を言いながら「もう一回」と強請ってきた。接待のためではない。微妙にむっとした表情と真剣な瞳が「悔しいです」と訴えていた。
結局、その日は都合三度少女を打ちのめした。
完膚なきまでに叩き潰してやったつもりなのだが、リリィはそれ以降もたびたびやってきては対戦を申し込んできた。おまけにナナリーとも朗らかに会話し、簡単な遊びをしていく。そんなことを繰り返しているうちに、兄妹はあの少女の来訪が日常になりつつあること──そして、彼女のおかげでささくれだっていた気分が少し解れていることに気づいた。
「ナナリーはあいつのこと、どう思う?」
「リリィさんですか? はい、とてもいい方だと思います。……もちろん、お兄様の結婚相手になるおつもりでしたら、私の厳しい審査を受けてもらわないといけませんが」
「はは、ナナリーは手厳しいな」
足のせいであまり出歩けないナナリー、体力がないせいで大騒ぎをするタイプの人間(例えばミレイ)が少々苦手なルルーシュにとってリリィは相性も良かった。すぐさま恋愛感情に発展することもなかったが、傍にいても苦になることはない。
加えて、彼女の出自。
(元日本人か。……使えるかもしれないな)
ある日、ルルーシュは敢えてリリィを突き放し、カマをかけてみた。
「お前に俺達の気持ちがわかるか? 安息を奪われ、見知らぬ地で生きて行かなければならない俺達の気持ちが」
リリィはそれに対し、そっと目を伏せた上で答えた。
「……ルルーシュさん達の想いを全て慮ることはできません。ですが、故郷を奪われた苦しみはわかるつもりです。私はこの地で生まれた人間ですから」
対外的には一応内緒になっていると釘を刺しながらもあっさり身の上を明かした少女。故郷を奪われた、と語る彼女の表情には確かに悔しさや怒りといった感情があった。つまり、ブリタニアを敵視しているのは彼女も同じということだ。
(アッシュフォード家は一体どこまで考えてこの婚約を決めたのか)
だが、利用できるものは利用する。
その後、兄妹の下には専属の使用人として篠崎咲世子が与えられ、日本人の知人がもう一人加わった。様々な事柄がいい方向に進んでいる。
後は、この白い少女がどの程度信頼できて、どの程度役に立つかだ。
ルルーシュは日常行事になりつつある少女とのチェスを楽しみながら、少しずつ確認を進めていくことにした。
「リリィは将来のことは何か考えているのか?」
「はい。ゲーム会社を設立できたらと思い、お祖父さまに資金提供をお願いしております」
「は? 将来じゃなくて直近の話か?」
「リリィさん、高等部の生徒会長もされていますよね?」
「ええ。こういうことは早い方がいいでしょう?」
少しずつ進めようとしたら、変な話がぽんと出てきた。
「待て。何故ゲーム会社なんだ?」
「人々はエンターテインメントを求めているのです。映像作品も捨てがたいですが、あれはクリエイターの才能に依存する部分が大きくなってしまいますので……」
「ああ、わかった。わけがわからん」
小細工するだけ無駄と感じたルルーシュは枢木ゲンブ暗殺事件に関する意見交換やら、ブリタニアを倒す方法やらかなり直接な話題を「思考実験」だのと称してリリィに振り、その反応を見るようになった。
そのうち、思慮深いようでいて妙に抜けており、素直すぎるようでいて物事の本質を見抜いているかのような彼女の視点に興味を惹かれ、同時に憤りを覚えるようになった。気づけば「相手の出方を見る」などという当初の目的を忘れて白熱した言いあいを繰り広げてしまう始末。
ナナリーに「お二人はすっかり仲良くなりましたね」と言われた時は「誰があんな女と」とついムキになってしまった。
とはいえまあ、リリィ・アッシュフォードという人物はなかなかに面白い。
「ルルーシュさん、たまにはチェスではなく将棋をいたしませんか?」
「将棋? ……ああ、日本の盤上遊戯だったか。いいだろう。ゲームを変えた程度で俺に勝てると思うなよ」
「あ、ルルーシュさん、それ二歩です」
「何!?」
面白いが、やはり気に食わない。
ルールブックを読みながら対局をさせられ、反則負けのルールで一通りハメられたルルーシュはリベンジを誓うと共に、リリィへの敵愾心をあらためて抱いた。
……これが、後にゲーム会社を隠れ蓑にした篠崎流の再建。日本の次世代を担う者達との合流、そして日本再興計画へと繋がっていくのだが、さすがのルルーシュもこの段階ではまだ、そのことに気づけていなかった。
シュタットフェルト家ほど財力がないのでゲーム会社は低速スタート、ロイドのコネがないのでC.C.にたどり着くルートが難しいと本編に比べると難易度高そうですが、序盤から篠崎姉妹が揃っているあたり、うまく行けば本編よりスムーズに終わるかも……?
終わらなかった場合は黒の騎士団を支援する謎の企業()と謎に包まれたそのトップ()が暗躍したりするかもしれません。
スパロボの話題を見ていて、
KMFゲームで「レイアース」なる機体を作った挙句、カレンに操縦させて「固有武装使用時はボイスコマンド必須ですよ」とか言うリリィ
を幻視したりもしましたが、一発ネタ過ぎたので断念しました。