ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
「おい、リリィ。本気でこいつを雇うつもりか?」
アッシュフォード学園のクラブハウス。その地下には理事長が用意した秘密の脱出路がある。そこには幾つかの部屋も設置されており、その気になれば重要人物を匿ったり、聞かれたくない相談をすることが可能だ。
俺としては「あっても不思議はないよな」くらいの感想だったが、ルルーシュは初めて入った時「こんな場所があったのか……!?」と驚いていた。予想していなかったから、ではなくその逆で、可能な限り調べたからこその感想だろう。
何しろ自分の部屋にも脱出路へ下りるための仕掛けがあったのだから。
なお、部屋ごとに違うロックの解除方法を全て暗記している
ともあれ。
深夜、秘密の部屋にてルルーシュと落ち合った俺は、彼から人事における駄目出しを受けた。
彼が手にしているのは俺たちのゲーム会社──リリィソフトの初期メンバー予定者のリスト。そして、咲世子が独自のネットワークを用いて調べた彼らの身辺調査結果だ。
リリィソフトは「使える者は誰でも使う」という方針を掲げている。
ブリタニア人でも、日本人でも。重要なのは真面目に働いてくれるかどうかと、その実力だけ。人種差別をしないという方針はエリア11にいち早く学園を築いた理事長の思想とも一致しているし、副社長となるルルーシュが咲世子を重用していることからも周囲に伝わるだろう。
その甲斐あってか、全く新しい会社にも関わらず色々な人材が集まってくれたのだが、
「紅月ナオトさんですか? とても優秀な方だと思いますが」
「ああ、優秀だろうな。何しろレジスタンスのリーダーだ」
原作の時間軸だと既に死亡していた紅月カレンの兄・ナオト。この時代なら彼もまだ生きている。
日本の長期抗戦によってブリタニアの関係も変わっているため、レジスタンスといっても裏工作や武力による抵抗というよりは家を失った日本人のサポート、ある程度平和的な方法(例えば抗議活動)を用いてのガス抜きなどが主な方針となっている。
もちろん、ブリタニアが横暴な態度に変貌すれば、戦ってでも日本を取り戻そうとするだろうが、
「独自のコネクションを持つレジスタンスのリーダーが我が社に来てくれると言うのです。願ってもないではありませんか。彼には是非、臨機応変に動ける能力を活かして社内のバランサーを担当していただきたいです」
「まあ、お前の考えもわからないではないが」
肩を竦めて言うルルーシュ。
「大丈夫なのか? こちらの情報を向こうに抜かれる可能性もあるぞ」
「別に構わないではありませんか。互いの思想は対立しているわけではなく、むしろ同じ方向にあります。積極的に協力していってもいいくらいです」
「……レジスタンスを取り込む気か」
「ナオトさんもそのつもりで接触してきたのでしょうしね」
ナオトの妹・カレンはブリタニア貴族のシュタットフェルト家に引き取られてブリタニア人(名誉ブリタニア人ではなく正式な臣民だ)となっている。二人の母親もメイドとして引き取られており、ある意味、家族をブリタニアの人質に取られているようなもの。
彼としても無暗に事を荒立て、関係を悪化させるのは避けたいはずだ。
抵抗が長期化したりゲリラ戦に発展したりするよりは、さっさと独立を果たしてしまった方がずっといい。そうすればもう一度二人と暮らす……とまではいかないにせよ、正規の方法で顔を合わせるくらいはできるようになるはず。
そう言うと、ルルーシュは少し考えてから「……いいだろう」と言った。
「しばらくは社内でも監視の目を光らせ、問題なしと判断すればそいつも幹部に取り込む。事業拡大に伴う昇進とでも言い訳できれば一番だな」
「そのためには、まず第一作目を当てないといけませんね」
「勝算があるからこそゲーム会社なんて立ち上げるんだろう? 立派な社屋まで建設している以上、失敗は許されない」
そう。
当初は「適当にビルのワンフロアを借りればいいか」と思っていた活動場所だが、祖父は思いのほか高額の援助をしてくれた。どうせならビル一つまるごと建ててしまった方が後々楽だろう、という話だったが、本当の目的は俺とルルーシュに貸しを作ることのような気もしないでもない。
是非とも稼いで全額返済を目指したいところである。
と、俺たちはそんな風に時々会って相談をしながら計画を進めた。
ナナリーは地下には下りてきづらいため、彼女が寝ている時間にこっそりと逢瀬を重ねる形である。咲世子は同席することもあれば、別の仕事をすることもあった。夜間の学園はセキュリティも強くなっているとはいえ、万が一のための護衛も必要である。
というか、ナナリーの無事を考えるなら苗字だけでなくしっかりと偽名を使って欲しいのだが、婚約の時点で「ルルーシュ・ランペルージ」で通ってしまっている以上、今更変えるのも怪しすぎるので仕方ない。
原作でもルルーシュが本格的に動き出すまで疑われていなかったのだから、ブリタニアの諜報網もそれほど綿密なものではないのだろう。
そして、遂に我らがリリィソフトは正式な事業開始を迎えたのだった。
◆ ◆ ◆
リリィソフトの業務開始に伴い、ルルーシュ・ランペルージの生活は一気に忙しさを増した。
学園での授業は彼にとって難しいものではない。むしろ、上の学年で学ぶ内容まで吸収しているくらいだったが、ルルーシュの優秀な頭脳をもってしても「ゲーム開発」という未知の分野は正攻法では立ち行かない部分が多く存在していた。
「我が社では既存ゲームの焼き直しは考えておりません。作るべきは目新しさのある──ユーザーの興味を惹くような新境地のゲームです」
電子ゲームという概念自体は既に存在しているものの、日本にしろブリタニアにしろ、盛んに発展している分野かといえばそうではない。(主にブリタニアのせいで)世界に戦争が蔓延している情勢上、芸術・娯楽分野の発展はどうしても限定的になっていたし、ブリタニアは何かにつけて「自由な発想」を弾圧するお国柄。日本は比較的大らかではあるものの、外国文化の受け入れに消極的な面があるため大きな発展には至っていなかった。
よって、皇子時代は何不自由なく暮らしていたルルーシュも、チェスのような
そんな中、新しいゲームを作ろうというのだから、リリィ・アッシュフォードという女は恐ろしいというか、わけがわからないというか。
「新境地とは具体的にどのようなものを目指している? それがわからなければ開発のしようがなかろう?」
「新しいゲームですから、皆さんの自由な発想で開発してもらいたいと思っています。私が『こういうゲームを作れ』としっかりした仕様書を作ってしまっては、それは面白いものにはならないでしょう?」
主要メンバーどころか社員全員を集めての会議の場にてにっこりと宣言したリリィ。すぐに突っ込みを入れれば、返ってきたのは反応に困るような回答だった。
(面白くないというよりは『理解に苦しむ』仕様書になる、と言うべきじゃないか?)
リリィが妙な女だというのは骨身に染みて理解している。
彼女が出してくる案なら新しい事だけは保証されているだろうし、上手く使ってやれば面白い物にもなるだろう。ただ、かみ砕いて意思統一を図るのは難しそうだ。
それでも、
「なら、何の具体案もないまま延々と会議をするつもりか? 俺だって暇じゃないんだ。そんな態度なら帰らせてもらうが」
「待ってください。もちろん、例示としてのアイデアはあります」
「だったらさっさとそれを出せ。でないと俺達も意見を出しようがない」
「わかりました。それでは──」
するとリリィは次々にアイデアの断片(本人談)を出し始めた。
チェス盤のような四角形を敷き詰めたマップを戦場に見立て、複数からなる自軍ユニットを操作。CPUの操る敵軍ユニットと戦わせて勝利し、新しいステージへと進んでいく戦略ゲーム。
単に敵を倒してステージを進めるのではなく、モンスターを「操って」敵のモンスターと戦わせ、弱らせたそれを「捕まえて」コレクションしていくゲーム。
トランプのようなカードゲームを複雑にし、カードに「HP」や「攻撃力」「特殊能力」などを与えることで「魔物を使役する魔法使い同士の戦い」をモチーフとした対戦型ゲーム。
「ゆくゆくは
「待て。端から作るだけで売れそうなアイデアをいくつも垂れ流すな」
「? ルルーシュさんが言えといったのでしょう?」
「俺は例を挙げろと言っただけだ。それだけ具体的に『新しいアイデア』を出されたら『わかった。とりあえず全部あそばせろ。話はそれからだ』となっても仕方ない」
すると他の社員達がうんうんと頷く。
それを見たリリィは不満そうな表情を浮かべて、
「別にそのまま使うのが正しいとは限りません。組み合わせたり、モチーフを変えるだけで目新しさが出ると思います」
「ほう。例えば?」
「三番目のゲームを基本として、勝った際に相手のカードをランダムに一枚、奪えるようにするとか。そうすることで自分の『デッキ』を組み替えて強化する楽しみが生まれます」
「……なるほどな」
一体どこからそんな発想が出てくるのか。
まるで、完成形を把握した上でその構成要素を抜き出しているかのような物言いにルルーシュは舌を巻く。
この少女がブリタニアのKMF開発者にでもならなくて良かったと心から思うが、その後すぐ「あの程度のプログラムの腕では宝の持ち腐れか」と考え直した。アイデアだけ出して実現させるのは部下任せ、となればゲーム開発はある意味最適解か。
ともあれ。
リリィの例示は一定の効果があったようで、社員達は各々、自分の考えたアイデアを発表し始めた。その中にはルルーシュでも「ほう」と思うものがあったし、彼らのアイデアを聞いて「なら、こういうのはどうだ?」と思いつくこともあった。
そして、リリィが提示した「アイデアが出揃うまでは他人の意見を否定しない」という会議のルールが自由な意見交換を助けた。ただの社員であっても社長であっても平等に扱うことで自由な発想を尊重するという方針は、明らかにブリタニア上層部のそれと異なるものだ。
お陰で意見は多すぎるくらいに挙がり、会議は大賑わいのうちに終了。今後も定期的にこうした会議を開催することとなり、社員達は自分のアイデアを温めておくようにと伝えられた。
(義理とはいえ、あの祖父にあの妹を持つだけはあるということか)
遊び好きかつ突飛な発想。本当に血の繋がりがないのかと思う程に、理事長やミレイとの繋がりを感じてしまう。心地いい疲れと共に苦笑を覚えたルルーシュは、ナナリーに土産でも買って帰ろうかと思考して、
「副社長。社長の話を『翻訳』してくださってありがとうございました」
庶務という名の雑用兼スーパーサブに就任した青年、紅月ナオトから頭を下げられた。
一瞬驚いたものの、すぐに笑みを浮かべて首を振る。
「ルルーシュでいいですよ。それに、大したことはしていません。俺は副社長と言ってもあいつの相手と、プログラムの補佐が担当ですから」
「そうか、じゃあルルーシュ。……大したことはあるよ。あのやり取りのおかげで、君達がただのお飾りでない事が証明された」
穏やかに話をしながらも、ナオトは様々な事を考えている。ルルーシュは敏感にそれを察し、しかし、特に反応する事なく微笑んだ。
「ありがとうございます。これからも期待に添えるように頑張りますよ」
「ああ、お互いに頑張ろう。……それはそれとして、社長の言っていたカードゲームのアイデアなんだけど、あれはいっそ電子ゲームではなく実際のカードとして売り出した方が面白いと思わないか?」
「……! そういう事は会議の席で言いましょうよ」
すぐさまリリィを捕まえ、プロトタイプの作成と玩具会社への売り込みを提案すれば「開発チームが一つしかないのにそんな時間はありません」と突っぱねられてしまった。この女は欲があるのかないのかわからない。苛立ったルルーシュは「人が足りないなら雇えばいい」と思わず言ってしまった。
「うーん。……では、スカウトチームと、それから顔の広そうな社員に相談してみましょう」
相談したら、ナオトから有望な新人を紹介された。ある意味マッチポンプである。