ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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■if番外編:婚約者がルルーシュだったら 四

 会社を立ち上げたことで、平日は学園での授業をこなした後、生徒会室に足を運ぶか、そうでなければ会社に向かうことが多くなった。

 移動はもちろん徒歩ではなく車を使っている。

 送迎はアッシュフォード家の使用人が担当してくれているのだが、

 

「わあ、ここがリリィさんとお兄様が働いている会社なんですね?」

「はい。ようこそナナリーさん。我らがリリィソフトへ」

 

 俺が社に赴く場合、高確率でルルーシュも一緒になる。となればナナリーが「見学したい」と言い出すのはある意味当然だった。というわけで、この日は咲世子に運転をお願いし、四人で会社にやってきた。ミレイにバレたら「私だけ除け者なんてずるい!」と言われることうけあいである。

 リリィソフトの社屋は地上四階、地下一階の全五階建て。もちろん十分な数の駐車場も用意している。

 社長室は四階。

(ブリタニア的に地上一階は「グランドフロア」なので階数表示としては三階になる)

 日本的には若干縁起が悪い配置だが、ブリタニアの文化だと「四=死」なので避ける、という発想があまりない。そもそもブリタニア式の場合、本来の四階がアウトなのか表示上の四階(実質五階)がアウトなのかという話もある。

 俺が気にしすぎるのもおかしいし、社長の部屋が一階とかにあったら従業員が落ち着かない、ということでこうなった。

 

 駐車場に車を停めた後は咲世子にナナリーを押してもらい、正面玄関から中へ入った。ハイテク化が著しいブリタニアの建築だけあってエレベーターが完備されているので車椅子でも全く問題はない。

 ナナリーは目が見えないので、外観の豪華さはあまり伝わらないはずだが──気を遣ってくれたのか、それとも空気の流れ方や匂いで察しているのか、嬉しそうに歓声を上げてくれた。

 

「あ、おはようございます社長。ルルーシュ君も」

「ルルーシュ君、ちょうど良かった。ちょっと見てもらいたいところがあるんだが……」

「きゃあ、社長。その子は誰ですか? 社長の妹さん?」

「おはようございます、皆さん。彼女はナナリー・ランペルージさん。ルルーシュさんの妹さんです」

 

 ついでにみんなへ挨拶しに行ったらたくさんの声が返ってきた。

 挨拶するなり呼ばれたルルーシュは「やれやれ」と苦笑しながら年上社員の元へと歩いていく。一応は副社長という肩書きなのだが、年齢的には中学生に過ぎないこと、彼が他の社員に敬語で丁寧に接していること、実力は申し分ないことなどからすっかり馴染んで、頼りにされている。

 なお、俺に対する社員の態度もわりとフランク。業務の進捗報告など真面目な席ではさすがに緊張されるものの、それ以外の時はほぼマスコット扱いである。通常業務では役に立たないのでこれもまた致し方ない。

 

「ルルーシュ君の妹さんですか。初めまして。お兄さんには似ているような、似ていないような?」

「初めまして、ナナリーと申します。いつも兄がお世話になっております」

「礼儀正しい子。社長、こんな子が妹になるなんて羨ましいです」

「ありがとうございます。ナナリーさんに認めてもらえるように、日々努力を重ねているところです」

 

 女性を中心とした社員の軽口にノリで答えると、ナナリーが頬を膨らませて、

 

「ひどいです、リリィさん。それじゃ私がいじめているみたいじゃないですか」

「すみません、ナナリーさん。でも、ルルーシュさんの結婚相手を見定めている時のナナリーさんは結構意地悪ですよ?」

「それは仕方ありません。お兄様のお嫁さんになるなら当然です」

「そっか。ナナリーちゃんはルルーシュ君のことが大好きなんだ」

 

 親しみが八割、少女の逆鱗がどこにあるか知った恐怖が二割といった表情で言う社員に、ナナリーは「はい、大好きです」と物おじせずに答える。

 こういう素直な態度は、ナナリーのように幼げで儚げな少女が取ると破壊力が倍増する。女子社員達は小動物を愛でるのと似た態度で少女にお菓子なんかを薦め始めた。マスコットが二人に増えたといったところか。俺には「またナナリーちゃんを連れて来てください」などとお願いが飛んでくる。

 

「なんだかすみません。仕事の邪魔をしてしまって」

「とんでもないです。私達こそいい息抜きをさせてもらってありがとうございます」

 

 リリィソフトはゲーム会社ではあるものの、過酷な労働環境をなるべく敷かないよう、あらかじめ体制を敷いた上でスタートさせている。

 仕事場は禁煙。煙草を吸いたい時は社屋内にある喫煙所を利用すること。仕事場へのちょっとしたお菓子などの持ち込みは自由。飲み物は蓋つきの物ならOK。休憩も一時間ごとに五分を目安に取るように言っている。無駄な残業は注意する方針だが残業代はきちんと出すし、休憩や泊まり作業のための仮眠室(男女別)も用意してある。

 現状では部屋が余りまくっているのをいいことに欲しい設備を盛り込みまくった。お陰で労働環境だけなら一流企業にも引けを取らないか、それ以上になっているかもしれない。

 

「それじゃあナナリーさん。後は社長室でお話でもしましょうか」

「はい、リリィさん」

 

 適当にお喋りをしたところで、俺はナナリーと咲世子を伴って社長室へ移動、ちょっとした仕事をこなしつつナナリーと雑談に勤しんだ。

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

「ルルーシュ君。ここなんだけど、こういう問題があってさ。どうしたらいいと思う?」

「ああ、それならここをこうしてこうすれば解決できるはずです」

「なるほど。……ん? なら、そこをああしたらこういう事もできるのか?」

「面白いアイデアですね。試してみましょうか」

 

 リリィ・アッシュフォードの立ち上げた会社、リリィソフトに雇われて以来、ルルーシュ・ランペルージは多忙な日々を送っている。

 社長であるリリィは出社しない日も多い。生徒会長としての仕事に追われていたり、風邪気味なので休むと言ってきたり、在宅で社長業をこなしていたりするせいだ。一方のルルーシュは平日はほぼ毎日、授業の後で会社へ顔を出している。

 他の社員は土日も出勤していたりするので、ついつい自分も持ち帰った仕事に手を付けてしまったりもする。

 

『ナナリーさん成分が不足しているんじゃありませんか?』

 

 当のリリィからはそんな風にからかわれたりもした。いったい誰のせいだと思っているのか。いや、リリィは社員のシフトを週休二日で組んでいるので、休めないのはルルーシュ自身の性分によるところが大きいのだが。

 

『私はお兄様が毎日楽しそうで嬉しいです』

 

 ナナリーの方はそんな反応である。

 ルルーシュとしては楽しいと言った覚えはない。むしろ会社での苦労話を(鬱陶しく思われない程度に)語っているつもりだったのだが、妹はどうもあの少女を贔屓するというか、好意的に解釈する傾向にある。

 あれは思慮深いようでいて、考え方の基準は意外と単純だ。極端な平和主義。日本を解放したいのも社員に過剰な福利厚生を行うのも結局のところはそのせいである。にもかかわらずわかりづらく見えるのは独自の論理やら彼女だけが持つ謎の知識やらのせいで思考経路が読めないせいだ。

 

 しかも、会社では普通にこき使われている。

 副社長という肩書きはどこへやら。普通に現場へ顔を出しては「プログラマーのルルーシュ君」として仕事をこなす日々。

 もう少しこう、一般企業を隠れ蓑にした諜報組織を指揮した鮮やかな活躍を思い描いていたのだが、やっている事は単に割のいいバイトである。

 まあ、元皇子がゲーム会社でバイトしているはずがない、という意味でいい目くらましにはなっているはずだし、ゲームの第一作目も出ていない段階では収支としてはマイナス続き。資金を使って大きく動くことなどできようはずもないし、であれば資金調達のためにいいゲームを作るというのは理にかなっているのだ。

 

「リリィが進めているはずの玩具の方が先に当たってくれれば楽になるだろうか」

 

 リリィ曰く「デジタルカードゲーム」というジャンルになるらしい新機軸のカードゲーム。あれは結局会議の末、「デジタル」を取っ払ったアナログのカードとして売り出すことになった。

 開発チームは現状、社内から出すのが困難なため、なんとアッシュフォード学園の生徒からリリィが「これは」と思う人材を集めて部活動のような形で進めている。筆頭はアッシュフォードの正式な娘にしてリリィの義妹であるミレイ・アッシュフォード。

 他には水泳部に所属している活動的な女生徒や、金儲けに興味があるらしい胡散臭い……もとい変わった性格の男子生徒、うって変わって寡黙で引っ込み思案な女生徒などが協力している。

 ルールなどはリリィが複数作成したアイデアの中からメンバーが「これ」と思ったものが採択され、テキストベースの仮カードをプリンタで作成、トランプとそれ用のスリーブを用いて実際にプレイし、次回の活動までにリリィがゲームバランスやシステムの細部を微調整……といったことを繰り返しているらしい。

 あの女はいったいいつ寝ているんだ。

 もとい、ルルーシュが経理などへも口出しするのをいいことに「楽ができていいです」などと口にするのが気に食わない。リリィがルルーシュとは別の形で苦労をしているのはわかっていても、なんとなく割を食わされているような気分になるのだ。

 

 ともあれ、カードが完成した暁にはベータ版をアッシュフォード学園の購買部で販売し、更に調整を進めた上でエリア11に広く流通させる計画が既に出来上がっているのはありがたい。さっさと作って売り上げを出して欲しい。

 そのために一回くらいは部活動……もとい、商品開発の場に顔を出したいのだが、本業のゲーム開発が忙しいせいでなかなかそうもいかない。

 と。

 

「ルルーシュと社長は本当に仲がいいよな」

 

 今日も今日とてスーパーサブとして(ある意味ルルーシュ以上に)こき使われている紅月ナオトが、ルルーシュの呟きに反応する形で言った。

 忙しいはずなのに社員との雑談にも交ざってくる、この妙に飄々とした男のことは、反ブリタニアを企む陰謀家としてのルルーシュは少々苦手であり、同時にルルーシュ・ランペルージ個人としては割と好感を持っている。

 が、だからといってその発言を見逃すわけではない。

 

「仲が良い? 俺とあいつが? よしてください、俺達は所詮、保護者が決めた婚約者同士に過ぎませんよ」

 

 ふん、と鼻で笑って言えば、ナオトは苦笑して、

 

「最初が政略結婚でも、後から恋愛に変わることだってあるさ。昔の日本では珍しくなかったらしいし、ブリタニアだってそうだろう?」

「……ええ、そう()()()ですね」

 

 まさか、カマをかけられているのか。

 単身(ではなくなった、と言っていいような気もしないでもないが)ブリタニアに抵抗するつもりのルルーシュは必要以上に身構えてしまうものの、ナオトの表情にはシリアスな雰囲気は微塵もない。ひとまずは仕事中の雑談としてさらりと流しておく。

 

「でも、あいつとの間に恋愛感情なんてありませんよ。口うるさい女が傍にいるというだけです」

「はは。妹が一人増えたような感じかい?」

「あいつと比べるのはナナリーに失礼ですよ」

 

 そう言うと、ナオトの苦笑が引きつり気味のそれに変わった。その理由が(重度のシスコンである)ルルーシュにはわからなかったが、まあ問題はないだろうとスルーしておく。

 するとナオトはすっと目を細めて、

 

「妹か。俺にも妹がいるんだ。……もう、しばらく会ってないけど」

「……戦争のごたごたで離れ離れに?」

「ああ。ブリタニア貴族に引き取られてね。会いたくても簡単には会えなくなった」

「それは……」

 

 自分の身に置き換えてみれば辛さがわかる。

 妹──ナナリーが日本の重鎮に引き取られてルルーシュから引き離されたら。兄妹の身柄を引き受けてくれた枢木ゲンブ首相は決して悪い人物ではなく、むしろ十分に頭の切れる「話せる」男だったが、それはそれとして、自分の目の届かないところであの男とナナリーが一緒だと仮に想像しただけで虫唾が走る。

 そこまで考えたルルーシュは「ブリタニア貴族に妹を引き取られた」という境遇を持つ人物がもう一人いる事に思い至った。篠崎咲世子。当の引き取られた妹が飄々とゲーム会社なんかを立ち上げているせいで実感が湧かないが、彼女達も相当に数奇な運命を辿っている。

 あるいは、自分達が巡り合ったのは何か大きな力が働いているというのか。

 

(だとしても構わない。そいつを逆に利用してブリタニアに復讐してやる)

 

 内心の怒りを押し隠しながら、ルルーシュは笑顔を浮かべて答えた。

 

「両国の関係がいい方向に進むといいですね。俺もブリタニアには帰れない身ですから」




あけましておめでとうございます

思えば去年も本作でご挨拶をした気がします。
つい最近、思いがけず日間二位を取っているのを目撃しました。誠にありがとうございます。

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