ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
「先輩! 新しい企画を考えたので聞いてください! 名付けて『ドキッ! 女だらけの大告白大会』──」
「没で」
「えー!? いいじゃないですかー!」
本日の業務を終え、二人だけになった生徒会室にミレイの明るい声が響いた。
前生徒会からの引継ぎが終了し、三年生が始まって、生徒会長用のちょっと良い椅子が俺のものになってからしばらく。
新体制はうまいこと回っている。
頼まなくても次々に面白そうな企画(本人主張)を持ってくるミレイをはじめ、メンバーはみんな優秀だ。お陰で俺は指示を出すのと決裁を行うのが主な仕事。後は時々、生徒達の前で壇上に上がって話をするくらい。それだって体調の悪い時は副会長に代わってもらっている。
期せずして人を使う練習ができている気がする。
近いうちに事業を立ち上げるつもりなのでちょうど良かったかもしれない。学生の身の上である以上、実働はどうしても他の人に任せることになるのだから。
「予算にも限りがあるんですから、そうそうイベントを頻発できません」
「そこをなんとかするのが生徒会長の腕の見せ所じゃないですか?」
「そういうのはミレイさんが生徒会長になったらやってください」
「推薦してもらえます?」
「実務を覚えるか、頼りになる助手を見つけられたら考えます」
まあ、彼女なら間違いなくどうにかするだろう。
あのアッシュフォード学園の名物生徒会長として上手いこと采配を執っていたのだから──
「っ!」
不意に強い吐き気を感じて口元を押さえる。
こんなこともあろうかと常備しているエチケット袋を開き、こみ上げてきたものを吐き出す。身体に寒気が走り、瞳には涙が滲む。
すかさずミレイが背中を撫でてくれる。しばらくすると落ち着いてきたので「ありがとうございます」とお礼を言った。
「すみません、見苦しいところを」
「……体調、まだ戻りませんか?」
「ええ……。しばらく時間がかかるかもしれません」
このところ、俺は継続的に不調だった。
風邪をひいているとかそういうことではないのだが、今のように突然、吐き気が襲ってくることがある。何度も続いているので自分でも対策をしているし、ミレイら生徒会メンバーも特別驚いたりはしなくなった。
医者によると原因は精神的なものらしい。
本当のところ、何が原因かははっきりしている。
──日本が負けて、エリア11に変わったからだ。
枢木ゲンブ首相が何者かに暗殺され、結果だけ見れば原作と大差ない状況に追い込まれたからだ。
殺したのはスザクではないだろう。
警護していたSPも全員殺されているという情報からして、犯人はプロの殺し屋だ。原作キャラの中に一人、思い当たる名前もある。
もし、予想が当たっているとすれば、これはブリタニア、その裏側で暗躍している超越者の陰謀だ。
奴は、奴らは、自分達の目的のために日本のトップを殺した。その上で、殺したことをなんとも思っていない。
警護者の中に女性がいなかった、つまり殺された中に姉がいなかったことは不幸中の幸いだが、
(私が! 私がもっと頑張っていれば、こんなことにはならなかった! 私のせいで、たくさんの人が死んだ!)
再びこみ上げてくる吐き気。
さっきあらかた吐いたお陰で大した強さはなかったので、俺はそれを自力で飲み下す。
……つまり、不調の原因は自分の中にある百合としての自我を抑えられなくなったからだ。
俺と百合は別人ではなく同じ人間だ。
便宜上、前世の記憶をベースとする『俺』と今世の記憶をベースとする『百合』の二つの自我を使い分けてはいるものの、根っこのところでは繋がっている。
だから、俺の経験したことは百合も経験している。
百合の感じたことは俺にもフィードバックされる。
幼い少女が原作改変、その結果としての悲劇に耐えられるわけがない。百合は自責の念を強く抱き、それが体調に影響しているのだ。
はあ、と、溜め息をついて気持ちを落ち着かせる。
すると、ミレイがいつものおどけた表情とは違う、どこか気遣わしげな面持ちで俺を見つめてくる。
「本当、先輩は危なっかしいですよね。時々見てられなくなります」
「ミレイさんが気に病むことじゃありませんよ」
「病みませんよ。でも、構ってあげたくはなりますよね」
すくすく成長している少女の手が伸びて、俺の白い髪を梳く。
「来年は構ってあげられないかもしれないんですよ」
「転校、するんですか?」
予想はしていたので、さほど驚かずに尋ねることができた。
ミレイは困ったような笑みと共に小さな溜め息をついて、
「そうなんです。お祖父様が新しい学校を作るそうで、海を渡ることになりそうなんです」
「海……もしかして、エリア11に?」
「はい。学校を作るのが念願だったそうで、開拓に協力する見返りとして良い土地を貰えることになったとか。新しく学校作るのって大変なんですよ。他の学校が近くにあると儲けるのが大変だし、騒音問題とかもあるので周りの住民とトラブルになったり」
単純に広い敷地が必要なのもあって本土ではなかなか実現しづらい。
新しくできた植民地ならもろもろの問題を一気に解決できて好都合というわけだ。何しろ新しく街を作るわけで、学校ができるのが織り込み済みなら苦情も出にくい。
「ミレイさん、理事長のお孫さんになるんですね」
「滅茶苦茶偉そうな肩書きですよね? まあ、せっかくの権力は有効活用しますけど」
さすがミレイ。
俺はくすりと笑ってから彼女に告げる。
「なら、来年も会えるかもしれませんね」
「え?」
「私も、父の仕事の関係でエリア11に渡る可能性がありまして」
シュタットフェルト家も向こうの開発に関わるのだとか。
原作にて当主と本妻が揃って日本にいたのはそういう事情があったらしい。拠点が日本になるから本格的な屋敷を日本に作ったというわけだ。
途端、ミレイの目が輝く。
「じゃあ……!」
「はい。新しくできる学校なんて幾つもないでしょうから──」
「先輩!」
ぎゅっと抱きしめられた俺は照れくさいものを感じながら「苦しいです」と控えめな苦情を後輩に伝えた。
◆ ◆ ◆
妖精は実在したのか。
セシル・クルーミーは大学内にあるカフェテリアの一角で、さして美味しくもないインスタントコーヒーをすすりながらぼんやりと思った。
四人掛けのテーブル。彼女の正面に座っているのは件の妖精だ。
紅茶の入った紙コップを大事そうに抱えてちびちびと飲む、人形のような少女。髪は白く、瞳は赤い。異様に白い肌と合わせてアルビノの特徴と一致する。現在中学三年生らしいが、小柄なせいかもっと幼く見える。
「で、脚部駆動系の部品を全部バラシて組みなおしたわけ。そうしたら案の定、八パーセントも効率が増加したよ」
「まあ。ですが、組み立て直すのは大変だったのではありませんか?」
「まあねえ、みんなヒイヒイ言ってたよねえ」
セシルの隣に座っているのは眼鏡をかけた優男風の青年。
大学のゼミの先輩であり、
男性として、あるいは人付き合いのための参考資料としては一ミリも尊敬することができない変態、もとい変人は何やら楽しそうに研究の苦労話を語っている。
妖精ことリリィ・シュタットフェルトは彼の話を楽しそうに、相槌を打ちながら聞いているのだが、
「完全に、幼子を騙してよからぬことを企む悪党の図ですよね」
「ひどいこと言うねえ、セシル君」
「ご心配には及びません、セシルさま。私、ロイドさまの性質はよく存じております」
小さな呟きを聞きつけた二人は会話を中断し、セシルに向き直ってくる。
変なところで息がぴったりの二人である。
「本当に大丈夫? この人、見た目よりずっと変態よ?」
「セシル君、言い方」
「はい。機械しか愛せない特殊な方なのだということは十分に」
「リリィ君?」
何が気に入らないのか、半眼になってツッコミを入れてくるロイドを無視し、セシルは「なるほど」と頷いた。
「男性としての能力に期待しなければ、そこそこ良い相手かもね」
「男性に強く愛されると困ってしまう身の上ですので、ロイドさまは私にぴったりの方なのです」
ロイドに対する認識で合意を得た女二人は、年齢や立場を越えた友情を感じて見つめあう。
隣ではロイドが憮然とした顔をしていたが、ひとまず無視。
リリィのような可愛い子が年上の変態に捕まるのは世の不条理を感じずにはいられないが、見るからに病弱そうな彼女には確かに、子作りとかどうでも良さそうなこの男が合っていそうだ。
「リリィちゃんも
「まだ迷っております。近々起業する予定もあるので、そのまま経営の道に引っ張り込まれてしまう可能性もあるのではないかと」
「ああ、そういえば今日の用件はそっち関係だっけ」
「無関係な私を連れてきておいて本題を忘れないでください」
ジト目で突っ込みを入れると、それを見ていたリリィが首を傾げて、
「セシルさまは、ロイドさまのことを男性としてどう思われますか?」
「駄目人間」
「安心しました」
にっこりと微笑むリリィ。
本気ではなかったらしいが、それにしても恐ろしい冗談を言わないでほしいものである。セシルはロイドのことを男性として意識したことはないし、それは今後も変わらないだろう。
もし、リリィが彼女なりに嫉妬しているのだとしたら可愛らしいが。
「で、何の用だい?」
「そうでした。お二人とも、どなたかプログラミングやグラフィック関係に強いお知り合いはいらっしゃいませんか?」
「プログラミング? 何に必要なの?」
「ゲームを作るんです」
玩具になるかもしれませんが、と、答えるリリィ。
起業というのはゲーム会社を立ち上げる、という意味だったらしい。少し意外だが、民間軍事会社とかよりはずっとこの少女に似合っている。
ファンシーなゲームを想像していたら、本格的なRPGやSLGを作りたい、と言われて面食らったが。
「私達に尋ねたのはどうして?」
「もちろん普通に求人募集もするつもりですが、研究者の方ならスペシャリストのお知り合いがいるのではないかと思いまして」
「なるほどね」
「なんで僕の方を見るのかな、セシル君?」
「蛇の道は蛇、なんて言葉があるらしいじゃないですか」
実際、二人には思い当たる名前がないわけでもなかった。
彼らの学部はやや方向性がズレるが、知り合いの知り合いといった形で知り合った人物の中には別の学部の者ももちろんいる。
その道ではそこそこ優秀な人材のはずなので、バイトならともかくスカウトとなると厳しいかもしれないが、概要をメールしてもらって本人に伝えてみる、ということで合意した。
連絡用のメールアドレスを教え、ついでにプライベートな連絡先も交換しあう。ロイドに関する愚痴ならいつでも聞くと言うと少女は笑い、ロイドが仏頂面になった。
「ところで、その歳で起業なんてまた、どうして?」
別れ際に何気なく投げかけた問いには、雑談の時とは違う透明な笑みが返ってきた。
「欲しいものがあるので、そのための資金稼ぎです」
「そう。頑張ってね」
「はい。ありがとうございます、セシルさま」
セシルは後に知ることになる。
何気ない激励に笑顔で答えた少女の『欲しいもの』が割ととんでもない代物であることを。
後日、後見人であるシュタットフェルト家の人々と共に植民地、エリア11へと渡ったリリィは、少数のブリタニア人スタッフと共に安価に現地雇用したイレブンのスタッフを用い、ゲーム会社を設立。
神話の幻獣を捕獲・使役して幻獣マスターを目指すRPGや魅力的なキャラクター達が実在・架空のKMFを駆る仮想戦記もののSLG、通信対戦が可能な画期的なデジタルカードゲームなど、数々のゲームを次々に発表してかなりの収益を上げることになる。
特にKMFもののゲームは好評を博し、セシルもシリーズ全てを買いそろえるほどドハマりした。実在のKMFはかなり忠実に設定している癖に架空のKMFの設定はかなりぶっ飛んでおり、この機体を実現させるにはどうしたらいいか、などという空想にさえ発展。
最終的には神聖ブリタニア帝国とライセンス契約を結び、実際にKMFを操縦する感覚を味わえるアクションゲームまで発売され、ちょっとした社会現象を巻き起こすことになった。