ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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■if番外編:婚約者がルルーシュだったら 五

「ようやく満足の行く出来になりました」

 

 ゲーム制作が日常になり始めたある日。

 俺は満を持して、リリィソフトの製品第一号となる商品のプロトタイプを会社へ持ち込んだ。

 トランプ用のスリーブに入った数多くのカード達。現状、スリーブに入っているのはトランプ+紙製のカードデータという、いわゆるプロキシの状態だが、れっきとした試作TCGである。

 リリィソフトは電源ゲームの製作会社だったはずなのだが、まさか製品第一号がアナログのTCGになるとは……。まあ、電源ゲームは作るのに時間も人手もかかるので仕方ないのだが。

 

「ほう、結構な枚数があるな。これを全部使って遊ぶのか?」

「いえ、ここに用意したのはあくまでも『ゲームに使われうる全てのカード』です。実際には、プレイヤーはこの中から使いたいカードを選び、自分だけのデッキを構築してゲームに使用します」

 

 一般的なトランプゲームと異なるのはプレイヤー一人一人が自分のデッキを持ち寄る事。

 デッキにどんなカードが含まれているかは人によって異なるため、相手のデッキ内容をいかに予測し対応するかもポイントになってくる。

 ……と、前世でTCGというものに触れている俺にとってはごくごく当たり前の事なのだが。

 

「なるほどな。……多くのカードがあるが、遊ぶだけなら全てを把握する必要はない。だが、本気で勝ちたいのなら全貌を見据え、その上で自分の戦略を繰り広げる必要があるのか」

「そうですね。おそらく遊んでいくうちに暫定的な『最強のデッキ』は生まれるのでしょうが……するとおそらくは、それへの対策を組み込んだ新しいデッキが台頭していくことになる。心理戦の要素も多分に含んでいるわけですね」

「ええ、その通りです」

 

 令嬢めいた笑みを浮かべて答えながら、俺は「何を言ってるんだこいつら」と思った。

 ルルーシュ・ランペルージと紅月ナオト。二人が切れ者なのは知っていたが、何故ゲーム説明の段階からデッキ構築の肝や環境、メタゲームの概念まで考察しているのか。この世界には本当にTCGは存在しないんだよな?

 

「ひとまず、ここに全百五十種類のカードを三枚ずつ、計四百五十枚のセットが二つあります」

 

 紙とはいえ、これだけ集まるとさすがに重い。

 俺では運べないので学園でのテストプレイ時には人手を借りた(主に男子──つまりリヴァル・カルデモンドの出番だ)し、ここへ来る時は咲世子に手伝ってもらって運び入れ、社員と一緒に会議室まで持ってきた。

 

「これを使って実際に遊んでみましょう。そして、皆さんの意見を元に最終調整を行い、完成させたいと思います」

 

 するとある者はぎらりと眼を光らせ、ある者はひゃっほうと歓声を上げ、ある者はお茶とお菓子の準備を始めた。

 まるで「仕事中に遊べるぜ!」とばかりの騒ぎだが、うちはゲーム会社。遊べるものを作るのが仕事なので特に問題はない。むしろ積極的に新しい物へ飛びついてくれるのは嬉しい限りだ。

 

 

 

 

「……これはまた、社長。恐ろしいゲームを作りましたね」

 

 俺とアッシュフォード学園有志一同が作り上げた世界初のTCGは、前世の世界に存在したとあるゲームを元に、ギアス世界の人間がとっつきやすそうな要素を加えたものだ。

 このゲームにおいてプレイヤーはそれぞれ『国王』の役割を担う。

 王様同士が己の軍を率いて他国と戦争し、勝利を目指すというのが基本設定だ。また、ゲームの主軸となるユニットカードにはポーン、ナイト、ルーク、ビショップ、クイーンの役割が割り当てられている。要はチェスがモチーフ。

 ユニットを戦場に出したり、アイテムカードや軍略カード(戦術や罠、魔法などの行使を現す)を用いるにはリソースが必要であり、このリソースは土地カードを場に出すことで賄うことができる。一枚の土地カードが一ターンに出せるリソースにも決まりがあり、強力なユニットを出すには多くのリソースが必要。

 また、クイーンは一つの軍につき一枚のみ、ナイト・ルーク・ビショップは二枚まで、ポーンは何枚でも戦場に出せるというルールがあるため、女王様を並べまくってハーレム──もとい、簡単に無双することもできないようになっている。

 

 そんなわけで俺的には「ギアス世界でTCGを作るならこうだろ」というとても素直な発想だったのだが、我が社におけるエースメンバーの一人、紅月ナオトの反応は予想よりも重いものだった。

 かと思えばルルーシュもまた厳かに頷いて、

 

「ええ、紅月さんの言う通りです。……リリィ。要はこれは、武装集団同士での戦闘をシミュレーションするためのゲームなんだろう?」

 

 何を言っているんだこいつは。

 

「チェスのように互いが同じ条件からスタートする戦争なんて現実にはありえない。将棋における『駒落ち』はその点良いルールだが、それでもまだ足りない。このゲームはその不足を補うように、手持ちの駒でなんとかする、という発想を培えるようになっている」

「加えて言えば、兵力が足りないのなら戦術やトラップで補えという教えも含まれています。ブリタニアとの戦争時、旧日本軍が行ったのもそういった戦い方でしたね」

「……さすがです。お二人とも目の付け所が違いますね」

 

 俺としては「そりゃチェスをベースにしたら軍略ゲーになるだろ」くらいのノリだったのだが──以下略。

 

「売れると思いますか?」

「売れるでしょう。若年層は深く考えずに飛びつくでしょうし、富裕層の子供が手を出せば自然と貴族の目にも留まるはず」

「チェスがモチーフならばブリタニア人にもとっつきやすい。……俺としても、試してみたい戦術がいくらでもある」

 

 もちろん、このゲームは日本人にも販売する。

 忍従を強いられているエリア11の日本人達に「ブリタニアとの戦い方」をあらためて考えてもらう切っ掛けにもなるかもしれない。

 このゲームには王の首を取る(ライフを0にする)だけでなくデッキ切れ(資源枯渇)などの勝ち方も用意されている。ただ玉砕覚悟で突っ込むだけが戦いではないのだと思ってもらえれば俺としても都合がいい。

 

「では、これからしばらく──そうですね、一週間ほどかけて社内で遊んでみてください。プロキシが足りなければ増刷して構いません。毎日意見を取りまとめてアップデートし、ゲームを完成させます」

「了解した。ならリリィ、とりあえずもう一戦相手になれ。お前の厄介なデッキ、今度こそ突破してみせる」

 

 話しながらカードを吟味してたと思ったら負けたのが悔しかったのか。どうせ極めたらルルーシュの方が強くなるんだから、もう少しくらい俺に勝ち誇らせてくれてもいいだろうに。

 

「いいでしょう。返り討ちにして差し上げます」

 

 こうして我が社のTCGは無事に製品化され、販売をスタートした。

 ブリタニア内で冷遇されがちな混血・多国籍系の画家を多く使い、安価に高品質なカードイラストを確保。まずはアッシュフォード学園内で学割販売を行い若年層のユーザーを十分に確保した後、トウキョウ租界全域へと販売地域を拡大。

 パックを買っても欲しいカードが当たるとは限らないという特性からトレーディングによる自然なステルスマーケティング、あるいは大人買いも頻繁に行われ、気づけば他の租界やブリタニア本国からも「売ってくれ」という希望が届くようになった。

 こうして入ってきた収益は本業である電源系ゲーム開発の方へと回され、どちらかといえば男子向けのゲームであるTCGでは取り込みきれなかった層──女子達にも刺さるであろうゲーム『ポシェットモンスター』が満を持してリリースされたのであった。

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 枢木スザクは多忙である。

 最後の日本国総理大臣・枢木ゲンブの子として日本人の期待を背負う彼は今、キョウトに保護される形で暮らしている。

 保身的な老人達の支配するキョウトは若いスザクにとって居心地がいいとは言いづらいのだが──武術の師(の一人)である藤堂鏡志朗に稽古をつけて貰ったり、書物における独学や官僚経験者に師事して勉強する時間は有意義なものである。

 勉強なんかしている場合ではなく、一刻も早く日本を取り戻したい──そういう思いもあるが、急いたところで何もできはしない。子供の頃、年下の少女に良いようにあしらわれた経験は今でもある種の棘となって残っている。まして、彼女の姉にもスザクは頭が上がらないわけで。

 

(彼女達のためにも、このままじゃ終わらせられない)

 

 なんとか平和的な方法で日本を取り戻す。

 キョウトの老人達に本気で動く気があるのかはわからない。ならば、スザク自身が力をつけて状況を変えなければ。

 そのためにも、今は、

 

「神楽耶。入ってもいいかい?」

 

 一日の日課を終えたスザクは、キョウトの隠れ家内にひっそりと位置する、とある少女の部屋を訪れた。

 ノックをして尋ねるとすぐに「ええ、どうぞ」と高い声が返ってくる。

 

「こんにちは、神楽耶。調子はどう──って」

 

 未だ幼い身の上故にお飾りではあるものの、キョウトの、ひいては日本のトップともいえる少女──皇神楽耶。

 整った顔立ちと艶やかな黒髪を持つお姫様は、着物の裾を僅かにはだけさせながら床に直接座り込み、そこへ並べられた無数の(カード)を見下ろしていた。

 少女の白い足がちらりと目に入ってしまったスザクは、まだまだお子様のそれだと頭ではわかっていても「見てはいけないもの」を見てしまった気分になりつつ溜息をついた。

 

「また盛大に散らかしているね、神楽耶。今日は()()()なのかい?」

「ええ。()()()も当然進めてはおりますが、スザク様は一日二日ではなかなかまとまった育成ができませんでしょう?」

 

 こっち、とは神楽耶が真剣に吟味しているカード達のことだ。

 従来のカードゲーム──トランプなどとは一線を画する「トレーディングカードゲーム」というジャンルらしいそのカードは、珍しい物を好む神楽耶のために(これで大人しくしていてもらおうと)大人達がプレゼントしたものだ。

 なんでもトウキョウ租界に本拠を置くゲーム会社が製作したものらしい。

 同じ会社が作ったあっち──神話の幻獣を育成して戦わせるコンピュータゲームともども、贈り主の思惑通り少女を部屋へ縛り付けることができているのだが、代わりに世話係が困惑するほどに「ハマって」しまっている。

 さすがに寝食を忘れるようなことはないのだが、こうして日々幻獣の育成に励み、その傍ら新しいデッキの作成にも余念がない。

 そして、

 

「さあ、スザク様。対戦いたしましょう」

 

 彼女の相手となるのは、神楽耶の婚約者という身分にあるスザクの役割だった。

 世話係達では立場もあるので真剣勝負の相手にはならない。どうしても手心を加えてしまったり、逆に緊張で上手く遊べなかったりするので「お前がなんとかしろ」と各方面から圧力がかかってくるのだ。

 ここしばらくずっとこんな調子なので彼の方も慣れっこであり、

 

「いいよ。そう言うと思って、ちゃんと準備してきたんだ」

「まあ、スザク様。最近はとても紳士的ですのね」

 

 神楽耶の行動が読みやすくなっただけだ──とは、もちろん口に出して言わない。

 

「対戦するのはもちろんいいけど、その前に床を片付けようか。さすがにこれじゃあ足の踏み場もない」

「仕方ありませんわね。もう少しで良いコンボが思いつきそうだったのですけれど」

 

 ある程度カードがまとめられたところで、畳の上、座卓を挟んで向かい合う。

 スザクはこのゲームにおいてスタンダードに近い戦術を好んでいる。自軍ユニットを着実に増やしつつ、最小限の被害で敵の数を減らす。時には敵軍の攻撃を自分──国王自らが受けてライフを減らすことも厭わない。そうして兵を守り最終的な勝利を目指す。

 対する神楽耶はだいぶ趣味に偏った戦い方を好んでいる。場に一枚しか出せない『クイーン』の兵種を多めにデッキへ投入し、早めに引き当てたうえ最速で投入してくる。一見すると悪手なのだが、必要な時に必要なカードを引いてくる強運とクイーンの性能が合わさって全く気が抜けない。

 まったく以って、女子というのはわからない。

 と、

 

「そうそうスザク様。篠崎が動いているという話はご存じでして?」

「な」

 

 ゲーム中の雑談とばかりに神楽耶が重要な話を振ってくる。

 篠崎。

 スザクにとってもそれは大きな意味を持つ名前だ。何しろ「あの姉妹」の実家なのだから。その篠崎が動いているというのは──。

 ちらりと周囲を窺えば、世話係の女性はいつの間にか席を外していた。スザクにお守りを任せて用事を片付けようというのだろう。

 

「神楽耶。彼ら……彼女達は一体何をしているんだい?」

「ええ。それがどうやら戦ではなく商売を始めたようでして。そのための人材を確保しているとか」

「……商売?」

 

 思わず、手にしたカードを見つめてしまうスザク。トウキョウ租界を中心に新しいことを行う新興ゲーム会社。

 

(いや、まさかね)

 

 浮かびかけた脈絡のない発想をスザクはすぐに打ち消し、

 

「それと、こちらのカードゲームを作った会社。役員名簿に面白い名前がありましてよ」

 

 代わりに「一体神楽耶はどこからこんな情報を仕入れてくるのか」と、舌を巻く事になった。

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