ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

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■if番外編:婚約者がルルーシュだったら 六

「私のターン、ドロー。リフレッシュフェイズ──リフレッシュ終了。

 メインフェイズ、私はクイーンユニット《紅眼の白竜(レッドアイズ・ホワイトドラゴン)》を召喚します」

「ド、ドラゴン!? ちょ、ちょっと待った。なんだそのユニットは、知らないぞ!」

「ちゃんと正規のカードですよ。大会の優勝賞品なのでご存じないのも無理はありませんが」

 

 ある日の昼下がり。

 俺はリリィソフトの社長室にて、とある人物とカードゲームに勤しんでいた。俺たちの作ったカードによる対戦は騎士の決闘になぞらえ「デュエル」と呼ばれるようになり、租界の若年層を中心に一大ブームを巻き起こしつつある。

 今回のお客様もまた、ゲームの噂を聞きつけてやってきた暇人、ということになるのだが。

 

「優勝賞品!? ずるくないか、それ」

「ズルくなどありません。公式大会のレギュレーションにも使用可能カードとしてきちんと定められております。……それに、制作会社の社長がプレミアムカードを持っていて何か不都合でも?」

「くっ、それが君のやり方か、リリィ・アッシュフォード……! わかった、ならば僕は、自分のデッキを信じて戦うだけさ」

 

 ゲーム初の人外カードとなる《紅眼の白竜》に文句をつけたその人物──若干の幼さが残る、真面目そうな日本人の少年は、なんだかんだ自己解決した挙句、カードゲームアニメの主人公のようなことを言いだした。

 なんというか、さすがだ。

 KMF(ナイトメアフレーム)やギアスが関わっていなくても彼のそういうところは全く変わらないらしい。俺は、殴り合いなら簡単に俺を撲殺できる彼の向かいに座ったまま苦笑を浮かべた。

 なお、そんな俺たちを傍で観戦している人物がいたりするのだが、

 

「……ふむ。リリィの十八番(おはこ)が出てしまったか。あの竜は圧倒的な基本性能とキーワード能力『飛行』を有する優秀なユニットだ。攻めと守りの両方に長けた竜の女王を相手にあいつはどう戦うのか」

「ふふふっ。素敵なカードですわ、さすがはリリィ様。イラストも美麗ですし、私も是非手に入れたいところですが、公式大会に出るのは少々難しいのですよね。……どなたかに譲っていただくしかないでしょうか」

「あのう、咲世子さん。どっちが勝っているんですか?」

「そうですね、現状ではややリリィ様が優勢でしょうか」

 

 我が社の副社長(ルルーシュ)ともう一人、黒髪の美少女──美幼女は仲良く並んだまま、俺たちの対戦を解説よろしく実況している。咲世子はナナリーに戦況を解説中だ。

 日本国首相の息子と日本のやんごとなきお姫様、そして元ブリタニアの皇子に皇女。

 咲世子はともかく、SPの家系の出来損ないに過ぎない俺がどうしてこんな面子と楽しく遊ぶ羽目になったのかといえば、話は少し前に遡る。

 

 

 

 

「ルルーシュさん。このメールなんですけど、どう思いますか?」

 

 俺──というかリリィソフト社長宛に届いた一通のメール。

 御社のカードゲーム事業にいたく感銘を受けたので、自分にも一枚噛ませていただきたい。ついてはまず、社長と副社長の両名に会って話ができないかという内容で、一見するとよくある営業である。

 声をかけられたルルーシュも最初は「お前が俺を頼るなんて珍しいな」と言っていたのだが、内容を読むなり眉を顰めた。

 

「どうです?」

「……怪しいな。もっともらしく書かれた社名だが、こんな会社は聞いたことがない。弱小なだけかもしれないが、それにしては会社の営業宛てではなく()()()()()届けられている。極めつけは相手の名前だな」

 

 書かれていた名前は「サイモン・フェニックス」。

 当日は名誉ブリタニア人の秘書と一緒に向かいたいとのことで、日本式の女性名も記載されている。

 フェニックスとかいかにも嘘っぽい家名である。もし本名だったらデュエルでモンスターズな世界が混ざっているんじゃないかと疑うところだが、

 

「フェニックスとはつまり火属性の幻獣です。四獣に当てはめるなら()()()ですね」

「こっちはかつて()()()に仕えていた使用人の名前だ。世話になったことのある人間でないと知らないだろうが」

「副社長も一緒にご指名なのは『そういうこと』でしょうね」

「ああ。せっかくだから話くらいは聞かせてもらおうじゃないか」

 

 なお、枢木スザクが現在、キョウトに身を寄せていることは咲世子の調べによってわかっている。

 となると、単に馴染みの使用人を連れて世間話をしに来るわけではないだろう。むしろもう一人の女性の方が本命という可能性が高い。

 俺たちは何が来てもいいように可能な限りの準備を整えて当日を迎え──「まさかそう来るとは」と呆気に取られた。

 

「初めまして、(すめらぎ)神楽耶(かぐや)と申します。一度お会いしたいと思っておりました、篠崎百合様?」

「……お初にお目にかかります、神楽耶さま。ですが、その。現在はリリィ・アッシュフォードと名乗っておりますので、できればそちらの名前で呼んでいただけますでしょうか」

「あら、私としたことが申し訳ありません。ついうっかりしておりました」

 

 嘘つけ絶対わざとだ。

 とまあ、そういうわけで。やってきたのは枢木スザクを護衛につけた日本のお姫様、皇神楽耶その人であった。もちろん俺やルルーシュも「そういう可能性もなくはないよな」くらいの想定はしていたのだが、本当に来るとは。

 こんな重要人物をさらっと連れてきたスザクを思わず睨んでしまう。

 まあ、部屋はきっちり人払いをして盗聴対策も行っているのだが。

 

「ご健勝のようで何よりです、スザクさま」

「……君もね。世渡り上手なのは小さい頃と同じか」

「ありがとうございます」

 

 笑顔でお礼を言いながら、俺は「この野郎」と思った。どういうわけかこの男とは相性が良くない。インドア派とアウトドア派なので仕方ないんだろうが。

 と、ここで咲世子がにこりとスザクを見て、

 

「久しぶりね、スザク君。……いえ、枢木スザク様とお呼びするべきでしょうか」

「よしてください、咲世子さん。僕なんてまだまだで──」

「身体が鈍っていないか、後で確かめてもいいかしら?」

「勘弁してください。……というか、もしかして何か怒ってますか?」

「いいえ、そのような事は決して」

 

 俺への態度が気に食わなかったから嫌がらせしている……ということだったら若干嬉しいとか思ったりした。

 

「それから──ルルーシュ。久しぶり、元気だった?」

「ああ。スザクも元気そうで何よりだ。……ゲンブ首相の件は、残念だったな」

「……うん。でも、父さんの死は無駄にしない。必ず日本を取り戻して再興してみせる」

「そうか。……ああ、そうだな」

「ナナリーも。ちょっと背、伸びたんじゃない?」

「わかりますか? ……ふふっ。スザクさんに成長した私を見せられて嬉しいです」

「うん。僕もナナリーに会いたかった」

 

 と、旧知の仲である兄妹とスザクは旧交を温め、

 

「ではリリィ様。カードゲームをいたしましょう?」

「は、はい」

 

 おい、何しに来たんだお前ら。

 

 

 

 

 

 で。

 

「『対空』ユニット二体で《紅眼の白竜》をブロック! さらに戦術カードを使って攻撃力を上昇。これで相打ちだ……!」

「では戦術カード『応急処置部隊』。戦闘で倒されたユニット一体を体力1で戦場に戻します」

「なっ!? くっ、なら僕のターンの攻撃時、戦術カード『スイッチ作戦』を使用。ブロックされたユニットではなく別のユニット──《陰に潜む暗殺者》がブロックされたことにする。これで『必殺』のキーワード能力により《紅眼の白竜》を撃破だ」

「では倒されます。それはそれとして、次の私のターンに『蘇生術式』。《紅眼の白竜》を戦場に戻しますね」

「こ、こいつ……!?」

 

 せっかくなのでスザク相手にやりたい放題した。

 スザクのデッキはオーソドックスかつ扱いやすいユニットを戦術カードやアイテムで補助しながら戦うスタンダードなタイプだった。

 特筆すべきは最強の女王(クイーン)を極力使いたがらないこと。女の子を矢面に立たせたくないという彼の優しさが現れたプレイスタイルだが、使えるものはなんでも使わないと勝てないのがこのゲーム。スザクは自ら枷を嵌めて戦っているようなものであり、さらに言えば俺の主力である《紅眼の白竜》は基礎スペックにおいて最高峰のカード。

 相性でも有利を取ってしまった結果、俺は最終的に五回くらいドラゴンを蘇生させ、スザクのリソースが空になるまで追い込んだ。一回倒すのにカードを二枚も三枚も使っていれば手札アドバンテージで負けるのは当然の話である。

 悠々とドラゴンで勝利を収めた俺は「ありがとうございました」と礼をした後、笑みを浮かべて告げた。

 

「このゲームを作った会社の社長がゲームを知り尽くしていないとでも思いましたか、スザクさん?」

「……ルルーシュ。こいつはちゃんと仕事をしているのか?」

「残念だが、これでなかなかに有能と評判だ。ついでに言うと、あのデッキはリリィの『本気用』のデッキではないぞ」

「な、なんだって……!?」

 

 愕然とするスザク。そんなに驚くようなことだろうか。《紅眼の白竜》はわかりやすく強いので接待プレイでも使いやすいが、その気になれば戦術カード一枚で倒せる。場に一枚しか出せないクイーンを運用するならドローとか、大量展開とか、敵全体を焼くとか、そういうのを使った方が強いのである。

 

「リリィの本気デッキは死ぬほど鬱陶しいぞ。使い手の性格が良く表れている」

「ルルーシュさんこそ、ゲーム的に強いカードばかり積んだ挙句、毎回毎回、切り札を二枚も三枚も抱えて来るではありませんか。人のことは言えません」

「勝利のために努力を惜しまないだけだ」

「まったく、ああ言えばこう言うんですから……」

 

 あからさまにため息をつくと、むっとした彼は「ならデュエルで決着をつけるか?」とデッキを取り出す。

 そこで神楽耶がくすくすと笑い、

 

「とても仲がおよろしいようで」

「「はぁ!?」」

 

 嫌味で言っているようには見えないので本気なんだろうが、まさかルルーシュと仲良しと言われるとは……。

 嫌いあっているつもりこそないものの、事あるごとに言いあいしているのだが。

 

「……うん。彼女と婚約とか正気かと思ったけど、ルルーシュなら上手くやれそうだね」

「スザク。貴様とは一度しっかりと話し合う必要がありそうだな」

「まあ、男と男の真剣勝負ですわね? リリィ様、これは見ものでしてよ?」

「いえ、その。確かに興味はあるのですが、どうせ話し合うならもっとシリアスな部分を話し合っていただきたいといいますか……」

 

 むしろお前らは原作の一桁話数のうちに酒飲んで殴り合いの喧嘩でもしておいて欲しかった。

 

「と、いいますか、お二人は本当にゲームをしに来られたのですか?」

「いいえ? もちろん、まともなお話も持ってきております。リリィ様、今この場で面倒な話を済ませるのと、夜、皆が寝静まった後に片付けるの、どちらがお好みでしょう?」

「セキュリティ的にはこの社長室の方が上ですね」

「なるほど。では、そちらを先にいたしましょう。嫌なことを片付けてしまった方がゲームも捗りますし。どうやら気が合いそうですわね?」

 

 楽しそうにウインクしてくる神楽耶。まあ、確かにルルーシュやスザクよりはよほど話が合いそうではあるのだが、小学生相当の歳でこれとか正直、器が違いすぎる。

 

「私といたしましてはリリィ様とルルーシュ様が進めている日本再興のための基盤づくり、それと同調し、理想の早期実現を目指せないかと考えておりまして」

「あの、社長室には一応隠し部屋がありますのでそちらに移動してから……って、あの、いいんですか?」

「ええ。お二人は計画が軌道に乗ってから、と考えていらしたのでしょうが、早い分にはその方がいいのでしょう? それに、ゲームの話もしたかったですし」

 

 あっけらかんと言う神楽耶。ゲームの話がどの程度の重要度なのか聞きたいところではあるが。

 

「協調体制を取っていただけるのであれば大変助かります。我々は資金調達こそ可能ですが、人材確保に難がありますから」

「キョウトには日本の現状を憂う者が多く集まっております。そうした者達をそれとなくそちらにお送りすることは難しくありません。……時にリリィ様? カードゲームの販路拡大は順調でして?」

「はい。エリア11全域に対象地域を拡大し、順次各租界に流通させる計画が立っております。本土からも要望が来ているので、信頼のおける委託先を確保次第、エンターテイメントの支配に乗り出す予定です」

「まあ、それは頼もしいですわね」

 

 ともあれ、向こうが良いと言っているのなら俺としても異論はない。

 俺は神楽耶と、遊びの話なんだか仕事の話なんだかわからない悪だくみで盛り上がった。

 

「……あのさ、ルルーシュ。百合、じゃないリリィっていつもこうなの?」

「ああ。……いや、いいんだ、皆まで言うなスザク。本人がそう思いたいのだから思い込ませておいてやれ。自分はただの凡人だとな」

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