ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか 作:緑茶わいん
ナオトがレジスタンスの仲間とゲームする番外編。
紅月ナオトの朝は早い。
株式会社リリィソフトの規定始業時間は午前十時だが、社員・従業員の中には
(なお、自主的な早出・残業でもしっかり給料は出る。社長であるリリィ・アッシュフォードはその辺りかなりうるさい。
中には勤務ログを残さず残業する者もいるが、そういうのもきっちり見つけて『せめてバレないようにやってください』と指摘してくる)
しかし、リリィソフトは週休二日制である。
前述の通り自主的に働く者もいるが、ナオトは極力休みを貰うようにしている。給料の貰い過ぎが心配だというのもあるが、休日は休日でやるべきことがあるからだ。
というわけで、彼は休日も規則正しい時間に起き、朝食を摂り、支度をして家を出た。
仕事の際に着ているような小綺麗な格好ではなく、ゲットー(
外観はあまり良くないが、中は綺麗に掃除されており、安物や中古品ながら内装もそこそこ整っている。ナオトや仲間たちが丁寧に整えてきた成果だ。
「おっ。俺達のリーダーのお出ましだ」
簡易式ではあるが電子ロックに守られたドアをくぐると、そこはちょっとした生活スペースになっている。テレビやソファ、冷蔵庫などが設置され、中央にあるテーブルでは数名の男女が何やらカードゲームに興じていた。他に、熱心にテレビ画面へ向かっている者もいる。
いち早くナオトに気づいて声を上げたのはややチンピラ風めいた短髪の青年。名は玉城真一郎。口が悪く喧嘩っ早いが根は悪い奴ではなく、特に仲間に対する思いは人一倍である。
「みんな元気そうだな」
苦笑気味に言葉を返せば、仲間たちも笑顔を向けてきた。
年少のメンバーなどはわざわざ駆け寄ってきて荷物やジャケットを預かってくれる。何割かはお土産目当てだと理解しているので、ナオトも「みんなで分けてくれ」と一言添えた。
「それなりに平和だからな。これもお前の非暴力主義と、ゲンブ首相達が頑張ってくれたお陰だ」
頭に巻いたバンダナが特徴的な男が言った。このグループ──旧日本人によるレジスタンスでサブリーダーの役割を担っている扇要という男だ。以前は教師をしており、そのせいか子供の扱いが上手く、また博識である。レジスタンスの現体制においてはうってつけの人材といえる。
他にも南、杉山、井上、吉田など、多くのメンバーがレジスタンスに在籍している。
地下や二階以降にいる者も多いし、普段は別のところで暮らしているメンバーもいる。『自治の代行』を担っているブリタニアからの弾圧は厳しいものではないが、突然の出入りなどに備えて最低限の警戒は必要である。
とはいえ、ここが彼らにとって憩いの場、たまり場であることは事実で、
「カレンも、変わりないか?」
「……ああ。来たんだ兄貴。相変わらずね」
唯一、ナオトの来訪に視線さえ向けなかった人物──紅の髪をラフに跳ねさせた少女のぶっきらぼうな答えには、なんともいえない特別な喜びさえ感じた。
カレン・シュタットフェルト。
本人は以前の名である「紅月カレン」を好んでいるが、れっきとしたブリタニア貴族、シュタットフェルト家のお嬢様である。ナオトとは母が同じ間柄であり、日本がエリア11に変わる以前は家族三人、日本で穏やかに暮らしていた。
現在、カレンは血の繋がった父に引き取られて正式なブリタニア人となり、租界内にある「アッシュフォード学園」に通っている。何不自由ない生活を送ることができ、半分とはいえブリタニアの血を引いているカレンを「裏切り者」と呼ぶ者もいるが、ここのレジスタンスのメンバーやナオトはカレンを大事な仲間、家族だと思っている。
レジスタンスの主な活動は日本の独立を支援すること。
そのために、ブリタニアへの恭順を良しとしない日本人を増やそうとしている。具体的には名誉ブリタニア人登録をしていない旧日本人の生活支援──物資の提供や炊き出し、農作業の手伝い等や、孤児となってしまった子供の保護、家屋の修繕等々を行っている。
テロ活動を行うレジスタンスも中にはあるようだが、そうした行為は日本の印象を悪くすることになる。止めるように説得して回るのも重要な役割だ。
まあ、これが別の状況──例えば日本が全面降伏した上で植民地化されていたのなら、ナオトも手段を選ばなかったかもしれないが。
「それで? みんなで我が社の売り上げに貢献してくれていたのか?」
「ああ! だってよぉ、こいつら暇つぶしに持ってこいなんだぜ?」
仲間たちが遊んでいたカードゲームはトランプや花札などではなく、リリィソフトの開発した新型ゲーム──
見覚えのあるどころではないカードの数々がテーブルへところ狭しと広げられているのだから、ナオトとしては単に喜べばいいのか苦笑すればいいのかわからない。まあ、前に私費で買ったそれを差し入れとして提供したこともあるので、「まんまとハマったな」といったところではあるのだが。
「ナオトよぉ。当然おめぇも持ってきたんだろ、デッキ?」
「ああ。もちろん持ってきている」
軽く笑って、ナオトはショルダーバッグに入ったデッキを叩く。
「日々、社長と副社長に揉まれている俺のデッキは強いぞ、玉城」
「いや、待ちなさい。社長と副社長が社員をゲームで叩き潰しているわけ?」
「? 我が社では日常的な光景だぞ?」
誰かが休憩に行こうとすると別の誰かも一緒に出ていく。何をしているのかと様子を見に行けば、仲良く休憩室でデュエルをしている。白熱すると副社長が引っ張り出される。社長が顔出す夕方になると退勤した社員たちがミニ大会を始めたりする。それがリリィソフトの日常である。
「よっしゃあ! 行け、俺の魂のカード!
この効果で俺の場にいる《重装歩兵》《重装騎兵》は大幅にパワーアップする。俺の歌を聞けぇ!」
「……なるほど。やるな玉城。仕方ない、ならば俺は《自爆特攻》を切ろう。
俺の《見習い歩兵》を捨て山へ送る代わりに、《戦場の歌姫》に大ダメージを与え、撃破だ」
「な、なにぃ!? せっかく出した女王が一瞬で!? ……だ、だけど歌姫で上げた能力は有効のはず!」
「残念だが玉城。《戦場の歌姫》は『このカードが場に存在する限り』味方全ユニットを強化するカードだ。捨て山へ送られた時点でバフは消える」
「そ、そりゃねえだろ! 宴会部長を最初に殺すとかどんな軍隊だよ!」
悲鳴を上げつつ、残ったカードで特攻を仕掛けてくる玉城。しかしナオトは当然それをいなし、返しのターンの攻撃で決着をつけた。
《戦場の歌姫》は宴会部長と言うより凄腕の従軍歌手だ。敵方の士気を上げ続ける厄介な存在なんて、現実でも十分、暗殺の対象である。
……などと物騒なことを考えつつ息を吐き、玉城と笑顔で握手を交わしていると、斜め前から視線を感じた。隣で扇と対戦していた
「なかなかやるじゃない。だけど、アタシにも同じようにいくと思わないでよね?」
「……面白い。お前のデッキを見せてもらおうじゃないか」
ナオトは扇と場所を交代し、紅髪の少女と相対した。人目を惹く髪色は一瞬、社長ことリリィ・アッシュフォードを連想させる。もちろん、カレンとリリィは全く似ていないのだが。社長や副社長が放つ悪辣なカードをいなすべく奇策を満載したナオトのデッキに果たしてカレンはどう出るのか。
「
他のメンバーも相手をシャッフルしつつ新しいデュエルを開始──しつつ、ちらちらとこの兄弟対決に視線を送ってくる。どうやらカレンはメンバー内でもトップレベルの腕前らしく、暫定的な頂上対決と見做されているらしい。
「戦術カード《迅速な作戦伝達》、さらにユニットカード《物陰の狙撃兵》。戦術の効果によって《物陰の狙撃兵》は登場したターンから起動型特殊能力を使用できる。
「受けよう。……なるほど、そう来るか。特殊能力を駆使し、通常の戦闘を経由せず王を狙うデッキ。『
「そう言うこと。さすがに詳しいじゃない」
「お前こそ。これはアッシュフォード学園で培った戦術か?」
「ヒントを得たのはあそこよ。でも、学園でこれは使ってない。向こうでは病弱なお嬢様で通ってるから、こんなデッキ使ったらイメージ崩れるでしょ」
「ちゃんとお嬢様してるんだな、安心したよ」
リリィやルルーシュからもカレンの様子は伝え聞いていたが、それでも心配なところはどうしてもあった。
その筆頭が「あのリリィ・アッシュフォードがいる学園で付け焼き刃のお嬢様ムーブが通用するか」だというのは色々な意味で誰にも言えないが。
「そういうあんたのデッキは何よ? グッドスタッフ?」
「一般的な意味のそれとは少し違うな。……《どうしようもないクズのアーチャー》配置。特殊能力を起動だ」
「っ! そのカードは!」
使用しても行動完了にならないタイプ──配置したばかりで疲労状態にあっても使用可能な能力を持つカード。その効果は、あらかじめユニット一体を指定した上で
「その様子だと、やはり入っているようだな。『隠密』を持つカードが」
『隠密』を持つカードには専用のマーカーが載せられ、それが載っている限り効果の対象にすることができない。ナオトの出したカードは乱数判定に失敗することで対象に取ることなく『隠密』カードへダメージを与えられる、という点で優れていた。
油断していると暗殺者に戦斧をフルスイングさせてきたりする社長がいるので、こういう特殊なカードは欠かせない。
ナオトは笑みを浮かべてコインを投げ、
「……まあ、お互いユニットが1体しかいない状態で失敗すると『こう』なるんだけどな」
コインは裏。対象に取った《物陰の狙撃兵》以外の
「あ、あんたやる気あるの!?」
「ははは、まあ、こういうこともあるから面白いよな」
妹とサシで遊べる状況に興奮して判断を誤ったわけではない。ないったらない。
その後、ナオトは序盤の失点を取り返そうと必死に励んだものの、良い引きに恵まれなかったこともあって僅差でカレンに膝を屈することになった。
ギリギリでラストアタックを通したカレンは、兄のライフが0になったのを見ると安堵の息を吐き、笑顔を浮かべた。
「やるじゃない。……見直したわ、兄貴」
「まあ、これでもレジスタンスのリーダーだからな」
「ゲーム会社で雑用やってる癖に良く言うわ」
「手厳しいな」
ふん、と、笑うカレンに、ナオトは苦笑して肩を竦めた。
「ちゃんと活動の役にも立ってるだろ」
「そうだな。ナオトの差し入れのお陰で食事も美味しくなったし、遊び道具が増えて子供たちも喜んでいる」
「たまに美味い酒も持ってきてくれるしな!」
「いつか、ちゃんとした学校で教師ができるといいな、扇。……玉城、あのワインは社長からの土産だから感謝しろよ」
ナオトは飲める年齢なのでプレゼントとしておかしくはないが、仲間に酒飲みがいることを見抜かれているような気がしないでもない。社長室での副社長との『密会』が男女のそれでないことには気づいているし、それとなく「仲間に入れて欲しい」とアピールしているナオトだが、今はまだリリィたちの計画がどのようなものか、全貌を掴むことができていない。
まあ、少し前に会社に来ていた日本人の少年と少女が
「金はいくらあってもいいしな。福利厚生もしっかりしている会社だから本当に助かってるよ」
「新しいカードを追加してもらわないと困るしね」
カレンが笑い、少し離れたところからカードゲームを観戦していた井上が携帯ゲーム機を手に、
「私はこの『ポシェットモンスター』も好きですよ。可愛いですし、向こうの神話を勉強できますから」
「ああ。ブリタニア人と話す時にさらっと交ぜると信用されるからな」
「マジかよ!? そんな使い方できんのかあのゲーム!?」
「ああ。試してみると面白いかもしれないぞ」
なんとなく玉城の場合、神話じゃなくてゲームの攻略法を話題にしそうではあるが、それでもまあ、場合によっては通じてしまいそうな気がする。面白そうなので放っておくことにするナオトだった。
「さて。誰かもう一戦してくれないか。色々なデッキのレポートを持って行くと社員が喜ぶんだ」
「なら俺が──」
「あたしが──」
「待て待て。順番から言ったら俺だろう」
「ナオトお兄ちゃん! わたしも!」
「おれもー!」
紅月ナオトの休日は、こんな感じで騒がしく過ぎて行くのだった。
なお、もちろんレジスタンス活動の相談や指示出しもしているのであしからず。