ギアス世界に転生したら病弱な日本人女子だったんだが、俺はどうしたらいいだろうか   作:緑茶わいん

93 / 93
Skebにてリクエストいただいて書いたものです。
ポシェモンで遊ぶ軍人さん編。


■if番外編:婚約者がルルーシュだったら 八

 新開発の機動兵器KMFが実践投入されてからはや数年。

 神聖ブリタニア帝国軍はその画期的な新兵器を中心とする体制へと急速に移行。十を超える植民地を抱えながらなおも更なる勢力拡大のために戦争を続けている。また、それに伴う機体の増産、新型の開発、兵の練度向上にも力を入れていた。

 中でも、特に重要となるのは兵の育成。

 強力な機体がいくらあろうともそれを操る兵達が雑魚では期待する戦果は上がらない。KMFが一人乗りの兵器であることも手伝い、上層部は兵達へ「指揮官の命令に忠実に従う事はもちろん、局地的な戦いにおいて自ら考え適切に行動できる」よう、よりレベルの高い教育を施す必要性に迫られていた。

 そこで。

 新たな戦術・戦略の教育方法として第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアが提案、一部部隊での試験運用を経て正式採用に至ったのが──エリア11に居を構える新興ゲームメーカーの発売した新感覚育成ゲーム『ポシェットモンスター』(略してポシェモン)を用いたガチ対戦! であった。

 

「……本当に、どうしてこうなったんだ?」

 

 ポシェモン対戦を軍に広めた張本人、紅と桃色の中間のような美しい髪を持つ皇女コーネリアは軍拠点内の自室にて一人の美女傑と向かい合っていた。

 彼女の用向きはポシェモン対戦の実情および兵達の反応を視察すること。しかし、その表情はあまり明るくない。というか、貧乏くじを引かされたかコメディ映画の世界にでも呑み込まれたかのような「とほほ」感がありありと見て取れた。

 

「先輩としてはやはり受け入れられませんか」

「頭では有効だとわかっているよ。だが、感情が付いて行くかと言われるとな。……何より、お前の提案だというのが驚きだ。いや、失礼。コーネリア第二皇女殿下」

「呼び捨てで構いませんよ。ノネット先輩」

 

 ノネット・エニアグラム。

 皇帝直属の騎士「ナイトオブラウンズ」の一人「ナイトオブナイン」にして、軍人としてのコーネリアにとっては世話になった先輩にあたる人物。

 いくらラウンズとはいえ皇族には敬意を払うのが通常だが、コーネリアはノネットと単なる先輩後輩として接するのを好んでいた。かつては互いに腕を高め合い、切磋琢磨した者同士。

 公務のあるコーネリアはいつしか突き放され、明確な力の差ができてしまったが、だからこそ国が誇る戦士の一人としてノネットには尊敬の念を抱いている。

 

「視察ということですが、ゲームには触られましたか?」

「一応、ひととおりは触ったよ。部下にも協力を頼んでなんとか対戦用パーティを組み上げたが……幻獣の選択や調整だけならまだしも、捕獲や話の進行に費やす時間はなんとかならないものか」

 

 答えながらもノネットは小型のゲーム機器を取り出してみせる。

 『ポシェモン』は携帯ゲーム機などと称される「持ち運び可能・ディスプレイ付きのゲーム機」をプラットフォームとするRPGだ。

 一人用ゲームとしては主人公キャラクター(男女選択が可能)を操作して神話の幻獣を集めながら並み居るライバルを打倒し、最高の幻獣使いを目指すというもの。

 また、よりゲームを楽しむための機能として他のプレイヤーとの通信対戦や幻獣交換の機能が付属しており──ファンの間では「むしろこっちが本編」と囁かれるほど奥が深い。コーネリアが目を付けたのもストーリーモードではなくこの通信対戦機能の方だ。

 なので、対戦を目的にゲームを始めたノネットが「ストーリー邪魔」というのは理解できるのだが、

 

「現実も同じでしょう? 『ラウンズになりたい』と望むだけで叶うわけがない。軍に入るなり私費でナイトメアを買うなりして腕を磨き実績を積み重ねなければならない。時には人脈作りや根回しのための遠回りだって必要になるかもしれない」

「……なるほど。苦労無くして強くなれるほど甘くはない、と」

「そういうことです」

 

 捕獲可能な幻獣の種類はストーリーの進行と共に増えていく。また、ゲーム自体が2つのバージョンに分かれており、バージョンによって絶対に出現しない幻獣もいる。そういった場合には他のプレイヤーと交換することも必要となるため、実際友人関係も重要だ。

 まあ、ゲーム機とソフトを二つずつ揃えれば個人(ぼっち)でもなんとかなるが。

 話す前のいかにも「仕方なく来ました」という表情を引っ込め、少し感心するような様子になったノネットにコーネリアは笑みを浮かべて言った。

 

「では、苦労して作ったパーティです。せっかくですから適当な兵と野試合と行きましょうか」

 

 

 

 

 軍施設内の談話室はポシェモン対戦が広まって以降、事実上のポシェモン対戦場と化している。

 コーネリアとノネットが顔を出した時もざっと二十人近い兵が2~4人程度のグループに分かれて楽しげな声を上げていた。

 

「盛況だな」

「休憩中や対戦訓練の時間中にここを訪れる兵は多いですからね。昼間は常時このような状況です」

 

 時間がもったいないと更衣室内や訓練場内、食堂等で対戦を始める者もいるため、「今この瞬間に対戦している兵の数」で言えばもっと多い。コーネリアが言った通り野試合の様相、目が合ったら対戦が始まるようなノリである。

 調査によると夜間、宿舎で自主練や小規模な大会に勤しむ者もいるらしい。

 

「コーネリア第二皇女殿下、並びにナイトオブナイン、ノネット・エニアグラム殿が視察に参られた」

 

 対戦に集中するあまりすぐにはコーネリア達に気づかない者もいたが、同行していたギルフォードが(若干苛立ちを覗かせながら)声を上げると全員がすぐに手を止めて敬礼した。白熱している中、水を差したようで少々心苦しい。

 それはそれとして反応が遅れた者は減点を考慮しようと思いつつ、コーネリアは兵達に軽く挨拶をして、

 

「ノネット卿は軍部の新しい施策を実際に体験したいと参られた。どうだ? 誰か卿の対戦相手として名乗りを上げてはくれないか?」

「───」

 

 一瞬、水を打ったように場が静まり返る。

 直後、幾つもの手が勢いよく上がった。なかなかに威勢がいい。KMFなら勝てなくともポシェモン対戦なら、ということだろうか。これにはノネットの戦意も刺激されたのか、武人らしい苛烈な美貌に好戦的な笑みが浮かんだ。

 

「ああ。では……そこの貴公に相手をしてもらおうか」

「はっ! 光栄でありますっ!」

 

 両者のゲーム機を通信ケーブルで繋ぎ、対戦開始。

 訓練で主流となっているレギュレーションはレベル上限50のシングルバトル、手持ちポシェモンは3体だ。開発会社の社長曰く、2以降では「手持ち6体を見せてからN体を選んで戦わせる」仕組みなどを導入検討しているらしいが、現状のルールはいたってシンプル。

 

(見せてもらいましょうか、ノネット先輩の組んだパーティを。そして、対戦に慣れた兵を相手にどう戦うのかを)

 

 ポシェモン対戦は双方のプレイヤーが使用する技を決定→素早さのステータスに従って互いのポシェモンが攻撃、という手順を繰り返すのが基本。HPが0になって戦闘不能になったポシェモンはその場で別のポシェモンと交代し、戦える手持ちが0になった方が負けとなる。

 

「行け、グリンダ!」

「うお、グリンダかよ……ってこれウィッチじゃねえか」

「? 魔女に魔女の名を付けたのだが、まずかったか?」

「いいえ。ただ、ウィッチは進化するとグリンダという幻獣になるので。まあ、敢えて紛らわしい名前で攪乱するのも戦術ですが」

「なんだと。それなら進化させておけば……ええい、まあいい」

 

 開き直ったようなノネットの声と共に開始された対戦。コマンド選択を経て最初に飛び出したのはグリンダ(ウィッチ)の凍結攻撃だった。見事にヒットした上、確率の追加効果によって相手のポシェモンは動けなくなってしまう。勢いに乗ったノネットは次ターンにウィッチの電撃攻撃を披露し、見事一匹目を撃破。

 

「なんだ。私は意外と対戦のセンスがあるんじゃないのか?」

「……凍結雷撃コンボは定番だけど、技がコフィンじゃなくてフリーズ? もしかして旅パかこれ。ならS極振ってない可能性があるな」

「? 何の話だ?」

「お気になさらず。さあ、ノネット先輩。まだまだ油断はできませんよ」

「ん……ああ、そうだな。油断せず勝利を目指すとしよう」

 

 しかし、意気揚々と続投したウィッチは、相手が繰り出した幻獣の先制攻撃によってあっさりと沈んだ。

 

「なんだと!?」

「タイプ一致技っすよ。こっちがS極振りなら半端に振ってるだけのウィッチに先制できるんで」

「な、なんの暗号だそれは!?」

 

 動揺しながらも反撃を狙うノネットはレオ(獅子)、ブリキ(ロボット)を繰り出して抵抗するも、相手の最後の幻獣を削りきれずに敗退した。

 

「くっ……。レベルさえ上げればストーリーモードのラスボスにも勝てるパーティだぞ? まさか、同じレベルの幻獣相手に完敗とは」

「CPUの幻獣とプレイヤーの使う対戦用の幻獣は全くの別物ですからね。本気で勝率を上げたければ専用に一から育て上げたうえでプレイヤーも戦術を磨かなくてはなりません」

 

 コーネリアがポシェモン対戦を訓練に組み込んだ理由はそれだ。

 情報の重要性。訓練の必要性。相性と駆け引き。時には搦め手に頼る勇気。そして最後には運。

 ポシェモン対戦には戦いにおいて重要な要素が全て詰まっている。

 

「そうか。私は戦いの場に臨むというのに訓練どころか得物の手入れすら怠っていたのだな」

「そう落ち込むことはありません。これは実戦ではなく訓練なのですから」

「ああ、そうだな。その通りだ。……ふふふ。なるほど。これが訓練か」

 

 ノネットはしばしそうして笑い、それから自分を負かした男に告げた。

 

「この借りは必ず返す。ゲームの仕組みを理解し、私のパーティを鍛え直してな。その時はまた相手をしてくれるか?」

「はっ! 喜んでお相手をさせていただきます!」

 

 その後、ナイトオブナイン──ノネット・エニアグラムはラウンズとしての職務や厳しい訓練の合間を縫って熱心にポシェモンをプレイするようになった。

 彼女は他のラウンズ達にもゲームを薦め、訓練と称して対戦を求めた。これには珍しい物好きのジノ・ヴァインベルグや元々ゲーム好きなアーニャ・アールストレイム、比較的若年層であり柔軟なモニカ・クルシェフスキーなどが次々と同調。ナイトオブラウンズの間に一大ポシェモンブームが巻き起こった。

 なお、ドロテア・エルンストは一応これに乗ったものの、やる気に比例して戦績はいまいち。

 ブームに乗り遅れたルキアーノ・ブラッドリーは「面倒くさい」だの「イレブンが開発に参加したゲームなんてやってられるか」だのと言って真面目にプレイしようとせず、そのくせ、部下のヴァルキリエ隊に育てさせたパーティを強奪しては他のラウンズに挑戦、ボコボコにされる、というのを繰り返した。

 残るナイトオブワン──ビスマルク・ヴァルトシュタインに関しては「どうせあの方はやらないだろ」と思われて声さえかけられなかったものの、ある時アーニャが気まぐれに「ビスマルクさまもやりますか?」と尋ねたところ、仕方ないという風を装いながらいそいそと自分用の携帯ゲーム機を取り出してきたらしい。

 その後、ビスマルク経由でブリタニア皇帝もプレイするようになったとか、元ナイトオブツーのミケーレ・マンフレディにゲーム機本体ごと送ったところ「部下と楽しんでいる」と近況が送られてきたとかいう話もあるが、真偽の程は定かでない。

 

 

 

 

 全く、恐ろしいゲームを作ったものだ。

 コーネリアはエリア11へと向かう航空機内でノネットからの私信を読み終えると、複雑な笑みを浮かべた。

 まさかポシェモンがここまで広まるとは思わなかった。

 彼女とて最初は軽い気持ちだったのだ。KMFが増産されるにつれて育成が必要な兵士の数は加速度的に増加。かといって実機訓練はコストが重い。シミュレータもなんだかんだ高い上に据え置きなので移動できないという欠点がある。何か安価な代替手段はないものかと考えた結果がポシェモン対戦だった。

 だというのに、今となっては大流行。

 兵達に考える癖がついただけでなく適度なガス抜きの役割まで果たし、更には上司と部下のコミュニケーションツールとしても活躍している。全く、何が起こるかわからないものである。

 

「制作会社は嬉しい悲鳴が止まらないだろうな」

 

 独り言のように言えば、傍に控えていたギルフォードが生真面目な口調で答えた。

 

「TCGの売り上げも合わせるとエリア11の企業中でトップの収益、ブリタニア帝国本土の企業を含めても上位に入ります。軍部や皇族、ナイトオブラウンズからも開発援助金が贈られていますので、今後ますます発展を遂げる事でしょう」

「ふふ。小規模のメーカーとしては破格の躍進だな。今頃、経営陣は悲鳴を上げていることだろう」

 

 例のTCGもなかなか戦略的要素が強く、あれも兵の教育に役立ちそうだった。

 ポシェモンを選んだのはカードの方が場所を取ること、カードパックの安定供給が無い事には前提条件に不平等が生まれかねないこと、ぺらぺらのカードに大きな価値が生まれることで盗難や損壊等のトラブルが予想されることなどが理由だが、結局TCGも兵達の娯楽としてトランプやチェスと同じように広まりつつあった。

 リリィソフトには『ポシェモン2』ならびにTCGの追加ブースターを出して貰わなければ困る。

 もはや「あることが当然」になりつつあるのだ。なくなってしまえばむしろ兵達の士気は下がり、訓練効率は導入以前まで落ち込んでしまいかねない。

 だからこその援助金。あそこの社長、副社長はなかなかのやり手と聞く。この程度で潰れることは無いだろうが、今後も目をかけておく必要がありそうだ。

 

「さて、ギルフォード。到着までにまだ時間がある。一つ対戦でもするか?」

「よろしいのですか?」

「ああ。ただし、当然手加減はなしだ。兵を率いる将の立場とて訓練が必要な事に変わりはないからな」

「承知しております」

 

 冷静に答えるギルフォード。しかし彼と過ごす時間の長いコーネリアには彼が若干喜んでいるのがわかった。こうした忠誠の篤さが可愛いところであり、同時に若干危ういところでもある。まあ、それも個性だろうと笑みを浮かべつつゲーム機を起動した。

 

(パーティは何にするか。やはり炎属性は一体以上入れたいところだ。効率だけで編成するのはどうにも好かん)

 

 ノネットに偉そうな事を言った割にパーティ編成・戦術共に趣味を交えてしまいがちなコーネリアである。いや、問題はない。定石を分かった上で崩すのとまるで分かっていないのは全く別だ。そう自分に言い聞かせつつレッドドラゴンを主役に据える。

 

「勝負だギルフォード」

「はっ。全力でお相手させていただきます」

 

 蓋を開けたらレッドドラゴンのお見合いになった。

 不毛なので幻獣を交換したところ、ギルフォードも同じく交換。これでまたお見合いだったら笑ってしまうところだが、さすがにそうはならなかった。

 コーネリアのスクルドに対し、ギルフォードはブリュンヒルデ。似たようなものと言えなくもないものの、性能には差がある。一概にどちらが強いとは言いづらいが、

 

「どうする、ギルフォード? もう一度交換するか?」

「……さあ、どうでしょうか」

 

 コーネリアは攻撃を選んだ。対するギルフォードも真っ向から立ち向かってくる。スクルドもまたレッドドラゴンとは別の意味でお気に入りの幻獣。負ける姿はあまり見たいものではなかったが、対するブリュンヒルデからもまた執念めいた強さを感じた。

 真っ向からのぶつかり合い。

 3vs3の戦いを最終的に制したのは、ギリギリのところでコーネリアだった。

 

「やはり姫様には敵いませんね」

「何を言う。たまたまこちらに分があっただけのこと。ボタン一つ掛け違っていれば結果は違っただろうよ」

「光栄でございます。……姫様、もう少し時間がありますので、ワインはいかがですか?」

「ふむ。あまり機内で飲むものでもあるまいが、せっかくだ。一杯だけ頂くとしようか」

 

 コーネリアがゆっくりとワインを飲み終わる頃には、窓の外にエリア11の陸地が姿を現し始めていた。

 

 

 

 

「やあ、よく来てくれた姉上。ギルフォードも変わりないようで何よりだ」

「久しぶりだな、クロヴィス。慣れない土地で腹など壊していないか?」

「よしてくれ。もう子供じゃないんだ。エリア11は自然が多く残っているからね。むしろ水は美味しいくらいだよ」

 

 ポシェモン対戦を最初に訓練へ取り入れたのはエリア11の駐留軍だった。

 制作会社の拠点に近いという関係から言えば当然の事だが、その影響か駐留軍の(ゲームに関する)練度は頭一つ飛びぬけていた。

 メジャーな幻獣の種族値を平然と諳んじる者が当たり前のように存在するわ、独自の役割理論を構築している者がいるわ、全幻獣を色違い込みでコンプリートしている者がいるわ。ここまで来ると訓練の邪魔なのではないかと言いたくなったが、趣味でゲームをする分には口を挟むことではない。酒や薬や女を買うよりもよほど健全だ。

 

「姉上はどんな幻獣が好みなのですか?」

「やはり私は炎属性だな。特に竜や不死鳥は使っていて気持ちがいい。クロヴィス、お前は?」

「私は女神ですね。美しい女性は絵画のモチーフとしても映えます。他の幻獣と組み合わせることで想像の幅は無限に広がるでしょう」

 

 クロヴィスもポシェモンはかなり遊んでいるらしい。それどころかリリィソフトの社長を招いて話を聞いたりもしたらしい。その際はどちらかというとTCGに興味があったものの、話を聞いていくうちにポシェモンの評価も改めることになったのだとか。

 

「ふっ。……お前らしいな、クロヴィス」

「姉上こそ」

 

 他愛ない話を交わしているとまるで子供の頃に戻ったような気分になる。あの頃は母親が違うとかそんな事は気にせず兄妹で戯れていた。政治だのなんだのに関係なくプレイしたチェスやその他の遊びは一回一回がとても楽しかったのを覚えている。

 

「ルルーシュが生きていれば、きっとポシェモンでも良い腕前を披露してくれただろうな」

「……そうですね。ルルーシュはシュナイゼル兄上ともいい勝負をしていましたから」

「可愛らしい幻獣も多く存在しているから、きっとナナリーでも楽しめただろうに」

 

 あんなことがなければ、もっと違う現在があっただろうか。考えても仕方のない事をつい考えてしまう。亡き弟妹とその母親を想い目を細める。見れば、クロヴィスの護衛を務めている騎士の一人も密かに涙ぐんでいた。前に見覚えがある。確か、当時皇妃マリアンヌの護衛を務めていた一人だったか。

 どうせなら彼とも話をしてみたいものだ。

 

「クロヴィス。私は何事もなければ数日、こちらに滞在する予定だ。その間は階級問わずあらゆる者からの対戦希望を受けようと思う。我こそはと思う者は遠慮なく挑んで来いと広く知らせてくれ」

「承知しました」

 

 腹違いの弟は恭しく返事をした後、ふと思い出したように悪戯めいた笑みを浮かべて、

 

「ところで、前々から聞こうと思っていたのですが……姉上が『ポシェットモンスター』を知ったきっかけは誰だったのでしょう?」

「……ふっ。さあな。別に大した事ではあるまい」

 

 若干の動揺を悟られまいと笑みを浮かべつつ、コーネリアは答えた。

 というか、わかっているだろうにわざわざ聞くなという話だ。兄弟らしい遠慮ない問いかけに苦笑とじゃれ合いめいた怒りを表しつつ、とある桃色の髪の妹用に作ったカジュアルパーティについてはこの弟に絶対見せるまいとあらためて決意する。

 

「ああ、もう一つ思い出しました。かのリリィソフトの社長──リリィ・アッシュフォードは副社長と婚約関係にあるそうです。副社長の方はブリタニア人の平民ですが、こちらもアッシュフォード家の庇護下にあるようで」

「トップ2がどちらもアッシュフォードに握られている、と? 業績のいい会社となれば給与も馬鹿にできる金額ではあるまい。念のため釘を刺しておくべきか? クロヴィス、その副社長の名前は?」

「それが面白い偶然もあるものでして……ルルーシュ、と言うそうです。ルルーシュ・ランペルージ。もちろんただの偶然でしょうが……」

「それは、本当に面白い偶然もあったものだな」

 

 本格的に興味が湧いてきたコーネリアは、スケジュールの変更が可能か頭の中で思考を巡らせ始めた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。