私は…今どこにいる……?
暗くて薄暗くて、一体どこか…わからない…。私は何でこんなところにいる…?
頭がぼーっとする、何も考えることができない。
「………?」
『こんにちわ、ひさしぶり…でいいのかな?』
私の目の前に、とても奇麗な金髪の女性がいた。その顔はどこかで見たことがあるような、ないような。
どうしても頭が回らない。
「貴女……は……?」
『うーん、そうですね…、ミアル…と名乗っておきます』
誰かに似ていると思ったが、聞いたことがない名前だ。頭が回らない状態で、私は軽くお辞儀をした。
「ここ…は?」
『それに関しては、私よりロ…、いえ。シドーに聞いたほうが早いでしょう』
「士道………さん?」
ミアルと名乗る少女が指をさしたその先に、青い髪の少年…、まぎれもなく、四糸乃が知る『五河士道』がそこにはいた。
その目はどこか申し訳なさそうな…、何とも言えない…士道らしくない表情をしていた。
『久しぶり、四糸乃』
「…はい、おひさしぶり…です」
『大きく……なったな』
彼は優しく私の頭をなでた。
「士道さんも…、ご健康そうでなにより…です」
私は無意識のうちに頬が赤くなり、微笑んでいた。
どんな時代になっても、どれだけ私が成長しても、私の目の前にいるのは初恋の人なんだ。そう思うと、少しうれしくなった。
『…悪い』
「…なにが、です?」
『こんなことに巻き込んで』
巻き込んだ?一体何の……?
士道さん………一体なんのこと?
「……?」
『…いや、まだわからなくていい』
そういった士道さんの顔は、とても悲しそうで、むなしそうな顔をしていました。
「そんな顔、しないでください」
『…四糸乃?』
「士道さんの悩みは…
私は軽く自分の胸をポンっとたたいた。
私はこの人に助けてもらった恩がある。そしてそれは私だけじゃない、十香さんだって、折紙さんだって。みんなそうです。
だから、この人に何が起こったかはわかりませんが、『助けたい』その気持ちはすぐに心の底から浮かんできた。
『……ありがとう』
彼は、私の唇にキスをしてくれた。
精霊を封印してくれた、あの時のように。
「……ぁ」
『一旦、四糸乃に【返す】。無茶はしないでくれよ』
その瞬間、私の体の底から何かが戻る感覚があった。
戻ってくるものが何なのか、私には容易に予想ができた。私にこれを戻すほど……、今危険な状態なんだ。
「…はい、何があったかはわかりませんけど…私は…、士道さんの味方…ですよ」
───
──
─
「おねえ、おねえ!」
「……ん?」
十四香が目覚めると、そこはもう見慣れてしまったリビングだった。
目の前にはこの世界の大切な妹、理乃が少しあきれた表情でいた。
「お姉、学校遅刻するよ?」
「ごめん、少し…寝すぎちゃった」
「お姉が寝坊なんて珍しいね」
「えへへ」
「ほめてないよ」
そんなくだらない話を理乃としながら、十四香は学校に行く準備を整えていった。
この世界の生活にもだいぶ慣れてしまった。まだ妹がいるというのが、多少違和感を覚えなくもないが。
「理乃は、今日も…かわいいね」
「…それ、友達の前では絶対言わないでよね、からかわれるから」
「…そっか、理乃と二人だけの時は、いいんだね」
「そ、それは…」
理乃の顔が少し赤くなる。
昔好きな人が妹はからかいたくなるもの。と言っていた記憶があるが、今思うと本当にその通りだなと思う。
妹萌えというのは、こういうことを言うのだろう。
「と、とにかく、早く学校行こう!」
「ふふっ…。うん」
十四香は顔を赤くしている妹に少し母性を感じながらも、すぐに支度をしてリビングを出た。
───
──
─
「なんだかんだ、一緒に登校してくれるね」
「うっさい、悪い?」
「悪くないよ。お手手つなぐ?」
「子供扱いすんなし」
十四香はトーストをハムハムと食べながら、理乃と登校していた。
理乃との登校もかなり慣れたものだ。というより、少しこの状況が心地よいと思うことがある。私がどこか、『士道さんになった』みたいで。少しだけ胸を張れた。といっても完全にまねごとだが。
「あー……、つうかそろそろテストじゃん…。だっる…」
「…?そんなに気にする?」
「だってママが赤点取ったらバイト辞めさすっていうんだもん。今軍資金尽きたらマジで死活問題なんですけど。今更月数千円の小遣い生活に戻るとか絶対いや」
「そんな……もの?」
十四香…、四糸乃にはそこまで欲が強いというわけではないので、その辺はよくわからない。
ほしいものがあったとしても、言い出せず『まあいいか』となることが大半だ
「いいよねお姉は、欲がなくて」
「いや…、ないってわけじゃないけど…」
「バイトできなくなったら遊びいけなくなるしコスメ買えなくなるし、新しい服ほしいし、ミキマキに遊園地誘われてるし」
なんとう欲の大安売りだ。
言ってくれればお金稼ぎくらい手伝うのだが…、それはいやなんだろう
「新譜出たら買わなきゃだし、ファミレスで駄弁れなくなるし、そろそろお姉の誕生日だし…」
「……ん?」
一つとてもうれしい言葉が聞こえた気がする。
十四香は思わず聞き返そうとする。
「今……なんて?」
「いやなにも言ってないし、まだ寝ぼけてるんじゃないの?」
「そっか」
理乃によれば、十四香はまだ寝ぼけているらしい。私は朝ご飯を食べ終え、お茶でホッと一息つく。
「……ん?」
「…?どうしたのお姉」
「いや……あれ」
十四香が指さした道の先には、とてもきれいな白髪の女の子のためのがいた。
髪に黒いリボンをつけており、帽子をつけている。制服のような服を着ていて、オレンジのネクタイが特徴的だ。
「うわ髪しっろ。肌もしっろ。まじか。なんだあれ。外国人?」
「……」
なんだろう。あの子から…どこか異様な空気をかんじる。
外国人っぽいから、とかそういう理由ではなく。どこか異質な。たとえるとまるで精霊のような異様な空気。
「……!」
突如、その白髪の少女がこちらを見てきた。
「…ん?あの子、なんか今こっちみた?」
「…見たね」
見た、完全にみている。というかどんどん近づいてきている。
「え…私なんかした?それともお姉なんかした?」
「いや…何もしてない…はず」
十四香と理乃が困惑していると、白髪の少女がずいずいっと近づいてきて。十四香たちの目の前でぴたりと止まった。
「え、えと……」
「──ハロー」
「は、はろー?」
「こ、こんにちは」
突然挨拶され、理乃と十四香は多少困惑しながらもちゃんと挨拶を返す。
すると白髪の女性は楽しそうに微笑み。
「おお、意思疎通ができました。僥倖です。こんなに早く知己にたどりつけるとは。やはり日ごろの行いが良いからでしょうか。いえ、私が日頃何をしていたかはわかりませんが」
どこか目がキラキラで、嬉しそうに言葉が通じたことを喜ぶ白髪の少女。
…精霊?
いや、そんな印象はない。とこか異質だが精霊とは違う気がする。
「えぇ……、なんかすっごい満足げな顔してるけど、何この子」
「え、ええと……」
「さて、では早速ですが、まずは私の仕事を教えていただけますか?思い出せなくて困っていたのです」
困惑している十四香たちなどなんのその。白髪の少女はお構いなしにどんどん十四香達に迫ってくる。
「え、えっと…、私たちは…その…、貴方のことは知りま…せん」
「しらない…のですか?」
「…はい」
今まで微笑んでいた白髪の少女の目が、すこし悲しそうになる。
というか、どう見ても仕事をしているような歳には見えないのだが……。
「そうですか…、残念です」
「な…何かすんません」
「先ほどからじっと見つめられていたので、てっきり知り合いかと思いました」
どうやら、この子は俗にいう記憶喪失。というもののようだ。反応がそれっぽい。
「……とはいえ、このあたりの住人であることに間違いはなさそうですね。ならば不躾でもうしわけありませんが、お願いがあります」
「……なんです?」
「私は今、何らかのアクシデントにより、記憶を喪失してしまった状態にあります」
「ふむふむ……」
「少しでも多くの情報が必要なのです。もしお時間があったら、お話を伺えませんでしょうか?」
「…どうする?お姉」
理乃は指示を待っているかのように、十四香の目を見つめてくる。
もちろん、答えは決まっていた。
「いいですよ。私にできることなら」
あの人なら、きっとこういうだろう。
あの人は困っている人を放ってはおけない人だ。私はそんなあの人が好きだった。
だから、あの人はいないけど。私がその代わりになりたい……。
───
──
─
話を聞くと、彼女はエンデという名前らしい、彼女は『しなければならないことがある』とかなんとか。
そして日本という国には聞き覚えがないらしい。身分証明になりそうなものはなく、持っていたのはよくわからないパズルのピースのようなものだけだった。
「ハムハム……」
「お姉、何か分かった?」
「……」ふるふる
理乃の問いに、十四香は首を横に振る。
ぱっと見でこのパズルのピースが異様なものなのは理解できるのだが、如何せんどんなものか、皆目見当がつかない。
しかし、何か妙な力が宿っている感覚はあるので、おそらくこの世界ではない物体だ。
「…しっとりとした生地に優しい甘み…。なんという美味でしょう!」
「そ、そこまで?」
「くっ…、口惜しいです、私が記憶を無くしてさえいなければ、溢れる語彙とあらゆる美辞麗句を以てこの味を讃えることができたでしょうに…」
「いや、今のままでも大分大げさにほめてると思うけど…」
そういって、理乃はため息をつく。ドーナツでそこまで…。十香のきなこパンのような食いつきだ。
十四香は持っていたピースをエンデに返す。
理乃とエンデはどこか姉妹のようで、理乃の姉としては感慨深かったり、少し寂しかったり。
「…?」
「?…どう、したの?」
「あれ…なに?ほら、あのビルの上!」
そういわれ、理乃の指をさした方向を見てみると、そこにはこの世のものとは思えない…、まるで次元が裂けたような…パズルのピースがこわれていく様な……。そんな裂け目があった。
「はぁ…!?ちょっとちょっとちょっと!何がどうなってんのあれ!意味わかんないんだけど!」
「っ!」
この時、十四香の顔がこわばる。
やばい、明らかにやばい。第六感が危険だと警告を発している。体の震えが止まらない。この裂け目は危険だ。早く逃げなきゃ!
十四香は震える声で理乃に指示を出す。
「理乃…!その子を連れて逃げて…!」
「わ、わかった!お姉は?!」
「す、すぐに追いつく!」
「お、お姉も一緒に───」
「っ!さっさと行って!!」
「う、うん!」
この時、初めて理乃の前で大声で怒鳴った。それほど危険な状況なのだ。
理乃は少し顔をこわばらせてからエンデを連れて走り出す。
「……さて」
十四香は目の前の得体のしれない空間を見つめながら、どこか楽しそうに微笑んだ。
「士道さん…、たぶん…、これをどうにかすれば…。いいんですよね」
この状況で笑えるのは、自分が大人であると同時に『あの人の役に立てる』という気持ちが心を躍らせる。
十四香…。四糸乃はようやく理解した。あの人が力を『返した』意味を……。
彼女はバックからあるパペットを取り出す、このパペットがこの世界にあったのは不幸中の幸い、といったところであろう。
「…がんばろっか、よしのん」
「お~~、愛と平和のために頑張っちゃうよ~~」
「ふふっ、なんてね」
彼女はパペットのよしのんを手に付けながらクスリと微笑む。
今度は私があの人の役に立つ番だ。そう感じながら。
「
十四香がつぶやくと、彼女の周りに氷のような、雪のような物体が彼女の周りをかこう。
これこそ、彼女の能力、精霊識別名ハーミットと呼ばれる……四糸乃の天使。
「さぁ。私たちの『