光の戦士の英雄譚~GEEDを為すファミリアの物語~   作:逢奇流

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プロローグ(side CROSSOVER)

 都市は阿鼻叫喚に包まれていた。

 心沸き立つ戦争遊戯(ウォーゲーム)は最早殺戮の場に変わっている。

 蹂躙される冒険者たちの悲惨な映像に顔を青くし、卒倒する者すら現れていた。

 

「団長! ギルドから強制任務(ミッション)が来ました!」

「……やはり【フレイヤ・ファミリア】や【イシュタル・ファミリア】と共闘することになるか」

「よりによってこのタイミングで、だな」

 

 ギルドから送られた強制任務(ミッション)の詳細を確認したフィンは、子供じみた見た目不相応な思慮深さを感じさせる表情を形作る。

 同じく確認した副団長のリヴェリアが、編成された討伐隊の中の二つのファミリアの名を見て目を細めた。

 

「今はファミリア間でのいざこざはなしだよ」

「我々はそうできても、団員たちはそうはいくまい」

「そうであろうな。【フレイヤ】はまだしも、【イシュタル】との出来事は数日前。ベートたち過激派が黙っているとも思えん。向こうも自重する気はないだろう」

 

 顎に蓄えた髭を撫でながら、古兵(ガレス)もリヴェリアに同意する。

 それでも、フィンは今は飲み込めと言うしかない。

 

「一丸にならないと()()()()()()()()

「……親指か?」

 

 リヴェリアの問いにフィンは頷いた。

 神々すらも凌駕しかねない親指が、直感が、何かを感じ取っているのだと。

 

「リヴェリアはこちらから出す部隊の編成を頼む。僕はもう少し鏡が映すものを観ていたい」

「それも親指か」

「ああ、あの場で何か起こる。そう思えてならないんだ」

 

 リヴェリアは黙って頷くと部屋を後にした。

 既に幹部たちも己の役割を果たすために出払っていて、広間にはフィンと主神(ロキ)しかいない。

 

「そういうわけだ。悪いけどもう少しだけ鏡の維持を頼むよ、ロキ」

「ええわええわ、こんなゴタゴタしてんなら誤魔化せるやろ」

 

 こんな緊迫した状況でありながら常の態度を崩さない主神に苦笑しつつ、フィンは視線を砂ぼこりが舞い散る古城跡を凝視する。

 親指の疼きが凶兆か、それとも吉報かはフィンにもまだ分からない。

 乗れを見極めようと冷たい光を宿す瞳に人型の大きな影が映り込んだ。

 

 

 

「また怪獣……なのか?」

 

 それが世界に降り立った時、人々の間にあったのは困惑だった。

 【アポロン】・【ヘスティア】の両派閥を蹴散らした二体に匹敵する巨体。

 青く吊り上がった瞳は野獣のそれで、赤と銀の体を這う漆黒のラインは不吉なイメージを想起させる。

 胸に付けられたランプが朱く点滅する中、巨人は戸惑うように己の手を見た。

 

 無作為に暴れまわる怪獣たちとは違う、落ち着いた様子に、怪獣とは違うのではないかと、そんな思考が人々の中に過る。

 一方のギラスたちはその巨人を見た瞬間、人間に向けていた物とは比べ物にならない殺意を発し、咆哮。

 

 スピンを継続したまま、オラリオから巨人の方に方向転換し、戦闘を開始する。

 

 竜巻そのものとなったギラスたちは攻防一体の突進で、巨人を吹き飛ばした。

 

『ウワアアァァァッ!?』

 

 弾き飛ばされ、地面に倒れる巨人を怪獣たちは執拗に何度も追撃する。

 それを転がりながら回避する巨人だったが、何かに気が付き動きを止めてしまう。

 大きな隙を見逃すギラスたちではなく、巨人は再び暴風をその身に浴びた。

 だが、今度は巨人は吹き飛ばされないように踏ん張ってその場に留まり続け、ギラスたちの連撃に掠れるような苦悶の声を漏らす。

 

 巨人の不自然な行動に人々は戸惑うが、やがてその意味を理解し驚愕する。

 

「人が!?」

 

 巨人の背後に存在する二つの影。

 それがヒューマン(カサンドラ)パルゥム(リリ)のものだと認識した時、人々の間に動揺が走った。

 

「……あの巨人、人を守っているのか?」

 

 モンスターと同じく、絶対の悪と思われていた怪獣が人を守るという光景に目を疑う民衆たち。

 十数世紀にも及ぶ常識。異形の定義が揺らぐ音が聞こえた。

 

 一方的に嬲られる巨人の胸の輝きが危機を告げるようにより強く点滅しだす。

 暴漢じみた荒々しい蹴りでギラスたちを一度遠ざけるが、スピンは解除されず、独楽のように再び巨人に向い始める。

 

 このままではやられると判断した巨人は腕を交差させ、静かにエネルギーを溜めた。

 迸る漆黒の紫電。異常な磁場が辺りの土埃を巻き上げ、巨人自身ももう一つの竜巻と化す。

 青い瞳が凶悪な光を放つ中、リンッと鐘の音が鳴った。

 収束する光の粒子が巨人の両腕に宿る。

 溢れ出る力の奔流に苦しむように首を回し、獣めいた雄叫びを上げる。

 そして、力が臨界に達した時、その一撃を解き放った。

 

──レッキングバースト‼

 

 あらゆる雑音が無音に帰す。

 滅びを告げる光子エネルギーの放出は、ギラスたちを断末魔すら上げさせずに消し飛ばし、溢れる海水をあっという間に蒸発させた。

 

 そして、爆発。

 

 あたり一帯を覆い尽くさんばかりの光のドームが神の鏡の前に映し出され、人々はそのあまりの破壊力に思考を停止させた。

 怪獣・津波。

 人間ならば簡単に命を奪われる理不尽な存在を一撃で葬り去った光線。

 もし、あれが自分たちに向けられたら……

 

『……ゥ…ァ……』

 

 そんな妄想が、人々の中に浸食する中、巨人はだらりと腕を垂らして膝をつく。

 全ての力を使い果たしたように瞳から輝きを失った巨人は、ガクリと首を折った。

 その体が発光し、解けていく。

 あっという間に巨人の体は消え、そこに残っていたのはかすかな光の残滓と闇の名残だけだった。

 

 これが巨人……ウルトラマンジードのこの世界での初陣。

 人々はその存在に戸惑い、その力に恐怖した。

 

 そして、この戦いを契機に。

 世界は、オラリオは、少年は大いなる戦いに巻き込まれていく。

 

 

 

「ベル様ー!? 返事をしてください!?」

「おいベル‼ 何処にいる!?」

「ベル殿ーー‼」

 

 【ヘスティア・ファミリア】の仲間たちがベルの姿を探し、その名を叫ぶ。

 戦いが終わり、嘘のように静かになった世界に、彼らの声と僅かに残った海水流れる音だけが木霊する。

 最早原型が分からないほどに壊れ果てた古城は、所々ガラガラと音を立てて崩れていく。

 

「やばいぞ……このままだとここも崩れる」

「やはり、ベル殿はもう……」

「ふざけないでください‼ ベル様はっ、ベル様は……」

 

 最悪の可能性が脳裏を過り表情が暗くなる一同。

 

「……ここにはいない。クラネルさんが吹き飛ばされたのはもう少し先かもしれません。行きましょう」

 

 リューも同じ可能性に苛まれながらも、【ヘスティア・ファミリア】の面々を引き連れ、崩壊した古城を探索する。

 このままでは親友(シル)に申し訳が立たないと、そう逸る心に振り回せれないように、覆面の下で焦燥を隠し、遠目から見るのが好きだったあの白髪を探す。

 

「……? 皆さん‼ この下に空洞がある様です‼」

 

 やがて、命が瓦礫の下に繋がる空間を発見した。

 

(こんな場所に何故空洞が?)

 

 城の構造から言っても何の合理性もない。

 ただ地盤を弱めるだけの設計。

 

「これは、もとからあったものじゃないな。後から付け足されたものだ」

 

 ヴェルフの判断にリューも同意する。

 盗賊のアジトになっていたとはいえ、かつてはどこぞの国の誇る栄華の跡地。

 部屋や通路は勿論、壁にすら城には丁寧な装飾が施されていた。

 

 だが、この空間にはそうした匠の業を感じ取れない。

 ただ大きな穴を開けて放置したような粗雑さすら感じる。

 その開け方も妙だ。

 地下を掘り進めたというよりも、これは魔法で爆破したような……

 

(馬鹿馬鹿しい……それでこの大きさの空洞を作ることはリヴェリア様でも不可能だ)

 

 地下に大穴を開ける大火力と、地盤を崩れさせない繊細なコントロールなど誰が両立させうるのか。火炎石を大量に用意して爆破したら偶然崩壊しなかったという間抜けな可能性のほうがまだある。

 突飛な考えを捨て、この場所に落ちている僅かな可能性に縋り、大空洞に降り立つリューと【ヘスティア・ファミリア】。

 

「……っ‼ これは!?」

 

 光源の無い空間であるため、地上から微かに漏れ出る光を頼りに中を探索していた4人。

 するとこの中で最も目がいい種族である小人族(パルゥム)のリリが闇の中から何かを見つけ出す。

 

 それは文字だった。

 土でできた壁に彫り込まれた共通語(コイネー)の文字群。

 数年ほど放置されていたと分かるその文章を読み取ったリリは驚愕した。

 

『聖火の守り人たる羊へ

 

 光を宿し、運命に抗う眷属よ

 

 鐘の音を告げる白き光を携えるいずれ最後の英雄へ至りし者よ

 

 血と宿命に準ずる覚悟があるならば

 

 女神の聖獣に相応しき仇名を持て

 

 過酷を前に聖火の加護を誇りに疾く駆けよ

 

 失いし音色に囚われることなかれ

 

 過ぎ去りし時を嘆くなかれ

 

 残響は必ず汝の傍らにある

 

 超克の果てに、天の河を越え、進化に至れ

 

 最強の眼差しの先、汝が収まるべき玉座に、大鐘楼の忘音がその可能性を示す』

 

(聖火……!? それってヘスティア様の……!?)

 

 現在の自分たちの主神。ヘスティアを想起させる単語に動揺するリリ。

 否、この文章だけならばリリは動じなかっただろう。

 だが、その横にある絵を見た瞬間、リリは驚愕を口にした。

 

「これは……あの巨人!?」

 

 そこに描かれていた巨人の瞳は、先ほどリリとカサンドラを庇った存在の者と同じ。

 その巨人が鎧をまとった姿な点は違うが、これを偶然と言い切ることはリリには出来なかった。

 闇に目が慣れ始めた仲間たちも、目の前のメッセージに動揺する気配を感じ取る中、彼らの背後に赤白い光が現れる。咄嗟に背後を向くが、目を焼かんばかりの輝きに思わず目を瞑ってしまう。

 光が収まった時、そこから現れたのは……

 

「なっ……ベル様!?」

 

 

 

 サークル型の宝具を構えていた男が、ジードの戦いを見届けてゆっくりと腕を下ろす。

 

「加勢は必要なかったか」

 

 男の足元には未だ気絶したままのヒュアキントスが横になっている。

 宝具を懐に仕舞った男はジャケットを靡かせ、ヒュアキントスを担ぐとそのまま跳躍し、姿を消した。 




 ダンまち世界の歴史はモンスターとの殺し合いの歴史。
 他のクロス先以上に人々にウルトラマンが受け入れてもらうには時間がかかるかもしれません。

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