「チェーンソーマン最高おおおおおおぉ!」
開口一番なに危険発言大音量でぶちかましてやがるんですかこの人は!
不肖、直江津町の迷子神こと八九寺真宵は、他人の気配には敏感な方なのですが、そのときばかりは声が聞こえてくるまでぐっすり熟睡してしまっていました。
しまりました。
痛恨のしまりましたです。
「はんばーがーも、たまにはいいものじゃのう」
わたしがぱちりと目を覚ますと、目と鼻の先に見目麗しい金髪幼女が胡坐を掻いて座っていました。幼女は手に持っていた紙切れ――ハンガーガーの紙包みをくしゃりと丸めると、すぐ横に積み重なっているハンバーガーの山のてっぺんに手を伸ばし、次のハンバーガーを取りました。その反対側にはこれまで食べた分の紙包みの山が出来上がっています。合計でいったい何百個になるのか、恐ろしくてなりませんが、それにしても飲み物もなしに、ハンバーガーだけでよく飽きないものですね……。見ているだけで胸焼けがしてきそうです。
「おお、なんじゃ蝸牛っ子。ようやっと起きたか」
すっかり北白蛇神社の神様となって久しいわたしのことを、いまだに蝸牛の怪異、迷い牛の名残りを残したまま呼び続けている忍さんです。今さら呼び方を変えるのが面倒というのが一番の理由でしょうけれど、呼ぶ機会が少ないという理由もあると思います。普段、わたしたちってそんなに接点ありませんものね。
というか、蝸牛っ子って呼びにくくないんでしょうか……。
いぶりがっこの方が呼びやすいまでありますよ。
「いぶりがっこじゃまったく別物じゃろう。蝸牛娘が舌を噛みそうだったんで、改良してみた。うぬが呼んでほしいのであれば、いぶりがっこでも良いぞ」
「嫌ですよ、そんな苦し紛れに付けられたゆるキャラみたいな名前。年中干されるのが目に見えているじゃないですか」
「熟成されて旨味は増しそうじゃがな」
じゅるり、とよだれを啜る忍さん。わたしの背中に悪寒が走ります。
「忍さんが言うと洒落にならないんでマジやめてください!」
冗談じゃ冗談、と朗らかに言いますが、マジ油断ならないですよこのロリ奴隷さん。
捕食の危険を回避したわたしは、ある人の不在に気付いて、忍さんの周辺を見渡しました。
「……あれ、忍さんだけですか? 阿良々木さんは?」
吸血鬼の抜け殻であり、阿良々木さんの影に縛られている彼女が、単独行動を取ることはほぼありえません。緊急事態でもない限り。てっきり近くに阿良々木さんが隠れているのかと思って首を巡らせたら、驚いたことに、ここはわたしが寝泊りしている北白蛇神社の本殿ではありませんでした。
紅色の布が敷かれた日本庭園。
枯山水というのでしょうか? 白い砂が敷き詰められ、波のような模様が描かれていまして、ところどころに立派な灯篭が立っています。神社の境内っぽい雰囲気ですが、北白蛇神社ではないことが確かです。庭園はわたしたちの座っている紅の茣蓙を中心にして円形に広がっており、三十メートル先くらいで途端にぷつりと途切れ、透き抜けた青空と合流してしまいます。超巨大な円柱の頂点をイメージしていただくと分かりやすいと思います。不思議なことに空はすっきり晴れているのに、どこにも太陽が見つかりません。
とても非現実的な光景です。これでは、それこそまるでシャフトのアニメの中でありませんか。はて、寝ている間に誘拐されてしまったのでしょうか。
「シャッシャッシャ、いいリアクションしてんじゃねえかよ、ああん! まーまー初体験だとそーだろうよ。そんなに慌てなくても問題ねーぜ、ゆっくり寝てりゃすぐに着くからよう」
背後から誰かの声が聞こえてきました。聞き覚えのある可愛い声なのに、口調がとても乱暴で違和感がすごいというか、変な感じです。
わたしが振り返ると、真後ろには白いワンピースを着たあどけない少女――ただし髪の毛があますことなく白蛇になっている神様がいました。
●
蛇。蛇。蛇。蛇。蛇。蛇。
一五〇ページくらい「蛇」の字で埋め尽くされてしまいそうな量です。
視界いっぱいに白蛇が広がっています。蛇に生理的恐怖を覚える人だったら、あまりの恐ろしさに舌を噛み千切って自決していたでしょう。
わたしは彼女とは直接会ったことはありませんし、ご本人とも面識はありません。だけど、何人もの人から何回も話には聞き及んでいたので、白蛇少女の正体は知っていました。この北白蛇神社の神の前任のことを。
「千石さん……、いえ、クチナワさんですか?」
「シャッシャッシャ! 正解だぜ後輩ちゃん。続・終物語で共演したぶりだな、ああん」
「巻のタイトルで言われてもいまいち実感が沸きませんね……。そもそも、あのときの世界の記憶って、私たちが覚えてていいものなんでしたっけ?」
「いいんじゃねえの? 知らねえけど」
そう無責任に言って、クチナワさんは大口を開けて悪童らしく笑います。腹を抱えてそっくり返って大笑い。生足をバタバタさせて、スカートの中身も丸出しです。本体の千石撫子さんが見たら卒倒しそうな勢いですね、本当に。最近の千石撫子さんは過去の行いを省みて、自身の痛々しさを反省している最中と聞きますから、こんな生きたかたちの過ちを直面した日には、顔から火を噴くかもしれません。
そんなわたしの思い違いを嗜めるように、クチナワさんが意味ありげに笑いました。
「さあて、そいつはどうかな。最近の撫子はもっととんでもねえことやらかしてるから、案外、オレ様のことなんかすっかり過去の思い出にしちまっているかもしれねえぜ。誰もが若かりし頃に抱える黒歴史みたいにな」
「まるで他人事みたいに言いますね」
「ああ、オレ様は千石撫子とはすっかり縁が切れた、いわば残像みたいなもんだからな。クチナワと言われればクチナワだが、少なくとも千石撫子ではねえ。あいつが作り出したクチナワ様の、そのまた分身だって思ってくれていいぜ」
「ふむ? ややこしいですね。つまりクチナワさんの偽者?」
「いいや? むしろオレ様は本物よりも本物に近い分身、『分霊』だ。もっとも、神に対して本物かどうかを問うこと自体がナンセンスなんだがな」
さて、翻訳が欲しくなってきました。
以前、千石さんが白蛇の絵を奉納してくれたことがありました。どうやらその絵に力が宿ったらしく、この神社に残っていたクチナワさんの像を借りて動き出したようです。理屈は分かりましたが、しかし、怪異ってそんなに簡単に生まれるもんなんでしょうか。それとも千石さんが特殊なだけかもしれません。
何にせよ、現状把握に戻りましょう。
「それで、いったいどんな状況なんですか? これは」
ようやくして、わたしはずっと抱えていた疑問を放つことができました。
果たして、何が起きているのか。
なぜここに忍野忍とクチナワがいるのか。
なぜ八九寺真宵はここに連れてこられたのか。
ここはいったいどこなのか。
疑問は色々と尽きませんが、それらを内包したアバウトな質問です。
これに答えてくれたのはクチナワさんでした。
「あー、まあ何つーか。順番に説明してく必要があるよな。何から説明したらいいか迷っちまうとこだけど、無難なところから話すと、まずここは現世じゃねえ。かといって夢の世界とかアニメ回っつーオチでもねえ。オレたちのいるここは神の世界、いわゆる天界だ」
「天界?」
予想の斜め上から飛んできたその回答にも驚愕ものでしたが、ぶっちゃけクチナワさんの丁寧な教え方に驚きました。失礼な話ですが、もっと傍若無人な方だとばかり思っていました。彼(彼女?)は意外と面倒見がいい性格みたいです。
「シャシャ! これでも蛇神様だからな、お前ほどじゃねえが、人を導くのは得意分野なんだぜ。導くのと同じノリで、誑しこむのも得意なんだが。でまあ、天界ってのは神の位階にいるものだけが認識でき、存在することのできる高台。神の異界だ。もっとこまけーこと言うなら、この場所は現世と向こう側の狭間なんだけどな。こっからもっと神様がうじゃうじゃいる天界に移動する」
私は、なるほど、としたり顔で頷きます。したり顔は得意です。
「ちょっと理解できてきました。だから人間である阿良々木さんはこの場にいなくて、怪異である忍さんが一人でこの場にいるのですね」
ハンバーガーを食べ切った忍さんが不機嫌そうに注釈を入れてきました。
「怪異ではなく怪異の王じゃ。その辺の雑魚ども一緒くたにするでない。……じゃがまあ、今回の儂はむしろ神の残像として参加しておるから、どうでもいいポイントではあるかもしれんな」
「はあ。ところで何でハンバーガーを大量に貪っていたんですか?」
「供物じゃ。神への送り物は古来から肉と相場が決まっておる。『肉』の種類は宗教によって異なるが、今回は我が主様の財布具合と相談して、コスパを考え、格安のハンバーガーを大量に購入することにした。質より量という奴じゃ」
「でも、それで何でハンバーガー?」
「ああ、チェーンソーの悪魔の漫画に触発されての」
「チェーンソーの……」
何を言っているのか分かりませんが、分かりたくありませんが、あまり突っ込んではいけないような気がしました。というか忍さん、漫画とか読むんですね。
「吸血鬼の嗜みじゃな。しかし、うぬは我が従僕が絡んでおらんと、ちっとも噛まんしボケぬのう。儂はうぬのボケには一目置いておるのじゃが、今回のうぬは真面目すぎてつまらん」
「そんなこと言われましても……」
その言い方ではまるで普段のわたしが、好きで阿良々木さんとの漫才を繰り広げているみたいじゃないですか。とんだ名誉毀損です。あれは阿良々木さんが構って欲しそうにしているから、仕方なく付き合ってあげているだけですよ。
でも、確かにそうですね。
忍さんに言われてみるまで気付きませんでしたが、わたしはまだ一度もボケていないし噛んでいません。このままでは私のキャラがぶれてしまいます。決して身体の調子が悪いとは感じないのに、いったいどうしたことでしょうか。
くぁ、と忍さんは大きな欠伸を零し、紅い茣蓙の上にゴロンと転がりました。肘を立てて頭を支えながら横に寝るポーズ――お釈迦様みたいな格好で、わたしのことを見上げます。黄金色の瞳をからかうように歪めて。
「じゃが、それでこそなのかもしれんのう。儂らにはなかった特性、儂らでは取り得なかった性格。新しい北白蛇神社の主――八九寺真宵にとっての神がその生真面目さなのだとしたら、敬いこそすれ、蔑むものではなかろう」
八九寺真宵にとっての神。
その言葉を受けて、わたしはようやくながらこの場に揃っている三人――三体の怪異の共通点に気付いたのでした。
忍野忍。旧キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。熱血にして鉄血にして冷血の吸血鬼。怪異の王。かつて神と崇められた鬼。
クチナワ。千石撫子を唆した蛇であり、千石撫子の裏人格。先代の北白蛇神社の主神にして、神をも殺す猛毒を牙に宿らせた蛇神。
八九寺真宵。元蝸牛の怪異。現在の北白蛇神社の神。
……私のプロフィールだけしょぼい気がしますが、目を瞑りましょう。
わたしたちは全員、神様の立場にいたことがあるのです。
「そうじゃな。だからうぬがここに呼ばれたのじゃ。儂とそこの蛇娘は、経験者としての指南役じゃな。指南役と言っても、儂が神であったのは三百年も昔の話だし、蛇娘はたったの半年間しか神様をやっておらんかった。まともに説明できるとは思えんが、まあ、そうなったらうぬが一人で頑張ればよい」
「投げやりですね、何とも。アドバイスもらえる立場で文句は言えませんけど。それで、わたしはこれから何をすればいいんですか?」
「神々の集まりに参加してもらう。日本全国の神社に奉られている神々は、何年かに一度、ある神社に集められて会議を行うらしい。儂は参加したことがないがの」
「前回はオレが参加したんだぜ。ちょうどオレが神様をやってた時期でよ。本来は一年に一度、向かわなきゃいけねえらしいが、段々と神様の数も減ってきて、どこも忙しいからっつー感じの理由で、数年に一度に引き下げられたようだぜ」
忍さんとクチナワさんから神道業界の裏事情が赤裸々に明かされます。経営難と後継者問題で大変なのは、どこも一緒のようです。この北白蛇神社も……、クチナワさんが入るまでは空位だったんでしたっけ。私が神様の座に着いて、ようやく安定したとか。
「参加するのは構いませんけど……。それって強制参加なんですか?」
「そうじゃな。本人の意思に関係なくさらわれる。神隠しに遭う。今まさにうぬがされているように」
「え!? 私、さらわれてたんですか?」
私は慌てて立ち上がり、周りの非現実的な景色を見渡しました。冗談で考えた可能性が正解だったとは。当然のことながら逃げ場所はどこにもありません。さすがに空を飛んで帰るわけにはいきません。大体、この空間が現世と直結しているかも怪しいものです。
「ええっと……、無事に帰してもらえるんですよね」
「オレが戻されるときは一瞬だったぜ。一瞬でバビューンっと直帰だ」
「心配は無用じゃ。しょせん、肉体から引っこ抜かれて呼び出されるのは、うぬから抽出された純粋な神の部分、分霊だけじゃからのう。現実世界ではちゃんと、うぬの肉体はピンピンとしておるわい」
「そういうことでしたら……」
忍さんの話した理屈が全部理解できたわけではありませんでしたが、理解してもしなくても現状は変わりませんし、大きな問題はなさそうです。私は腹を括って、神様らしくどっしりと構えることにしました。原理やシステムが分からなくても、流れに逆らわなければ大概上手くいきます。
「それで、どこに向かえばいいいんですか? 見た感じ、足場が移動している様子はないですけれど」
「向かうのは出雲大社なんだぜ」
と、目的地を教えてくれるクチナワさん。
出雲大社。聞いたことのある名前ですね。
「日本で一番大きい神社、でしたっけ」
「シャッシャ、それだけ知ってりゃ十分だ。日本じゃ神無月に――出雲国じゃ神在月に、全国の神様どもが一同に会して会議を行う。神様っつっても怪異崩れが大半で、言葉の通じねー奴ばっかだから、せいぜい食われねえように気を付けろよ」
「げげ。私そんな危険なところに放り込まれるのですか?」
わたしは警戒心丸出しに身構えます。さてキナ臭くなってまいりました。戦闘力はもちろん、自衛力もないに等しいわたしが魔物の巣窟で生き残れるはずがありません。
「ま、そーさせねえためのオレたちだぜ。逆に言えば、危険な神々は知性が低いから、御しやすい。対処法方はきちっとレクチャーしておくぜ。と、その前に本題を伝えておくと、八九寺、お前さんはこれからその会議に参加させられることになる。神々の会議、神議(かむはか)りに」
「かむばかり……」
クチナワさんの厳かな雰囲気に呑まれ、わたしは唾を飲み込みます。
「恐ろしい行事ですね……。神様たちが揃って、そんなことするなんて……」
クチナワさんが怪訝な顔をします。
「ああん? 恐ろしいってことはねえぞ。単に面倒くさいってだけの――」
「神様揃って、噛むばかり……」
「たぶん漢字間違えてっぞお前」
「失礼、噛みました」
●
満を持していつもの決め台詞を決めてみましたが、お二人に華麗にスルーされてしまい、いつもの華麗なるパスワークが見せられませんでした。せっかく噛んだのに残念至極。阿良々木さんのツッコミがないと、いかんせん消化不良ですね。
忍さんは先ほど、阿良々木さんがいないときのわたしはつまらないなどと評しましたが、原因はむしろわたしの不調ではなく、ツッコミの不在にあると思われます。どんなに小さなボケでも拾い上げて、丁寧に面白く調理してくれるツッコミの腕前があってこそ、漫才は成り立つものなのです。阿良々木さんがいなければ、阿良々木ハーレムのヒロインの誰もがボケの才能を開花できずに一生を終えたでしょう。開花せずに済んだ、と言い換えることもできますが。
閑話休題。
真面目な神様モードに戻るとしましょう。
「向こうに到着するのって、あとどのくらいですか?」
雲ひとつない空を見渡しながら、わたしはお二人に尋ねます。太陽の位置が分かれば現時刻の予想は付いたり時間の経過具合が掴めたりするのですが、どうもこの自転が止まっているかのような光景は、時間感覚を狂わせます。
せめて残り時間が分かれば、と期待して訊ねたのですが、ところが二人は揃って首を横に振りました。
「いや、儂は知らん。一分後かも知らんし、十日後かも知れん」
「オレが呼ばれたときは、けっこー長い間ここで待機してて、そんで、気が付いたら目的地にいた。撫子の野郎、ずっと混乱しっ放しで、最初から最後まで分からないまま終わっちまったぜ。結局本人は、不思議な夢を見た、くらいにしか記憶してねえんじゃねえの? 幸せ者だぜ、シャシャシャ!」
「はあ。つまり待つしかないんですね」
基本待っているのが嫌い、というより自分から動き回りたい性分のわたしからしたら、檻の中に閉じ込められてしまったような気分です。
横臥したままの忍さんがもう一度欠伸を噛み殺しました。
「果報は寝て待てじゃ。暇なら儂が付き合ってやらなくもない。ほれ、蝸牛っ子よ、何か話してみい」
翻訳すると、余興で何か話せ、ってことでしょうね。どこの王侯貴族だって言いたいところですが、忍さんは人間だったとき、リアルにお姫様だったらしいですから、この態度にも納得です。文句の一つでも漏らしたら斬首刑に掛けられてしまうかもしれません。この町に来たヴァンパイアハンターの一人、ギロチンカッターさんが掛けられたように。
「別にギロチンカッターという名前だったからと言って、あやつをギロチンに掛けてはおらん。頭からボリボリと貪り食っただけじゃ」
「そっちの方が恐ろしいんですけど……」
「つまらなくても取って食ったりはせん。いいから何か話せ」
「んー、そうですね。最近は特に変わったことは起きてないですけど」
振られた以上は応えたくなるのが人の情、もとい神様の情です。私は頭を捻って、暇潰しになりそうなエピソードを探しました。しかし、いくら待てども捻り出さない私を見かねて、今度はクチナワさんの方に矛先を向けました。
「蛇神の、貴様は何かないのか」
「んあ? オレに何を話せっつんだよ。オレは撫子のコピー……あいつが描いたご神体に沸いた、分霊だぜ? 逸話どころか実体もねえっての」
「じゃが蛇娘の記憶は持っておる。蛇神の経験談がある。それを話せばいいじゃろう」
「あっ、それわたしも気になります」
わたしは食い付きました。
わたしは、神様のことをあまり知りません。
他の神様がどうしているのか。どういう風に神様の役目を果たしているのか。直江津町の町内だけで過ごしていると、他の神様と知り合う機会に巡り合えない上に、神様のあり方を学ぶ機会もありません。わたしは、わたしを神様に仕立て上げた専門家――臥煙伊豆子さんから教わった作法に従っているだけです。
けれど、せっかく元神様のお二人が揃ったのですから、二人からそのときの体験談を聞かない手はありません。
シャーねえなあ、とクチナワさんは渋々と承諾しました。
頼まれると断れない。それは神様に共通する性格なのでしょう。
面倒そうながらもきちんと姿勢を正して、鋭い牙の揃った口を開きます。
まるで詐欺師のような不吉な笑みで。
「――薮蛇、薮蛇」