閃の刃は大正の世を切り拓く   作:ロシアよ永遠に

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第11話『友人として、先達として』

「凜さん。」

 

「ん?なにかな、真菰。」

 

鱗滝邸の寝間

女子二人が二の字に並んで床についていた。

夕餉と湯浴みを終えた二人は、凛は日の出と共に出立するし、早朝から真菰は鍛練が待っている。明日も早いので早めに床についた。

ちなみに男衆三人は、客人を寝間以外で寝させ、男女同伴ともいかないため、居間で囲炉裏を囲うように床についている。

睡魔に襲われ掛けた。隣で横になっていた真菰がふと口を開いたのはそんな時だった。

 

「最終選別…怖くなかった…?」

 

「怖く…?」

 

「その…鬼と戦うんでしょ?やっぱり怖くないかなって…思って。」

 

未だ鬼と真っ向に立ち会ったことのない真菰にとって、鬼とは未知の存在。人体を超えた力を用いて人を殺め、喰らう、人々にとって恐怖の存在。それを相対することの恐怖は如何様なものか。いずれ最終選別へと向かうであろう真菰は、その一週間に少し恐怖を抱いていた。

 

「う~ん…怖くなかった…と言ったら嘘になる、かな。」

 

「じゃあ…何で戦えたの?殺されるかも知れないのに…。」

 

今、真菰は最終選別へ向かうための鍛練期間。その間に鬼とは会うことはまずない。大抵は最終選別で初めて相対する。戦う意思を持って面と向かうと言う行為の中で、想像していた鬼を凌駕する奴らの力によって心を折られることは少なくない。そうなってしまえば、足が竦んで力を発揮できず、何もしないまま喰われるかもしれない。それが真菰を恐怖にかき立てていた。

 

「…何で戦えた、かぁ…。余り深くは考えたことなかったけど…。」

 

凛にとって戦いは前世から続くものだった。依頼として指名手配魔獣を倒したり、幻獣と呼ばれる伝説上の生物と戦ったり、オズボーン(譲治郎)と戦ったり、魔神と戦ったり、騎神と戦ったり…。この世界に来てから戦うことに抵抗がなかった。むしろ戦うことになる流れだったし、それに対して何の違和感もない。

だが真菰に問われたことで、今一度それを思い返してみる。

何で戦うのか?

なぜ?

 

「…一番に思い浮かぶのは、どうしても斬らないといけない奴がいるから…かな。」

 

「斬らないと…いけない奴?」

 

「そう。その為に私は鬼殺隊として戦う。…だから何としても最終選別を突破しないといけなかったし、怖くて動けずにいて、むざむざあそこで死ぬわけにもいかなかった。」

 

黒のイシュメルガや前世の事は伏せる。だが、奴を斬るために世界を超えて生まれ変わったのだ。それは凛だけではない。譲治郎も恐らくは彼女を追う形でやって来たのだろう。クロウは偶然かも知れないが。

 

「戦う理由はそれぞれだよ。錆兎や義勇も何らかの想いがあって刀を振るってる。だから真菰にもあるんじゃないかな?刀を振るう理由が。」

 

「刀を…振るう理由…。」

 

「言い換えればそれは信念で、『芯』になる。その為にも自分の『道』を見つける。――先ずはそこからだ。」

 

「道…。」

 

凛の言葉を反復するように真菰は呟く。

そして同時に凛の言葉が途方もなく響いた。

真菰は孤児だ。親が鬼に食われたことで天涯孤独の身となっていた。それは錆兎も義勇も同様で、家族を鬼に殺され、経緯は異なるにせよ、鱗滝の元に来て鬼を斬る修行を積んでいる。

なぜ鱗滝に師事したのか?

なぜ鬼殺隊を目指すのか?

なぜ鬼と戦うことを決めたのか?

その意思の源泉を真菰は目を閉じて思い出す。

 

そうだ、他の誰かに自身と同じ思いをさせないため、強くありたいと思ったんだ。

鬼に愛する人を食われる、孤独と絶望、悲壮に溺れさせないために。

 

きっとそれが真菰の『芯』であり、『道』なのだから。

 

「…ありがとう、凛さん。」

 

「…ん?」

 

「これでまた、明日からの鍛練に集中できるよ。…絶対最終選別を受けて突破する。私の『道』を往くために。」

 

「…うん。きっと君なら出来る。…と、若輩者なのに人に道だの何だの言っちゃって、変じゃないかな?」

 

「そんなことない。むしろ、凄く響いたというか…年季が入った言葉だなって思った。同い年に感じないくらい。」

 

真菰の鋭い指摘に凛は思わず苦笑いを浮かべてしまう。どうにもこうにも、鱗滝といい、勘が鋭い…というか、感受性が良いのか、ちょっとしたことで疑われてしまいそうで恐ろしい。

 

「同い年なら、さん付けは要らないんじゃないかな?」

 

「え?でも…あくまで凜さんは、鬼殺隊の先輩に当たるわけだし…。」

 

「いや…鬼殺隊を別として考えても良いんじゃないか?というよりも、友人としてそうして欲しい。」

 

凛としてみれば、こちらの世界に来てからというもの、前世の力や勘を取り戻すために、本来なら感受性を育むはずの幼少期を、修行という修行に明け暮れてしまい、友達という友達が居なかった。そんな折に、真菰という貴重な同年代の少女と巡り会えたことで、誰かとの交流(絆イベント)の尊さを思い出した。だからこそ、仲良くしたい真菰に、さん付けで呼ばれることが止めて欲しかったりする。

 

「じ、じゃあ…り、凜…で、いいの?」

 

「もちろん。」

 

「…ふふっ。なんだか不思議。長い間友達が居なかったから、フワフワした感じがするなぁ。」

 

逆に真菰も、鱗滝に育てられ始めてから、女友達という者が居なかったので、凛の言葉は僥倖だったりする。こそばゆさから来る妙な浮遊感が、真菰の心をワクワクさせていた。

友人として互いを自覚してからはと言うもの、年頃の女子二人の話は大いに弾み、微睡みに沈んだのは子の刻を過ぎた辺りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方 暁葉家

 

「今、戻った。」

 

「お帰りなさい。…随分遅く成られたのですね。」

 

「うむ、少しばかり惹かれる料理を見つけてな。明日に愛娘が帰ってくるときに、迎えの料理に加えようと思ったのだ。」

 

「その材料が…持っておられる荷物ですか?」

 

「作り方も教わってきた。フフフ…凛の悦ぶ顔が目に浮かぶな。」

 

暁葉家の地獄絵図は近い

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