閃の刃は大正の世を切り拓く   作:ロシアよ永遠に

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スマホを買い替えました。
正直、同じ会社の機種系統ばかり使ってたので、別の会社のスマホだと文字が打ちにくいのなんの…


第14話『黒の気配』

ごうごうと短いスカートの隊士服が燃え上がり、灰へと変わった翌日。

凛は日課である型の鍛錬を終えて、久しぶりに街へと繰り出した。

ここ半月近くは最終選別や、それに向けての準備や鍛錬で、家やその敷地内で生活を終えるに至っていたので、こうして街を歩くのは久しぶりのことだった。そもそも、普通の幼少期は興味が尽きない年頃で、それこそ街へ出掛けたいと親に強請るものだが、凛の中身はすでに成人しているため、街へ出る機会そのものは少なかったりする。

刀鍛冶から日輪刀が届くまで、予定では今しばらくかかるので、こうして気分転換に街へとやって来たのだ。

季節は春先。徐々に桜も蕾を膨らせ、開花を待つ時期だ。

 

(これからこうしておいそれと街を歩くなんて難しくなるんだろうなぁ。)

 

刀が届けば、そこからは鬼殺隊として夜な夜な鬼を斬る日々が始まる。それまであと五日程の余暇。そこからは命を賭した闘いに身を投じ、いつ命を落とすともわからない。

 

(この刀を待つまでの日々は…もしかしたら今の間に日常を堪能しておけ、と言うことなのかもしれない。)

 

殉職すればそれも叶わなくなる。鬼殺隊を選んだ以上、それは覚悟の上の事だろう。

ともあれ、鬼の出現が無いなら無いでそのまま休暇となるのだが。

 

「おや、凛ちゃんじゃないか。久しぶりだねぇ。」

 

フラリと立ち寄ったのは母が贔屓にしている装飾品を扱う店で、初老の女店主が驚きと喜びをはらんだ声で出迎えてくれた。

 

「お久しぶりです。長い間、顔を出せずに申し訳ありません。」

 

「いいんだよ。こうして元気な顔を見せてくれれば。…しかしまぁ、しばらく見ないうちに、偉いべっぴんさんになったねぇ。」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

べっぴんさん、と言われて悪い気はしない。しないのだが、心の何処かで『リィン』としての心もあり、どこか複雑なものだ。

 

「凛ちゃん、もう十二歳位かい?」

 

「はい、今年でそうなります。」

 

「じゃあそろそろ許嫁もいるんじゃないのかい?いいとこのお嬢さんなんだから。」

 

「い、いえ、そういうのはまだ…。」

 

「なんだいなんだい、譲治郎さんは何やってんだ。こんな可愛い娘に許嫁を見つけないなんて…。」

 

「は…はは……」

 

いいとこのお嬢さん

確かに暁葉家は裕福なものだ。

武家屋敷もかくやと言わんばかりの広大な敷地に、それに見合う大きな屋敷。これは鬼殺隊である譲治郎の収入が大きなものであることの証左だ。加えて、母である千代も、現役時代には稼ぎに稼いでいた。結婚時に屋敷を建てたときに、二人の貯蓄から出したとはいえ、その貯蓄は屋敷を立ててなお余ったほどなのだから。ただ、金銭的に余裕があるだけで、別段やんごとなき血筋や家系でもないのだが。

だが前世の男爵家の養子だったことといい、こう言った立場からは逃れられないのだろうか。

 

「いい人がいたら、譲治郎に紹介しといたげるよ。…まぁそうでなくても、凛ちゃんなら世の男が放って置かないだろうけどね。」

 

「そ、そうですね。あ、あはは…。」

 

結婚…たしかに世の男女ならば、添い遂げる相手を見つけて、子を成して、そして老いていくものだ。

しかし今の凛の心のなかには、未だ前世のリィンとしての魂が残されている。それが男を好きになるという想いに対して、それだけはと歯止めをかけている。

そもそもこの世界に来たのは、イシュメルガを仕留めるためであって、幸せになるためではないのだ。恋愛にうつつを抜かしていては、成すべきこともなし得ない。そう心に言い聞かせながら、凛は苦笑いを浮かべて装飾店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある北方の宿場町の飯屋

 

昨日は遅くまで妻にこってり絞られた譲治郎は、遅めの昼餉を腹に収めながら待ち人を待っていた。

外は深々と雪が降り積もり、温かな食事が冷めた身体に染み渡る。

 

「…うむ、美味いものだ。」

 

そんな食事を肴に熱燗を煽れば、焼けるような熱さが喉を通り過ぎ、やがて胃の奥から燃えるように熱くなってくる。

 

「…なんだ、もう始めていたのか。」

 

銚子が三杯目を注いだとき、向かいの席に一人の青年がゆったりと座る。肩まで伸びるその髪は、日本人にしては珍しく灰掛かったもので、整った容姿も相まって、食事処の客の視線…特に女性から集めていた。

 

「なに、いかんせん寒くてな。酒でも飲まねば凍えそうだったのだよ。」

 

「よく言う。貴方はそんな柄ではないだろうに。」

 

呆れながらも青年は、店員に熱い茶と、グツグツ煮えているおでんを数品注文する。その間も、譲治郎は三杯目の熱燗で喉を潤していた。

 

「で、突然呼び出した理由は?」

 

「そうせっつくな。どうだ?そなたも一杯。」

 

「一児の親が未成年に酒を勧めるな。俺はまだ19なんだぞ。」

 

「そうか。そうだったな。いやなに、既に成人していると思わせるほどに成熟した雰囲気なのでな?つい、だ。」

 

「精神年齢百超えの爺が何を言うのやら。」

 

「そういうそちらは、『あらふぉー』だろう?」

 

酒が入っているのか、いつになく譲治郎は饒舌だ。今はまだ隊士服を着ていることがあって、普段は厳格な彼だが、今日ばかりはよく舌が回っている。

 

「…そろそろ本題に入らないか?なにか報告があるのだろう?」

 

「む、そうだな。…実はな…?」

 

「じ、実は…?」

 

ほろ酔いの面構えを解き、眉間にシワを寄せて目つきは鋭く。先程とは打って変わり、物々しげな雰囲気を醸し出す譲治郎。その目はしっかりと青年を射抜くように見つめており、思わず青年は固唾を飲み込む。

 

「実はな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我が娘がついに鬼殺隊に入ることになったのだよ。」

 

「…………は?」

 

「我が愛娘の!凛が!鬼殺隊に!入隊するのだ!」

 

「いや聞こえてる。それに声高らかに区切って言うな。しかもそこはかとなく親バカ披露するな。」

 

「何を言う!私にとっては一大事なのだぞ!声高に言わずして如何とする!嗚呼…凛の麗しき隊士服姿をカメラに収められなかったのが悔やまれてならん!」

 

「…帰っていいか?」

 

「待て、待つのだ。本題は置いといて…こちらも報告しておこう。」

 

「…なんだ?鋼…いや、奥方の惚気なら聞かんぞ。」

 

「それはまた次の機会に置いておこう。今は…『黒』の件だ。」

 

「…!!現れたのか!?」

 

黒…その言葉に青年は目の色を変え、まるで譲治郎に噛みつかんばかりに机越しに身を乗り出す。そのただならぬ空気に呑まれたのか、食事処にいる客達の視線を集めてしまった。自身に突き刺さる視線に気付いたらしく、青年はおずおずと席に座り直した。

ちょうど運ばれてきたおでんのすじ肉の串に齧り付く。

 

「…それで…『黒』がどうしたと?」

 

「うむ。私は以前、『黒』と同化していたこと、それは話したな?」

 

「あぁ。確かに聞いた。」

 

「ここ暫く…鬼を討つ中で、極々…それこそ無いに等しいほどなのだが、ヤツの気配を鬼から感じるのだ。」

 

「…鬼から?」

 

「そうだ。ヤツと同化していた私だからこそだろうな、微細なやつの気配を感じるのだ。」

 

「…それはつまり…鬼の側に『黒』が潜んでいる可能性がある…と?」

 

青年の問に、譲治郎は静かに頷く。

鬼の首領であり始祖の鬼舞辻無惨。ヤツと『黒』は組んでいる可能性が出て来たということ。嫌な組み合わせに、青年は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「…これで鬼殺隊として益々鬼の頸を斬らねばならなくなったな。」

 

「そうだな。入隊して正解だったであろう?」

 

「…鉄血としての先見の明は伊達ではない、ということか。」

 

「フフフ…伊達に皇帝や宰相をしていたわけではないのだよ。」

 

敵であれば末恐ろしいものだが、味方の側になればこれ程頼もしい男はいない。つくづく青年は目の前の男の底の知れぬ力に戦慄する。

 

「ならば貴方の娘にも伝えておいてくれ。これから戦う鬼は、益々手強くなる可能性があるとな。」

 

おでんを食べ終え、最後にお茶を煽るように飲み干すと、青年は立ち上がり店の出口へと足を進める。

 

「珍しいな。そなたが他人を気遣うとは。」

 

「俺とて人だ。それくらいはする。それに、あなたの娘のことだ。実力は折り紙付きなのだろう?」

 

「うむ。それは私が保証しよう。」

 

「だったら強い人材を気に掛けるのは何らおかしいことではないさ。それに…『俺の故郷を滅ぼした元凶の黒』を滅せる可能性は少しでも高いほうがいい。」

 

そう言い残して彼は店を後にした。

 

「ふ……宰相の時は実力を噂でしか聞かなかったが…、味方となれば頼もしいものだ。」

 

奇しくも彼と同じく、同胞となればここまで頼れる者はそうは居ない。前世では敵対する者同士であっただろう彼と、こうして共に飯を喰らい、共に敵を討てるという不思議な感覚に、譲治郎は御猪口の酒を一気に飲み干した。

 

「ふむ…。」

 

最後の一口を終えて、ふと譲治郎は顎に手を添える。何かしら思うことがあるのか、目を閉じ、思考の海に意識を沈める。

余程の案件なのだろうか。

ややあって

 

「…私が二人分の勘定を持つのかな?」

 

割とどうでも良い案件だった。

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