閃の刃は大正の世を切り拓く   作:ロシアよ永遠に

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第15話『旅立ちの日』

「暁葉…凛さんで…いらっしゃいますか?」

 

桜が満開を迎える頃だった。

不審者がいた。

玄関先に。

真っ赤な火男のお面の不審者だ。

下手をすれば鱗滝左近次レベルの。

 

「わたくし、金森(かねもり)鉄華(てっか)と言うものです。この度、凛さんの専属鍛冶師となりました。以後、よろしくお願いします。」

 

「よ、よろしくお願いします…。」

 

ペコリと会釈する火男こと鉄華。どうやら不審者な外見とは異なり、中身はマトモな人のようだ。そして女性らしい。

ともあれ、玄関先で話すというのもなんなので、家に上がるよう促すと、どうやら長旅で足が疲れていたらしく、有り難そうに上がってきた。場所はわからないが、刀鍛冶の里と言うのはよほど遠い所らしい。

 

「こちらが、凛さんの日輪刀になります。」

 

客間で面と向かって座るや否や、鉄華は抱えていた袋から本日の主役たるそれを取り出した。

白と黒が交互に織り成った柄。

まるで葉のように縁取られ、白銀に輝く鍔。

そして鬼の頸を断つ為に打たれた刃を隠す、限りなく黒に近い紺の鞘。

凛はそっと、まるで割れ物を扱うかのように両手で掬い上げ、その一種の芸術とも言えるそれを眺める。

良い刀だ。

前世で愛用していた刀や、黒ゼムリア鉱のそれも良い物だったが、これもそれに引けを取らない程に良いものなのだと、刃を見なくとも感じられる。目の前の鉄華が、丹精込めて打ってくれたのだとひしひしと感じられる逸品だ。

 

「どうぞ。抜いてみてください。日輪刀は通称『色変わりの刀』。その人の呼吸法や適正に応じて、刃の色が変わると言われています。」

 

鉄華に勧められるがままに柄をしっかり掴むと、味わうようにゆっくりとその刃を引き抜いていく。(はばき)の手応えを経て、その刃は白日の元になる。

 

「スゴい…。」

 

語弊力低下。

言葉を失うとはこのことか。

凛は、眼の前に伸びるその刃に目を奪われ、呆けてしまっていた。

 

「お気に召しましたか?」

 

「はい。非の付け所が無い程に。」

 

「それは重畳。…と、色が変わり始めましたね。」

 

見れば、元々峰が黒く、刃が白銀だった凛の日輪刀。それがまるで、染め物のように鎺付近から色が変わりゆく。

 

「ほう…これはこれは…。」

 

その変わりゆく色は鉄華にとって珍しい色らしく、身を乗り出して興味深げにまじまじと見つめる。

その染まり上がった刃は白銀一色。白い中にもしっかりとした輝きを放っており、窓から差し込む陽の光を映し、神々しくもあった。

 

「白銀とは…珍しい。…というよりも、私の知る限り、そのような色の隊士は知りませんね。」

 

「前例がない?」

 

「えぇ。銀は1名おられましたが、白銀は初めてかと。」

 

その単語に凛はなんとなく誰か察しが付く。

この暁葉家において頂点に立つ存在。

かつて伝説の女隊士と謳われた、今現在凛が最も敬い、そして恐れる女性。

 

「もしや…母上?」

 

「フフフ…やはり血は争えないと言うことなのですね。実に興味深い。」

 

言われて不思議と腑に落ちるものがあった。何せ母である千代の部屋には、まるで常在戦場、いつ何時敵襲があっても良いように、整備された薙刀…槍というのかわからないが、仮に日輪槍とでも言うべきそれが立て掛けてあるのだから。

 

「これで貴女も本格的に鬼殺隊の一員となったわけです。夜な夜な人を喰らう悪鬼を滅し、人々の安寧の礎となられることを切に願っております。」

 

「はい。身を賭して命尽きる時まで、人々の刃となり盾となれるように尽力します。」

 

「良い心がけですね。ただこれだけは言っておきます。」

 

「???」

 

「もし…もし貴女がこの先、その日輪刀を折るようなことがあれば…。」

 

ゾワリ、と凛の背筋に冷たいものが走った。

先程まで穏やかに話していた鉄華。その身に纏う雰囲気、それが黒いナニカに変貌していたのだから。

 

「お、折るようなことがあれば?」

 

震える声だった。

ヒヤリとした汗を流しながら、目の前で自身の懐から調理で使うあの刃物を取り出す彼女に、まるで命を削る思いで問うた。

そんな凛に、おそらくお面の下は満面の笑みであろう鉄華は答えた。

 

「バ ラ し ま す よ?」

 

包丁で首を掻き切るジェスチャーをする鉄華。鬼よりも、彼女の方が末恐ろしきものだとつくづく味合わされた凛だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オウ凛。ヨウヤク日輪刀ガ届イタミテェダナ。』

 

鉄華が釘という釘を差しまくって帰った後、縁側で日輪刀を眺めていた凛の肩に、クロウが灰色の羽を羽ばたかせて停まる。

 

「うん。これでようやく…私も鬼を狩れる。」

 

『ソウカソウカ。ジャア早速任務トイクカァ。南南西ノ街二鬼ガ潜ンデイルッテ情報ガ入ッテヨ。』

 

いよいよ初任務だ。

その事実に不思議と日輪刀を握る手に力が入る。

これからきっと、最終選別では比較にならない程の鬼や、鬼ならではの怪奇な術…血鬼術を扱う鬼と相対することとなるだろう。正直、不安がないといえば嘘になる。どれほど経験を積もうとも、ほんの少しの弾みや噛み合わせであっさり命を落とす事になる。

だが、そんなことで燻っていては、『黒』を倒すという悲願など夢のまた夢だ。今一度目を閉じて、この世界に足を踏み入れた理由と意思を噛み締め、ふぅ、と大きく息を吐き出す。

 

『気合イハ入ッタカヨ?』

 

「うん。」

 

『ヨシ、ンジャア隊士服ニ着替エテコイヨ。流石ニ着物ジャダメダロ。』

 

「…と、そうだったね。ちょっと待っててクロウ。」

 

縁側から立ち上がると、パタパタと急ぎ足で自室へと戻る凛。やれやれ、忙しない奴だと内心苦笑いしながら、縁側に立てかけられた日輪刀を見詰める。

 

(…スマネェナ、凛。イヤ、リィン。オ前ニ危ネェ橋バッカリ渡ラセチマッテ…。)

 

内戦のときも、黄昏のときも、自身を迎えに、そして助けるために必死に戦い、呼びかけてくれた悪友。そして今、自分は非力な烏となってしまったことへの無力感。共に戦うこともできず、ただただ伝令係として飛び回ることしかできない自分に、ぶつけようのない苛立ちが募る。

 

(オ前ガヤバイ時…俺ハナニガデキル?助ケヲ呼ビニ行クシカ、俺ニハ出来ネェノカ…?)

 

この身で出来ることは限られていた。少ない選択肢の中で、何ができるのかを模索していく。

あーでもないこーでもないとうんうん唸るクロウ。

傍から見れば、鴉が縁側で日向ぼっこして、その陽気でうたた寝しているように見える。だが寄って見てみれば、鴉が悩み、唸っていると言う絵面は中々奇怪なものだ。しかし喋る鴉と言う時点で今更であるが。

 

「おまたせ。…どうしたの?クロウ。何か悩みでもあるの?」

 

『イヤ、何デモネェヨ…ッテ、オイ!!』

 

隊士服に着替えて、自身を気遣う凛を見て、クロウは悩んでいたことも忘れて声を荒げる。

 

『オ、オマ……ソノ服…!』

 

「??服がどうかした?」

 

『ナンデズボンナンダヨ!?』

 

そう、凛が身に纏う隊士服。それは以前にメガネが用意したミニスカのものではない。スタンダードで、一般隊士服と何ら変わりないものだ。

 

「だってあれは母上が認めないって燃やしちゃったし…母上が直々に注文したのを着ただけなんだけど?」

 

鴉は唖然とした。

これから肉付きの良い凛の足を見ることがクロウの密かな楽しみだったのに。

 

「…まぁクロウが何に絶望したのかはわかんないけど、とにかく任務なら行こうか。案内、お願いね。」

 

『…ヘイヘイ。』

 

夕日が差し込む時間帯。

凛は鬼殺隊の一歩を踏み出す。

夜の帳に紛れて潜む悪鬼を狩るため、そして悲願たる『黒』を断つために。

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