閃の刃は大正の世を切り拓く   作:ロシアよ永遠に

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第16話『御剣 獅童』

季節と年はめぐり、凛が正式に鬼殺隊としての任務を請け負い始めて早くも三年の月日が流れていた。

そして、とある山村の任務にて

 

「閃の呼吸 壱の型 螺旋撃」

 

雪に埋もれ、静寂が支配する夜の森の中。

丑の刻という漆黒の夜の中でも、白銀に煌めく刃が走る。

その技の名の通り、自身が練り上げた回転…即ち『螺旋』の力の全てを、己の振るう日輪刀に乗せて一気に振り抜いた。

 

「畜生…!こんな餓鬼に…!」

 

振り抜かれた刃は、凛の技量も相俟って容易く鬼の頸を刎ねる。

怨み節を唱えながら、相対していた鬼を灰燼へと変え、そして無に帰した。

それを見届けた彼女は、腰に携えた鞘に日輪刀を収める。チン…という鍔と鞘口の奏でる音が、森に再び静寂をもたらした。

 

「これで…全員、かな?」

 

目を閉じて、耳と肌に神経を研ぎ澄ませる。八葉一刀流の技術の一つである『観の眼』。その高い気配察知能力を用いて、周囲に鬼の気配が点在しないかを探る。鬼から感じられる『黒』の気配。譲治郎程ではないにせよ、黄昏の贄として今尚『黒』の力を宿している凛は、その気配を感じられる。

ややあって、その気配は感じられず、凛は目を見開き、大きく息を吐き出す。

元来、鬼は徒党を組まず、それぞれ単独で行動していることが多い。同族嫌悪の為に、同じ鬼同士での同族意識や仲間意識などはほぼ皆無と言うのが、鬼としての大まかな常識だ。

しかし今回討伐した鬼…否、鬼達は、立て続けに四体、凛に襲いかかってきた。それもただ近場に居合わせただけではない。連携にも似た動きで。

 

(…今回の鬼の徒党…偶然?それとも…。)

 

これが何らかの前触れなのか。

そんな予感を過ぎらせながら、凛は腕を前に伸ばす。

ややあって、その手には見慣れた灰の鎹鴉がゆっくりとその羽をおろした。

 

『オ疲レダナ、凛。』

 

「いや、それという程は疲れてないよ。今の鬼たちは、複数体だったけど、下級の鬼ばかりだったし。」

 

『イヤ…労イノ社交儀礼ダロウガヨ。俺ダッテ、オ前ガアレ位デドウコウナルナンテ微塵モ思ッチャイネェサ。』

 

クロウとしてみても、凛は身体能力はともかく技量において、向こうの世界で指折りの剣士である称号の剣聖を持つ実力者だ。そうそう遅れを取るものではないことは充分わかっているつもりだ。

だが、やはり心配なものは心配なのである。

 

『ッテオイ、凛。頬ガ切レテルゾ?』

 

「へ?…あ、ホントだ。」

 

クロウが言うままに頬を掌で拭えば、その白い肌に赤い血がベタリと付着する。

それ程強いと思えない鬼だったので、完全に躱したと思っていたのだが、どうやら掠めていたようだ。

 

「…躱しきれていなかったか。まだまだ力不足だなぁ。」

 

『ッタク、チャント蝶屋敷ニ行ケヨ?ソノママ帰宅ナンテコトハ…』

 

「し、しないよ!間違ってもそんなことしない!」

 

凛がここまで焦る理由…

それは勿論、母親である千代である。

彼女はその厳格かつお淑やかな性格上、娘である凛に対してお淑やかさや女子たるものを求めている。

故に一度、腕に軽い怪我を負ったまま帰宅したときの事を抜擢すると…

 

傷が見つかる

千代、般若化

無言で凛を抱え、全盛期もかくやと言わんばかりの速度で蝶屋敷へ

治療

帰り道と帰宅後に、早い治療で傷跡が残りにくくなることと、女子の体に傷を残すことの重大さをこんこんと説教

 

こんな感じである。

千代の説教の恐ろしさは、凛もそうだが、譲治郎やクロウまでもが恐れるものとなっている。

何度もいうが、暁葉家ヒエラルキートップは伊達ではない。

 

「まぁ…怪我した以上はちゃんと蝶屋敷に行くから、クロウは先行して伝えといてくれる?」

 

『合点!任セトケェ!』

 

頼もしげに凛の頼みを受けたクロウは、勢いよく飛翔し、未だ暗い空の暗闇と同化して見えなくなった。

 

「なるほど…良い腕をしているな。暁葉 凛。」

 

さて、自分も蝶屋敷へ向かおうかと意気込んだとき、不意に背後からの男の声で身体を震わせる。

振り返れば、対し服を纏った長身かつ灰の髪を持つ青年。その『右腰』には隊士の例に漏れず日輪刀が差してあり、同じ鬼殺隊であることが容易に伺える。

 

「…どちら様、ですか?」

 

「俺は御剣 獅童。…見ての通り、しがない鬼殺隊だ。」

 

しがない鬼殺隊。その割には凛の肌にはピリピリと感じる。眼の前に立つ彼から発せられる、圧倒的な気配、そしてそれに伴う実力。それは正にこの世界で言う『柱』に準ずる程に。そして、凛の『観の眼』を掻い潜る実力者だ。

 

「先程の戦い。悪いが見せてもらっていた。」

 

「…それはどうも。拙い動きで申し訳ありません。」

 

声が震える。

目の前の男に気圧されていたのだ。

敵対している訳ではない。なのに、彼の気に当てられて、足と声が震え、身体から幾重にも重くなり、嫌な汗がじんわりと流れ出る。

 

「なるほど『閃の呼吸』…悪くはない。お前の父が墨を付ける程のことはある。」

 

「父を…御存知なのですか?」

 

「彼を知らぬ隊士は居まいよ。なにせ、お前の母上と並んで、最早伝説に等しい人物なのだからな。」

 

確かにそうだ。鬼殺隊ならば最古参であり、最も柱に近い男として君臨しているのだから、知らぬ訳ではないだろう。

 

「特にお前の母上とは昔からの知り合いでね。よく稽古をつけて貰っていた。」

 

まるで遠い昔を懐かしむように空を見上げる獅童。その仕草に凛は、どこか既視感を覚えていた。

 

「出来ればもっと早くお前の実力を見ておきたかったのだが、まぁそれは良いさ。譲治郎さんが判を押すだけの実力と解ったんだからな。なんせ、俺が殺気を全開で当てても気を失する事がないんだ。それだけで十分さ。」

 

凛の実力に満足したのか、身体から放っていた殺気を収めると、獅童は戯けたように肩を竦める。

その瞬間、身体に伸し掛かっていた圧でが霧のように消え失せ、気張っていた凛は思わず尻餅をついてしまった。

 

「何れまた会い、そしてともに戦う事もあるだろう。その時まで更に力をつけておけ。我等の敵は、それほどまでに強大で油断ならない物なのだから。」

 

「無論、そのつもりです。目的を果たせぬまま朽ちるつもりはありませんから。」

 

「それで良い。だが一つ言っておこう。お前の中の『鬼』の力。使い所を見誤るなよ。」

 

「え?それってどういう…」

 

凛の問いに答えることもなく、獅童はまるで風のようにその場からかき消えてしまった。

鬼の力…即ち、自身の中にある『黒』の力の残滓の別名。何故それを彼が知っている?人前でこれを見せたのは、後にも先にも幼き日に譲治郎の前での一回だ。父がそれをおいそれと人に話すことがないのは知っている。それだけに、御剣 獅童と名乗った青年の素性が気に掛かっていた。

 

「…いま、考えてても仕方ない、か。」

 

凛は立ち上がると、尻についていた雪を払い落とし、山を下っていく。

御剣 獅童

彼の正体を模索しながら、凛は蝶屋敷へと足を進めるのだった。




御剣 獅童…一体何者なんだ
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