閃の刃は大正の世を切り拓く   作:ロシアよ永遠に

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タイトルに別に深い意味はないです。
そしてカナエさん警報発令


第18話『お人形』

「委員長。」

 

「委員長言うなって言ってるのがわからないんですか?馬鹿なんですか?死ぬんですか?」

 

「隊士服がないんだけど、どこに行ったか知らないかな?」

 

たっぷり半刻、薬湯を堪能して身を清めた凛は、おそらく診察を終えたであろう、しのぶを見つけて呼び止めた。

怒りとともに青筋を浮かべながら振り返った彼女を受け流し、凛はずけずけとしのぶに尋ねる。

そういうとこだぞ、凛。

 

「臭うって言ったでしょう?今頃アオイがこれでもかと洗って、お天道さんの下で天日干ししてますよ。」

 

遡ること数分前。風呂を終えて脱衣場に行けば、脱衣かごに入れていた鬼殺隊服と下着はどこへやら。代わりにおいてあったのは、入院患者の身に纏う白を基調とした簡素な衣服だった。

 

「いい機会です。働き詰めのおバカさんは、最低限隊士服が乾くまでは蝶屋敷で休んでいてください。」

 

「え…?」

 

「ちなみにこれは御館様命令です。クロウさんから言付けがありましたので悪しからず。」

 

言うだけ言ってスタスタと立ち去るしのぶに、呼び止めるだけの言葉を凛は持ち合わせていなかった。

 

「………いきなり休めって言われてもなぁ…。」

 

正直、休みという休みは、隊士生活の中でそれというほど取っていなかったのが災いした。

 

「仕方ない、鍛r…」

 

「ちなみに鍛錬の類も禁止ですからね。」

 

にゅっ、と廊下の角から、決して良い意味の笑顔ではないしのぶが顔を出して追い打ちをかける。

折角道場があると言うのに…。

 

「どうせなら、街にでも行ってきたらどうですか?どうせ任務任務でお給金なんてほとんど手付かずなんでしょう?」

 

「なんでわかるんだ!?」

 

「凛さんですからね。」

 

立ち去り際は、今度は正に、してやったりと言わんばかりの笑顔で去るしのぶ。

そんなにわかりやすい性格なのだろうかと、凛は自分に問い掛ける。もちろん、返答などない。

 

「…まぁたまには…息抜きも必要…なのかな。」

 

しかし、そこまで決断をしておきながら、一つの問題に直面する。

お金のことは問題ない。

だが大きな大きな障害がここで凜の前に立ちふさがってきた。

 

「そういえば、服がない…。」

 

そう、普段着と化していた隊士服は、今現在日と風に晒されている。着替えを持ち歩いていなかった凛の服はと言うと、今着用している入院服だけ。流石にこれで街を歩けば、道行く人々から怪しい目で見られるのは不可避。病院から抜け出してきたやべーやつと言う認識を持たれるだろう。

さてどうしたものかと思案すれば、存外答えは簡単に導き出された。

 

「そうだ、委員長から借りればいいんだ。」

 

言い出しっぺの法則というものがある。街に行くよう勧めたのはしのぶだ。だったらその案を出した彼女に服を借りれば万事問題ない。

そうと決まれば早速と、彼女が曲がった角を曲がったとき。

 

ぼふん。

 

「うわっ!」

 

「ひゃっ!」

 

程よい弾力に弾かれて、凛は2、3歩後退る。反射的に目を閉じてしまった凛の耳に、知った声が入ってくる。

 

「あら、凛ちゃん。お風呂はもういいの?」

 

カナエである。

相変わらずホワホワとした空気をまとわせており、少し前世に会った委員長…エマに似た雰囲気を感じる。

 

「えぇ、身を清めさせて頂きました。」

 

「そう、それは良かったわ。…ところで急いでたみたいだけど、どうかしたの?」

 

「いえ、休みを頂いた間、手持ち無沙汰なので街に繰り出そうと思ったのですが、服が無いのに気付きまして…。」

 

「そうねぇ。確かに隊士服は洗濯中だもの。それにその服で出かけるのもねぇ。」

 

「ですので、委員ちょ…しのぶに借りようかと…。背丈は少しこちらが大きいですけど。」

 

「あ、だったら、私のお古でいいなら着てみない?多分、凛ちゃんの背丈に合うのもあると思うし。」

 

「それは嬉しいですけど……いいんですか?」

 

「いいのよ。しのぶにはまだ少し大きいし、今の私には小さいもの。だったら箪笥の肥やしにしているよりも、誰かに着てもらったほうが、服も喜ぶわ。」

 

そこまで言われて断るのはカナエの厚意を無碍にしてしまい、失礼にあたる。

そう考えた凛は、彼女の案に頷くに至った。

 

 

 

しかし、

 

これが凛にとっての悲劇の幕開けだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思えばカナエの部屋に入ったのは初めてだった。

案内されるがままにやってきた部屋。

至ってシンプルで、それというほど特筆すべきの物でもない。

ただ、『一人部屋にしては過剰な数の箪笥』を除いて。

 

「フフフ…嬉しいわ、凛ちゃんがこうして私のお古を着てくれるって言ってくれて。服は置いてて楽しいものじゃない。やっぱり着てみて初めて服なのよ。」

 

ニコニコと箪笥の一つ開けて、ゴソゴソと服を物色している。

おそらくは、自分に合う着物あたりを選別してくれているのだろう。

凛からしてみれば、無難で程々の物であれば言う事はない。

まぁカナエの事だ。奇抜な物など出しはしないだろう。

凛はそう考えるが、それが実に甘い考えだったと彼女は語る。

 

「じゃあまずは…」

 

「まず?」

 

「凛ちゃん、これを着てみて!」

 

フワリと広げられるそれは、黒の下地に襟首や袖口、そして短いスカートの先に白のフリル。さらに白いフリフリとしたエプロンがついた衣服…。

 

「メイド服…だと……!?」

 

「あら、凛ちゃん知ってたの?そうなのよ。とあるルートでね?西欧から仕入れたの!ちょっと値が張ったけど、お外の国の服って斬新だからつい買っちゃったの☆」

 

買っちゃったの☆じゃない!と、凜は内心でツッコミを入れる。

そりゃまぁ確かに、明治の文明開化以降は西洋の技術や文化が日本の国に流れ込んで来ているのは確かなのだが、今の時代にメイド服は時代を先取りし過ぎているのではなかろうか。

 

「や、あの…普通の着物とかであれば…」

 

「あら?私はお古を着てみない?とは言ったけど、着物と限定はしてないわよ?」

 

「………ゑ?」

 

「別段、嘘はついていないわよ〜?」

 

これはアレだ。

着せかえ人形にされるパターンだ。

現にジワジワと後退りする凛に詰め寄るカナエは、実にいい笑顔で、そして獲物を見つけた獰猛な魔獣の目のそれだから。

 

「はぁい、ヌギヌギしましょうねぇ〜?」

 

新しいおもちゃを見つけたように目を輝かせたカナエにより、凛は今日…また一つ女子としての階段を登った。

そして…それと引き換えに大切な何かを失った…気がした。

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