閃の刃は大正の世を切り拓く   作:ロシアよ永遠に

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第23話『思わぬ邂逅』

廃寺

 

譲治郎と杏寿郎が腹拵えを済ませた村から程近い、山越えの道沿いにひっそり佇む寂れた寺だ。その境内を囲む塀や寺そのものに、所々穴が空いたり崩れたりしている所を見るに、長年の間人の手が入っていない事を意味する。

そんな廃寺の門に立つ二人の男が内部を覗き込む。

 

「うむ、やはりここが鬼の住処と見て間違いないですね。」

 

「そのようだな。気配が複数、それも中々強い。」

 

情報はありふれた物だった。

夜にこの廃寺近くを通ったと思われる人々が尽く行方不明になるという情報が鬼殺隊に舞い込んできたというもの。

野盗の仕業かもしれないが、それならそれで拘束すれば良し、鬼ならば斬首する。それだけだ。

 

「しかし、譲治郎殿が御一緒して下さるならば、これ以上に頼もしいものはありません!俺も微力ながら助太刀しましょう!」

 

「だがあくまで君が主となることを努々忘れるな。君はこれから柱として鬼殺隊を引っ張っていく事になるであろう男だ。実戦経験は多いに越した事はあるまい。」

 

「無論!」

 

「良い返事だ…ならば!」

 

譲治郎の声に合わせ、同時に門をくぐって境内に駆け込む。

同時に、

境内に入ったのを見計らうように4つの影が二人へ殺到する。

完全なる不意打ち。

並の隊士なら反応が間に合わず、哀れ屍へとその姿を変えるだろう。

しかし生憎と彼らは『並』などではなかった。

 

「黒の呼吸 壱ノ型 黒焔撃」

 

譲治郎のその手に持つ日輪刀。それから放たれた高速の斬撃が瞬く間に3体の鬼の頸を跳ねた。

 

「炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天」

 

杏寿郎も得に労することはなく、迫りくる鬼の頸を、斬り上げの太刀筋である弐ノ型で両断。

不意を突き、優位に立ったと思ったであろう鬼は、自身が何をされたのかを理解する間もなく、その身体を塵と変えていく。

そんな中、彼らが最期に見たもの。それは日の力を宿すという日輪刀。

杏寿郎の日輪刀は刃が赤いという以外は特に変わらないものだろう。

だが譲治郎のそれは違った。

それは刀というにはあまりにも大きすぎた

大きく

分厚く

重く

そして大雑把すぎた。

それはまさに鉄塊だった。

およそ人の胴程はあろうかと言う幅。

それを片手で振り回し、そして同時に迫る三人の鬼の首を一瞬で切り捨てたのだ。

 

「うむ!あいも変わらず、譲治郎殿の太刀筋は凄まじいな!俺もまだまだ鍛錬が足りない!」

 

「いや、これを真似ようなどとは思うなよ?最悪肩が使い物にならなくなるからな。」

 

そこから始まるのは蹂躙だった。

今まで鬼を恐れた人々を一方的に喰らっていた悪鬼共に、鬼殺隊の最強の恐ろしさと言うものを嫌というほど味あわせることとなる。

幸いなのは、鬼にとってその恐怖を味わったのが、死ぬ前の一瞬だったことだろうか。

 

「流石は譲治郎殿!学ばせて頂く為に同行させて頂きましたが、圧倒的でどこを参考にすれば良いやら分かりかねます!」

 

「それは褒められているのか貶されているのか微妙な感想だな。」

 

「無論!称賛しているのです!とても真似できぬ太刀筋故!まだまだ俺も精進が足りぬと痛感した次第です!」

 

言ってしまえば年季が違うのだから仕方ない。

片や十数年の鍛錬。

片や百年近くの経験。

戦い方や体の使い方においては、譲治郎が圧倒的に積み重ねた月日が大きいのだ。

それでもその戦いぶりを見て、向上心を滾らせる杏寿郎。その燃える心があるのなら、きっと彼はまだまだ強くなれる。

 

「…ふむ。」

 

将来有望な若者に心躍ったのも束の間。ふと譲治郎が眉をひそめて周囲を見渡す。

 

「む!どうかされたか!?」

 

「いや…何でもない。私は少し所用を済ませて下山する。杏寿郎、君は先に帰路につくと良い。」

 

「良いのでしょうか!?」

 

「うむ。今回の任務はこれで終いだ。隠の諸君にも引き上げるよう伝えてくれたまえ。」

 

「御意!それでは失礼仕る!」

 

任を終え、余裕を残して軽い足取りで下山する杏寿郎。

その姿を見送り、気配が完全に遠のいたのを見計らい、譲治郎は誰に言うでもなく呟いた。

 

「さて…そろそろ出て来てはどうだね?」

 

「気付いていたか。流石、と言っておこう。」

 

青年のような声だった。 

声とともに寺の屋根の上に現れ、そして発せられるのは、鬼に極めて近く、そして限りなく遠い気配。

中性的とも取れる顔つきに白く長い髪。

頬から鼻に伸びるように広がる痣。

そして鬼とよく似た人ならざる目。

結膜は血のように赤く染まり、角膜は燃えるようなギラつく金の中にネコのような瞳孔。

見える端々の色付きは違えど、その姿はとても懐かしさを感じるもの。

 

「長年、私は貴様を追っていた。それがよもや、そちらから現れてくれようとは思いもしなかったぞ。」

 

「ふん…我としては会うのも憚られた。ただ、懐かしき気配に惹かれただけの気まぐれに過ぎぬ。」

 

「だがこちらとしては千載一遇の好機…相見えたのであれば、その頸を貰い受ける。」

 

語りを終え、かの青年を見据えた譲治郎は日輪刀『鬼ころし』を構えると、その身体からは先程まで見せなかった赤黒い気を放つ。

鬼神吼

前世で身体強化として用いていた呼吸法だ。

 

「丁度良い…我も大分『この身体に馴染んできた』所だ。肩慣らしがてら、相手をしよう。」

 

そう彼が腰から抜き放つのは、赤い太刀。

だが赤いと言えど、杏寿郎の日輪刀のように鮮やかな色合いのそれではない。

禍々しく、まるで鮮血が染み込んでいるかのような赤黒いものだった。

 

「来い、嘗ての我が『起動者(ライザー)』よ。我が欲したその力…今一度見せてみよ!」

 

「良かろう…!ならばその身を以て知れ!暁葉 譲治郎…否!今この時は敢えてこう名乗ろう!

 

獅子心皇帝ドライケルス・ライゼ・アルノール!我が前世の遺恨を断ち切らんが為、この身を賭して貴様を滅する!」

 

「来るがいい…ドライケルスッ!!!」

 

「征くぞ…『黒のイシュメルガ』!!!」

 

これは偶然か、それとも必然か。

僻地で相見えたのは宿縁の者。

前世からの遺恨を滅するため、ここに於いて今世で初めて、譲治郎は『本気』を出した。

全ては、家族の『宿願』の為に…。

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