閃の刃は大正の世を切り拓く   作:ロシアよ永遠に

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第29話『人である証』

「おはよう皆、今日もいい天気だね。2日続けて皆の顔を見れて、私は嬉しく思うよ。」

 

再び始まる柱合会議。2日連続での会議など前代未聞であった為、柱の誰も彼もが怪訝な表情を浮かべている。

更に柱に加え、二人…それも柱を除く最強戦力として名高い暁葉夫婦…譲治郎と千代も参列していることがそれにさらに拍車をかける。

極めつけは後手を縄で縛られ、白州の上に正座させられている年若き鬼殺隊の少女がいる。その風貌はボロボロで、見るからに激戦を終えてこの場にやってきたことが明らか。治療も最低限の応急処置のみであり、服に至っても所々痛々しく破れて、肌や傷が生生しく顕となっている。

そんな少女…娘である凛の姿を見て、内心今すぐ蝶屋敷に運び入れて治療を受けさせたい、もしくは肌を隠すなにかを羽織らせたい千代だが、御館様の前ということもあり、正しく断腸の思いと言わんばかりに我慢していた。

 

「御館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます。」

 

涙を流しながら手を合わせ、ジャリジャリと数珠を鳴らす巨漢…岩柱である悲鳴嶼行冥が、恒例の柱代表の挨拶を述べる。

それに満足した御館様こと、産屋敷輝哉は変わらぬ微笑みを浮かべながら頷くと、口火を切った。

 

「君が暁葉 凜だね。君のことは両親…とりわけ譲治郎の方から常々聞いているよ。」

 

「…はっ!御館様とお会いできて、至極光栄に御座います。」

 

譲治郎の話には聞いていたが、こうして御館様と呼ばれる人物と実際に会ってみて、成程。それほど顔を合わせて時間が経ってはいないが、確かに物腰柔らかく、両親とは別の意味で親かと思えるかのような安堵感が感じられる人物だ。

 

「皆も昨日の今日で集まってもらい申し訳ないね。昨日は譲治郎が上弦の壱と、そして不可思議な鬼邂逅したという話だったけど、今日は上弦の弐の話だ。」

 

途端、柱の皆の目の色が変わる。今まで下弦の鬼はともかく、上弦の鬼の遭遇など滅多なことではなかったからだ。

 

「報告によると、昨晩に花柱のカナエが上弦の弐と交戦。危ういところを、次いで暁葉夫妻の娘である凛、君が交戦して撃退。という内容だったんだけど、相違ないかい?」

 

「はい、相違ありません。」

 

「同じく。」

 

重症を負っているカナエは、簡易の椅子に腰掛けつつ、輝哉の問いに応じ、追うように凜も同意する。

 

「なんと…!一隊士が柱を追い詰める鬼…しかも上弦の弐と交戦し、加え撃退とは…!?」

 

驚く煉獄槇寿郎。対し、譲治郎は口許を緩め、密かに笑みを浮かべる。『流石は我が娘だ。』と言わんばかりに。

 

「強い剣士(子供)が居ることは、親としても、そして私としてもとても喜ばしいことだよ。いい子を育てたね、譲治郎、千代。」

 

「はっ!」

 

「もったいなきお言葉です。」

 

あの二人の娘ならばあり得るか、と柱の面々が納得する中で、ならば何故そのような功績を残した隊士が拘束され、一昔前のお裁きのようにされているのかという疑問が生まれ始める。

 

「ただ、同時に交戦の中で由々しき報告が入ってね。その事実確認をしなければならない。」

 

カナエと、そして凛はいよいよかと気を引き締める。報告する上で避けて通れない議題だ。

だがカナエは信じる。きっと御館様なら良い裁断をしてくれる、と。

 

「凜。」

 

「はい。」

 

「君が上弦の弐と戦ったとき、まるで鬼と言わんばかりの姿と力を見せた…そう報告があったけど、それは事実かい?」

 

やはりそこか。

想定はしていたためにたじろぎはしない。誠心誠意を以て答えることを意に決していた凛は、コクリと頷く。

 

「なんと…!譲治郎殿の娘が鬼であると!?」

 

「嗚呼…可哀想に…。鬼となってしまうなどと…!」

 

柱の面々がどよめく。

何せ自身らが絶対的な信頼を置く譲治郎と千代。その娘なのだ。約一名は、見えない眼から涙をドバドバ流しながら、祈るように手を擦り合わせている。

個人的な付き合いのある槇寿郎ですら、『どういうことだ?』と言わんばかりに横目で彼を睨む。

 

「皆、驚くのもわからなくはないよ。私としても、報告を受けたときには耳を疑ったんだから。でも、本当に凜が鬼だとしたなら、今こうして天の日を浴びていることが異質な鬼である事の証左。とりわけ、私達の言う鬼とは違う存在なんじゃないかと思うんだ。」

 

確かに真昼のお天道様が照らすこのお白州の上で、こうして平然としている鬼というのもおかしな話だ。何よりも未だ傷が癒えていないことをみるに、鬼の驚異的な自然治癒もない。

鬼という言葉に過剰反応していた柱達は平静を取り戻すに至る。

 

「凜、君の…鬼の力と仮定しよう。君のその力はいつから持っているのかな?」

 

「それは…。」

 

言って信じてもらえるか…。その迷いに口をつぐむが、横目で見た両親。その目はしっかりと凛を見つめ、力強く頷いた。

 

「幼少の頃、今の呼吸を編みだす過程で、無念無想に至る型を使用した際、その力を発現するに至りました。」

 

「ほう…。」

 

「父もその場に居合わせており、判断を仰ぎ、未知の力ゆえにいざという時まで秘匿する様に厳命されました。」

 

「そうなのかい?譲治郎。」

 

「相違ありません。」

 

迷いなく、譲治郎も応じる。

 

「私としても驚くばかりで…。当時齢六という歳に関わらず、発現させたそれを間近で見ていた私は、その能力に力強さとともに得体のしれないものを感じました。故に、有事の時以外はその力の使用を禁じたのです。過ぎた力は身を滅ぼす。そしてあの鬼と思われても致し方無い外観に変貌するのは、鬼殺隊に身を置く以上、他の隊士を混乱させるのも…。」

 

「成程、そうだね。二人の言う内容は確かに理に適っている。」

 

納得はしてもらえたようで、胸を撫で下ろす暁葉家三人。

 

「もし凛の力が、私達が滅すべき鬼のものなら、彼女にあの男…鬼舞辻無惨、もしくはそれに近しい血を持つ上弦の鬼が幼少期に接触し、鬼に変えたことになる。けれども陽の光は問題ない鬼を、あの男がみすみす見逃すはずもないだろうね。だとしたら、凛は限りなく白だ。」

 

「限りなく…というのは?」

 

「この俺が派手に教えてやろう。小娘。」

 

凛の疑問に答えるように、跪いていた派手な白髪の男が応じる。

 

「俺は音柱 宇髄天元。地味なお前が、鬼ではないと派手に証明する最後の課題だ。」

 

「よろしく頼むよ。宇髄。」

 

「おい宇髄。貴様、私の娘を地味だと?たしかに派手ではないが、かと言って地味でもない!そこらの町娘などより余程整っておるわ!」

 

親バカ極まる。愛娘を地味と言われて黙っていられないのがこの譲治郎。娘自慢をここぞとばかりに開始した。

 

「今はまだ幼いなれど、数年後にはすれ違う老若男女誰しもが振り返るほどの絶世の美女になろうことは確定的に明らか!艷やかな黒髪!整った目元!ハリのある唇!細すぎず、太ましくない手足!透き通った声色!胸部こそ未だ慎ましいが、それを補って余りある!わかるか!わかるだろう!?わからんか!?では命じよう。自害しろ宇髄。ぶふぁ!?」

 

「御館様、宇髄殿。私の愚夫が話の腰を折ってしまい、申し訳ありません。」

 

更に畳み掛ける譲治郎に、千代は埒が明かないと言わんばかりに頭を鷲掴みにすると、力の限りに振り下ろす。哀れ譲治郎は、その頭をお白州に埋められ、ようやく静寂を取り戻す。

 

「いいよ。愛されているね、凛。」

 

「いえ…私の愚父が失礼しました。」

 

このような場で親バカを発揮するなど思いもせず、そして公衆の場であのようなことを言われて、凛は堪らず顔を伏せる。その顔は耳まで紅潮していた。

 

「私もね、三歳の子がいるんだけれども、やはり我が子は可愛らしいものだね。目に入れても痛くないと思うのは正にこのことだと感じたよ。常々譲治郎が娘の自慢をしてくるのも同感だ。そうだ、宇髄も奥さんが三人いるんだから、そろそろ子供はどうなのかな?子供は可愛いものだよ。」

 

「いえ…俺はそういうのは地味にボチボチと………じゃねぇ!!何御館様も親バカやってんですか!?譲治郎の旦那に触発されないで下さいよ!?話の腰が派手に折れまくってるじゃねぇか!?」

 

「ははは、そうだね。私としたことがつい…。それで、何の話だったかな?」

 

「オィィィィッ!小娘が鬼じゃねぇっていう証明でしょうがぁ!」

 

「嗚呼……混沌極まれり…柱として不甲斐なし…。」

 

宇髄の血圧がヤバいことになりそうなので、本題に入ることにした。

落ち着いた宇髄が懐から取り出したるは、赤い液体が入った小瓶。

 

「この中には血が入っていてな。こいつをお前に嗅がせて、鬼としての食人衝動がねぇか派手に確かめてやるんだよ。」

 

「はぁ…。奥さん三人もいるんですか?…不埒ですね。」

 

「ちげぇよ!だれが不埒だ!三人共平等に毎晩派手に愛しとるわ!!てか地味に話脱線させるなっての!」

 

やはり親子か、と宇髄の中で、暁葉親子に苦手意識が芽生え始めてきた。

 

「話を戻すぞ。血っつっても、これはただの血じゃねぇ。鬼が匂いを嗅ぐだけで、思わず派手に飛びつきたくなる希少な血…稀血だ。」

 

稀血

人間の中で珍しい系統で、鬼にとってとても栄養価の高い血の事だ。鬼が稀血の人間一人を食らうことで、五十から百人分に匹敵する栄養を得られるらしい。つまり、鬼にしてみれば欲して止まないものだ。

 

「なるほど。私を試すにはうってつけですね。それなら早く始めましょう。少し怪我が痛んできたので。」

 

「余裕じゃねぇか。だったら派手に我慢してみせろよ。」

 

瓶を開けると、正座する凛の目の前にポタリと稀血を垂らした。真っ白なお白州に鮮血が飛び散るものの、当の凛は全く意に介さないと言わんばかりに微動だにしなかった。

 

「…どうなんだよ?」

 

「何がですか?」

 

「ほしくねぇの?」

 

「寧ろ早く終わらないかなって思ってます。」

 

「…………。」

 

「……決まりだね。」

 

何やかんやあったが。凛の潔白は証明されたことで、お白州に居た誰もが大きな溜息を一つついた。

片や安堵の、

片やようやく終わったかと言わんばかりの。

 

「でも凛。皆がその力を認めたことは良いけれど、安全性については何とも言えないのが現状だ。決して、乱発や無理はしないようにね?」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「じゃ…これで柱合会議を終わりにするよ。」

 

輝哉の一声で会議の終了が宣言され、凛はようやく縄を解かれて解放された。

しかし、傷が浅くないこともあり、隠に背負われて、千代の付き添いで蝶屋敷へと直行となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お白州に埋められた譲治郎を残して。

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