閃の刃は大正の世を切り拓く   作:ロシアよ永遠に

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第30話『夢』

「いだだだ!!いだいって!!」

 

「当たり前です!無茶してこんなに怪我だらけなんですから!」

 

「全くです。傷跡が残らぬよう、徹底的に治しますよ!」

 

蝶屋敷 処置室

柱合会議の後、ここに運び込まれた凛は、千代としのぶの二人がかりで拘束されて、消毒を受けている。浅い傷が全身にできているのに加え、脇腹に受けた大きめの裂傷は縫合が必要なほどのものだ。消毒に次ぐ消毒。それが終われば縫合と、処置のオンパレード。痛みに慣れているはずの凛でさえ、冒頭のように悲鳴を上げてしまうほどに沁みていた。

 

「治癒力を高める薬は沁みるんです!ほら、昔から言うでしょう?良薬は口に苦しと!」

 

「だ、だからって!!限度がぁいだだ!!」

 

「我慢しな…さいっ!」

 

「いっ!いっ!!

 

 

 

 

いいぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

そんな感じで少女の悲痛な叫びは、しばらく蝶屋敷を支配していたとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一生分の痛みを味わったような気がする。

とんでもない処置からか、凛は魂が抜けたように病室のベッドで休んでいた。

蝶屋敷の技術は確かなものだ。あっという間に消毒と縫合と終えて、次の患者の処置にかかっていたのだから。

千代も、前世で伊達に数百年も生きていないらしく、その年月で培われた技術はしのぶと遜色ないものだった。

とはいえ、全身が傷だらけだったということもあり、入院着から見える肌には、あちらこちらに痛々しい傷を隠すガーゼが貼られているのは致し方ないものだが。

 

「これに懲りたら、もう無茶はしないように!いいですね!」

 

「…善処します。」

 

入院のため、病室の札を付けに来たしのぶに、改めてと言わんばかりに怒られていた。

…解せぬ。

脇腹の傷以外は軽傷なので、そう長らく入院にはならないだろう。だが凛としては、脇腹に受けた傷は不名誉の証であった。

 

(前世ならあれくらいなんとか捌けた筈…。まだまだ鍛錬不足ということか…。明日から訓練量を増やして…。)

 

「…今、訓練を増やそうとか考えてます?駄目ですからね!千代様からも、しっかり治すように厳命を受けていますので、悪しからず!」

 

「…はい。」

 

心が読めるのか、釘を差されてしまった。千代からもそういう命が下ったとあれば、万一訓練しているのを見られ次第報告され、即座に駆けつけて説教の嵐が吹き荒ぶことは想像に難くない。何時間も、下手をすれば夜通しになるので、幼い頃から幾度となく経験してきた凛にとってはトラウマだったりする。

 

「でも…。」

 

激おこぷんぷん丸から一変。申し訳無さそうに俯きながら、しのぶは言葉を続けた。

 

「凛さんのおかげで、姉さんは危ないところを助けられたのも事実です。その件は、とても感謝しています。本当にありがとうございました、凛さん。」

 

「委員長…。」

 

「…台無しですよ、凛さん。ここは名前を呼ぶのが筋じゃないんですか?」

 

やれやれ、いつもどおりかと、少し笑みを浮かべながら溜息を一つ。いつもの調子に戻ったお互いに微笑み合うと、しのぶは踵を返す。

 

「とにかく、傷が塞がるまでは安静にしておくようにお願いします。」

 

「わかった。これ以上説教は傷に悪いからね。大人しくしておくよ。」

 

「よろしい!」

 

その返事に得心したのか、満足げに部屋を後にするしのぶ。残された凛は再び横になると、間もなくして瞼が重くなってくる感覚に見舞われた。

 

(あれ…?なんだ…これ…?みょう…に……ねむ……く…………。)

 

そう時も経たず、凛の意識は暗闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれ……?ここは……どこだ?)

 

意識が浮上したとき、見覚えのない景色が飛び込んできた。

見るからに豪華絢爛な城。その廊下を、自身の意識とは関係なく、ゆっくり、ただゆっくりと歩いていく。

見渡せば、その豪華な城は何処かおかしい。襖や引き戸、その隙間から見える畳がそこらかしこにあるが、それは城としてままある光景だ。

だがどうだ?はるか前方には、まるで横から城が生えたかのように柱や引き戸が築かれているではないか。

独りでに歩が進む中で、まるで重力がおかしい空間であることを認識する中、まるで舞台のようにせり出た広めの床がある空間へと辿り着いた。

 

『よくもまぁオメオメと…柱のみならず、一般隊士の女に手酷くやられて帰ってくるとは…上弦の弐としての立場を理解していないと見えるな?童磨よ。』

 

西洋の服に身を包んだ黒髪の男が、先日戦った上弦の弐の生首を掴み、青筋を立てて咎めている。

その身体からは途轍もない力を感じるのがありありと凛には感じられ、只者ではないことは確かだ。

 

『俺としてもまさかあそこまでやられるなんて想定外でしたよ。ややもすれば、既に柱としての実力が…』

 

『言い訳はいらん。貴様らに私が課しているのは青い彼岸花の捜索、そして鬼殺隊を滅すること。よもやそれを忘れたわけではあるまい?』

 

『まさか!俺が貴方様の御命令を忘れようはずが…』

 

『ならばなぜ最初から殺しに掛からなかった?なぜ遊んでいた?なぜだ?答えよ童磨?なぜだ?』

 

ミチミチと、童磨の頭を握る手に力が入っているのか、嫌な音が響いてくる。それでもなお童磨は余裕の表情を消さない。

 

『よしんばたかが柱一人を消したとて、それが何なのだ?結果、貴様は双方取り逃がし、鳴女がいなければ頸を斬られていた。違うか?』

 

『いやぁ、俺はそのような…』

 

『お前は私の言うことを否定するのか?』

 

ぐしゃり

男の指が頭蓋骨にめり込む音が響き渡った。

 

『何も違わない。私は何も間違えない。』

 

『流石にちょっと痛くなってきたなぁ…。』

 

『痛ければ何なのだ?貴様がオメオメと敗れ帰ってきたことがそもそもの原因ではないのか?なぜそれが理解できないのだ?

 

童磨!

 

童磨!!

 

童磨!!!

 

『うぎぃ!』

 

とうとう余裕も保ちきれず、情けない悲鳴を上げる童磨。

一頻り癇癪を童磨にぶつけ終えた男は、興味を失ったかのように童磨の頭を床に投げ捨てる。

 

『上弦の弐も堕ちたものだ。これでは貴様の存在すらも必要か考えさせられるな。いっそ…!』

 

『まぁ待て、同志。』

 

見ているだけだった凛の身体から声が発せられる。

 

『上弦の弐が戦ったことでその一般隊士。その異常な力の片鱗を感じることができた。それは思わぬ収穫だ。故に、私に免じて処分は控えてはくれぬか?』

 

『ほう…?』

 

思わぬ童磨への助け舟に、男はこちらへ振り返る。身体の主の発言に興味が湧いた、といった様子だ。

 

『貴様がそこまで気に掛けるあの小娘…何かあるというのか?』

 

『何、我が力の欠片を持つ、かつて贄だった者だよ。

 

 

鬼舞辻無惨。』

 

黒髪の男を呼んだその言葉を最後に、凛の視界は再び黒に染められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

再び目を見開いた。

視界には木目の天井。

体を起こせば、自身が入院している蝶屋敷の部屋だと思い出す。外が真っ暗なところを見るに、真夜中のようだ。月明かりがほのかな光となって差し込んできている。

 

「な、なんだったんだ…今の夢…。」

 

果たして夢なのだろうか?

それにしては現実的で、しかも鬼舞辻無惨が出てくるとは…。

疲れていたのだろうか?

 

「ん…?」

 

自身の隣に何かしらの違和感を感じた凛は、そっと布団をめくってみる。

そこには、自身の隣ですやすやと寝息を立てているカナヲの姿。

 

「カナヲ…いつの間に…?」

 

察するに、入院している自身の様子を見に来て、そのまま添い寝してくれていたのだろう。

その寝顔に、凛の中で前世の義妹であるエリゼのことが思い浮かぶ。

成長したあの時は流石にないが、幼き日はこうして添い寝していたものだと、懐かしい思いが溢れてくる。

 

「お休み、カナヲ…。良い夢を。」

 

そっとその黒髪をひと撫で、再び横になると目を閉じる。

あの妙な夢が少し気になったが、心地よい安堵感によって、程なくして眠りにつくことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、カナヲと寝ていたことがばれ、心配していたしのぶから凛共々に大目玉を食らったのは言うまでもない。

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