閃の刃は大正の世を切り拓く   作:ロシアよ永遠に

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第33話『お使い』

「え……と、父上の手紙の地図によればこの辺り、のはずだよね」

 

敷地の広い家々の間を歩きながら、譲治郎からの地図、そして風呂敷を片手に凛は目的の家を探し歩く。

お使いの内容によると、『古い友人の息子の祝いを持っていって欲しい』とのことで、怪我の完治後の休みとリハビリを兼ねてこうして足を運んでいるわけだ。

しかし……

 

「正直、どこもかしこも家が広すぎて見分けが……」

 

右を見ても左を見ても立派な白い塀が続いており、かと言ってそれが終わってもまた別の白い塀が……と言うのがさっきから続いている。……よしんば目的地に着いても、今度は帰れるかが不安になってくる。

 

「父上は、住人を見れば一発でわかるって言ってたけど…………ん?」

 

次の角を曲がった先。

そこでその家の住民と思しき人物が玄関先を竹箒で清掃していた。

それはまだいい。

だがその顔立ちが、あまりにも……

 

「え、炎柱様……」

 

燃えるような黄から赤へ変わりゆく毛髪に二重に分かれた眉。その形こそ大人しげなハの字で背丈は凜よりも低くはあるが、それ以外の顔のパーツが完全一致。

 

「なるほど……父上の言ってた御友人は愼寿郎様でしたか」

 

歳を同じくして同期。片や柱ではあれど、友人として切磋琢磨してきた、いわば竹馬の友に近しいものなのだろう。その子息への祝事ともなれば友人として祝うのも当然か。

 

「こんにちは、煉獄さんのお屋敷はこちらで良かったでしょうか?」

 

地図を懐に仕舞い、掃除をしていた少年にそっと近付く。彼はその手を止め、尋ねる凛に向き合う。

 

「は、はい。確かにウチは煉獄ですが……何かご用命でしょうか?」

 

「私は暁葉 凛という者です。父、譲治郎から、煉獄家で祝い事があるから、その品を持っていくように言付かったのですが……」

 

「祝い事……それなら多分兄上の事だと思います。今父上も兄上も在宅ですので、よろしければ中へどうぞ」

 

そう言って竹箒を門の縁に立て掛けて凛を案内すべく玄関をガラガラと開く少年。

 

「お、お邪魔します」

 

さすが柱の自宅。凛の家もそれなりに広いものだと自負しているが、柱ともなれば家からして立派なものだ。歴代炎柱を輩出している名家だから尚の事だろうが。

先導する少年……千寿郎と名乗った彼に続いて草履を脱いで後を追う。

広い庭地、長い廊下。まさしく御屋敷だ。

やがて、障子で閉められた一室の前に着くと、千寿郎は正座して一息吸う。

 

「父上、兄上。お二人にお客人がお越しになられています!」

 

「うむ、入ってもらいなさい」

 

「はい」

 

障子を滑らせ、再び中へと促す千寿郎。ゆっくりと室内を視線に収めれば、隊士服を纏った煉獄家顔の男性と着物を纏った煉獄家顔の男性。これまたそっくりの顔立ちで、おそらくは着物を着ている男性が愼寿郎で、もう一人の隊士服が千寿郎の兄なのだろう。

 

「炎柱様、失礼いたします。暁葉 凛。父、譲治郎よりの祝いの品を持ち参上いたしました」

 

「うむ、よく来たな凛殿。先の柱合会議以来か。怪我の具合はどうだ?」

 

「蝶屋敷の方々のおかげで九割九分完治、と言えましょう」

 

「それは重畳。……そうだ、紹介しよう。これは息子の杏寿郎。凛殿とは面識がなかっただろう」

 

「うむ、父上。確かに凛殿とは初対面だな!譲治郎殿の息女の話は聞いてはいたので厳つい令嬢と想像していたが、こうもお淑やかな女性とは……よもやよもやだ!」

 

ハッハッハッ!と豪快に笑い飛ばす杏寿郎。

譲治郎から聞いていたが、たしかに豪快極まりない性格のようだ。声もでかいし。しかし煉獄家、男の遺伝子が強すぎる。

 

「では、こちらが祝いの品です」

 

持っていた風呂敷を差し出せば、杏寿郎がそれを受け取り、早速開封する。中身を見て、ただでさえギラギラと明るい顔に、更に陽光が差したかの如く眩しくなる。

 

「おぉ!これは見事な薩摩芋!かたじけない!」

 

どうやら杏寿郎の好物らしい。なるほど、目出度いことのあった人間に好物を贈る、と言うのは、祝いとしてはこの上ない物だ。

 

「これを食って力をつけ、新たな炎柱として益々鬼を切らねばならなくなるな!」

 

再び豪快に笑い飛ばす杏寿郎。彼の言葉に少し思うところがあったのか、凛は疑問符を浮かべる。

 

「槙寿郎様、新たな炎柱、というのは?」

 

「うむ、近々正式なお達しがあると思うが良いか……。実はな、私は炎柱を退き、その座を杏寿郎に譲ることにしたのだ」

 

「……ということは槙寿郎様は……」

 

「実質引退だ。流石に年の瀬には勝てぬよ。まぁ炎の呼吸を修めたいと言う者が居れば、育手として後進を育てて行く道もあるがな」

 

たしかに槙寿郎は四十という齡。そろそろ退くことも視野に入るだろう。

だが同い年にも関わらず未だ現役バリバリの譲治郎はどうするのだろうか?よもやイシュメルガを討つ事が未だ隊に残る理由になっているとすれば、気持ちだけではいずれは……

 

「ところで凛殿!」

 

「はっ!はいっ!」

 

直ぐ側にいるというのにこの大声、そして眼力。この杏寿郎という青年、物静かな愼寿郎や千寿郎に比べていささか騒がしい気質の人物のようだ。

 

「頂いた芋を早速落ち葉で焼こうとおもうのだが、凛殿も一緒に如何だろうか!」

 

「えっ!?いやそれは、杏寿郎様の炎柱就任祝いで……」

 

「そう、この芋は先程凛殿より俺が頂いたものだ!ならばその芋を誰と食べようが一向に構わんのではないかな!」

 

確かに所有権は彼にあるので、何ら問題ない。

それに丁度小腹が空いていたのでありがたい話だ。

 

「兄上、先程落ち葉を庭の隅に集めておきましたゆえ」

 

「うむ!流石千寿郎だ!先見の明があるかの如しだな!早速火を入れるとしよう!」

 

善は急げ、と言わんばかりに立ち上がった杏寿郎。そのまま外へ出るのかと思いきや、縁側に立つと背中越しに凛に一つの誘いを持ちかける。

 

「凛殿、芋を入れて直ぐに焼けるわけでもなし!故に時間を持て余すのは明白だろう!」

 

「それは確かに……じっくりと火を通すのがコツですし」

 

「ならばその間、俺と手合わせしてもらいたい!噂に聞く譲治郎殿の娘ともあれば、その力を知りたいというのも当然ではないだろうか!」

 

「確かに時間はあるけど……」

 

ただ凛自身は病み上がり。鍛錬を禁じられていたので体力もあまり戻ってきてないし、太刀筋も恐らく同様。そんな実力で新たな炎柱たる杏寿郎にかなうものなのか?

 

「凛殿」

 

思い悩む凛に、愼寿郎も言葉を掛ける。

 

「病み上がりと言うのは承知だ。ここは凛殿が勘を取り戻す名目ともなれば良いのではないか?実戦に勝る鍛錬もないだろう」

 

やれやれ、こうも言われてしまっては引き下がるわけにもいかない。

杏寿郎がいつの間にやら手に持っていた木刀を投げ渡したので、難なく掴み取る凛。幾度か軽く振ってみて、軽さ、長さによる勘のズレをしっかりと確認する。

 

「正直、御期待に応えられるかわからないけど……」

 

「うむ!今の凛殿の全力、それを俺は知りたいのだ!故に遠慮はいらん!」

 

「わかった……」

 

木刀を下段に構え、ゆっくりと全集中の呼吸で全身に酸素を行き渡らせる。

肉体的な鍛錬はせずとも、呼吸の持続と強度の鍛錬は療養中も続けていた。だからこそ、全身を巡る酸素がいつになく上々で、身体が熱くなってくる。

 

「やるからには全力で!」

 

息を吐き出し、熱くなった身体から来る有り余る力で木刀を強く握り込む。ミシリ……と木の軋む音が誰に聞こえるともなく消えていく。

 

「閃の呼吸 暁葉 凛」

 

「炎の呼吸 炎柱 煉獄 杏寿郎」

 

「「参る!」」

 

瞬間、煉獄家の庭先に木刀が激しくぶつかり合う音が響き始めた。

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