閃の刃は大正の世を切り拓く   作:ロシアよ永遠に

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第4話『最終選別』

その刃は鋭くも流麗だった。

狐の面を側頭部に付けた宍色の髪の少年…錆兎は目の前で振るわれる型に、思わず見とれる。

黒の髪を振るいながらの、素早い剣閃と、洗練された動きは、彼に幼いながらもその力量を推し量ることが出来た。

 

「…凄まじいな。」

 

隣に居た同門で弟弟子の黒髪の少年…冨岡義勇も思わず口にする。そこまで口数も多くなく、そして口下手な彼が素直に賞賛した。

積み重ねた年月があまりにも違う。

自分達よりも少し幼い外見にも拘わらず、剣を振るうその佇まいは、明らかにそれを凌駕している。

 

「…ふぅ。」

 

一頻り型を振るい終えて、一息つく件の少女。あれだけの動きをしたにも関わらず、薄ら汗を浮かべてはいる物の、呼吸の乱れは見られない。それ程までに肺が強靭に鍛えられている証左なのだろう。

 

「あれ?貴方達も最終選別を受けるのかな?」

 

こちらに気付いた少女が日輪刀を鞘に納めると、額の汗を拭いながら尋ねてくる。

その問いでようやく我に返った錆兎は、頭を振るい、気を引き締める。

 

「あ、あぁ。そのつもりだ。それにしても随分早くに君は来ているんだな。俺達も大概早いと思ってはいたが?」

 

「恥ずかしながら、早くに出過ぎてね。時間があるならと型の練習をしていた次第なんだ。」

 

「殊勝なことだ。」

 

二人目の彼の声に、凛は何処か懐かしさを感じながらも、2人の力量を推し量る。

その身に纏う気や、呼吸の仕方、体格、仕草一つ一つに目を光らせれば、成る程確かに、最終選別を受ける気概と共に、緊張も見て取れる。そして実力も、恐らく自身より1つ2つ上であろう彼らは、同年代と比べて高い実力を備えている。きっと良い師に育てて貰ったのであろう。

 

「…と、自己紹介が遅れたな。俺は錆兎。水の呼吸を収めてる。…で、こっちが。」

 

「…義勇だ。」

 

「…義勇、男ならもっとしっかりとした声で自己紹介くらいしろ。」

 

「必要ない。」

 

「…こんな感じで口下手な奴なんだが、よろしくしてやって欲しい。」

 

なるほど、声色こそ似ていても、性格はまるで逆のようだ。彼は口数が少なく、冷静で、そして少し素っ気ない性格なのだろうと、凛は何となく(勝手に)理解する。

 

「私は…暁葉 凛。修めてる呼吸法は…閃。よろしく頼むよ。」

 

「「閃の、呼吸?」」

 

聞き慣れない呼吸法に、錆兎と義勇は互いに目を合わせ、目をパチパチと瞬かせる。

炎、水、風、雷、岩…

基本的にこの5つの呼吸法が鬼殺隊では主流となっている。そこから派生し、様々な呼吸法が芽生えていた。2人の中でも、閃の呼吸というのは、恐らくその派生の物なのだろうという予想が過る。

しかし、凛の中でそれは違った。全集中の呼吸を用いて行う八葉一刀流。唯それだけの物として名付けただけだ。そして頭の一字は、八葉一刀流を収めた者…剣聖には名乗る二つ名が与えられる訳だが、凛が前世に名乗ろうかと思っていた候補の1つである、『閃』を持ってきただけに過ぎないのである。

 

「まぁ…聞き慣れない呼吸法だろうね。私の我流な訳だし、仕方ないか。」

 

だがここは前の世界とは違う。ならばこちらの型に当てはめることで違和感を無くすのが定石なのだろう。

郷に入っては…と言う奴である。

だが凛としては、八葉一刀流を丸々使って、全集中の呼吸を合わせただけで我流などとは、師であり、剣仙と名高い『ユン・カーファイ』に申し訳ないやらなんやらで、図らずも苦笑いを浮かべる。内心で凛は、(すいません、老師)と届くとも知れない謝罪をしておく。

ともあれ、我流を扱う少女と会えたことにより、錆兎に興味を持たれて打ち解けてしまうとは、よもやよもやである。

 

「ともあれ、先程の剣閃を見るに、共に戦う身としては頼もしい限りだ。最終選別、互いに生き残ろう。」

 

「元よりそのつもりだよ。義勇も、頑張ろうね。」

 

「人の心配をしている身か?」

 

「………義勇がすまない。」

 

「は、ははは…。」

 

どうにもこの義勇と言う少年は、こちらの問いに対して突っ慳貪な返事しかしない。単に人見知りなのかと言われればそうではなく、圧倒的に言葉が足りないのだ。

先程の言葉も、義勇の本心としては、

『人の心配をして自身を蔑ろにするな。自分の身を最優先にして生き延びろ。それ以外にないはずだ。』

と言いたかったのだが、謎の義勇フィルターによってこうなってしまっていたりする。

ともあれ、こうして打ち解けた?3人は、軽く身体を解す傍ら、軽く打ち込み稽古をしたりと最終選別に向けて入念な準備を熟していく。

凛にとって打ち込み稽古の相手は、譲治郎意外で初めてだったので、心なしかワクワクしていたとか何とか。

 

 

 

 

 

 

 

そして、

 

あっという間に『その時』は来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「刻限になりました。皆様…この度は鬼殺隊最終選別にお集まり頂き、心よりの感謝を致します。」

 

ポツリポツリと参加者が集まってきた藤襲山最終選別会場。その時を迎えると、何処よりか着物を装いに、白く美しい髪を靡かせた美女が、奥の柱の傍らで言葉を発した。

 

「ここより先の藤の花が途絶えた先に、生け捕りにした鬼が放たれております。この敷地内で皆様は7日間生き残ること。それが鬼殺隊入隊合格条件となります。」

 

鬼。

その単語を改めて聞いて、誰かがゴクリと固唾を飲み込む。

夜な夜な人を喰らう怪奇…鬼。

それと今から相対し、生き延びねばならない。

その事実を突き付けられたのだから。

 

「願わくば…ここにおられる皆様が、1週間後に1人として欠けることなくお会いできますよう、心よりお祈りいたします。

 

それでは…御武運を。」

 

女性が道を空けるように傍らに退けば、1人、また1人と柱の間をくぐり抜け、試験場へ足を踏み入れていく。

いよいよだ。

凛としては、知識で鬼というものは知っていても、実物を見たことはない。

未知の存在との邂逅に、少しヒヤリとした物が頬を伝う。

だがこの世界に来た理由。それを今一度心にしっかり止め、大きく息を吸う。

 

(…ここから、私が父上と共に前世からの本懐を果たす第一歩…!)

 

『黒』を討つ。

その為の一手。

 

「行こう、錆兎、義勇!」

 

「…あぁ。」

 

「良い気迫だな凛。俺も負けては居られない。男として!」

 

藤襲山最終選別…開始

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