閃の刃は大正の世を切り拓く   作:ロシアよ永遠に

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第8話『再会』

「朝だ。」

 

「…そうだな。」

 

藤襲山に、陽光が差し込む。

7日目の朝。

希望の光。

その眩しさと暖かさに2人は目を細め、そして口許を緩める。

普段使わない型と、そして全身全霊の一撃を穿った2人は、最早立てる体力をも消耗してしまったのか、朝日に照らされながら大の字に地べたに横たわった。

 

「…長かったな。」

 

「あぁ。…だが生き残れた。」

 

「日輪刀、折ってしまったけどな。…これ、鱗滝さんに俺は骨を折られるのかな?」

 

「その時は折られよう。俺も共に。」

 

くっくと笑いあう2人は、狭霧山で待つ師に思いを馳せる。

刀を折られたことを咎められるなら甘んじて受けよう。そして思いっきり叱って貰おう。それがこうして生き残れた者の特権なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ。」

 

「「お。」」

 

しばらく後、何とか歩ける体力を回復させて藤の花の広場に向かう中、2人は初日に別れた友人と合流した。

 

「生き残ったか。」

 

「まぁね。…それよりも、2人ともいたくボロボロだけど…」

 

「異形の鬼が居てな。何とか討ち果たしたんだ。」

 

戻る道すがら無口な義勇に代わって錆兎が説明していく。

普通の鬼よりも二回りも三回りも大きな異形の鬼。ソイツが自分達の兄弟子達の仇であったこと。

そして2人で協力し、刀を折りながらも頸を落としたことを。

 

「そうか…最終選別初日の予感はソイツだったのかもね。」

 

「そう言えば言ってたな。嫌な予感がすると。」

 

「確証はなかったんだけどね。とにもかくにも、2人とも無事で良かったよ。」

 

見れば、ボロボロの義勇と錆兎に反し、凛はと言うと、所々汚れてはいるものの、衣服の乱れや破損は見られず、怪我という怪我もない。

これは一重に彼女の技量が、最終選別を受けた隊士候補の中でも抜きん出たものであることの証左だ。

 

「だが一週間で怪我を負わなかったお前は、やはり器が違うな。出世すれば、柱も夢じゃないんじゃないか?」

 

「はは……私はそれほど大層なものじゃないよ。ここでの戦いはこれから始まる長い長い鬼との戦いの一欠片。これからの任務で私なんかを凌ぐ人が頭角を現していくんだよ。それに、私は二人みたいに異形の鬼に遭遇してないんだから、怪我をしてなくて当然だよ。」

 

「…謙遜もここまで来ると、大概だな。」

 

「全くだ。」

 

「へ?え?」

 

何処までも自分を誇らない凛に、義勇と錆兎は溜息と共に呆れながら、すたこらと先を行く。

そんな二人に凛は訳もわからず首をかしげるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩くと選別会場の広場に辿り着く。そこで開始時よりも少し減った隊士候補の数を凛は目の当たりにする。死なせまいと走り回ったものの、救えない命もあったようで、凛はその表情に少し暗い影を落とす。だがそんな凛の心境を余所に選別開始の時と同じく、白髪の女性が登場して生き残った隊士達を労う。

無傷なものなど居ない。あるものは頭の出血を止めるために布を巻き、あるものは折れた腕を添え木で固定している。唯一凛が怪我を負うことなく突破できていたのだ。

だが白髪の女性は言う。今年の最終選別は、例年に比べて生き残った人数が多いことを。死した人が居ることは悼むべきであるが、こうして数多の有望な若者が生き残り、そしてこの場に生きていてくれたことを喜びたい、と。

そしてそんな彼、彼女等の前に、黒装束の人が大きな手押し車を押して、広場のど真ん中へと出て来た。その天板にはゴロゴロと、不思議な輝きを放つ石が数十個まばらに置かれている。

曰く、これが日輪刀の原材料になる玉鋼。

自身の半身になるそれをどれにするか自身で選んでほしい、と。

どれも同じ石ころにしか見えない。

誰も彼もがどれを選べば良いのか解らず戸惑う。それは義勇や錆兎も同じであった。

誰もが選び倦ねている中、1つの細く白い腕がおもむろに玉鋼を1個、選び取った。

 

「私は、これで。」

 

言わずもがな、凛である。

迷うことなく取り上げたその玉鋼を、女性はニコリと受け取り、包んでいく。

見た目は可憐ながら、実に漢らしい決断である。

そんな彼女の中に漢を見た錆兎は、ボーッとしている義勇の手を引いて、文字通り直感で自身の玉鋼を選び取る。

義勇もその勢いに釣られて手近な玉鋼を選び取った。

そこからはまるで怒濤の勢い。我も我もと合格者が雪崩れ込み、まるで100年後のでぱぁとで行われる妙齢の女性が巻き起こす戦争のようだった。

 

「各々、玉鋼を選び終えられましたね。では次に皆様に支給される連絡用の鴉…鎹鴉をおつけ致します。」

 

女性がパンパンと手を鳴らせば、藤の花の木々の中から次から次へと黒い鴉が空へと舞い上がる。その圧巻とも言える光景に誰もが呆気取られていると、訓練された鴉はそれぞれ割り当てられた合格者一人一人の元へと降下し、その肩や差し出された腕に駐まっていく。

 

「…カァァ…朝餉ハ…マダカノ……?」

 

何故か義勇の頭に駐まった鎹鴉はぷるぷると震えており、見た者にヨボヨボのおじいちゃんを彷彿させたとか何とか。しゃべるのに驚いたのはその後である。

そして

 

「これが…私の鎹鴉。」

 

手に駐まった鎹鴉。その羽毛は黒い鴉…と言うよりも、灰色だった。その目も何処か赤黒く、何処か懐かしさを感じる出で立ちだ。

 

「えと、私はり…」

 

「カァァ、随分可愛イラシクナッタジャネェカ!見違エタゼ!」

 

「…へ?」

 

大正のこの時代に似付かわしくない言葉遣いの鎹鴉。そのギャップに凛は思わず気の抜けた声が出てしまう。

 

「私、君に出会ったこと、あったかな?」

 

「私!私!!ププ~!オ前ガ私!?笑ワセルナヨ~!!」

 

流石の凛も少し苛立った。

何が悲しくてこの口調を笑われねばならないのか、好きでこんな口調になったわけではない。…よし、今夜は焼き鳥にしよう。

 

「マ!コノ俺ガ来カラニハ、『騎神』ニ乗ッタツモリデ、ドント構エテロヨ!『りぃん』!」

 

「…全く、調子の良い鴉……へ?騎神…?リィン?」

 

随分と懐かしい言葉を聞いた。

この世界に来て11年。以前は毎日のように聞いていた言葉。だがそれは今となっては遠い昔で、この世界にその言葉を知るのは凛と、父である譲治郎のみのはず。

 

「ナンダヨ、俺ノコト忘レチマッタノカ!?薄情ナ奴メ!一緒ニ自爆シタ仲ダロ!?」

 

「一緒に…自爆……?…まさか…まさかだけど。」

 

「オウ!ソノマサカヨ!」

 

どやっと胸を張る灰の鴉。その光景に、凛は…リィンはあの共に散った悪友が重なる。

 

「くろう・あーむぶらすと!マ、改メテヨロシク頼ムワ!」

 

よもやあのクロウが鴉になっていようなどとは微塵も思っていなかった凛は、しばらく開いた口が塞がらなかった。

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