衝撃的なカミングアウト。
よもや悪友であったクロウが、人間ではなく
唖然とする凛を余所に、何食わぬ顔で彼女の腕の上で毛繕いならぬ羽根繕いをするクロウ。その動きは妙に手慣れ…もとい、羽根慣れている。
「どうかしたのか?」
「……なんでもない。」
先程まで頼もしく目を輝かせていた凛の目は酷く濁っており、死んだ魚を彷彿とさせる。
死んだ魚だけに、ソレを見た錆兎は
次は採寸。隊士服は特別な素材で作られるようで、身体の寸法に合わせての特注らしい。隠と呼ばれる、まるで歌舞伎に出て来る黒子のような人々が、合格した人々の身体の丈を測っていく。流石に女の子と言うことで女性の隠が対応してくれたものの、少し離れたところで採寸していた眼鏡の隠が、目を光らせてこちらを見ていたのは何故だろうか?
…ともあれ、隊士服の採寸を終えたことで、ようやく隊士として活動する為の前準備が終わった。それぞれ方々へ散っていく中で、錆兎と義勇も同じく下山の準備を進めていた。
「凛、お疲れ様だったな。」
荷を纏めた水の呼吸の二人が、同じく準備を終えた凛を労う。
今のご時世、刀の所時は御法度なので、細長い袋に入れて一見刀と解らないようにしている。
「そろそろ俺達は下山するが、方向が同じなら途中まで同行しないか?」
「いいけど…二人は何処に向かうの?」
「狭霧山。」
「狭霧山…?じゃあほぼ同じ方向だね。いいよ、一人で帰るのも何だか味気ないし。」
「義勇もそれで構わないか?」
「好きにすればいい。」
『カァァ!モット愛想ヨク出来ネェノカ!コノ根暗メ!』
口数の少ない義勇に、クロウが癇癪を起こして、ボサボサのその髪を固い嘴でついばみ始めた。
ともあれ、再びひたすら走るのも味気ないと感じるのも確かなので、凛にとっては有り難い話である。
藤襲山から暁葉家への道は、八割が狭霧山への道のりと重なっているのが幸いした。
こうして道すがら、各々の身の上や修業時代の話をしながら、行きよりもゆっくりと、行きの時よりも遅い速度で。疲労が蓄積しているというのもある。だが、これからともに戦う戦友のことを知りたいと言うのもあった。
そして途中で休憩を挟みながらほぼ一日掛けて、3人は狭霧山の麓の小屋へと辿り着いた。
「懐かしいな。」
「あぁ。幾年帰らなかったと錯覚するな。」
「あそこが、2人の家?」
「そうだ。そして俺達を育ててくれた恩師の家。」
懐かしそうに目を細める2人。余程思い入れのある場所なのだろう。そして育手への思いの深さもひしひしと伝わってくる。
「………。」
「………。」
「…どうしたの?早く会いに行かないの?」
「いや…いざとなると緊張してしまってな。」
「あぁ、鬼と対峙するよりも緊張する。」
何だこのヘタレは。
錆兎、緊張などものともせず突き進め、漢なら。
義勇、緊張するようなキャラではないだろう。
尻込みする2人に呆れる凛を余所に、ガラガラ…と古家の引き戸が音を立てて開いた。中からは、花柄の着物を纏った幼い少女が、水を汲みにだろうか、桶をえっちらおっちら抱えて出て来た。
「…真菰…。」
ボソリと錆兎が呟く。
ほんの、ほんの小さな呟き。それこそ彼女との距離では到底聞こえないだろう程の。
だが、彼女はピタリと止まった。
まるで、聞こえているかのようにゆっくり、ゆっくりとこちらに目を向ける。
「錆兎…義勇……!」
彼女は待っていた。
死と隣り合わせの鬼殺隊最終選別。
そこから2人が戻るのを。
だが鬼殺隊となるべく旅立った先達は、誰一人として帰ってこなかった。
帰らぬ弟子を待ち続け、師は人知れず涙を落とした。
そんな光景を目にしてきたからこそ、真菰も二人の身に何かがあるのではと言う予感すらあった。
もしかしたら…二人も……
だが、
二人は目の前に居た。
ボロボロになりながら、
それでも無事に帰ってきた。
「~ッッッ!!」
感極まった。
気付けば真菰は桶を放り出して駆け出していた。
帰ってきた、
帰ってきた!!
錆兎と義勇が…!
徐々に近付く二人。
このまま感動の再会か。
観客は誰もがスタンディングオベーションの準備に取り掛かる。
しかし、
はた、とあと
二人の無事に歓喜し、その胸に飛び込もうと考えたまでは、良くある感動ものの展開だろう。
しかし真菰は見てしまった。
見えてしまった。
ふっ…と口許
そして
「鱗滝さぁぁぁんっ!!錆兎と義勇が最終選別で女の子を選別してきたぁぁぁっ!!」
「「「!?!?!?」」」
ともすれば狭霧山に住まう野鳥すべてが驚いて飛び交わんばかりの大声で、真菰は宣った。
一方
「ほう…このような所に中華民国の店が出来ようとは…」
任務の先で鬼を斬った凛の父である譲治郎は、小腹が空いたことで、何処かの飯処で満たそうかと思案していた。
何を食べようかと悩む内に目に入ったのは、赤々とした店舗の色合いに、金箔によって店名を書かれた看板。
近頃隣国である中華民国の料理を出す店舗が少しずつ出来てきているとは聞いていたが、よもやこのような場所手巡り会えようとは思いもしなかった。
「フフフ…中々派手な看板ではないか。宇随が見れば喜ぶやも知れぬな。」
常日頃から派手や地味で物事を見る鬼殺隊員を思い出し、思わず笑みがこぼれてしまう。将来有望な隊員で、忍の技術を加えたあの戦いぶりは目を見張るものがあり、将来は鬼殺隊を支える柱となるであろうと譲治郎は期待している。
ともあれ、思い出に浸る中でも腹は減るわけで、鼻腔をくすぐる魅力的な香りに惹かれるように、譲治郎は中華料理店『紅洲宴歳館・泰山』へと姿を消した。
フフフ…(愉悦)