ダンジョンで聖剣を抜刀するのは間違っているだろうか 作:クロウド、
「カリバーッ!!」
「来たか、ベル・クラネル」
カリバーが待つアヴァロンに通じる次元の狭間に辿り着いたベル達。アヴァロンへの扉である光の下で闇黒剣を肩に担ぎ彼はそこに立っていた。
「あの本は一体何だッ!?」
ベルはカリバーの言葉に反応せず、今もオラリオの上空で徐々に開きつつある巨大な本について問いただす。カリバーはその質問が来ることを理解していたようで隠す様子もなくベルの質問に答える。
「お前が以前、アヴァロンに来たときにビクトールに説明されただろう。かつて、ワンダーワールドで全知全能の書がバラバラになったときにワンダーライドブックとともにできたできた禁書の一つ、『破滅の本』」
「『破滅の本』だと……?」
そのあからさまに危険なニュアンスの名前にリヴェリアやフィンたちの表情が歪む。
「アレは文字通り全知全能の書の『破滅』のページが変化したもの。すなわち、アレが開いた時、オラリオを……いや、世界を完全に消滅させるまで決して閉じることのないもの。故に生まれたときから封印されていた禁書だ」
カリバーに答えにその場にいた全員に血の気が引く、そんな危険なものがもうすぐ開こうとしている。それを開こうとしているカリバーの正気を疑った。
「そんな本を何故開いた!?お前の目的はベル・クラネルに火炎剣を覚醒させることじゃなかったのかッ!」
「確かにソイツは力をつけた、しかし、まだ足りない。実際ソイツは好きなタイミングで聖剣を覚醒させることはできない」
カリバーの言葉にベルは顔を歪める。事実、ベルは火炎剣を好きなタイミングで剣を光らせる、覚醒させることができない。そのせいで今回の一件を引き起こしてしまったと自分を攻めるが、その頭の上にポンと手を置く人物がいた。
それは【アストレア・ファミリア】団長のアリーゼ。彼女は真っ直ぐとカリバーを見ながら、ベルの頭を優しく撫でる彼にとって姉のような存在。
正直、ベルは彼女たち【アストレア・ファミリア】をここにつれてくるのは反対だった。彼が何を考えたにしても【アストレア・ファミリア】を【厄災】から救ったのは他ならぬカリバーなのだ。自分は今からその彼と命をかけた一騎打ちの戦いをする。そんなところを彼女たちに見せたいと思うものはいないだろう。
「そんなことを聞かされたらますますベル一人に戦わせるわけには行かないわね」
「……貴様らにこの戦いに参加する資格はない」
そう言ってカリバーはもう片方の手で持っていた本をベルたちに向ける。瞬間、光が放たれる。
「ぐわぁッ!」
ベルは光に弾き飛ばされて地面を転がるが、すぐに皆の方向に視線を向ける。そして、そこには光の檻に閉じ込められた仲間達の姿だった。
「皆っ!!」
「勝負が終わるまでお前達はそこから出られない」
「こんなもんぶっ壊してッ……!」
ティオネが檻を殴りつけるがヒビ一つつかないその高度に全員が驚愕を顕にする。
「この本も全知全能の書の一部。貴様ら如きにどうにかできる代物ではない」
「嵌められたね……カリバー、君の目的はなんだッ」
「簡単なことだ、小僧を追い詰め火炎剣を覚醒させる」
淡々と言いながらベルを見る。その視線は険しい。
「今まで火炎剣はソイツの感情に呼応して力を発揮していた。だからこそ、この舞台を用意した。
それに、これは一種の慈悲でもある」
「慈悲、だと」
「どのみち、その小僧が覚醒しなければこの世界は滅びる。ならばせめて、苦しまずに消してやるのがせめてもの情けだと思わないか?」
「勝手なことを……!今貴方が行おうとしていることは闇派閥と何も変わりません!」
「ふっ……闇派閥か。闇に堕ちた私にはおあつらえむきじゃないか」
レオの非難の言葉に自嘲気味な笑みを浮かべて返す。
「そもそも、貴方が見た未来が全てではないはずだ!クラネルさんにそれほどの負担を強いなくても他に方法などいくらでも……」
「そんなものはないッ!!」
『!?』
リューの言葉にカリバーが初めて声を荒げる。その表情は怒りを顕にしながら苦痛をこらえるようにも見えた。闇黒剣を握っていない方の手は爪が手のひらに食い込み血が流れるまで強く握りしめられている。
「ならば聞こう!お前たちの中に一人でも私が見た未来を変えられたものはいるのか!?」
「ッ……それは……。」
「お前達自身が証明しているはずだ。私の見た未来、それが全てだと」
カリバーは今まで先に起こるであろうオラリオの事件に誰よりも早く関与していた。それは、その事件に関与しそれが起きなかったルートに変えてるに過ぎない。結局、未来の結果を変えているわけではないのだ。
「どのみち未来で世界が滅んだのも私が闇黒剣で未来を見たのも神達は嘘ではないと証言している。ソイツが十一の聖剣を束ねない限り、世界が存続する道はない」
沈黙する面々、その中でジンが言葉を発する。
「お前の言い分は理解した。確かにやろうとしていることも信念もオラリオの住人を巻き込む以外は理解できなくはない」
『だがな』とジンは続け、歯を食いしばり、拳を握ってキッとした視線でカリバーを睨みつけ問いただす。
「その剣で未来を見たなら……なんで、なんで……あの二人がやろうとしていることをわかっていて止めなかった!?」
あの二人、それが誰であるかは聞かずともわかった。そして、その答えはベルも聞きたかった答えだ。
そして、カリバーからの返答は感情の乗っていない冷たいものだった。
「……どの道あの二人は毒と病魔に蝕まれ残り短い命だった。ならば、わざわざ歴史を変えるリスクを伴う必要はないと考えたまでだ」
『!?』
「だが、感謝はしている。あの二人との約束という『誓い』のお陰でソイツは覚悟を決め、ワンダーコンボを完全に扱えるにまで至った」
その言葉に怒りが爆発しそうだったのはジンだけではなかった、あの五年前の悲劇を知っているものからすれば被害を減らせたはずの人物がそれを知らずに何もしなかった。それを聞いて、【ロキ・ファミリア】も都市の秩序を守る役目を担っている【アストレア・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】も感情が爆発する寸前だった。
だが、それと同時に目の前の男が本当に自分たちが知っているベル・クラネルなのかという疑念も生まれた。彼の人柄を知っていれば決してこんな事は言わないだろう。一体、未来になにがあったのかそれに対する疑惑が大きくなる。
そして、今のベル・クラネルを見てみると彼は火炎剣を強く握りしめカリバーを睨んでいた。
「なら……だったら、なんで僕の記憶を消したんだ!?」
「決まっているだろう?下手なトラウマを残してオラリオに来なくなったら元も子もない、だからこそ、お前の力が最大限発揮できるように記憶を封印したのさ」
「そのために……家族との記憶を消したっていうの!?」
「あぁ。寧ろ感謝されてもいいはずだ、トラウマを残すだけではあの二人は正真正銘―――『無駄死』になった……」
そこから先を言おうとしたカリバーにジンは雷鳴剣を抜き、檻など無視して斬りかかろうとしたがそれよりも先にその隣を熱風がすり抜けていった。
「ッ!!」
「べ、ベルッ!?」
ジンたちは飛び出したものの姿を見て驚愕の表情を浮かべる。
カリバーに斬りかかったのは仲間たちが今までに見たことのない表情で火炎剣烈火を握りしめたこの時代のベル・クラネルだった。カリバーは火炎剣を闇黒剣で受け止めながらその表情を見て感心したように息を漏らす。
「ほう、そんな表情もできたのか」
「それ以上、お前が二人を語るなッ!!」
ベルは怒りをむき出しにしカリバーを睨む、対するカリバーは眼を細めると闇黒剣を振り抜きベルから距離を取る。そして、今度は侮蔑のこもった眼差しでベルを見る。
「相変わらず、甘い小僧だ。決着を付ける前に教えておいてやる、お前に足りないもの……それは、強さへの渇望だ」
「強さへの、渇望……?」
「そう、他者を圧倒する力。それを手にするためにどんな犠牲を厭わない。強さへの貪欲な渇望が貴様には決定的に欠けている」
「僕は力がほしいから戦っているんじゃない!大切な人達を護るために……!」
「笑止!力がないものに守れるものなどなにもないっ!その甘い考えが自らに限界を作っているなぜわからない!?」
「そんなことはないっ!誰かを護りたい……その想いがいつだって僕を強くしてくれた。想いの強さが僕の力になる!」
「ならば目の前にいる私をどう説明する!?力なき故にたった一人残された未来のお前の成れの果てを!?」
論争を繰り広げるベルとカリバー。そして、二人は悟っていた。彼らの戦いは剣でのみ決着をつけることができる。
「これ以上、どんな言葉を並べても無意味だな」
「あぁ」
「故に、ここから剣で語るとしよう」
その言葉にベルはソードライバーを腰に巻きブレイブドラゴンを構える。そして、同じようにジャアクドラゴンを構えるカリバー。
「お前を倒して証明する、僕は決してお前にはならない……!」
「ならば見せてみろ、お前のその生ぬるい考えでどこまでできるか!」
『ブレイブドラゴン!』『かつて世界を滅ぼすほどの偉大な力を手にした神獣がいた』
『ジャアクドラゴン!』『かつて世界を覆い尽くすほどの暗闇を生み出したのはたった一体の神獣だった』
それぞれが険しい表情でガードディバインドを開き二人の間の沈黙にライドスペルの朗読が流れる。それぞれのベルトにライドブックが装填されると二人の背後に巨大な本が実体化する。そして、ベルは火炎剣を抜き放ち、カリバーは暗黒剣のグリップエンドでライドブックを展開する。
『烈火抜刀!』
『闇黒剣月闇!』
「「変身!」」
『ブレイブドラゴン!』『烈火一冊!勇気の竜と火炎剣烈火が交わるとき、真紅の剣が悪を貫く!』
『Get go under conquer than get keen.(月光!暗黒!斬撃!)』『ジャアクドラゴン!』『月闇翻訳!光を奪いし漆黒の剣が、冷酷無情に暗黒竜を支配する』
二人が放った斬撃と、展開されたライドブックから二体のドラゴンが空中でぶつかり合いながら二人をそれぞれの色の炎に包んでセイバーとカリバーに変身させた。
「はあぁぁぁぁぁぁッ!!」
最初に動いたのはセイバーの方だった。セイバーはエスパーダ程ではないが目にも止まらない速さで斬り込む。
「速いっ!?」
「戦争遊戯の時よりも更に速くなっている……。」
檻の中から戦いを見守っている者達はその速さに目を見開いた。
しかし、その速度のセイバーの攻撃をこともなげに受け止める。そこから、真紅の炎と漆黒の炎を纏う剣戟が繰り広げられる。空中にそれぞれの炎が残した火花が軌跡を残しながらぶつかり合う。
「ハァッ!」
「フッ!!」
『月闇居合!』
「フッ!」
『読後一線!』
セイバーが横薙ぎを払う瞬間にカリバーが背後に飛んで暗黒剣をドライバーの横についたホルダーにさして、闇の斬撃をセイバーに放つ。直撃し、粉塵がセイバーの姿を隠す。
「ベル!」
「ベル様ッ!」
攻撃を受けたセイバーの身をあんじてリリルカとヴェルフが叫び声を上げるが、だが、
『二冊の本が重なりし時、聖なる剣に力が宿る!』『ドラゴン!アーサー王!』
煙を切り裂いて現れたのは烈火とキングエクスカリバーを構えた仮面ライダーセイバー・ドラゴンアーサー。直撃したと思われた斬撃はキングエクスカリバーの斬撃によって相殺されていたのだ。
「上手いッ!」
「ベルめ、あの攻撃を完璧に防ぎきったな」
リューと輝夜が称賛する中、ドラゴンアーサーは二本の剣を使ってカリバーに攻撃を仕掛ける。二本の剣を巧みに使いこなすセイバー、使い慣れた烈火による斬撃とキングエクスカリバーによる思い一撃による攻撃、まさしく剛柔一体の剣戟がカリバーに決まりカリバーの鎧から火花が散る。
「クッ!」
斬られた部分を抑えながら後ずさるカリバー、だがセイバーは決して攻撃の手を緩めない。
「ゼリャァ!!」
巨大なキングエクスカリバーを召喚し、それを横薙ぎに奮ってカリバーを攻撃する。しかし、カリバーは回転しながら飛び上がり空中でそれを回避する。さらに、着地したカリバーに上空からキングエクスカリバーを振り下ろすがカリバーはそれを受け止め刃を傾けて地面に滑落とした。
「まだまだァ!!」
『キングスラッシュ!』
「フッ……!!ハアアァァァァァ!ハァッ!」
今度は正面からキングエクスカリバーを弾丸のように発射する。だが、カリバーは闇黒剣から発せられた闇でその攻撃を受け止め、剣舞を舞ってキングエクスカリバーをそのままセイバーに向かって打ち返した。
「なっ!?ぐわぁぁぁぁ!!」
「ベルッ!!?」
防ぐすべをなく、そのまま自分の攻撃が直撃してしまう。今度こそ直撃を喰らったセイバーにジンは檻の間から身を乗り出して心配する声を上げる。セイバーは片膝を付きながら必死に立ち上がる。
「どうした、お前の力とやらはその程度かッ!?」
「そんなわけがッ、あるかぁ!!」
カリバーの挑発に激昂にも似た声で立ち上がったセイバーはワンダーコンボのライドブックを装填して、勢いよく聖剣を抜き放つ。
『ストームイーグル!』『西遊ジャーニー!』
『烈火抜刀!』『語り継がれし神獣のその名はクリムゾンドラゴン!』
ワンダーコンボ、セイバー・クリムゾンドラゴンに変身し三度、カリバーに斬りかかる。爆炎が地面に斬撃を残しながらカリバーに灼熱の炎による攻撃を叩き込む。しかし、カリバーも自身の闇黒の炎で相殺する。お互いの炎が舞い散る。その姿は雄々しくも幻想的と言えるものだった。
―――だが、この戦いはオラリオの未来を決める戦い。そんな感情が入り込む余地はない。
しかし、それ以上に……。
「ヘスティア様……。」
リリルカは無言で二人の戦いを見守るヘスティアに不安げな視線を向ける。いつもなら憎まれ口を叩きあう二人だが
(この戦いはヘスティア様にとって辛いものになるだろうな……どっちが勝つにしてもベルなんだからな)
そして、それをわかっているヴェルフも声をかけずにその姿を見守っている。もちろん、レオも命も他のファミリアも言葉をかけることができない。
「皆、心配しないでくれ」
ヘスティアはセイバーとカリバーの戦いを見ながら澄んだ声色でその場にいた全員に告げた。思いがけない、ヘスティアからの言葉に皆は目を見開いて彼女の方を見る。
「これはボクが見届けるべき戦いだ」
その瞳は覚悟を決めたものの目だった。はじめから覚悟を決めていたのだろう、彼の正体が未来のベルだとわかったときからこの戦いは避けることができないことだと。
―――炎と闇の戦いは激しさを増していく。
闇黒剣月闇の持ち主はアイズでいいか?
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いいんじゃない?
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いや、アイズが黒竜の力使っちゃダメでしょ