月狼奇譚   作:ララミー牧場

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涙はいらない

 

「本日付けで極東支部第1部隊配属になりました、アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。よろしくお願いします」

 

 と、まだあどけなさの残る顔をキリリと引き締めて少女は規律正しい敬礼をした。豊かな銀髪に、赤いハンチング帽を被っている。中々の美少女である。実際に隣に立つコウタはアリサを見て「おー」と感嘆の声を漏らしている。しかし、目下、聖奈の注目を一身に集めていたのは、アリサの隣に立つライダースーツの女だった。

 

「同じく第1部隊“一時”配属になります、レオニール・グラスハートです……以後お見知りおきを」

 

 溌剌としたアリサとは対照的に、レオニールは気だるげな雰囲気を持っていた。緩いウェーブのかかった栗色の髪をリボンで一つにまとめて胸元に垂らしていた。背が高く、180ある自分と大差ないように思う。聖奈が余りにもレオニールに注視しているのを何を勘違いしたか、コウタがニヤニヤとして言った。

 

「なになに? 聖奈はレオニールさんみたいな人が好みのタイプなの?」

「あ?」

 

 こいつは一体何を勘違いしていやがる。聖奈は僅かに眉を寄せる。レオニールに興味があるのはあながち間違いではないが……厳密に言えば、彼女というよりも彼女の持つ神機に興味があった。

 

 あの先日の廃寺エリアで、無数のアラガミに囲まれてあわやこれ迄かという窮地に陥った聖奈とコウタを援助したのはこの二人、アリサとレオニールであった。

 

「私たちは極東支部に向かっている道中だったんですが……急に輸送機の挙動がおかしくなって……」

 

 と、オウガテイルを叩き斬りながらアリサが言った。どうやら近々、アナグラに配属予定の新兵らしい。それも――聖奈と同じ新型ときている。

 彼女らを乗せた輸送機が墜落したのは恐らく、というよりも十中八九、ナイアーラトテップの影響だろう。フィールド全体に強力なジャミングを発生させる特殊なオラクル波が計器やら何やらを狂わせ操縦不能にしたに相違ない。それでもどうにか操縦士が粘り不時着させたのが廃寺エリアであり、ゴッドイーター特有の感知能力でもってアラガミの存在を察知し、討伐に向かった先で聖奈たちと出会した――というのが事の次第であった。

 

 相変わらず宙空を漂うザイゴートの身体になにかしなる鞭様の物が巻き付いて締め上げた。それが、レオニールの神機だった。通常ならば、ショート、ブレード、バスターの3種類のみだが(他にも更にハンマー、スピア、サイスが新型の自分には宛がわれていたが聖奈は専らバスター専門だった)、彼女の刀身パーツはそのどれとも違っていたのだ。

 

「アリサ、レオニールの本格的な隊への参加は明日以降からになるが……お前たち、それぞれ情報交換を済ませておくように。何か質問はあるか?」

 

 片手に電子端末を持ったツバキ教官がぐるりと第1部隊の面々を見渡した。

 

「あ~っと、姉上」

「ここでは教官と呼べと何度言ったら分かるんだ、雨宮少尉」

 

 のそりと手を挙げた雨宮リンドウに、ツバキはやや呆れた溜め息を吐く。それを横目に、橘サクヤがクスクスと笑う。

 

「えー……教官殿、こちらのレオニールさんの一時所属とはどういう意味ですかな?」

 

 ややおどけたような口調のリンドウは次に視線をツバキからレオニールへと向けた。釣られて他のメンバーもそっちへと向く。もっともな疑問であった。

 

「そのままの意味だ、アリサはロシア支部からの転属。レオニールは……まァ、一時留学のようなものだ」

「なるほど……?」

 

 いまいちツバキの歯切れが悪いような気もするが……それ以上の追及はせずにその場は解散となった。アリサとレオニールに友好的に話しかけるコウタを背に、聖奈はさっさと移動用のエレベーターへと向かう。「あ、おい」

 

 背後でリンドウが言った。

 

「お前さんの今日の任務には俺とサクヤも同行する。午後からだ、忘れるなよ」

 

 振り返らずに頷くと、丁度やって来た籠に乗り込んで目的地へのボタンを押した。

 

「――何なんですか? あの人?」

 

 その背を眺めてアリサはつまらなさそうに呟いた――

 

 

 神機保管庫には楠リッカしかいなかった。他の面々はそれぞれ出払っているようだ。

 

「あ、聖奈くん」

 

 ちょうど小休止をいれようと顔を上げたリッカに軽く頭を下げると、リッカは頬についたオイルを拭いつつ笑んだ。

 

「君が気になってるのはどうせコレでしょ?」

 

 そう言うなり聖奈の右手を引っ張って保管庫の中へと引き込むと、とある神機の前まで連行した。

 

「レオンさんのコレ、凄いもんねぇ?」

 

 照明の鈍い光を受けて立て掛けられているレオニールの神機――アルラウネ。一見するとロングブレードタイプのパーツに見えるが、その刀身は鞭のように伸び、しなるのである。

 

「いわゆるガリアンソード……蛇腹剣てやつだね。SFアニメとかだと定番だけど、今の技術で実際に再現するのはすごく難しい――ていうか、ぶっちゃけ不可能のはずなんだよ。剣の強度とか殺傷力の問題でね。だから私も初めて見たよ!」

 

 やや早口で語る彼女の語尾は震え、瞳は熱っぽい。自他ともに認める《技術バカ》のリッカの事だから、初めて目にする機構のパーツに興奮と感動を隠しきれないのだろう。それは他の技術士らも同様だったらしく、アルラウネは今では神機保管庫のちょっとしたアイドル扱いだ。そしてそれは、少し前まではネクロのポジションであった訳で――すっかりお株を奪われた本人は実に面白くなさそうだった。

 

『けっ! なんだそんなもん、ちょっとばっかし伸びたり縮んだりするだけじゃねーか!』

「まぁまぁ、この伸びたり縮んだりするだけっていうのが凄いんだってば。勿論、ネクロくんも凄いよ? 喋る神機なんて前代未聞なんだから」

 

 ネクロを宥めつつ、リッカは聖奈から受け取った冷やしカレードリンクの缶を開けた。プシッと小さく空気の抜ける音、次いでほのかにカレーの匂いが空気に溶ける。聖奈も、コーラの缶を開け口を付けた。

 

「これ、リッカ先輩は造れないッスか?」

「ブッ!――き、君、とんでもないこと言い出すね!?」

 

 何気ない質問のつもりであったが、リッカは思いきり蒸せていた。ゲホゲホと咳き込みながら聖奈を見る。

 

「割りとマジで言ってそうだね?」

「割りとマジッス」

「はぁ……やっぱり君もオトコノコだねぇ、こういうの好きなんだ?」

「まァ……割りと」

 

 そうかそうかとリッカは頷いた。

 

「御期待に添えず残念だけど私には無理――これを設計・製造したのはレオンさん本人らしいんだけどどういう技術を使ったのか聞いたら企業秘密だってさ。だから当然メンテナンスも彼女がしてるんだけど……なにせ企業秘密だからね、見せてくれないんだよ~……それに、ウチはポール型のパーツにもてんやわんやしてるくらいだからね。あっそうそう、ちゃんとポール型も使ってレポート書いてくれないと困るよォ。運用実績がないと正式採用できないんだからさ」

 

 何気ない質疑応答から話が飛躍し、自分へのクレームになってしまった。薮蛇だったと思いつつも聖奈はリッカを宥める。

 

「レポート、書いて出したじゃないスか」

「だってアレ、ホログラムのダミー相手でしょ? 実戦で使ってくれないと意味ないよ」

「ポール型はどうも挙動が苦手で……まァ、それはそのうち……」

「全く……マ、でも君専用の神機パーツを作るって話は前向きに検討しても良いかな」

「え?」

 

 リッカは缶の中身を一気に半分ほどあおると、にっと白い歯を見せた。

 

「榊博士からの提案でね。君、よくパーツを破損させるでしょ?」

「まァ……それは悪いと思ってるッスけど……」

 

 聖奈は思わず苦い表情をした。任務のたびに刀身パーツを破損させるものだからリッカによく小言を言われていた。今ではすぐ替えの効く安価な物しか使っていない。

 

「それでさ、そのこと世間話程度に博士に愚痴ったら『聖奈くんの神機は使われてるコアが特殊だから通常のパーツだと負荷に耐えられないのかもしれないね』って言うんだよね。じゃあなら専用パーツを造ろうかって話になってさァ……で、ほら、今のところ君の神機の整備担当って私だからさ、折角だからリッカくん造ってあげたらなんて言うもんだから。実際に私も興味あるしね」

「それで先輩からの小言が減るならありがたいスけど――」

 

 立て掛けてあるネクロを見る。黒を貴重に金の差し色の入ったこの神機に特殊なコアが使われているとは初めて知った。そんな聖奈の心中を察したのか、リッカが言う。

 

「ネクロくんのコアは、前に第7部隊が狩ってきたアラガミのコアでね。一体どんなアラガミだったのかは私は知らないんだけど」

「そうスか」

「でもまァ、君が刀身パーツのこと言い出してくれてラッキーだったよ、実はもう試作品第一号は出来ちゃってるんだよね。午後からミッションなんでしょ? ちょうどいいから試してみて感想聞かせてくれないかな」

 

 相変わらず仕事が早いと言うか……聖奈に内緒で既にパーツを試作済みとは驚いた。言うなりリッカはネクロへのパーツの取り付けを始めている。

 

「とりあえずバスタータイプにしといたけど……何か要望とか不満があったら遠慮なく言ってよ、こういうことに対してお互い遠慮してると良いもの造れないし、事故とかにも繋がるからね……んしょっと……ポール型の方は後で良いからさ……そうそう、話は変わるけど――君、他の神機使いの子達とあまりコミニュケーション取ってないんだって? コウタくんがぼやいてたよ?」

「別にそんなつもりは――いや、まァ――人見知りなモンで……」

「そうなの?私とは普通に話してるじゃん」

 

 それはリッカが学年は違えど同じ高校の出身だからだ。さっきから聖奈が彼女を先輩と敬称をつけて呼んでいるのはそういう理由からであった。

 

「まァとにかくさ、神機使いっていうのは基本チーム戦なんだから他の子達とも交友を深めておきなよ……じゃないといざってときに助けて貰えないよ」

「……ウス」

 

 缶を片手に頷く聖奈を、根は素直ないい子なんだけどなァ……とリッカは溜め息を吐いた。

 

 

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