月狼奇譚   作:ララミー牧場

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今回も前回に引き続き箸休めの日常回。
アリサと聖奈の絡みをやってみました。
そしてこれはちょっとしたネタバレというか宣言なのですが、この物語では聖奈とアリサのカップリング(いわゆる主アリ)は成立しませんのであしからず…!主アリ派の方は申し訳ない!槙島聖奈はどっちかというと年上好きです。


ミセエネン

 

「ああら、聖奈ちゃんコウタちゃん! 今日も朝からお仕事かい?」

 

 作業着姿の恰幅の良いおばちゃんがニコニコと話しかけてきたのでコウタたちは足を止めた。この人はアナグラで働いている清掃員の一人で、気さくな性格なのか職員や神機使いたちに話しかけている姿をよく見かける。

 

「いや、今からサカキ博士んとこで講義受けに行くとこだよ」

 

 相変わらずまだ半分寝ている聖奈の代わりにコウタが答えた。基本的に誰に対しても愛想がよく取っ付きやすいコウタは既にこのアナグラに馴染んでいる。おばちゃんはズボンのポケットをごそごそやると個包装の飴玉をふたつ取り出してそれぞれの手に握らせた。

 

「おやそうなのかい? あんたたちゴッドイーターになってからも勉強なんて偉いねぇ……色々と喧しい連中もいるけどさ、あんたらが闘ってくれてるおかげであたしらは生活できてるのも事実なんだ。感謝してるよ」

 

 おばちゃんはコウタの肩をバシバシ叩く。

 おばちゃんの言うことは事実であった。前線に立ち生身でアラガミと闘う神機使い(とその身内)は一般の人々よりも色々な面で優遇されやすい。当然それを不満に思って異を唱える者らもいる。実際に『神機使いの存在はフェンリルによる武力の独占である』だとか配給の改善だとか労働環境の改善だとか……そういうのをネタにしたデモは定期的に起きているし(それらは市民の()()()()としての意味合いなのかフェンリルが本格的に取り締まるようなことは滅多になかったが)、デモならまだマシな方で、各支部を標的にしたテロ行為に晒されることもある。

 

 守るべき人たちに憎まれるなんて因果な商売だよなと百田ゲンがいつだかに言っていた。その後に決まって、「マ、お前ら神機使いは憎まれてナンボだ」とも続くのだが。

 それにこうやって感謝の意を伝えてくれる人たちが少なからずいるのもまた事実だ。俺たちが守ってやっている、などど偉ぶるつもりは毛頭ないが、やっぱりこうして面と向かって褒められると嬉しくなる。

 

「今日も一日頑張っといで!」

 

 おばちゃんに送られて二人はエントランスを後にした。

 

 

「ほんっとうにこの方たちは緊張感に欠けてますね……!」

 

 サカキ博士のラボにてアリサは呆れと苛立ちを隠さずに男二人を睨めつけた。講師役のサカキ本人は「まあまあ」なんて言いながら笑って気にした素振りもない。聖奈も――それどころかコウタですら、ソファに凭れ、机に突っ伏して寝入っている。

 

「この二人は初回からずっっっっっとこうなんだ。聖奈くんは朝が弱い、コウタくんは机に着いた瞬間だからもうそういう習性なんだろうね――そうだ、今日はアラガミの習性について……」

「そんなことよりも起こさなくて良いんですか?」

「ああ~……良いの良いのもう。それに意外と寝てるようで聞いてるモンだよ、聖奈くんなんかこの間の抜き打ちテスト満点だったんだから。睡眠学習ってヤツかな? アハハ」

「……」

「なんだったらアリサくんが教えてあげれば良いんじゃないかい? 交流の切っ掛けにもなるしねぇ」

「冗談は止めてください」

 

 気だるく髪を弄りながらアリサはツンとして答える。結局、講義はアリサとサカキの1対1になった。内容自体は今さら復習するべくもないものだったが、人類最高とうたわれる頭脳の持ち主から直接指導を受けられるというのは実に貴重な体験だ。サカキの言葉に耳を傾けノートに書き記しつつも、アリサは時おり聖奈へと視線を向けた。

 

 どう見ても眠っているようにしか見えないが……

 

 何故、サカキもレオニールもこの男を評価するのだろう? あの廃寺での立ち回りを見る限り、勘は良いようだが動きは洗練されておらず、ハッキリ言えば旧型以下だ。なのに――それとも、まだ自分が察知していない何かを二人はすでに感じ取って知っているのだろうか?

 ならばとアリサは考える。実際にこの眼で確かめれば良い。講義が終わり次第、この男を叩き起こしてミッションへの同行を提案しよう、と。

 

 

「断る」

「は?」

 

 講義終了と共に立ち上がりラボを後にした聖奈をどうにか追い捕まえてアリサは同じミッションに行かないかと提案した。が、その提案は即レスで切り捨てられた。まだ些か眠たげな聖奈はアクビを噛み殺している。言った。

 

「アンタと一緒に行く意味ないから」

「はァ!?」

 

 正に一触即発、二人のやり取りを周囲の人間は緊張感を持ちつつ見守っている。

 

「な、な、な……」

 

 まさか一瞬も考えもせずに断られるとは思っていなかったアリサは混乱した。恥をかかされたと思ったし、蔑ろにされたと感じて怒りと不快感を全面に出した。わなわなと全身を震わせて言葉に詰まりながらも聖奈を上目使いで睨み付けた。

 

「あ、あーっと……ねぇ……アリサ、聖奈は先約があるから行けないって言いたいだけでさ」

「あなたには聞いてません!」

「そ、そーっすね……」

 

 これ以上はいけないと咄嗟にコウタが間に入るも裏目に出てしまった。苦笑しつつアリサに見えない角度で聖奈を肘でつつく。

 

「お前ねぇ~もうちょっと言い方を考えろって。相手は女の子だぞ!」

「あ? ……」

 

 小声で注意しても聖奈は何が悪いのかいまいちピンときていないらしい。これだからコミュ障は困る。

 

「と、とにかくコイツに悪気はないんだよ。ちょーっとばっかし人見知りでコミュ障なだけで」

「もういいです! 私、あなた大嫌い!」

 

 ついにアリサは大きな目からポロポロと涙を溢したのでこれには流石の槙嶋聖奈もギョッとした。が、なにぶん初めての経験なのでどうすれば良いのか分からない。慌ててコウタに視線で助けを求めるも、逆にコウタから冷めた視線を送られてしまった。

 

「えっと、その、泣くことねぇだろ、別に……」

「はァ?! 別に泣いてませんけど?!」

「ええ? いやだって涙出てる……」

「私、絶対にあなたなんて認めませんから!」

 

 涙目でキッと睨みつけてからアリサは走り去った。取り残された聖奈は本当になにがなんだか理解が追い付かずにフリーズしている。前回に引き続きアリサに怒られた、という単純なことは分かったが……コウタをもう一度見ると、コウタは腹を抱えて笑っていた。

 

.

 

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