月狼奇譚   作:ララミー牧場

16 / 30
とりあえずストックが切れるまでは更新する予定です。


サーチライト

 

「聞いたよ? キミ、アリサちゃんのこと泣かせたんだって?」

 

 神機保管庫に入るや否や、リッカが言った。ゴーグルをしているのでその表情は確かではないが、声色は呆れや非難というよりもどちらかというと楽しんでいるように感じた。

 

「……誰から聞いたんスか」

「コウタくん、ていうかアナグラ中の話題だけどね。キミがアリサちゃんのスカート捲ったことも含めて」

「べ……別に泣かせてないし、スカートの件も事故ッスよ!」

 

 聖奈にしては珍しく大声で否定した。自分の不始末をリッカに知られるのだけは何となく気恥ずかしいという気持ちがあった。ムキになる聖奈が面白くてリッカはくつくつと笑いを堪えながら自分の考えを言った。

 

「ねえ、アリサちゃんはきっとキミと仲良くなりたいんじゃないかな?」

「いや、でも目の敵にされてるッスよ」

 

 アリサの自分に対する態度を思い返す。大抵、睨まれるか怒られるか蹴られるかのどれかで、お世辞にも()()()したがっている側の態度とは思えない。リッカは続けた。

 

「不器用な子なんだよ、きっと。キミと仲良くしたくてもどうすれば良いのか分からないんじゃないかな……ほら、キミってパッと見は怖そうだし言葉使いもぶっきらぼうでしょ」

 

 その指摘に対してそんなこと……と否定しようとして、しかし、思い返してみると先日のアリサとのやり取りは確かに些か言葉が足りなかったように思えてきた。折角向こうから(やや上から目線ではあったが)同じミッションに行こうと提案してくれたのに、「先約があるから」というのをかなりぶっきらぼうな言い方をして断ってしまった。コウタの言い方を考えろという指摘は最もだった。

 

「………」

「ね? そりゃコウタくんとか私はキミに慣れてるしリンドウさん達は年上だから察してくれるけど、アリサは年下の女の子なんだからキミの方がちょっとは気を使って接してあげないと」

『いや~そいつァ無理だろ、それに朗らかなコイツなんて考えただけで気色が悪い。気色悪すぎてパーツが錆びそうだ、ケケケ』

 

 ネクロがカタカタと揺れたのは笑っているのだろうか。その振動が伝わって他の神機も微かに揺れている。普段ならネクロのこの手の揶揄に少なからず反論する聖奈であったが、今回はイヤに神妙な顔つきで腕を組んでるだけだったが、そのポーズのまま歩いて保管庫を出ていった――

 

 向かった先はまず新人たちの部屋が並ぶ区画だった。アリサの部屋を訪ねたが留守なのかチャイムを押しても応答はなかった。その隣のレオンも然り――あの二人は大抵ニコイチで行動しているから、今日も一緒なのだろう。

 しかたなくもう一度エレベーターに乗り込みお馴染みのエントランスへ。扉が開くとすぐ例の赤いハンチングが目に飛び込んできた。

 

 案の上、レオンと話し込んでいるアリサに声をかけようとして……聖奈は躊躇した。他者どころかアラガミ相手にすらしたことのない躊躇を、自分より2つも年下の15歳の女の子に対してちょっとばかり抱いている。昨日の今日でどう声をかけるべきなのか分からなかった。そういうことは今までコウタが上手いこと間に立っていてくれたのだと、改めて痛感した。しかし今、この場所にコウタはいないし、無論頼るけにもいかない。自分の態度が招いたことだから、自分で責任を取らなければならない。

 

 暫し考えて、聖奈は胸元のサングラスをかけた。

 

「あー……アリサ――さん」

「はい?」

 

 呼び掛けにアリサがゆるりと振り向く。まず目に入ったのはモスグリーンの布地に、上から下がるドッグタグだった。そして更に上に視線を持っていく。褐色の肌と、寝癖で所々跳ねた金髪を目に入れた所で表情を固まらせた。すすす……と移動して長身のレオンの背に隠れた。

 

 すっかり嫌われている。まァ、当然といえば当然だが。

 

「ナニカヨウデスカ」

 

 無機質で事務的な声。聖奈はガリガリと後頭部を掻いた。

 

「この間は悪かった――です、その、自分の言葉足らずでアンタを泣かせた。俺は口が悪いし――語彙もねぇんだ、端的に言うと頭が悪いんだ。あー……アンタと任務に行くのが嫌だった――訳じゃなくて、あの時は……別の先約があったから……」

 

 しどろもどろになりながらも聖奈なりに懸命に言葉を選び並べていく。柄じゃないし、気恥ずかしい。周囲の好奇の視線が居たたまれなく、今すぐ逃げ出したいくらいだ。普段、アラガミと闘うときくらいにしかかけないサングラスをかけたのも照れ隠しとかそういう意味だった。

 一方のアリサもレオンの腕を掴んだままポカンと口を半開きにした。

 何か急に話しかけてきたと思ったら、これまた急に謝罪をかましてきた。今まで「俺はガキなんかに媚びねえぜ」的なスカした態度(あくまでもアリサの主観だが、事実、聖奈にそういう印象を抱いているのは彼女に限った話ではない)で、伝え聞く噂によればとんでもない()()()――外部居住区時代はその手のつけられなさから『狂犬聖奈』とか素晴らしくダサいアダ名を付けられていたと知ったときは腹を抱えて笑ったが。まァ、とにかく。

 

 何だか気分が良かった。メチャクチャ良かった、まるで質の良い睡眠を取った後のような快適さだった。

 

 謝罪の場でサングラスを取らないのは頂けないが、あの槙嶋聖奈が、己の過ちを省みて年下の女の子にはっきりと敗けを認めているのである。少なくともアリサはそう解釈した。

 

「ま、まァ、良いですよ。別にちっとも気にしてませんから」

 

 とはいえいつ噛み付かれるか分かったもんじゃない。レオンを盾にしたままでアリサは頷いた。

 

「あ、でも言っておきますけど、別に悲しくて泣いてた訳じゃないですから! あの時は悔しくて泣いたんですから!」

 

 べーっと舌を出すアリサにやっぱ泣いてたんじゃんと思った聖奈であったがここでまた余計なことを言い拗れるとより面倒な方に行くと察し黙っていた。

 

「す、すごい……あの聖奈が年下相手にへりくだってる……!」

「これも成長ってヤツだ。なにはともあれ、俺が出る前に丸く収まってくれたようで手間が省けた」

 

 少し離れた所でコウタとリンドウが事の成り行きを見守っていた。新型同士のトラブルはツバキの耳にも入っており、隊長ならどうにかしろとのお達しがきていたのである。これで姉上にキレられなくて済みそうだ。やれやれと首を振ると、腕を頭上へ突き上げ伸びをしながら階段に右足をかけた。

 

「おーい新入り、今日の仕事はソーマとエリックとだ。遅れずに向かえよ」

 

 聖奈が頷いたのを認めると階段を降りていった。

 

.




次回でようやくソーマが出せますね、第1部隊が揃います。
本来ならアリサが出るのはその後なんですが、この話ではあえてそこら辺の時系列は入れ替えてます(特に深い意味はないのですが)

ここまでの閲覧ありがとうざいます。話の展開はもうちょっと早くても良いですか?

  • もうちょっと早くても良い
  • 今くらいでちょうど良い
  • もっとじっくりやってほしい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。