月狼奇譚   作:ララミー牧場

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サーチライト #2

 

 先日行った鉄塔の森が小型アラガミのスポットになっているのであらかた駆逐してきてほしいというのが今回の内容だった。もしかしたらあのグボロ・グボロがここら辺の縄張りのボスで、そのボス(邪魔物)がいなくなったので小型たちが大集合しているのだろうか?

 などと余計なことに思索を巡らせている聖奈の目に、対面に佇む二つの影が映った。奥にいるのは他所を向いているが、もう一人はこちらの到着に気がつくと軽く駆け出しつつ頭上に上げた手を振っている。

 

「やあ、君が噂の新人クンかい?」

 

 近距離までやって来たのは赤毛のサングラスの男だった。サングラスが被っているので聖奈は先輩を立てて自分が外すことにした。いくらここが年中曇っている辛気臭い場所だとは言っても、雲の隙間から差す日の光が右目に刺さる。僅かに顔をしかめると、相手がそれを不思議に思ったようだった。

 

「その――非常に不躾な聞き方になるが……君は何か目に障害を?」

 

 聖奈は頷いた。

 

「つっても、そんな大したことないモンですよ。右の目玉がこう、日の光に弱いだけスから。電気とかの人工の光は不思議とどってことないんスけどね。マ、閉じてりゃ問題はねぇ……ないです」

「そういう理由なら気にせずかけていると良い。そもそも極東(うち)は服装にさほど厳しくはないのだからね、先輩の前だからといって気を使う必要は皆無さ」

 

 もちろんTPOは遵守すべきだが、と語尾に付け加える本人もその言葉通り実に素晴らしいファッションをしている。脳内で一通り思い返してみると、確かに極東の連中のファッションは個性的だ。フェンリル支給のジャケットを羽織っているのは自分くらいのものである(といってもこれだって父親の遺品のヴィンテージ物だ)。別に彼の言うように“先輩への礼儀”を気にした訳ではなかったのだが……ここは素直に甘えることにした。

 

 聖奈がもう一度サングラスをかけたのを見届けてから相手は改めて続けた。

 

「自己紹介が途中になってしまったね? ボクはエリック、エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。同じ極東の戦士として共に華麗な――」

「っ! エリック! 上だ!!」

 

 それまで、エリックと聖奈のやり取りを興味なさげに一瞥していた青いフードの神機使いが会話を遮って叫び飛び出した。その言葉につられて顔を上向けると、赤黒い何かが眼前いっぱいに広がった。これは何だと一瞬思考が停止した。それが大口を開けて自分の頭から噛み砕こうとしているオウガテイルだと気が付いた時にはすでに神機を構えるには遅すぎた。

 

「あっ、うわあああああ!!!!!」

 

 何も出来ずに絶叫するエリックへ、フードの神機使いが察するよりコンマ一秒早く察知したネクロによって後ろに引っ張られていた聖奈が手を伸ばす。辛うじてその剥き出しの腕を掴むことは出来たが、自分の方へ引き寄せるのとオウガテイルがその頭を噛み砕くのでは後者の方が早そうだった。頭を破壊されればリンクエイド(蘇生措置)は叶わない――

 

 その場の誰もが絶望的な死を避けられないと察したが……風切り音と共に伸びてきた神機の刀身が、まるで獲物に食いつく蛇の様に寸でのところでアラガミの胴体に巻き付いた。そのまま近くの壁へ叩きつけ始末してしまうと、伸びた刃は主人の手元に戻っていく。「大丈夫でしたか?」

 

 声と神機の主はレオニール・グラスハートだった。彼女もまた聖奈と共にこのミッションの為に派遣されていたのである。彼女の神機――アルラウネを携えながらゆっくりとこちらへ寄ってくる。

 間一髪でどうにか死を回避できたエリックは脱力してへたへたと座り込んでいた。

 

「は……はは……すまないね、二人とも……」

「バカが……油断するなと言ってるだろう」

「ソーマ……」

 

 フードの神機使いが肩に神機を引っかけながらエリックの隣に立った。言葉はキツいが未だ座り込むエリックへと手を差し出してやっていた。その肩にある神機の刀身はノコギリのような逆刃の並ぶバスタータイプの物だった。

 エリックはどうにかこうにか立ち上がると、改めて礼を述べてから二人へフードの人物を紹介した。

 

「と言っても君たちは知っているよね? 彼はソーマ・シックザール……君たちと同じ第1部隊さ」

 

 ソーマを紹介するエリックはどこか誇らしげであった。

 ソーマについて、聖奈は当然知っていた。こうして同じ任務につくのは初めてだったし、間近で顔を見るのも初めてだが――若干12歳にして初陣を迎え、極東支部内でもっとも高い適合率を誇りリンドウに次ぐ戦力を持つ人物……にも関わらず、周囲の人間からは【死神】などと物騒なアダ名で呼ばれている男。自分の狂犬よりは遥かにマシな気もするが。

 

「お前も気を付けた方が良いぜ? 死神に睨まれねぇようになァ」

 

 ミッション前にそう忠告(というよりも明らかに無責任な噂を面白がっていた)してきたのは第3部隊の小川シュンだった。ソーマの同行するミッションは不思議なことに死亡率が高いのだそうだ。アラガミが集まってくるという話も聞く。なのに当の本人だけは無傷で生還する――そういう事が繰り返された結果、いつしか当然のようにソーマは死神扱いされるようになっていた、と、いう訳だ。

 

「くだらねえ自己紹介なんざいい、さっさと仕事を終わらせるぞ」

「いやしかしだねソーマ、同じ隊の仲間じゃないか」

「どうせすぐ死ぬ奴らの名前なんか覚えたって仕方ねえ」

 

 やや自己陶酔の気はあるものの人当たりが良く友好的なエリックとは対照的でソーマは実に素っ気なく他者を突き放す物言いであった。もっともその面では聖奈も負けず劣らずではあったが。

 

『感じ悪いねえ、反抗期かァ?』

 

 冷えきり静まった空間にネクロの揶揄が響き渡った。ソーマがチラと視線をネクロへと傾ける。

 

「――ソイツが噂の神機か? 気持ちの悪い奴だ」

 

 フンと鼻で笑うソーマ。今度こそ踵を返して小型の群れへと突っ込んでいった。

 

「その、聖奈くんもレオニールくんも悪く思わないでやってくれ、彼は本当は仲間思いの良い奴なのだよ」

「まァ……感じ悪いのは事実スけど俺も似たようなモンなんで気にはしてないス」

「ええ、私も気にしてませんわ。それよりも仕事に取りかかりましょう」

 

 仕事自体は順調に進んだ。この場にいるメンバーを考えれば当然と言えた。なにせ、ド新人の聖奈を除けば、経験豊富な神機使いが的確な指示と技術でもって手際よく敵を駆逐していくのである。聖奈にしても、中型はともかく小型の討伐に今さら手こずるようではない。度重なるリンドウとの出撃でそういうところは徹底的に仕込まれている。

 

『あららら、囲まれちゃったぞ? どーすんのよ』

 

 向こうで鬼神の如く血肉を散らして回る神機使いの凶刃から辛うじて逃れた数匹がぐるりと周囲を囲む。一般にアラガミに高い知能はないとされているが、その低知能のアラガミにすら一番弱い相手と判断されるのはさすがに屈辱以外の何者でもない。聖奈の表情がみるみる険しくなっていく。

 

「ブッ殺す!」

 

 両手で握った神機を顔の横で構え直し上半身を捻って勢いをつけ横薙ぎに振り抜く。ようするに、“独楽”の要領だ。自分を芯にして回転の勢いで周囲のアラガミを斬り裂くという荒業で3体を同時に始末したが、残りの1体は切っ先か届く前に離脱していた。勢いに乗ったままで聖奈は逃げ出したオウガテイルを追いかけた。神機使い(ゴッドイーター)として強化された身体能力と、ついでにネクロが勝手に捕食したおかげでバーストしている。それに、他の個体と違ってスットロいのか追い付くどころか追い抜いていた。

 

『アラガミにもトロい奴ってのはいるんだな』

「ちっ、手間かけさせやがる……!」

 

 舌打ちしながらこっちへ向かって走ってくる形になったオウガテイルに神機を叩きつけようとして――パーツが根本からバキッと板チョコのように折れた。

 

「こんな時に! テメェ! いい加減にしろよ!」

『なにをこのクソガキ! オメーの神機の扱い方が雑なんだよ! ボケ!』

「ああ!?」

 

 なにがなんだか分からないが、これ幸いとばかりにオウガテイルはそのまま逃走する。それにも気が付かずに二人(という表現はいささか妙だが)は口喧嘩に夢中になっている。やってきたソーマたちに気がつかないほどに。

 

「お前ら……何くだらねー漫才やってやがる……」

 

 リンドウから「オモシロイのが入ってきた」とは聞いていたが――とんでもないのが入ってきたと、ソーマはフードをかぶり直して深い溜め息を吐き出した。

 

.

 




エリック上田回でした。

ちなみに余談ですが主人公の槙嶋聖奈のビジュアルについては、
・金髪褐色
・右の顔面に薄く火傷の跡がある
・長身(やや猫背)
くらいでこれといったビジュアルの設定はしてないのですが、ボイスだけは無印の男主人公18のイメージです。
そのうち装備の詳細などもあとがきで書いていきたいですね。

ここまでの閲覧ありがとうざいます。話の展開はもうちょっと早くても良いですか?

  • もうちょっと早くても良い
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