サブタイトルが「INTERMISSION」の時は高確率で箸休め回です
■楠リッカの場合
一通りの仕事を終えて楠リッカは医務室のあるフロアへとやって来ていた。別に体調が悪いだとか仕事中に怪我をしたとか、そういう理由ではない。本日付けで聖奈への面会が解禁になったからである。聖奈が任務中にナイアーラトテップと遭遇し重症を負ったのがひとつき前、意識を取り戻してからは2週間が経過している。
容態が落ち着いたということで、短時間ではあるが主治医のオオグルマから面会の許可が出たのだった。
「オッス、聖奈くん! 元気そうじゃん」
医務室のベッドの上で胡座を掻き煙草を吸う聖奈に、リッカは軽く片手を上げた。
「せ、先輩……あ、ドーモ」
「やだなー何気ぃ使ってんの?」
慌てて灰皿に煙草を押し付ける姿に苦笑する。
「マ、でも君って未成年だからね。よろしいよろしい」
うんうんと頷くリッカにぐりぐりと頭を撫でまわされて聖奈は複雑な表情をした。どうにもこの先輩にかかると調子が狂って困る。
「でもまァ、本当に元気そうで安心したよ……聖奈くんがさ、意識不明だって聞いたときは……」
リッカの顔から笑顔が消えた。微かに伏せる瞳の端に涙が光って見えるのは決して気のせいなどではないだろう。直接フィールドに立つ神機使いではないとは言え、リッカとてアナグラの一員だ。寧ろその神機使いたちが手に携える神機を預かりメンテナンスする技術師という立場だからこそ、神機使いの安否には人一倍、敏感だった。
今にも泣き出しそうなリッカに聖奈は柄にもなく慌てた。
「う、あ……ぃやっ、その……俺、もう先輩に心配はかけませんから、絶対に。だからその、な、泣かないで欲しいんスけど……」
「聖奈くん……」
いつもは何事にも動じないような表情の固い彼が困り果てているのが面白く、思わずクスリと口許が綻んだ。
「うん、絶対だよ? 約束だからね?」
「ウス」
「約束破ったら、冷やしカレードリンク一生分奢ってもらうからね?」
「……ウス」
「あのぉ……」
非常に申し訳なさそうな声が、2人のやり取りを遮った。
「イチャイチャしているところ申し訳ないんですが、俺もいるんで……」
「こっ、コウタくん!」
視線の先、ベッドの枕元にコウタがいた。身を縮め椅子に座っている様子は、何だか哀れすら誘う。リッカは慌てて取り繕った。
「ごめんごめん、気がつかなかったよ! それにイチャイチャって何さ、私と聖奈くんはそんなんじゃないよー! ねぇ?」
「アッハイ」
カラカラと明るく笑い声を上げて見事に否定してみせ同意まで求めるリッカ。聖奈は内心でショックを受けながらもリッカの為に同意する。
「え? そうなんですか? 俺はてっきり……アナグラ内でも噂になってますよ?」
「ええ~マジで? ったく、みんな娯楽に飢えてるからなぁ。聖奈くんは手の掛かる弟みたいなモノだよ、それに私、年上の方が好みだし」
「あっそうなんすね!? いや~残念だったな聖奈ァ」
「ああ゛?」
何か含みのあるニヤニヤ笑いを浮かべるコウタ。
と、それを睨みつける聖奈。
「あっそうだ! 思い出した! ハイこれ、お見舞いの冷やしカレードリンク」
そう言ってリッカはパンパンになったビニール袋をベッド脇のサイドテーブルに乗せた。冷やしカレードリンクと聞いて聖奈は苦い顔をする。以前、彼女から勧められて飲んだことがあるのだが、あまり一般的に受け入れられる味ではなかった(配慮した表現)と記憶している。それでもリッカ本人の口には非常に美味であるらしい。そして、そんな自分の大好物を聖奈のために差し入れてくれたのである。この気遣いを受け入れてこそ男であると言えるだろう。
「あ、アザっす……!」
「うん。これを飲んでもっと元気になって復帰してよ。ネクロも寂しがってるからさ」
「ネクロ、無事だったんスか。良かった」
あの時、霞む意識の中でネクロがナイアーラトテップに捕喰されようとしているのを聖奈は見た。自分は運良く命を拾うことが出来たが、もしもネクロがあのまま……その懸念は目覚めてから常に脳裏を掠めていた。
「ただ、所々の損傷が激しいからまだ補修中。なかなかパーツが届かなくって……」
「そうなんスか」
「でも安心して。キミが復帰するまでには完璧に仕上げておくから! じゃあ私は仕事に戻るよ。コウタくんもほどほどにね~」
そう告げてヒラヒラと手を振り、リッカは技術室へと戻っていった。
■台場カノン及び第3部隊の場合
「お元気そうで良かったです~」
医務室にほにゃららとした声が弾む。
リッカと入れ替わりにやって来たのは、防衛班第2部隊メンバーの台場カノンと……。
「鳴り物入りの新型も口ほどにもないな」
「心配したのよ? でもまァ、無事なようで良かったわ。命あってこそだもの……ウフフ……」
「ダッセぇなァ~ギャッハッハ!」
上から順にカレル・シュナイダー、ジーナ・ディキンソン、小川シュンの第3部隊の面々である。彼らもカノンと同じく防衛班に所属している。
「タツミさんとブレンダンさんも来たがっていたのですが、任務がありましてぇ……それで第2部隊代表で私が来たという訳です、ハイ」
「カノンさんは任務行かなくて良かったんスか」
「えっ……と、その、私は」
「あーコイツはアレよアレ、補習」
人指し指同士を突き合わせながら言い淀むカノンを遮ってシュンが横から補足する。
「うう~……ヒドイですよぅ、シュンさん……」
「んだよ、ホントの事だろが」
唇を尖らせて不満を表すカノンへ、シュンはゲラゲラと笑う。
さっきとは打って代わり随分と賑やかしい見舞いである。やって来るなりシュンは見舞品の菓子を勝手に開けるし、カレルは聖奈を見て鼻で笑うし、ジーナはナイアーラトテップとの遭遇時の話を聞きたがった。そしてカノンはカノンで何やらモジモジとしていた。
「あまり長居しても仕方がないわね。そろそろ引き上げましょうか」
「おう、んじゃあな新型」
「早く復帰しろよなー。お前がいねぇとツマンネーよ」
医務室にはカノンと聖奈の二人きりになった。
「えっと、槙嶋さん。甘いものはお好きでしょうか?」
「嫌いじゃないスね」
それを聞き留めて、にわかにカノンの表情がパッと明るくなった。
「そ、それじゃあこれっ……珍しく材料が全部揃ったので、お見舞いにクッキーを焼いてみました! よよよ、よかったらドウゾ!」
部屋に入ってきた時から持っていたバスケットを聖奈の手元に預けると、カノンはペコリと一礼して三人の後を追っていった。
パタパタと遠ざかっていく足音を聞きながらバスケットの中身を見ると、様々なアラガミを型どったクッキーが詰まっている。その中から一枚をつまみ出すとオウガテイルの形だった。
■アリサ・イリーニチナ・アミエーラの場合
時間は夕方に差し掛かっていた。そろそろ任務に出ていた神機使いたちが帰投し、他の職員も業務を終了する頃合いだ。
聖奈はタブレット端末で小説を読んでいた。カーテンの向こう側でドアが開く音が聞こえる。終日外に出ていたオオグルマが戻ってきたのかと思ったが、しかし違ったようだった。
「槙嶋さん」
「……あ?」
呼び掛る声に読書を中断して顔を上げると、ベッドの横にアリサが立っている。
「あ、ああ……お宅か……」
「なんでそんなにキョドってるんですか?」
同じ新型どうしとはいえ、聖奈はアリサに対して余り良い印象がない。いつも何か怒っているような雰囲気だし、気に入らないとすぐに蹴ってくる。彼女が他の神機使いに不遜な態度を取ると、クレームを付けられるのは自分だ……それに。
「この間は足引っ張って悪かったな」
「……はァ!?」
例のミッションの事は聖奈自身、ずっと気にはしていた。自分がこんなことになった結果、同じ新型のアリサにまで風評被害が及ぶのではないかと。神機使いになることが最大の目標ではあったが、
だがしかし、アリサの反応は予想していたものと違った。
「わっ、私が怒っていると思っていたんですか!?」
「だってお宅、俺のことが嫌いだろ」
「そ、そんなことは──確かに言いましたし嫌いですけど、死にかけた人に対してまで怒ったりしませんよ!」
「そ、そうかよ……つか結局怒ってるじゃん」
「これはアナタがバカなことを言うから……まァ、良いです、もう。そんなことよりも、槙嶋さん」
んっとアリサは咳払いすると、おもむろに右腕を伸ばして聖奈の着ているシャツを一気に捲り上げた。
「……は?」
「ちょっと後ろ向いてください」
「いや、何これ……」
「いいから!」
やって来た後輩に服を捲られるという謎の状況に混乱しつつも、聖奈は渋々、言われた通りにする。
「火傷がない……」
アリサは暫くの間うんうんと唸りながら聖奈の背中を観察していたが納得したようであった。
「ありがとうございます。もう良いですよ」
「何だかわからねぇが……まァ、良いけどよ」
「それでは。私はもう用は済みましたので」
本当に一体何だというのか。アリサの奇行とも言える行動に聖奈は閉口するばかりである。
「あ、そうだ。復帰したら、今度こそ私とミッションに出てもらいますからね」
カーテンの隙間からそう告げると、アリサは今度こそ医務室を出ていった──聖奈に原隊復帰の許可が降りるのは1週間後の話である。
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もしも主人公・聖奈とくっつくとしたら?(アリサはくっつかない宣言してますが結果や展開によっては)
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アリサ
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リッカ
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カノン
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ネクロ
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その他(よければ※欄にて)