「アンタ、この間アリサと二人きりでミッション行ったんだってェ?」
藪から棒にコウタがニヤニヤ話しかけてきたので、聖奈は後頭部をひっ叩いた。なんとなくムカついたからだ。言外に「アリサと何かあったのか?」とでも聞きたそうな雰囲気が感じ取れた。流石の聖奈にも察せる程、それは露骨であった。
「イッテェ~……何すんのよ」
「妙な勘繰りすんなよ。確かにミッションには行ったが何もねぇよ」
「え? そうなん?」
なんだよーと不満げな声を上げるコウタを無視して聖奈はズカズカと歩いた。
今日も今日とてお仕事である。
エントランスの階段をカンカンカンと小気味良くリズムを鳴らし降りると、受注カウンターへと真っ直ぐ向かった。カウンターでは相も変わらず大森タツミがオペレーター嬢の竹田ヒバリにモーションをかけている……が、聖奈は構わずに間へ割って入った。
「サーセン、任務一丁オネシャス」
「おいおいラーメン屋じゃねぇんだぞ」
「あ、ハイ。リンドウさんから預かってますよ」
ヒバリもタツミも最早慣れたものである。
ヒバリはテキパキとコンソールを叩き大型アラガミ討伐のミッションを出した。
「本日の討伐対象はサリエル、フィールドは嘆きの平原です」
サリエルは人と蝶とを掛け合わせた姿を持つアラガミであるらしい。少なくともアーカイブの資料画像ではそう見える。額にある目玉様の器官から様々な光線を、更に毒粉による攻撃も繰り出し、何よりも厄介なのは中空を舞い飛ぶ獲物を仕留めるにはまず銃で撃ち落とさねばならぬということであろう。
リンドウから課せられるミッションにおいて同行者を選ぶ権利は聖奈に委ねられていた。
なので聖奈はまずサクヤに協力を求めた。が。
「アラ、ごめんなさい。先約があるのよ」
との事だった。ならばと銃の扱いには一家言あるジーナに声をかけたが此方も空振りに終わった。
「仕方ねぇな……コウタ、ついてこいよ」
「それが人にモノを頼む態度な訳!? まァ、良いけどよー……で、他には誰誘うの?」
「あのっ、もしよければ私をお連れ下さい!」
「なるべくなら銃の上手い奴を連れていきたい」
「カレルは?」
「特別手当てとか言ってボラレルからなァ……」
「あのあのっ! 私を……」
「あー分かる分かる。腕は良いんだけど口悪いし守銭奴なんだよなアイツ」
「あのぉ~……」
「しゃーねぇ、気は進まねぇがあのロシア娘でも──」
「あのぉっ! 台場カノンですっ! 私をミッションに同行させて頂きたいのですがっっ!」
耳をつんざく大音声にその場の全員がひっくり返りそうになった。
「……台場センパイ」
「お話に夢中で私に気が付いていらっしゃらなかったようなので、ちょっと大声出しちゃいました。ごめんなさい、えへへ……」
照れ臭そうに笑うカノンに、聖奈もコウタも閉口した。
勿論、彼女の必死の売り込みに気が付いていなかった訳ではない。気が付いていたがあえて無視していただけだ。カノン自身は悪い女の子ではないのだが、如何せん射撃の腕が良いとは言いがたい。聖奈もコウタも神機使いになってすぐに彼女の洗礼を浴びており、半ばトラウマのようになっているのである。
「それでですね。何やらお困りのようですので、私も微力ながらお手伝いさせていただこうかと」
「はァ、別に大丈夫です」
「え!? 大丈夫ですか!? 良かったぁ……それではちょっと準備してきますね!」
ビッと敬礼しパタパタ小走りで去っていくカノン。日本語って難しい。
結局、任務は聖奈コウタカノンアリサの4人で行くことになった。
「あのっ! 私っ、クッキー作ってきたんです、任務後に皆さんで食べませんか?」
「えっ? マジマジ? 俺カノンさんのクッキー好きなんだよねー!」
「お二人とも、ピクニックではありませんよ」
アリサは思わずツッこんだ。
嘆きの平原は遮蔽物が何もない見晴らしのよいフィールドである。お陰で索敵に何ら支障はないのだが、逆に複数の敵の分断には不向きな場所でもあった。
双眼鏡を覗く聖奈は舌打ちをくれた。
「様子はどうですか?」
「あっ」
横からアリサがひょいと双眼鏡を奪い覗きこむ。視界には一体のサリエルと、それに随伴するように漂う小型のアラガミが複数対見てとれた。見たことのないモノだった。ザイゴートとも違う、どちらかと言えば【サリエルの幼生】のような姿をしていた。
「何でしょうかね……アレ? データベースにもないアラガミのようですけど……」
アリサの疑問に答えるように、通信越しにヒバリの声がする。
『サカキ博士によると【進化途中のサリエル】ではないかとのことです。今作戦では暫定的にサリエルベビーと呼称します』
「やることはハエ叩きだろ? 変わんねぇよ」
アリサの手元から奪い返した双眼鏡をバックパックへ放り込むと聖奈は額のサングラスを目元まで下げた。
「コウタと台場センパイ、援護オネシャス」
「任しとけって!」
「り、了解です!」
「アンタは臨機応変に動いてくれ」
「アナタはどうするんですか?」
「俺は前に出る」
言うや否や、聖奈は既に爪先に力を込めて大地を蹴っていた。
「んもぉ! 本当に自分勝手な人!」
言いながらアリサも僅かに遅れつつ後を追う。
視界の良いサリエル達は、自分に向かって何者かが疾駆してくるのに素早く気がつき迎撃の体勢をとる。
『おいガキ共、気を付けろ! あのクソデカ蝶々、レーザー撃ってくる気だぜ!』
ネクロの警告と殆ど同時に、レーザーが真っ直ぐ自分目掛けて飛んでくる。避けきれぬ攻撃であったが、ネクロはガパリと大口を開けてそれを捕食してみせた。ネクロの捕食によって腕輪を通じて体内のオラクル細胞が活性化していくのが分かる。
群れの頂点を守ろうとギイギイと耳障りな鳴き声を上げながら殺到するサリエルベビー達を、コウタとアリサの弾丸が撃ち貫く。数体が煙を上げて墜落していく。聖奈はそれを踏みつけながら中空の本丸へ肉薄していく。が。
「どわっ!?」
背後からの攻撃を受けて吹っ飛ぶ聖奈へ無慈悲な一言がぶつけられる。
「射線上に入るなって、私言ってるよね?」
言葉を発したのは我らが台場カノンその人である。
極東支部にてソーマや聖奈に次ぎ適合率の高い彼女はデータ上では高スペックを誇るが、その実、射撃のウデマエは精密とは言い難い。フレンドリーファイアの常習犯であり、ついたあだ名は【ちゃん様】【誤射姫】。気に食わない上官や同僚をフレンドリーファイアを装って……などという戦場でのブラックジョークがあるが、彼女の場合は至って真面目・本気なのである。
故に彼女は謝らない。
平時ですら「だってアラガミが勝手に動くんです!」と大真面目に訴える彼女である。悪いのは彼女の射線上に迂闊にも入ったマヌケなのだ。更にタチの悪いのは、神機を握り戦場に立つと人格が豹変するという所だろう。もっとも、これに関しては聖奈も人のことを言えないのだが……。
とにもかくにも、こういう理由から、一部の変態を除き彼女と任務に行きたがる者はごく少数であった。
「アハハハハハ! 雑魚がでしゃばるんじゃないよ!」
邪魔だった聖奈を吹っ飛ばし充分に射線を確保したカノンは狂乱しながら高火力のブラストをブッ放しまくる。サリエルベビー達の殆どは燃えながらフラフラと墜落していき、残るは護衛を失い丸裸にされたサリエル本体のみだ。
「んもう、槙嶋さん! 何してるんですか!? さっさと起き上がって! 射撃!」
四方八方から弾丸の雨霰を受けてサリエルは苦しげな声を上げている。スカート部分はすでに結合崩壊を起こしつつありボロボロと脆く崩れ始めていた。
アリサからの激に飛び起きた聖奈は中腰ぎみにスピアを構え【チャージグライド】の準備に入った。銃身パーツがスナイパーのためにどっちみち近距離からの射撃には向いていない。ありったけの力を込められたムーンビーストの穂先が次第に展開していき、見る見る間に巨大な黒い槍の姿になった。
その状態を保ったまま聖奈は再び地を蹴った。苦し紛れにサリエルが撃ち込む幾筋ものレーザーを無駄のない体裁きで避け、崩れかけの高台や崖の壁面に足をかけて中空へ躍り上がる。
(槙嶋さん……やっぱり動きが良くなってる……! でも、いくらバースト状態だからってあんなに……?)
サリエルよりも遥かに高く跳び上がった聖奈にアリサは驚きを隠せなかった。思わず射撃の手を緩めて曇天を見上げる。捕食による恩恵と神機使いの身体能力があったって、あんなに高く跳ぶなんて──
「とっととくたばんなァっ!」
逆さまになった聖奈は神機を両手で握りこみサリエルの脳天目掛けて落ちていく。落下のスピードに全体重を乗せた重い一撃にて獲物の命を食らおうとしていた。
さらにネクロも、負けじと捕食口をガパッと開いた。
迫り来る殺意の気配に頭上を扇いだサリエルの視界に映ったのは赤黒い色であった。
〈──っ!〉
後退し回避しようと身じろぐも、地上からの砲撃にタイミングがずらされた。
「槙嶋さん! 今です!」
「ぅおおおおおおおっ!!」
アリサの号令と同時にまずネクロがサリエルの頭に食いつきその半分程を食い千切った。すぐさま咀嚼して飲み込む。さらなるバースト状態に移行した聖奈は巨大な槍の穂先を、サリエルの抉り取られた傷口に埋め込み貫いた。
サリエルは断末魔の叫びを上げることすら出来ずに地面に叩き落とされる。まだ僅かに痙攣しつつも何かへすがるように振り仰いだ首は、アリサの剣戟によって斬首された。
「あっ、何だよ。また俺の獲物を取りやがって!」
「早い者勝ちですよ」
「え? マジで俺たち大型倒しちゃった? すげくね!?」
「ですです! さすが第1部隊の皆さんですね~! 凄いですよっ!」
初めて大型を討伐した歓喜に沸き立つ4人。
ザッと軽いノイズの後にヒバリからの通信が入る。その声にもどこか嬉しそうな色が含まれていた。
『お疲れさまです! これにて任務終了ですね。帰投準備が完了するまでその場で待機……を……』
「? どうしたのヒバリちゃん?」
『も、もの凄いスピードでそちらに新たなアラガミが接近しています!』
その言葉に場の雰囲気は一瞬で緊張状態へと転じた。
ただの小型や中型ならば今更ヒバリがこうまで焦りを見せる筈がない。故に、此方に向かってきている個体は今この場にいるメンバーの総力を遥かに凌ぐアラガミだということだろう。
『この反応は……ヴァジュラ!?』
その言葉を聞いた瞬間、隣のアリサがひゅっと息を飲み込む音を、聖奈は確かに聞いた。
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もしも主人公・聖奈とくっつくとしたら?(アリサはくっつかない宣言してますが結果や展開によっては)
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アリサ
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リッカ
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カノン
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ネクロ
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その他(よければ※欄にて)