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『今、アナグラに残っていたソーマさんとエリックさんにそちらへ向かって貰っています。お二人が到着するまで皆さんは落ち……て対……を……』
トラブルにトラブルは重なるモノらしい。
必死に呼びかけるヒバリの声が次第にノイズに飲み込まれていき、やがてザーザーという耳障りな音しか聞こえなくなった。酷いジャミング状態だ。そして、これが意味することはすなわち──
「……来るぞ、
聖奈のつぶやきにその場の全員がゴクリと唾を飲み込む。
【アレ】とは要するにナイアーラトテップを指している。【アレ】が来るときは決まって酷いジャミング状態に陥り、アナグラとの通信が途絶に陥った。今ごろアナグラでは、振って沸いた二重のトラブルにてんてこまいだろう。
「ど、どどど、どうしましょう!? とりっ、とりあえず皆さんはどこか物陰に隠れてください!」
「いやいやカノンさんはどうすんのさ!?」
「わた、私が囮になります!」
「イヤ無茶だってぇ!!」
コウタは神機を片手に飛び出していこうとするカノンに殆どしがみつくようにして止めた。彼女なりに先輩としての務めを果たそうとしているのだろうが、明らかに無謀な挑戦でしかない。アリサはアリサでさっきまでの元気を無くし、呆然自失としている。
『オイオイどーすんだガキ共ォ、慌ててる場合でもボンヤリしてる場合でもねーぞ』
いつも通りの軽口ではあるが、ネクロの声色にもどこか緊張が混じっていた。
それも当然のことかもしれない。今この場にいるメンバーでナイアーラトテップの驚異をその身に実感として刻んだのは、ネクロとその操り手の聖奈だけなのであるから。
「……とりま、台場センパイはそこのロシア娘頼むっス」
「大丈夫です……っ!」
掴まれた腕を振りほどき、アリサは自分のバックパックから瓶を取り出した。乱暴に蓋を外すと直接口へザラザラと白い錠剤を流し込み、噛み砕く。
「……大丈夫ですから!」
「そうは言ってもよ、オタク──」
ヴァジュラが怖いんだろう、という問いかけはアリサからの鋭い視線に遮られた。余計なことは言うなとアイスブルーの瞳が訴えている。そこには微かな恐れとは別の光が灯っているのを聖奈は認めた。というより認めざるを得ない。状況的にも戦力は多い方が良い。例えそれが新兵に毛が生えた程度の3人と誤射上等の衛生兵であろうとも──観念したようにチッと舌打ちをくれる。
「今は私情を優先している場合ではないですから」
「あーわかったよ」
聖奈は微かに生じ始めている頭痛を確かめるように左手でこめかみを押さえた。
「マ、今んなこと考えてる暇はねぇか……」
手元のネクロをグッと握りこむ。
『──ヴァジュ……来ます!』
ザラついた音声が其々の耳に警告を伝えるのと同時に、ヴァジュラがフィールドへ飛び込んできた。一同は咄嗟に散開し神機を展開させる。
まず撃って出たのは意外なことに台場カノンであった。
「デカブツがっ! 蜂の巣にしてあげる!」
溜め込んでいた
「うおっ!」
「チッ!」
弾幕の中からでも確実に此方を狙い切り裂こうとしてくる爪を、コウタとカノンはすれすれで避けた。地面を転がり、またはバックステップで距離を取りつつ薬液でOPの補充をする。とはいえ体内でオラクルが生成されるまでには数秒ほどを要する。その隙間を埋めるように、次にヴァジュラへと疾駆していったのは聖奈であった。
しかしヴァジュラもすでにさっきの攻撃で臨戦態勢に入っている。
繰り出される突きを交わすと、背にたなびくマント状の器官から小型の雷球を発生させ聖奈目掛けて撃ったのである。
──疾い。
ここに及んで3度目の舌打ちをしつつ、聖奈は辛うじて雷球を避けた。僅かにかすったか肩に羽織っているジャケットの裾が焦げてしまったが気にしている暇もない。
今まで戦ったどのアラガミよりもヴァジュラは俊敏であった。さすがトラに似た風貌を持つだけある。俊敏で柔軟な動きと、対象しつこく狙い追い詰める残忍さは確実に獲物を疲弊させていくに相違ない。
「ヴァジュラを狩れてこそ一人前ってな」
以前、百田ゲンが世間話の最中で言っていた台詞を思い出す。
「他所じゃあどうだか知らねぇがウチじゃそう決まってんだよ。ヴァジュラを狩れて初めて、一端の神機使いと認められるラインって訳だ。そういう点で言うならお前さんはまだまだ半人前だなァ、聖奈。いつか絶対どっかのフィールドで出会すことになるんだから、キチッと予習しとけよ」
アラガミをブッ殺すことにかけては勤勉である聖奈は、ゲンからのありがたいアドバイスに従いヴァジュラについてターミナルで学び、アーカイブで動画を繰り返し視聴し立ち回りをイメージした。だからこそ初見で雷球を避けることが出来たのだが……聖奈はそうとは思わなかったらしい。
「イメトレが足りなかったか」
『暗っ! お前んなことしてたのかよ! まァそうでもなきゃ初見でアレは避けれねぇよなァ~? ほら、また来るぜ』
再び自分を狙い放たれる雷球を、聖奈はまたギリギリだが避けた。
「ポンコロポンコロ撃ちやがって……当たったらどうしてくれんだよ!」
間髪容れず連続で撃たれ続ける雷球を蛇行しながら避けるだけで手一杯になっていた。お陰で容易に獲物に近付くことすら出来ず、聖奈は二の足を踏まされていた。すぐそこに相手がいるのに攻撃に移れない。ジリジリとした苛立ちともどかしさがある。それに。
例の頭痛が少しずつ強さを増し始めていた。
まだ多少の猶予はある。が、呑気にしてもいられないだろう。
OPの生成と充填が完了したらしいカノンとコウタも再び攻撃へと移る。
不意をつかれた先程とは違ってヴァジュラは射撃の隙間を縫うように全ての弾丸を避けて見せた。
「クッソ……!」
OPを撃ち尽くす前にコウタは射撃の手を緩め歯噛みした。もう一度薬液を口にして空になったアンプルを放り捨てる。
「生意気な……っ!」
リザーブしたオラクルを撃ち切りそうになっていることに気が付いたカノンも憎々しげにそう吐き捨てた。辛うじて体内に残るオラクルを神機へとリザーブする。あと2、3発といった所か。
「全然怯まねぇじゃんアイツ! ねぇ、カノンさん何か良い手とかないかな?」
コウタはカノンへと視線を投げた。いくらちょっぴり頼りないとは言え自分より数年先輩のゴッドイーターである。ヴァジュラとの交戦も経験している筈……そういう期待を込めてアドバイスを求めたのだが、彼女から返ってきた答えは。
「撃って撃って撃ちまくるに決まってるでしょ!」
「アッハイ、ソウッスネ」
外見はゆるふわ系、しかし戦場で神機を握った瞬間に中身が蛮族に変わってしまう彼女に建設的な意見を求めたのが間違いであったとコウタは心底実感した。が、カノンの言うことにも一理ある。それこそオラクルが尽きようとも撃って撃って撃ちまくり隙を作ってやらねば聖奈もアリサも接近戦に持ち込めないのである。「って、アリサは?」
一度は戦う決意を決めたアリサであったが、やはり実物を前にすると臓腑が締め付けられた。整えたはずの呼吸が乱れ、苦い液体が飲み込んでも飲み込んでも口に充満するし、手足も小刻みに震えていた。
「ハァッ、ハッ……うっ、うぅ……!」
落ち着け、落ち着け。
アリサは自分に懸命に言い聞かせ続ける。
オオグルマとのカウンセリングのお陰で前に比べたら大分症状は落ち着いた筈だ。その筈……だ。
アリサは銃口をヴァジュラへと向けるが、震えのせいで狙いがブレてしまう。
「くっ、この……! どうして、なんで……」
焦れば焦るほど照準が定まらない。こんなことでは駄目だと解っているのに、とてつもなく自分が情けなく感じられて涙が出そうになる。
──怖い。
それが率直な感想であった。
アラガミが怖い。
目の前の巨大な獣が、自分を食い殺そうと襲い掛かってくるのでは……そう思うと恐ろしくて堪らない。
「
ほとんど無意識に唇から溢れたのはロシア語だった。
один、два、три……心が揺らいだときに唱えるようにとオオグルマから言われていた言葉だ。
「один、два、три……」
何てことはない。ただ数を数えているだけだ。だが不思議とそれがアリサの心を静め落ち着かせていく。否、それだけではない。繰り返し呟くごとに脳内にぼんやりとした霞がかかっていくのだが、当の彼女本人はおろか慣れないヴァジュラに手こずる他のメンバーすらもアリサの異変に気が付いていなかった。
「один、два、три……」
フラフラと揺れていた照準がピタリと合った。しかし斜線上に捉えられていたのはヴァジュラではなく。
「один、два、три……!」
ヴァジュラへ肉薄しようとしていた聖奈は、うなじにチリチリとした厭な予感めいた物を察知し咄嗟に後方に跳ぶ。その瞬間、アリサの銃から放たれた弾丸が岩壁にめり込んだ。
「おっ──おまっ、この局面で誤射は勘弁してくれよ! 台場先輩じゃあるまいし!」
『これはアレだ、普段の恨みを晴らそうってコトだな』
「……え? あ、ご、ごめんなさい、私……」
聖奈からの苦情にハッと我に返るアリサ。左手で帽子を押さえながらふるふると軽く頭を振った。
один、два、три──オオグルマが言うところの「魔法の言葉」は確かにアリサに些かの冷静さをもたらしたが、同時に何か不穏な違和感の様なものも抱かせていた。しかしアリサはもう一度頭を振った。今は眼前の敵に集中すべきだ。
「行きます!」
アリサは地を蹴った。ヴァジュラに向かい疾駆する。それを認めたヴァジュラも咆哮を上げ、迎撃の雷球を撃った。
ヴァジュラの意識が自分から逸れたとを見逃さずに聖奈も再び地を蹴って肉薄していく。
「援護します!」
「俺も! ありったけ食らわしてやる!」
カノンとコウタによる弾丸の雨霰が容赦なくヴァジュラの全身を打ち、その場に足止めさせた。
雷球を避けきったアリサは、剣形態に戻していた神機をヴァジュラの右前足目掛けて斬り付けた。刃は皮膚と肉を確かに斬り裂き鮮血が噴き出した。
当たった!
アリサはゴクンと喉を鳴らすと、もう一度、同じ箇所へ斬り付けた。今度は骨までを断ったらしく、右前足を斬り飛ばされたヴァジュラはバランスを崩してその場にガクンとくずおれる。
「槙島さん!」
「あいよぉ!」
アリサの呼び掛けに聖奈はチャージグライドの体勢を整えながら応えた。展開した黒い巨大な穂先は確りとヴァジュラを捕捉している。
場の空気は完全にゴッドイーター達へと向いていた。その場の全員に勝利の二文字を僅かながら確信させていた。
このまま聖奈がチャージグライドによる必殺の一撃でもって貫けば、少なくともヴァジュラは無力化することが出来る。驚異の駆除に成功するのだと、誰もが思っていた──この戦いを岩壁の頂上から見物している少女ひとりを除いて。
「さっさとくたばれ化け物が!」
力を解放し人機一体となった強力な突きがヴァジュラの右目を抉った、正にその瞬間──
「ぐぉっ!?」
「きゃあっ!」
「うわっ!」
「ぐっ、……!」
フィールド全体を包むようなドーム状の雷球が発生し、まともにそれを食らった全員がスタン状態に陥りその場に倒れ付した。至近距離、真正面から雷撃を浴びることになった聖奈は特に状態が酷い。
「くっそ……マジか……」
ほんの一瞬でも気を緩めた自分の浅はかさに腹が立つ。歯噛みするが、今は指一本ですら動かすことが出来ない。
形勢逆転となったヴァジュラはただただみっともなく地面に倒れることしか出来ない4人のゴッドイーターを舐めるように眺め嘲笑うように喉を鳴らした。衰弱した獲物をいたぶろうという残酷さがヴァジュラの中で膨らんでいく。が。
「ダメ、これ以上手は出させないよ」
静かな声と共に降ってきた衝撃に、ヴァジュラは脳天から貫かれた。自分の中を何かが斬り裂いていく痛みに断末魔を上げ、やがて地響きを立てながらその場に倒れ……幾度か痙攣を繰り返した後に事切れた。
一体、誰が。
声はエリックでもソーマでもない第三者、聞き慣れぬ少女の物だった。
倒れたまま辛うじて顔を上げた聖奈の視界に映ったのは、亜麻色の髪を靡かせる小柄な後ろ姿であった。
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もしも主人公・聖奈とくっつくとしたら?(アリサはくっつかない宣言してますが結果や展開によっては)
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アリサ
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リッカ
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カノン
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ネクロ
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その他(よければ※欄にて)