──結局あの後、駆けつけてきたソーマとエリックによって4人は回収された。ナイアーラトテップと遭遇する前にアナグラに帰還できたのは不幸中の幸いであっただろう。
帰還後、4人は念のためにと医務室で検査と治療を受けた。もっとも症状が重いと思われた聖奈に至っては帰りのジープで眠っただけで粗方回復したらしい。感電による症状も後遺症も、何一つ認められなかった。
「ドン引きです」
「ヴァジュラの雷撃を一番間近で食らったくせに……化け物かよ」
「せ、聖奈さん凄いですね!」
医務室を後にし、サカキ博士のラボへと向かう道すがらアリサ・コウタ・カノンの3人はそれぞれ素直な言葉を聖奈へ向けた。
「何か知らんけど、昔から怪我の治りが早いんだよな」
前を歩く聖奈は首をゴキリと鳴らした。次いでじっと手のひらを見る。8歳くらいの頃だったか、居住区に紛れ込んできた小型のアラガミに手のひらを裂かれた事があった。骨まで見えるような大怪我だったにも関わらず、騒ぎが収まる頃に傷口はピッタリと閉じていた。
「あー確かに聖奈ってガキの頃から妙に傷の治り早かったっけ。
「イチゴさん?」
「コイツの叔母さんだよ。ここに来る前、聖奈は叔母さんと居住区に住んでたんだよ」
「へぇ、そうなんですか?」
「そういやイチゴさんとカノンさんて雰囲気似てるかも」
なるほど、どうりで。
コウタとカノンのやりとりを横に聞きながらアリサは聖奈の背中を眺めた。年代物のジャケットの背で氷狼のエンブレムが揺れている。
あの吹雪が吹き荒れる廃寺にて、燃え盛る男に負わされたはずの火傷痕が一切無かったのもその治癒力の高さ故……か? だが、いくら並外れた治癒力を持つと言っても限度があるモノではないだろうか? あのレベルの熱傷をゴッドイーターなら兎も角、一般の少年が?
「……」
ムム、と眉間にシワを寄せつつ考え込むアリサであったが、はたと気が付く。
そういえばあの後、聖奈はどこで治療を受けたのだろう?
彼の父は「他の神機使いに保護してもらえ」と言っていた。その言葉に従ったとするならば、まず確実にこのアナグラに搬送されるだろう。
アリサはもう一度、聖奈を見やった。
保護されてこのアナグラで治療を受けていたならば、当時の事を知っている人がいるかもしれない。例えばサカキ博士とか。
「一度確認してみる必要がありますね……」
「あ? 何か言ったか?」
「いえ、別に。それよりもラボに入ったらどうですか?」
怪訝そうに顔をしかめる聖奈を促してアリサはドアをノックする。中からはすぐに返事が返ってきた。
「失礼します」
「いやぁ、疲れているところすまないねェ」
4人を迎えたのは部屋の主であるサカキ博士と、これまた別個に呼び出されていたレオンを除く第1部隊メンバー。
そして──「聖奈!」
「うおっ!?」
真っ先に聖奈の姿を認めた亜麻色の髪の少女がパッと表情を綻ばせながら小走りに寄ってきて腹に抱きついた。
「なっ、なんだよ!?」
「………」
異性に抱きつかれ柄にもなく赤面し慌てる聖奈と、それを見て
「聖奈ー聖奈ぁー! 無事で良かったねぇ」
「いやだから……何なんだよお前は! よっ、嫁入り前の女が軽々しく男に抱きつくなよ!」
ベリッと音がしそうな勢いで少女を引き剥がし、聖奈はコウタの後ろに隠れた。
「いやアンタ……嫁入り前って……古っ」
「ドン引きです」
「聖奈さんて外見によらず貞操観念がしっかりしているんですねぇ」
各々好き勝手言う連中に聖奈は苦い顔をする。
「そう、君たちに来てもらったのは正にその子のことなんだよ。どうも聖奈くんを知っているようなんだけど、知り合いなのかい?」
「いや、知らないっスよ」
サカキの質問に聖奈は即答した。
あの時、ヴァジュラに追い詰められた自分達を助けてくれたのはこの見も知らぬ少女であった。
「大丈夫?」
少女は血に濡れた神機を振るうと地面に刺し、雷撃のせいで痺れて身動きの出来ない聖奈を、なんと抱き上げたのである。
「大丈夫? 聖奈? 危なかったね。でももうお姉ちゃんが来たからね」
と、確かにそう言ったのである。
一体何を、と聞き返そうとしたときにソーマとエリックが到着し、すぐさま回収されたのだった。その際に少女もこのアナグラに連行され、ソーマの判断でサカキに預けられることとなったのだ。
「本当に、覚えていない?」
再び訊ねてきた少女の視線に若干の居心地の悪さを感じつつ、しかしはっきりと聖奈は答えた。
「悪いけど、全然」
「そっか……」
しょんぼりと項垂れる少女の姿を聖奈は改めて眺めた。
所々ピンピンと跳ねた亜麻色の髪は背中まで伸びている。全体的に細く小柄で、右手に嵌まっている赤い腕輪が必要以上にゴツく見えた。白いロングティーシャツにデニム生地のショートパンツ、黒いソックスに、どう見てもサイズの大きいハイカットスニーカーの側面には見慣れたフェンリルのエンブレムが刺繍されている。顔は……一般的な感覚で言うなら【カワイイ】部類だろう。ただ、まだあどけなく幼い。どう見ても自分より5つは年下だ。
「そっかぁ、聖奈は
すっかり意気消沈してしまったらしい。
少女はフラフラと2、3歩よろけるように歩くとソファに座り込んだ。
「そもそも、そのオネエチャンてのは何なんだよ……」
「とっ、年下の姉とか……全オタクの夢を! お前は何の有り難みも感じてな、グフッ!」
錯乱しかけたコウタの脇腹へアリサは鋭い肘鉄を打ち込み黙らせる。このままでは話が思うように進まないだろうと察知したからだ。
「えっと、そろそろ良いかな?」
と、サカキ博士。
「実はリンドウくんの話によると、この間ナイアーラトテップと遭遇した際に助太刀に入ってくれたのもその子らしいんだ」
「えっ?」
「マジなんですか、リンドウさん」
全員の視線がソファに座り足をブラブラとさせている少女へと集まる。
「リンドウさんてば、そんなこと一言も……」
「お前な……」
アリサとソーマが苦い顔をするのを見ながら、
「いやースマン! あの時は柄にもなくテンパっててそれどころじゃなかったんだわ!」
と、相変わらずの適当ぶりである。「それに──」
リンドウは紫煙を噴き出すと、短くなった煙草を携帯灰皿へ押し付けた。
「お前さん、一体何者なんだ? データベースを漁っても照合するデータはなかったんだが」
それまでゆったりと腰かけていた少女が僅かに身を固くしたのを全員が見た。明らかに突っ込まれたくない話題に触れられて金色の目がフラフラとあっちこっちに泳いでいる。
「え、でも腕輪してるし極東の神機使いなんじゃないの?」
コウタの問いに、新人を除いた全員が首を横に振った。
「私も神機使いになってまだ2年ですが、あの、アナグラでお見かけしたことはない方です」
「確かに初めて見る子だわね……ソーマは知ってる?」
「知らん、興味もねぇ」
「ええ……なにそれ、チョットしたミステリーじゃん」
少女の正体について誰も知らない。
困惑と不穏な空気が場を満たし始めていた。
「いや、まァ……俺も最初は新人の妹かなんかかと思ったんだが
「まァでも、我々に敵意があるようにも思えない。実際に彼女は今回のことも含めて2度、助けてくれているからね」
場をどうにか取り繕おうとするリンドウとサカキに、少女は乗った。
「そっ、そうなの! ワタシ悪い神機使いじゃないです、絶対に! あの、その、聖奈のお姉ちゃんで」
「いやだから、俺に姉はいねえって」
「えっとじゃあ、その……そう、幼馴染み! 幼馴染みだから!」
「うーん……自称姉の上に自称オサナナジミって属性盛りすぎじゃない?」
コウタの明後日の方向のコメントはその場の全員がスルーしたが、彼女が不審であることに代わりはない。
「怪しくないと言うのならまず身分を明かしてくださいよ、貴女、名前は何て言うんですか?」
「えっ、名前? えっと、えっと……ノー……じゃなくてぇ……か、カンナです。ワタシ、カンナって言います! ね? 怪しくないでしょ?」
たっぷり数十秒かけて【カンナ】と名乗った少女はソファから立ち上がり、全員に深々と頭を下げてから笑顔を向けた。
「カンナくん、ね。うんうん……ということで、第1部隊の皆、カンナくんのことを頼まれてくれないかな?」
「はぁ?!」
「博士、それはどういう……」
「どーせそんなこったろうと思ってたぜ、このオッサン……」
ソーマが呆れた溜め息を吐く。
「あ、いや。その提案をしたのは博士じゃなくて俺なんだわ」
「……何考えてやがんだテメェ」
「なに、今後の事を考えりゃ戦力は多いに越したことはないだろ? どういう経緯で神機使いになったかはともかく、カンナがアレと渡り合えるくらいに上澄みなのは俺がよく知ってる。それに何度も言ってるが俺はラクしたいんだよ」
「最後の台詞は余計だバカ、お──支部長にはなんて誤魔化すつもりだ」
「あー、ヨハン……支部長には私から上手く誤魔化しておくよ。とまァ、そういう事でヨロシク頼むよ君たち」
サカキが全員を順繰りに見てニマ~っと笑みを浮かべる。それはなんだか逆らいがたい笑みであり……こうしてやや強引にではあるが、第1部隊に新たな仲間が増えることと相成ったのであった──
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やや強引ですが今回はここで切り上げさせて頂きます。
ちゃん様は何で呼ばれたんですかね。恐らくは防衛班メンバーにことのあらましを説明するため?まァ、本当に8割ライブ感で書いてるのでそこら辺は気にせず読んでいただけると助かります(当方、「深く考えなくても読める」をテーマの1つに据えて小説を書いております)
もしも主人公・聖奈とくっつくとしたら?(アリサはくっつかない宣言してますが結果や展開によっては)
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アリサ
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リッカ
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カノン
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ネクロ
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その他(よければ※欄にて)