アナグラのエントランスは一般開放されている。
だからか、ちらほらと神機使いではない者の姿も見えた。聖奈自身はアナグラに来たのは初めてだったけれど。
そんな一般人達には目もくれず、聖奈は真っ直ぐ、カウンターへ向かった。
「こんにちわ。どうかされましたか?」
受付カウンターの内側には女の子が立っていた(同じ年頃だろうか?)。茶色の髪を左右二つに分け、特徴的な結い方をしている。にこりと人当たりの好さげな笑みは、受付嬢として百点満点だろう。聖奈がぶっきらぼうに来訪の訳を伝えると、受付の女の子は、「ちょっとお待ちください」と言い、慣れた様子で手元のコンソールを叩いた。暫らく聖奈は黙って彼女を眺めていたが、ややあって、彼女の目が僅かに丸くなるのを見た。
「あ、はい。新型神機の適合試験ですね。試験会場へは、そこのエレベーターで行けますから」
「そうですか。ドーモ」
「頑張ってくださいね」
白い手袋をした手がしなやかに指し示す方へ、聖奈は向かった。
しかし――はて。シンガタとはいったい何のことだろうか?
エレベータの扉が静かに開くと、目の前には広い体育館のような開けた場所が広がっていた。その真ん中にフェンリルのマークの刻まれたプレス機のような台がぽつんとある。背後で、扉が閉まる音がして、籠が静かに上がっていった。
『適合試験へようこそ。槙嶋聖奈君』
ザッという軽いノイズ音の後に、スピーカーからそういう声が流れてきた。男の声だった。天井の方を見上げると、正面が透明なガラス張りになっていて、そこから数人の人物が並んで見下ろしていた。その中でも一際、聖奈の目を引きつけたのは白いロングコート姿の金髪の男だった。手を背後で組み、真っ直ぐ立って自分を見つめている――その顔に見覚えがあった。
そう、確か、この支部の支部長だ(名前は何だったっけ? まァ、いいけど)。わざわざ支部長様自ら立会いに来てくださるとは、ありがたい事だ。それとも、どの試験者に対してもそうなのか? だとしたら支部長というのもそれなりに、暇なんだな。
『早速試験を始める。まずは台の前まで進みなさい』
と、今度はさっきとは違う声がいったので、聖奈はその指示に従った。
台の上には巨大な兵器が横たわっていた――神機、だ。
神機を片手にアラガミを屠り去る神機使いを見るたびに、幼い自分は胸を熱くしたものだった。俺も絶対に神機使いになる。それで――それで、何だっけな。聖奈は小首を傾いだ。まァ、いいか。
改めて目の前の神機に視線をやる。神機が照明の光をチカと跳ね返した。おやおや、甘ったれた坊ちゃん面しやがって。果たしてお前に俺を乗りこなすことが出来るかな? そう言っているように感じられた。
『試験は簡単だ。神機の柄を右手で握るだけでいい。手首を腕輪に通して……そうだ』
なんだ、そんなものか。言われた通りに聖奈は神機の柄を右手でグッと握った。で、何? 握ったはいいが、何も起こらないじゃないか……しかし違った。ガシャン、と音を立てプレス機の上部が落ちて腕を挟みこんだ。その瞬間、ヒュっと息が詰まった。右手首を通して、『何か』が体内に侵入してくるのが分かった。メチャクチャな痛みだった。
――適合試験はパッチテストと同じ感覚で出来ますよ。ええ、たいへんお手軽です。
招聘状を持ってきたフェンリル職員のニヤケ面を思いだした。何がパッチテストだ、嘘吐きめ。痛いじゃないか、畜生が。何処かで会う事があったら、あのニヤケ面をぶん殴ってやる。
全身から嫌な汗が吹き出ている。少しでも気を抜けば痛みに声が出そうだったが、それは何だか嫌なので歯を強く食いしばった。酷い負けず嫌いなのだ、槙嶋聖奈という男は。おやおや、我慢強い事で。
再び、ガシャッと音がした。
さっきよりは幾らかマシだが未だズキズキする手首に目を向けると、赤く大きい、やや不恰好な腕輪がくっ付いていた(犬の首輪の様だ)。そして、その先、右手はしっかりと神機を握っていた。持ち上げてみると、重厚な見た目に半して意外と軽い。神機のコアからヌル、と、黒い触手様のものが枝みたいに伸びて腕輪の穴に潜り込んでいくと、接続は完了したようだ――
『よう、待ってたぜ。お前みたいな奴を』
はて、今の声は神機から聞こえてきたような?
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