月狼奇譚   作:ララミー牧場

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SISTER STRAWBERRY #2

 

 通信で呼び出されやってきた聖奈は、彼女を視界に入れるや否や苦い顔をした。「うっ」

 聞き違いでもなんでもなく明確に「うっ」と呻いたのを隣のアリサは聞いた。たまたまカウンターに用があるので一緒に来たのだが、思わぬ収穫があったことに密かに笑む。

 目の前のシスターとどういう関係かは知らないが、彼女を苦手としているのは明らかだ。

 

「槇嶋さん、ご面会の方ですよ」

「どういう関係の方ですか? もしかして恋人とか?」

 

 ヒバリもアリサも興味津々という視線を隠しもしない。聖奈はガリガリ髪を掻きむしってからハァと息を吐いた。ここまで来て逃げ出す訳にもいかない。観念したように言った。

 

「……なんか用? ()()()()

 

 聖奈の口から飛び出た単語にアリサとヒバリは一瞬ポカンとした。

「おばさん」とはどういう意味なのか。いかにこの男がデリカシー0のコミュ障とはいえ、妙齢の女性におばさんはないだろう。事と次第によっては教育しなければならない。

 

「おばさん? え?」

「それは呼称でなく続柄的な意味のですか?」

「それ以外の何があるんだよ」

 

 聖奈は呆れたような目線を女性2人に向けた。アリサはともかく、ヒバリまで妙な勘繰りをしてくるとは思わなかった。

 

 謎のシスターは聖奈の正真正銘叔母であるようだ。

 アリサとヒバリは改めて彼女を見た。色白の肌に黒髪、タレ目でやや抜けた柔和そうな顔と雰囲気は聖奈との血の繋がりを一切感じさせない。思わず「全然似てませんね……」と溢すアリサへ、叔母だという彼女は何故か照れたように口元を綻ばせた。

 

「私は聖奈ちゃんの母親の妹なの。聖奈ちゃんは義兄(にい)さん似だから……えと、この子の同僚の方かしら? 私は槇嶋イチゴっていいます。よろしくね」

「ああ、すみません。私ってば挨拶もなしに……アリサ·イリーニチナ·アミエーラといいます。槇嶋さんには──よくお世話になってます」

 

 こいつ、15歳のくせにいっちょ前に気を遣いやがって。

 よそ行きの笑顔で叔母と握手を交わすアリサに聖奈はますます苦い顔をする。「で? なんか用?」

 

 どうも聖奈はイチゴに対してそっけないように見えた。しかし、ここで余計な口を挟めば後で色々と面倒なこともアリサは理解している。聖奈との付き合いは半年に満たないが、この男が存外、細かい性分の持ち主であるというのもようやく把握してきた。それに、他人の家庭の在り方に突っ込むのも野暮というものだ。

 そういうわけでアリサは自分の用事を済ませてしまう事にした。

 

 

「用ってほどじゃないんだけど近くまで来たから」

「そう」

「元気そうでよかったわ。聖奈ちゃん、何も言わずに出ていくから心配で……」

 

 イチゴの言葉に聖奈はグッと詰まった。フェンリルからの招聘状が来たことも、神機使いになるということも、何もかも彼女には伏せて外部居住区を出た。聖護(義兄)の件で神機使いに良いイメージを持たない彼女からの反対を封殺するための行動だったが、いざ本人を目の当たりにすると罪悪感が湧くのだった。

 

 そうでなくても、今の自分と大して変わらない年齢の頃に自分というお荷物を抱え込まされた叔母に負い目がある。今の時代、そんなのはどこにでもある珍しくない事例かもしれないが……聖奈としてはイチゴにある種の同情めいた気持ちが強かった。「それは悪いと思ってるよ」

 

 顔を背ける聖奈へ、イチゴはつい言ってしまった。

 

「悪いと思ってるのなら神機使いなんて辞めて戻って来て。どうして聖奈ちゃんまで危険なことをしようとするの? 義兄さんが()()()()()になったのに──」

 

 おそらくイチゴは本当に、心底から危なっかしい甥を心配して言った台詞だったのだろう。そしてそれは聖奈自身も頭では理解していた……はずだ。幼少から彼女に心配をかけ続けてきたことは、他の誰でもない聖奈自身が一番わかっている。だが。

 だがそれでも、聖護の件と絡め、なおかつ「神機使いを辞めろ」などとハッキリ言われカッとなった。

 普段、どんなに他人からのやっかみで絡まれようと表情一つ変えない聖奈が取り乱すのを、アリサもヒバリも初めて目撃した。

 

「うるさいな! 親父のことは関係ないだろ、放っといてくれよ!」

「せ、聖奈ちゃ──」

 

 いつものぶっきらぼうで憮然とした表情と物言いとも違う、ある意味では17歳という年相応の反応ではあったが、ここまで感情的になる聖奈は初めてだった。少なくとも非戦闘時の日常においては。

 聖奈はすぐにハッと我に返り、バツが悪そうに顔を横向けた。

 イチゴは硬直していたがすぐに取り繕うような笑みを浮かべた。

 

「……ご、ごめんね聖奈ちゃん。いきなり過ぎたよね? その、とにかくアナタが元気そうで安心したわ。また改めて出直すから。今度来るときは聖奈ちゃんの好きなもの持って来るね」

 

 それだけ言って、周囲に頭を下げてエントランスを出ていこうとするイチゴと聖奈をアリサはオロオロと見比べた。口を出すべき領分ではないと分かっている。分かってはいるのだが……こういうときコウタがいればうまく2人を取り持ってくれただろうに! こういう時に限って不在なのだ。

 

「槙嶋さん、いいんですか? せっかく心配して来てくださったのに」

 

 ダメもとで聖奈の脇腹を肘で突き話しかけてみるも無駄であった。難しい顔で黙り込むばかりで、何の反応もない。アリサはしばし迷った末に、イチゴの方を追いかけることにした。

 

 聖奈との間を仲裁する目的もあったが、何よりアリサ自身が彼女に問いたいことがある。そう、聖奈の幼少期……特に彼があの雪原で保護された後に受けたであろう治療とその結果についてを。

 

.

もしも主人公・聖奈とくっつくとしたら?(アリサはくっつかない宣言してますが結果や展開によっては)

  • アリサ
  • リッカ
  • カノン
  • ネクロ
  • その他(よければ※欄にて)
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