インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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無口な少女と社長と博士

 ──それでも私は、貴方を尊敬していました。

 

 

 

 IS(インフィニット・ストラトス)。女性にのみ扱えるという現代での最高峰の兵器。篠ノ之束博士によって十年前に開発されたマルチウェアスーツはその性能の高さから兵器として目をつけられ、今では467個あるISコアの一部を使用して製造されたISが活躍している。

 だがISの登場によりシェアの下がった物も存在していた。同時に女尊男卑の風潮が当たり前となりつつある。だがそんな世界で、唯一ISを起動させた男性がいた。

 名前を、織斑一夏。日本人男性、歳は十五。織斑千冬の弟である。その情報は世界中を震撼させた。中には自分の国でも動かせる男性がいるかもしれないと躍起になった国や企業もあっただろう。

 そんな彼の偉業だが、本人には思わぬ災厄を……否。約束され、確立していた不幸が始まった。それは必然と言えよう。

 IS学園への入学──当然男性は一夏だけ。なにも知らない男は口々に羨ましいと責任もなく妬む。だがそれは、精神的な苦痛として耐えがたい。なによりも圧迫感(プレッシャー)がある。

(思えば俺も慣れたものだよなぁ)

 そんな当初の自分に物思いを馳せる一夏。確かに当時はきつかった。慣れるのかこれとも思ったが、住めば都のなんとやら。救いは自分の知り合いがいたことか。

 ファースト幼馴染の篠ノ之箒。セカンド幼馴染の凰鈴音。

 クラスメイトのセシリア・オルコット、ルームメイトのシャルル・デュノア。そしてドイツからの転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒ。当然ながら全員女性。しかし話す相手がいるというだけでも気が楽だ。

 織斑一夏は空を見上げる。本日も快晴、青空が眩しい。

「今日も頑張るかぁ」

 そうして、いつも通りの一日が始まった。

 

 

 

 米国のとある中小企業、その屋上では都会の景観を眺めながら紫煙を吹かす一人の社長。煙草を吸うだけで屋上にまで足を運ばなければならないというのは面倒極まりない。それも秘書から再三、口を尖らせて言われては形無しだ。今や社内の風潮も男の立場が危うい──自分と、もう一人を除いては。

「社長、一服中ですか」

 手に山のような書類を持った博士が差し出す紙の束。

「あー……俺が欲しいのは仕事の書類よりも灰皿なんだが。分かるか? そいつで煙草の火を消せと言われたら大火傷だ」

「書類は社長のケツに火をつける物です」

「オーケー分かった、すぐ戻る」

 煙草を踏み消そうとして、博士から新たに差し出される携帯灰皿。「どうぞ?」とでも言いたげな表情に社長は口をへの字に曲げて短くなった煙草を入れた。

「こりゃどうも。それで? そのケツを拭く紙にしてやりたい山はなんだ」

「報告書、請求書、研究結果をまとめたものと稼働率についてのデータ。それとこちら、オマケです」

「映画のチケットか?」

「残念、飛行機の予約席のチケットです」

「仕事から国外逃亡の用意か、こりゃあいい」

「至極残念ながら仕事の為の予約です」

「この仕事からは宇宙に行っても逃げられそうにねぇな」

 社内に戻り、博士と二人で社長室に入る。そこでソファーに腰を降ろしていた少女が入室に気付き、立ち上がった。

「社長、これ置いておきますね」

「持って帰れ。邪魔だ」

「残念ですがそうなると貴方の椅子ごと捨てることになります」

「置いて帰れ」

「それでは失礼します」

 社長は椅子に背を預けてデスクに山盛りの書類を一枚手にすると目を通し、すぐに戻す。少女はじっとそれを見つめていた。

「うちの国はデカイ。世界一だ。トップクラスなのはいいが、仕事の量は……世界最低水準が望ましい」

「…………」

 社長なりのジョークに少女は言葉もなく微笑む。書類の山をかき分けて目的の物を見つける頃には雪崩が起きてデスクがメチャクチャになっていた。

「こいつだ。読んでおけ。これが紙で良かった、雪山だったら死んでるぞ。俺の灰皿は今頃窒息してるな」

 少女が目を通すのは整備に関する報告。博士から前回と今回のデータの差違も載せられている。それらを見る限りそれほどの誤差は生じなかったようだ。

「…………」

 時折頷き、全て読み終えた後に社長に返す。適当に戻した書類を分けて社長は煙草を取り出し、少女からのNGサインに首を振った。社長といえども男は男、喫煙所は守ってもらわなくてはならない。

「あー、まぁ。見て分かる通りだ。お前には博士と一緒に日本に飛んでもらう。IS学園に転校する手続きも済ませてある」

 こくりと首を縦に振る。そうなると荷物をまとめておかなくてはならない。

「博士は元々日本生まれだ。ああ知ってたか。といっても出張の様な物で結局お前一人になるな。あらゆる国家、企業の介入もならないともなると……どこもお手上げだ」

「……」

 頬に指を当てて何か考えているようだが、如何せん少女は喋らない。

「すぐに身支度整えて出発に用意だ、以上。質問は?」

 少女は首を横に振ると、一礼して社長室を後にした。

 椅子の背に体重を預けた社長が一息つくと、内線が掛かってくる。

「どうした」

『社長ですか。博士の社員証が落ちてました、今どちらに?』

「俺が知ってると思うか?」

『はい、そう信じてました』

「あー…オーケーオーケー。分かった、俺の所に持って来い。後で届ける」

 切った直後に再び内線。

『あぁ、社長ですか。私の社員証を知りませんかね? うっかり落としてしまいまして研究室に入れなくなりました』

「よーし、お前は今すぐ社長室に来い」

『廊下は走ってもいいですか?』

「ゆっくり、急いで、焦らずに、俺のところに来い。いいな」

『難しい注文ですね』

「いいから早く来い! 仕事が進まんだろ!」

『あ、はい。分かりました……』

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