インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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幕間。それは穏やかに緩やかな日々

「……?」

 布仏が顔を見て笑っていたのでルナリアは首を傾げた。それに気付いたのか、何でもないと言ったように首を振る。

「んふふ~……」

 ……何を考えてるのかイマイチ分からない。だが悪巧みでない事は確かだ。それに有事の際は自分で事態に対処できるように社長から手ほどきを受けている。

「よ、ルナリア。のほほんさんもおはよう」

「あ~おりむー。おはよ~」

(……おりむー?)

 ルナリアが眉を寄せ、一夏を見ること数秒。ようやく名字を思い出した。

 ああ、おりむーってそういう……。ハンバーガーを黙々と頬張りながら食べていると、口の端にソースがついてしまった。

「ルナリア、ソースついてるぞ。左側」

「……」

 うん、と頷く。

「そういえばるなりーは朝練してたみたいだけど何してたの?」

「朝練とか頑張るな、俺には無理だ」

「おりむーは他の皆と特訓してるからね~」

 あははと乾いた笑いを浮かべる一夏。思い出すだけでも朝から身体が重くなる。気を紛らわせようと、ルナリアに朝練の詳細を尋ねた。丁度食い終わって手を拭いたルナリアがメモ帳とペンを取り出す。書き始めたので終わるのを待っていたが、かなりの長文なようで一夏が朝食を食べ始めて半分も食い終わった頃に見せられた。ビッシリと文字の羅列が三ページ埋めている。

「け、結構朝からハードなんだな……」

 その手元を覗き込んだ布仏も「おぉ~」と間延びした声を挙げていた。

 ──朝五時半、起床。アリーナへ。トライアレンドを使用した急上昇・急こう下。PICの性能チェック。射撃訓練。

 ──訓練用IS、打鉄とラファール・リヴァイブを使用した動作のテスト。武装切り換え、近接戦とうの練習。トライアレンドを使用しての電撃戦。地上機動による突撃戦。

 ──ランニング。腕立て伏せ。程々に。それから着替えて食堂。

「……これ、全部起きてから今まで?」

 ルナリアはそれに何も答えず、メモ帳を取ると食器を下げに向かった。その後ろ姿を見て一夏が唸る。

「俺ももう少し頑張るか……」

 現状でも辛いところはあるが、四の五の言ってる暇はない。男に産まれた以上、誰かを守りたい。女尊男卑の風潮の世界でもその意志だけは変わらなかった。逆に、だからこそかもしれない。もし自分がISを動かせなかったとしてもこの想いは変わらなかっただろう。

 何気なく時計を見た一夏は時間が押していることに気付き、朝食を急いで胃袋の中に落とした。

「ごちそうさま!」

「おぉ、おりむー早食いすごいね~」

 既に朝食を食べていた布仏は余した袖を振りながら暢気に拍手していたりする。

 

 

 ──そして、この日の授業も終了のチャイムを鳴らした。身体を伸ばす一夏が窓際の席に視線を向けると、いつものように凛とした佇まいで座っている箒がいる。その顔を見て思い出した。

「なぁ、箒。霧島って名前に何か聞き覚えないか?」

「なんだ、藪から棒に。霧島……?」

「何か前に千冬姉が口走ったんだけど、俺は覚えてないんだよな……だから幼馴染のお前なら、何か覚えてると思ったんだが」

「私は知らない」

 その強い口調に呆気に取られた隙に、さっさと鞄に荷物をまとめた箒が教室から去ってしまう。声を掛けても無視された。

「おっかしいな……知らないはずないと思うんだけど」

「一夏ー! アリーナで今日も特訓よー!」

 隣のクラスからやってきた鈴音が有り余る元気な声で一夏と腕を組む。そのまま返事もする暇もなくアリーナへ連行、されるかと思いきやセシリアが立ちはだかった。

「鈴さん、でしたら私もご一緒させてもらってもよろしいですか?」

「なんでよ。私は、一夏と、特訓をしたいの」

「一夏さん。私も腕が鈍ってないか確かめたくてご一緒したいのですが、よろしいでしょうか?」

「ああ、そういえば二人は学年別トーナメント出れなかったもんな。そういうことならいいと思うぞ、俺は。鈴もいいだろ?」

「う……」

 出来れば二人きりがいい。だがここで誘いを断ったら……。鈴は頭脳をフル回転させ、鞄を片手に教室を出ようとしていたルナリアを発見する。

「ちょっとー、ルナリアー。アンタもこっち来なさいよー」

「…………?」

 何の話かと言いたげな視線にウインクした鈴は、セシリアとルナリアの二人を指した。

「じゃあこうしましょう。四人でタッグマッチ。実践訓練、勘を取り戻すならこれが一番でしょ。だからアタシは一夏と組むわ、文句ある?」

「ず、ずるいですわ鈴さん!?」

 それにルナリアが静かに挙手。そしてメモ帳にさっと書き込むと二人に見せる。

『私とセシリアではバランスが悪い』

「あ、そうか……二人とも射撃特化型だもんな」

『だから、セシリアとおりむー。私が鈴と組む』

「ちょっ……!」

 チームバランスを考えれば妥当な所だ。

「なぁ、ルナリア。おりむーって……」

『書きやすかったから』

「そ、そうか……はは。じゃあアリーナに行くか」

「そうですわね」

「うぐぐ……」

 振り返ったセシリアが見たのは悔しそうな鈴音の顔と、小さく親指を立てるルナリアがついてくる姿。それを見て、こうなるようにしたのはもしや日頃のお礼なのかと思った。

 しかしいざ実践訓練ともなるとそういうわけでは決してなく──ほぼ完封負けという結果で終わる。

 ルナリアの立ち上がりの遅さを鈴音がカバーし、一夏が接近しようとすればルナリアは巧みに避け、時には距離を離した。一撃の隙を狙ったように鈴音の衝撃砲『龍砲』を放たれて接近を許さない。そしてトライアレンドのレールガン、リリウスが稼働してからはBT兵器を封じてからの連携で一夏とセシリアが撃ち負けた。

 ISを解除した夕暮れ、鈴音がルナリアとハイタッチしている。

「なんだ、アンタのISって癖が強い割には結構動けるじゃない。ちょと見直したわ」

『鈴のISも安定性を念頭に置かれてるだけあって、安心して前を任せられた』

「にしてもそれ、誰が作ったのよ。アメリカの企業だっけ? えらいキワモノよね」

 その一言に目をそらした。通信も何もせずにただ無言を貫く。

「うぅ、屈辱ですわ。一夏さん、申し訳ありませんでした」

「い、いや俺も悪かった。まったく雪片弐型しかないってのにどう工夫しろってんだ千冬姉は……」

「多分それって、一夏自身じゃどうにも出来ないんじゃない? ほら、斬りかかる時ってどうしても動きが直線的になるし。要はフェイント掛けろとかそういうのじゃないの?」

「俺にそんな器用な真似は期待しないでくれ……」

 尤もであった。

 

 アリーナでの実践訓練も終わり、夕飯も食堂で終えたルナリアは部屋に戻るなりパソコンの電源を入れる。出来れば早い所シャワーを浴びたいのだがセシリアが先に入るようになっているので、それまでパソコンに張り付いた。

 データの入力を行う気になれないので適当にネットサーフィンをして、いつものように動画サイトでキーワードから検索を掛ける。そのロード時間中にセシリアが戻ってきた。

「あら、早いですのね? シャワーはまだでしたの?」

「…………」

「ではお先に失礼しますわ」

 セシリアが着替えを持ってシャワーを浴びている間に動画の読み込みが終わる。再生ボタンをクリックすると映像が流れるが、首に掛けたヘッドホンから流れてくるため音量は控えめだ。

 銃の実射レポートのようだが、イマイチだったので途中で切りあげて他の検索を行う。

(……あ、これこの間も観た……)

 どうりで見覚えのあるものばかりだと思った。そして何気なく画面を切り換えているとニュースのテロップが流れていく。

 特に気にしなかった。ゴミ捨て場で男性の身体の一部が発見されるなど向こうではよくあった事だ。……この平和な国だったらそれこそ大騒ぎだろうが。

(…………元気にしてるかな)

 社長と博士に想いを馳せるルナリアだが、あの二人なら例え爆弾を会社に落とされても平然と生きているだろう。

「ふぅ、あがりましたわよ」

 ちょっとした悪戯でもしてみようかと、ルナリアは素早く検索した。そして目的の動画を見つけると放置する。着替えを持ってシャワールームに入り、それから数分後──

「ひ、ひぃいいいいい!?」

 恐怖の心霊映像百連発が自動で再生された。セシリアの悲鳴を聞いて小さくガッツポーズをとる。

 ……当然お風呂上がりに涙目で怒られたが。

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