ボマーはこの場をどう離脱するか考え、閃光手榴弾と発煙手榴弾を投げ込んだ。先に閃光手榴弾を転がし、少し間を置いてから発煙手榴弾を階段に投げる。
立ち止まっている余裕もなく一気呵成に階段まで走り、ボマーは階段を飛び降りた。受け身を取った際に勢いが余って背中をぶつける。その痛みに呻く暇もあれば走り抜けた。
「三十六計、逃げるが勝ちだ!」
ガバメントの発砲音が聞こえる。ボマーは追加で発煙手榴弾を投げ込んだ。こういう時に限って偉そうにしていたデストラクターは何をしているのだろうか。
「……カナデー、自動ドア開かないんだけど」
「それは多分、ジャッカルさんが電源を落としたからじゃないでしょうか?」
「……それもそっか。ちょいさぁー!」
自動ドアを手動でこじ開け、デストラクターと奏──レギオンは社内へと入る。肩を慣らし、拳を掌に打ち付けた。
「ひっさびさの爆破任務。派手にやらなきゃね!」
「程々にしてあげてくださいね?」
不満そうな表情を見せながらデストラクターは待機形態のISを持ち上げた。
「無理言わないでよね。ウチのISは“そういうの専門”なんだから」
「それもそうでした」
上の階から発砲音と爆発音が聞こえる。パラパラと埃が落ちてきた。
「なによボマーの奴、失敗してんじゃない!」
苛立ちと共にISを装着する。竜をモチーフとした真紅の機体。通常のISよりも一回り大きく、腕は四本の爪が地面に届きそうなほどだ。脚部も通常の接地性のあるものではなく、カギ爪のハイヒール状となっている。そして背中に背負う巨大なバックパックが二つ。全身装甲型のIS《クリムゾン・フォウマルバウト》は竜の頭を模したハイパーセンサーでボマーの位置を探知する。
「なによ、アイツ下に降りてきてるじゃない。ったく仕方ない」
亡国機業爆破工作部隊──ヴォルケイノブレス隊長は、天井を見上げた。右腕の装甲が唸る。
「それじゃー、任務開始といこっかぁ!」
「そうですね。それでは私も……《シルヴァレイン》、起動してくださいませ」
レギオンの装着するISは、華奢な手足とは裏腹に巨大な翼を背負っていた。肩のアーマーから一体化したそれはまるで銀のコウモリにも思えるフォルムをしている。翼の表面は複雑な凹凸があり、その一部が外れたかと思うと鋭利な小型のBT兵器が宙に四基浮かんだ。
デストラクターは踏み込み、腰の捻りを加えた一撃を天井へ向けて放つ。掌底から射出された爆弾であっという間に風穴が出来上がった。
その爆発の振動で霧島が机の資料を落とす。乱雑に散らばる書類を踏みつけて転んだ。
「イタタ……まったく容赦がないですね」
壁に立てかけておいた袋の紐を解き、万一に備える。真剣を握るのは数か月ぶりだ。
社長は無事だろうか? ──重い発砲音を聞く限りはまだ無事なようだが、今の振動は下から響いてきた。
電源が落とされている以上設備は頼りにならない。霧島はISと遭遇しない事を祈りながらドアを開けた。
割れた花瓶、削られた柱、故障しているエレベーターを見るとどうも此処で戦闘してたのは間違いない。非常口から逃げ出そうとも思ったが、まだ必要な物が残っていた。
「霧島ぁ!」
「社長、無事でしたか」
「ガキは逃がしたがな。まったく景気良く発煙手榴弾ばらまきやがって……それよか今のは」
「恐らくISでしょう。倒産するのも時間の問題ですよ」
「いざとなったら金庫担いで逃げりゃあいい」
簡単に言ってくれる。二人が階段を上がろうとした瞬間、ホール前の床が爆発して崩れ落ちた。そこから飛び上がってきたのは真紅のIS。
「見ぃつけたァ!」
「なんでぇ、女か」
スミスが銃を向けた先は転がっていた手榴弾。囮に使って拾わなかったままの物を撃ち抜き、爆発に紛れて霧島の背中を押しながら階段を昇る。その程度では怯みもしなかったがその身体の大きさが災いして思うように動けない。
舌打ちを一つ挟むと、デストラクターのISは周囲に爆弾を投てき。その階を焼き尽くす。
「ウチの邪魔するのなんて皆燃えりゃいい! 亡国機業を敵に回すとどうなるか骨の髄まで教えてやんよ!」
周囲に浮かんでいたBT兵器が先行してスミス達の後を追跡していた。
霧島がそれに気付き、咄嗟に会議室の扉を開けて身を隠す。しかし易々と突き破って侵入してきた。
目視で対象を追っているわけではない。動きも四基同一となると、四基でワンセットなのだろう。だが攻撃してくる気配はなかった。それを疑問に思いながらもスミスと霧島は再び廊下に転がり込む。
「どうした、霧島」
「いえ、別に」
それから何事もなく社長室まで駆け込むことが出来た。追撃もなかったことを奇妙に思いながら椅子に腰を下ろす。
「ふぃ~、まったく洒落にならねぇ。傷一つつかねぇなんざな」
「社長。どうして亡国機業は私達を狙って?」
「正確にはお前をだ。連中、よりにもよって俺の社員をISコアと引き換えに渡せなんて言ってきやがった。だから断ってやったんだよ。世界最強の兵器を動かす動力源と人の命を秤になんぞかけられるか」
机の引き出しから鍵を取り出すと、本棚の横に差して回す。その棚の後ろには大量の銃器がショーケースに並び、ガンラックに立て掛けられていた。全てスミスが趣味で集めた銃である。
「なら、私があちらに協力すれば事態は解決なのでは?」
「ところがそうもいかねぇ。研究成果その物も全部寄越せと言ってきたからな。ふざけんじゃねぇ、人の汗水流してきた成果を金で渡すと思ってのかよ。そんな奴等と組んだからブロフィットの奴は捨てられてたんだろうよ」
「……電源が落ちた今、地下研究所に降りれますかね?」
「生まれた時から付いてる二本の足があるだろう。地下だけは別な動力を使ってるから発電機動かせば動くぞ、つってもそんな大した時間じゃねえ」
必要な物を取り出す手を止めて、スミスは霧島が何を考えているのか尋ねた。
「まさか、地下のISを動かすってのか?」
「いいえ、あれは動きませんよ。肝心の動力も、操縦者もいませんからね。それと細かい訂正が一つ、あれはISではありません。『対IS専用兵器』です」
「完成すりゃあ良かったがな」
「完成させますよ。……必ず」
「なら、動かせりゃあいいな」
デストラクターの下にボマーが息を切らしながら戻ってきた。今はISを解除して一室に集まっている。急がなければ警察も押しかけてくるだろう、出来るだけ早く始末しなければならないがそれをレギオンが止めた。
「ぶー、カナデ。なんで止めたのよ」
「まぁまぁ、私の話を聞いてください。あくまでも私達の任務は施設の破壊ですが、その前提であったのは霧島博士の確保でしょう? でしたら作戦方針を変えみては、と思ったのですが……」
「どうすんの?」
「そうですねぇ……霧島博士の拉致、ということで。そちらはジャッカルさんと私が行いますので、トラさんは引き続き破壊任務をお願いいたします」
「了解ー。ボマー、アンタはもう役に立たないから帰っていいわ」
「へぇいへい……」
思った以上に爆薬を消費してしまった。これでは火力が足りなくなってしまう。とはいえ取りに戻るのも厳しい。
「俺は一足先に車で逃げさせてもらう。後は任した、ジャッカルには俺から連絡入れとく」
ボマーは去り際にジャッカルに連絡を淹れる。作戦の変更内容に頷いたようなので、車に乗り込んで会社を後にした。既に周囲には人だかりが出来ている。警察のサイレンの音も聞こえてきた。
(本当に大丈夫かよ……)
いくらISの性能が高いとはいえその不安は拭い切れずにいる。その為に自分とジャッカルというサポート役がいるのだから。
そして次ぐ爆発に次ぐ爆発。デストラクターは派手にやっているようだ。
「アッハッハッハ、そうらそらー! 出てこないとあぶり出しも何もなくなっちゃうぞー!」
「トラさん。私の話を聞いてましたか?」
「へ、なに? ああ、先に壊しちゃ駄目なんだっけ」
「ジャッカルさんの方にも私の《サウニオン》二基を着けておりますから、直に済むと思うのですけど……」
ハイパーセンサーで突撃BT兵器《サウニオン》の映像を見る限り、どうやらまだ隠れているようだ。階段の方も二基の見張りを着けている。