インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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一難去って……。ひとまずの安息

 ジャッカルに追従させている二基からの映像では人影は見えない。レギオンの隣でデストラクターが身体を伸ばしている。

 所持しているのはナイフ、サブマシンガンのイングラムMAC11。サプレッサー(減音器)付きの9ミリ・パラベラム弾モデル。今まで愛用してきたこの銃を握り締めてジャッカルは慎重にターゲットを探した。ボマーからの情報ではマグナムを所持しているらしい。掠りでもすれば無事で済まされない代物を片手で撃つような相手だ。接近戦も避けた方がいいとジャッカルが判断する。

 そうなるともう早い者勝ち、サブマシンガンで蜂の巣にしてしまおう。いくら威力が高いとはいえ相手も人間だ。

「こちらジャッカル、ターゲットは見当たらない」

《レギオンです。階段の方にも人影はありません》

「……先に脱出した、という可能性は?」

《隊長様だよー。ウチのサーモグラフィには反応無し。屋上にヘリでも来たら話は別》

「この隙に研究成果を強奪というのは?」

《それが見当たればいいけどね》

 お手上げらしい。霧島を捕獲しなければ動きようがなかった。

 そしてジャッカルが最上階を前にした時、廊下に堂々と待ち構えていた男は──。

「……ターゲットを確認した」

 日本人男性、霧島深崎博士に間違いなかった。イングラムMAC11を向ける。

「亡国機業の方で間違いないでしょうか?」

「そのまま。抵抗せずにしてくだされば手荒な真似はしません」

「はぁ……そうですか。私を拘束して、どちらへ?」

 ジャッカルは油断せずに慎重に近づく。左手に持つのは黒い漆塗りの鞘。日本刀の現物を観るのはジャッカルも初めてだ。

「我々の知るところではありません」

「それでは、捕まるわけにもいきませんね。私には成すべきことがあります。お引き取りを」

「ISを相手にしてでも?」

 霧島の視線はジャッカルの左右に浮くBT兵器。追撃を途中で止めた物と同じだ。

「BT兵器、ですか。まだイギリスの方で試験稼働中、データのサンプリングの為に機体が組まれたと聞きましたが……他にも存在しているんですね」

 目の前でサブマシンガンを構えているジャッカルなど意に介さず、浮遊している《サウニオン》を興味深そうに見ていた。

「形状から光学兵器を搭載してるわけでもなく実弾も積んでいないようですね。……ふぅむ、となれば突撃型? なるほど。うん、確かにそれらしい形状です」

「……武装を解いてください」

「ああ、すいません。つい夢中になってしまいました。……一ついいですか?」

「なんでしょう」

「本当に武装を解除しても?」

 ジャッカルはその一言に眉根を寄せる。銃を向けられても涼しい顔をしている霧島に何か策があったとしてもこの至近距離で長い刀は使い物にならない。

「それが出来ないのなら、多少の怪我は覚悟してください」

「そうですね。では」

 両手をゆっくりと上げていく。その左手から日本刀が手放された。直後にジャッカルの手に手刀が打ち込まれる。手首を捉えられ、驚愕する顔に掌打から強烈な肘打ちが叩き込まれた。

「正当防衛という形をとらせてもらいます。お覚悟を」

「っ!?」

 近すぎる為にサウニオンが攻撃できない。霧島を攻撃しようとすればジャッカルにも被害が及ぶのは明らかだ。

 ──その映像を見ていたレギオンが口元を手で覆う。

「……あら?」

「あっちゃー……ジャッカル大丈夫?」

「駄目そうですねぇ。困りました……サウニオンは細かい挙動が出来ませんのでこのままでは」

「要は逃がさなきゃいいんでしょう!」

「あ、ちょっと待っ──」

 レギオンからの静止の声が爆音にかき消された。鬱憤を晴らすかのようなデストラクターの発破に、頬に手を当てる。

「どうしましょう……」

 

 ビルが揺れ、ジャッカルの姿勢が崩れた。その目の前に取りこぼしたイングラムを見つけて手を伸ばそうとしたが、一足先に霧島がそれを遠ざける。それを足で止めたスミスは拾い上げるとマガジンを抜き取って返した。

「っとと! 亡国機業ってのは解体業者かい。リフォーム頼んだ覚えはねぇぞ」

「クッ!」

 せめて目の前の男だけでも始末を──!

 任務を遂行しようと身体が動くが、世界が逆転した。背中から叩きつけられて自分が投げられたのだと気付く。咳き込むジャッカルの視界に白刃が閃いた。

「斬り捨て御免。安らかに、というのは無理でしょうか」

 刀を振り払い、血糊を払う。BT兵器はガラスを破って退散していった。窓の外の景色がせり上がっていく──。

「社長、これは」

「あー。かなりマズイな」

 スミスは急いでリュックを背負い、霧島を引っ張って窓ガラスにコルトガバメントを打ち込む。

「な、何を!?」

「飛び降りるに決まってるだろうが! 何の為のパラシュートだと、思ってやがる!」

「いや無理でしょうこれぇえええ!?」

 一人用のパラシュート、それも十分な高さでない位置から二人分の体重を支えて着地出来るはずもない。だがスミスは窓ガラスを破ってパラシュートを開き、霧島は落ちないように願う。

 向かい側のビルの窓ガラスに再びマグナムを撃つが、二発撃って弾が切れた。

「持ってろ霧島!」

 舌打ちしたスミスはベルトに固定して後ろ腰に差していたコルト・パイソンを抜き、すぐさま四発撃ち込むとガラスが割れた。

 悲鳴のあがる向かいのビルに転がり込む。

深いため息を吐き、瓦礫の山になっていく会社をバックにスミスは煙草をくわえた。

「よく生きてますね……私達」

「日頃の行いがいいからな」

 そう言って紫煙を吐き出す。外からはパトカーのサイレン、飛び込んだビルでは大騒ぎである。

 

 

 

 米国企業が爆破されたというニュースは当然、IS学園のテレビでも報道されていた。しかしそれを見ていたルナリアは特に驚く様子もなく昼食を一人で食べている。

『尚、この事件で死傷者はいません。今でも瓦礫の撤去が行われています』

 淡々と読み上げられる内容から視線を外して別なテーブルを見ればセシリアが一夏の隣に座って食事をしていた。だが二人きりという状況ではなくシャルロットとラウラも一緒である。

(……社長も博士も、そう簡単に死ぬ人じゃないから心配しないけども)

 食堂の窓から一望できる水平線を眺めた。きっと大丈夫だろう。それよりも気になるのは──。

(……給料支払われるのかな、今月)

 トマトケチャップをつけたポテトを食べながらそんなことをぼんやりと考えていた。

「るなりー」

「……?」

「ふふふ~。もうすぐ臨海学校だよ~、海だよ海~」

 そういえばそんな行事が目前に迫っていたような気がする。ルナリアは布仏から言われて思い出した。

「るなりーは水着あるの~?」

『学校指定の水着しかないけど』

「じゃあじゃあ、買いに行かないとだよ~。スクール水着だなんてマニアックでおりむー振り向かないんだから」

(別に興味ないんだけどなぁ……)

 布仏に誘われるまま、週末に水着を買いに行く約束をしてしまう。特にこれといってオシャレには興味がなかった。今まで誰かと水着を買いにいくような普通の生活も──ルナリアはかぶりを振って思考を打ち切る。何はともあれ、週末が楽しみだ。

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