そして週末。待ち合わせ場所で布仏を待っていたルナリアは携帯の画面とにらめっこをする。予定時間から十分経過。周囲を見渡すが布仏の姿は見えない。
「お~い、るなり~」
間延びしたのんきな声に顔を挙げた。
「それじゃあ、れっつご~」
袖を余らせた腕を振り上げる布仏に合わせてルナリアも同じように小さく手をあげてみる。
水着売り場に到着した二人は早速あれこれと見比べていた。
「るなりーにはこれが似合うんじゃないかな~?」
そう言いながら見せたのは赤いビキニ。ルナリアは両手を交差させて拒否する。さすがにそれは派手すぎた。
「ん~……」
布仏が多種多様な水着を見比べていた横で、ルナリアがコソコソと隠れていたセシリア達を見つける。その視線の先を辿ると一夏とシャルロットが二人で買い物に来ていた。別な場所ではラウラが何やら連絡を取っている。何をしているのだろうか。
「るなりー、これは~?」
「……?」
見せてきたのは先程よりマシだったが、それでもわざと選んでるのかというようなチョイスだった。
(他にもあるのになんでそれを……?)
何気なく手にした水着と見比べてみると、確かに自分が選んだ物は地味かもしれない。そうなるとやはり布仏が選んだ水着の方が断然見栄えは良い。
「あれ、ルナリアじゃない。アンタも水着買いに来たの?」
「あら? いらしたのですか」
鈴音とセシリアは一夏とシャルロットを見失ったようだ。何処となく落胆しているのが窺える。ラウラはやはりいない。
「そうだよ~、るなりーに似合う水着を選んであげてるの~」
「へぇ……」
ニヤリと鈴音が怪しい笑みを浮かべた。
「そういう事ならアタシも手伝ってあげるけど?」
「お~、ホントに~?」
「というわけで早速いくわよー!」
グイグイと腕を引っ張られてルナリアが鈴音に引きずられていく。
(いい、セシリア。一夏の捜索も忘れないようにしながらよ)
(勿論ですわ鈴さん)
コソコソと耳打ちする二人の会話が手に取るように分かってしまった。
(ルナリア。アンタの水着もちゃんと選んであげるから協力しなさい)
──選んでくれるのは嬉しいが、恋愛沙汰に巻き込まないでもらいたい。というのは思うだけに留め、メモ帳には礼だけを書く。
初めは一夏を探すことにも意識を向けていたが、徐々にルナリアの水着選びに熱中していたのが自分の水着選びを始める始末。
「ん~、どっちがいいかな?」
「それでしたらこちらがお似合いだと思いますわ」
(あれ、私の水着は?)
こうなるともう結局は自分で選ぶしかないだろうか。ルナリアが袖を引っ張られて振り向けば、布仏が水着を持っていた。
「るなりー、こっちとこっち。着るならどっちがいいかな?」
「………………」
まともな選択、どちらも良い感じだ。ルナリアはしばらく悩み、試着してから決めることにした。
試着室に入り、服を脱いでいると隣で何やら物音がする。会話が聞こえてきた。声の主はどうやら一夏とシャルロットのようだが、気にせずに水着を着る。
少々サイズがきつい。一つ上のサイズなら丁度いいだろう。といっても泳ぐ予定はないのでこの上にパーカーを羽織ることになりそうだ。試着を終えて制服に着替えていると、隣から倒れる音が聞こえてくる。それから真耶と千冬の声。どうやら教師もここに来ていたらしい。
(そこで説教されると私、出れないんだけど……)
それからしばらくルナリアのいる試着室の前で一夏とシャルロットが説教されていた。
水着を買い、何事もなく寮への帰路に着いていたルナリアの携帯が着信音を鳴らす。
『From 霧島深崎
件名 ルナリアへ
本文 IS学園での生活には慣れたかい? ニュースを見たなら知っていると思うけれども会社が爆破されました。幸い怪我人はいなかったのでみんな無事です。だけども赤字経営が倒産してしまいました。地下の研究所は無事なので安心してください』
「……」
カチカチとボタンを押して返信する。
『件名 Re:博士へ
本文 給料の支払いはどうなってますか?』
送信。
「あれ、ルナリア。今の着信音ってアンタ?」
「誰からですの?」
「む。霧島博士からではないか」
「……なんかこの文面だけだと、母親みたいね」
名前で勘違いされやすいが、正真正銘の男だ。
『From 霧島深崎
件名 Re:Re:それについて
本文 社長が我慢してくれと言ってます。会社の金庫は無事でしたので何とかなりそうですが、これから先どうなるか分かりませんので身体には気を付けて。それではノシ』
(…………最後のこれ、なに?)
『件名 Re2:最後の文字について
本文 ノシってどういう意味ですか』
『From 霧島深崎
件名 すいません
本文 ノシというのは手を振っている仕草を文字で表した物です。さようならとかバイバイ、またねといった意味と思ってください。それでは忙しいのでまた今度連絡します』
納得してルナリアは携帯を閉じる。
「なんか文面見た感じだと普通ね。物腰丁寧だし、凄い人には思えないわ」
鈴音の言うことは尤もだ。普段の霧島を思い浮かべれば、確かにそんな雰囲気は感じられない。しかしISを目の前にした時の集中力と熱意は狂気じみた物を感じる。地下の研究所が無事だとは言っていたが、それでもやはり心配だ。可能ならば自分の目で見ておきたい。そんな事を考えていたとしても時間は常に進む。
感情もなく無機質に進行した時間は臨海学校を始めた。
砂浜ではIS学園の生徒達が水着に肌を包み、打ち寄せる波ではしゃいでいる。砂浜でビーチバレーをしている生徒達もいた。
ルナリアは水着に着替えたが、その上からパーカーを羽織っている。ビーチパラソルの下でその様子を眺めていた。
「ルナリア、泳がないのか?」
一夏が声を掛ける。ルナリアは首を横に振った。
「せっかくだから楽しまないと勿体ないだろ?」
「水着買ったのになんでパーカーなんて着てるのよ、ほらほら」
鈴音の手が伸びるが、それをあっさり避けるとルナリアがシャルロットに捕まる。その隣にいるミイラはなんだろうか。ツインテールの銀髪が見えていた。
「……シャル、隣のは……」
「あ、一夏」
鈴音の手が伸びるが、シャルロットの注意が一夏に向いた隙に抜け出してルナリアは防ぐ。掴んだ手から、背負い投げにすると砂浜に叩きつける。
「ルナリア、柔道も習ってたのか?」
「イッタァ~……ちょっと、何す──ちょちょちょなになに何なの~……!」
そのまま鈴音を引っ張ってルナリアが波打ち際に走っていった。見守っていた一夏とシャルロットは何をする気なのか首を傾げていると、そのまま波打ち際で追いかけっこをしている。
「……あれは、楽しんでるのか?」
「からかってるんじゃないかな?」