インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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飛来する人参

 瓦礫の山。会社の跡地を前に煙草を吸う男性がいた。スミスは紫煙を吐きだして立ち入り禁止の帯を跨ぐ。

 瓦礫の撤去はある程度済んでいるが、まだ完全に終わっていない。スーツを着たままスミスが瓦礫をどけていると聞き慣れた声に振り向いた。

 そこに居たのは霧島。そして、銃撃戦を行った青年と女性が三人。

「……気晴らしのパーティーでも誘いに来たのか、霧島?」

「何分、人手が足りないもので」

「猫の手を借りたい俺に言うセリフじゃねぇぞ」

「では、私が手を貸しましょうか?」

「ありがてぇ。猫に比べたら百人力だ。……それで、そっちの奴等はなんだ?」

 手の埃を払い落すと、スーツの女性──フレイが一礼し、右手を差し伸べた。

「私はフレイ・バリス。霧島博士より貴方のことは聞いています、Mr.スミス」

「こいつはどうも、ご丁寧に」

「私は亡国機業で幹部をしております。今回の件については」

「ああ、鉛玉で返事をしてやろうか?」

 髪が顔の左半分を覆うフレイの額に、スミスは銃を突きつける。眉ひとつ動かそうとせずに、フレイは説明を始めた。

「今後は我々が霧島博士のスポンサーとなります。これは本人も承諾済みです」

「言ってる言葉が分からねぇよ、ここはアメリカだ。英語を話せ」

Anger punishes itself(怒りは自らを罰する).四の五の言わずに黙って話を聞きなさい。我々の方から出来る限りの技術、情報提供を条件に霧島博士は協力を承諾しました。貴方よりは賢明な選択と言えます」

 スミスはフレイではなく、瓦礫を退ける霧島を睨んだ。懐のホルスターにガバメントをしまいながら。

「以降、彼は我々と行動を共にしていただきますが、何か質問は?」

「お前じゃなくて霧島にならな。どういうつもりだ、てめぇ!」

「どうもこうも、そういうことですよ社長。小を捨てて大に就いたまでのことです」

「What!? 俺の会社がぶっ壊れて、更地にされたことが小せぇってのか! 日本人は恩知らずってかクソッタレ!」

「貴方にも、私にも。成すべきことがあるでしょう。その為に犠牲になっただけですよ」

 ついでに言えば、己の傲慢さが生んだ自業自得でもある。霧島はそれを言わずに、話を進めた。

「私の悲願は対IS専用兵器の完成。篠ノ之束を超えること。ですが社長、貴方の願いはなんですか?」

「…………」

 居心地が悪そうにスミスは頭を掻き、矛先のない怒りを瓦礫に殴りつける。当然痛かったのか小さな悲鳴をあげた。

「ッ~~! クソ! あぁ畜生! 俺は現存する兵器で、ISを超えることが夢だ! いい歳こいて恥ずかしいこと言わせんな、来年37だぞ! その為にお前を雇った……ってのは単なる奇跡か、神の御目こぼしだ」

「私は恩知らずではありませんよ、社長」

 それでもまだ納得がいかないのか、スミスは唸りながらうろつく。やがてどうにか気持ちに折り合いをつけたのか手を挙げた。

「……オーケー分かった。そういう事か、なら仕方ねぇ」

「ご理解のほど、感謝しま──」

「だが霧島はうちの社員だ。俺の会社は無くなったが俺が生きてる。給料は支払えねぇが、霧島の利益はうちの会社の収入だ」

「……呆れるほどの商売魂ですね」

「金に無頓着で生きていけるほどアメリカは甘くないんでな。俺も同行するが、文句は言わせねぇぞ」

 フレイが目を白黒させている後ろで、ボマーが呆然と口を開けている。

 霧島が地下の研究所に繋がる扉を見つけたのか、手を貸してくれと言うとデストラクターが軽快なステップで駆け寄った。

「頑丈そうだけど、ウチに任せばティッシュみたいなもんよ!」

「いえ、普通に開けてください」

「ふんがー!」

「ありがとうございます」

 無理矢理こじ開けた扉に身を滑り込ませて霧島が降りる。その後についていく奏とフレイ。ボマー、デストラクターはスミスの監視だ。

「……吸うか、クソガキ」

「クソガキじゃねぇ、ボマーだ」

爆弾魔(ボマー)? うるせぇ、俺からすりゃあケツの青いクソガキだ」

「やーい、クソガキボマー」

「うっせ!」

 

 ボマーがいじられている地上の一方で、地下の研究所と呼んでいたのは格納庫と表現するべき鉄の箱庭。電源が落ちている為に暗闇に包まれているが、手探りで何とかスイッチを入れると全貌が明らかにされた。

 一機の機体が鎮座している。その隣に空いたスペースがあったが、それよりも異様な雰囲気を醸し出している機体は紛れもなくISだ。

「……あれが、対IS専用兵器?」

 ただ、ひたすらに黒い。カラーリングが黒以外に見当たらないほどにそれは黒い武者だった。フレイが訝しむ。

 霧島がパネルを操作すると、格納庫内の壁面が動いた。その裏側に隠されていたのは製作途中の武器やISの腕と脚。

「これだけの物を所有しながら、何故ISを作らなかったのですか? これだけあれば、少なくとも二機は製作出来たはずです」

「……いえ、一機が限界でしたよ。私には」

 そう呟く霧島の横顔は、どこか遠くを見ていた。

「それも、ISコアに装甲を取りつけるのではなく改修するのが関の山。馴染ませる為に、彼女には多大な苦労を掛けてしまいました」

 

 ──天才には、程遠い。

 

 鬼気迫る霧島の狂気に、フレイは背筋に悪寒が走った。篠ノ之束を超えること。それはISを超える兵器の開発によって成せるのだと盲信して止まないこの男に、ISはどのように映っているのか。

「資料の方は私が持ちますので、あちらの機体をお願いします。仮組状態ですので一度別けて運搬しましょう」

「我々の保有する設備であれば、少なくともここより充実しています。……出来そうですか」

「そうでなければ、貴方がたに期待はしていませんよ──亡国機業(ファントム・タスク)

 霧島の見せる笑みには、確かに薄らと狂気が滲んでいた。その目が見ているのは只一人の天才。そのことを理解しても尚、奏の鼓動は高鳴っていた。

 

 

 

 旅館での一泊を過ごしたルナリアは起床する。寝ぼけ眼で部屋を見渡すと同室だったクラスメイトはまだ眠っていた。

 洗顔しようと、のっそりと立ち上がり襖を開ける。紐のような物を踏み、脚を滑らせたルナリアはそのまま倒れた。

「……?」

 何か、歩きづらい……。そう思って自分の格好を見直すと、気崩れた浴衣に帯がどうにかくっついていた。その端を目で追えば足元に伸びている。先程踏んだのは──。

(……眠い)

 モゾモゾと廊下に座り込んだまま帯を適当に締め、浴衣を直す。

 廊下を歩いていると、地面になにか埋まっていた。生えているのは看板と一対の耳? のような物。

(……あぁ、私まだ寝ぼけてるのか)

 思うように開けていられない目をどうにか開けたまま顔を洗う。朝の日差しを浴びて身体を伸ばし、磯の香りを胸一杯に吸い込んで胸やけしそうになりながらも戻る。すると、箒が地面から生えている一対の耳──よく見ればウサ耳を模している──を前に座り込んでいた。

「ん、ルナリア。おはよう」

「……」

 片手を小さく上げて挨拶を返し、その場を後にする。

 部屋に戻るとまだクラスメイト達は寝ていたのでルナリアはISスーツに着替えて旅館から離れた。

 

 旅館からそれほど遠く離れず、見える位置でトライアレンドを起動する。機体の各部チェック、問題なし。リリウス稼働テスト、こちらも支障はない。各武装展開、ノープロブレム。PIC稼働、チェック完了。

 地面から僅かに浮いた状態で機体を固定する。ルナリアが目蓋を閉じて数秒、ハイパーセンサーが上空から高速で落下する物体を補足した。まだしつこく残っていた頭の眠気が吹き飛び、リリウスを向ける。

 落下地点の予測結果は旅館のど真ん中。流石に撃ち落とすのは不可能だ。

 望遠拡大…………人参が旅館に向かって落下していき──砂埃が舞い上がる。

(………………───人参?)

 なんでそんな物が落下してくるのか。日本は本当にファンタジーな国だ。今見た事は出来るだけ記憶の隅に寄らせて隙あらば忘れてしまおう。そう決めた、今決めた。

 以前より考案していた機能特化専用パッケージ、オートクチュールの設計を始動。霧島にも内密に独自に行っていたが、ようやく完成の目途が立ちそうだった。早くても臨海学校が終わる頃には完成しそうだが、トライアレンドの拡張領域をどう確保するかが課題だ。右腕を見れば、固定された専用武装リリウス。左腕を見ればISを隠せるほどの大型シールド。それらは背中に背負ったバックパック──折り畳んで収納しているリリウスの砲身で繋がっている。

 ルナリアは深々とため息を吐いた。

(……収納しても“コレ”だもんね)

 リリウスの砲身は現時点でもISの全長を上回りそうだ。その上機関部は背中に背負っている。もし背後から攻撃されればリリウスは途端に機能を停止するだろう。

 そんな産業廃棄物と呼ばれそうな代物は拡張領域をほとんど奪っているときた。扱いづらい、産業廃棄物、お荷物の三重苦が揃っているが仕方ない。相手に当てた時のアドバンテージを考えればそれも多少は許容できる。

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