──霧島へ与えられた場所は、もはや軟禁所と言っても差し支えない程の場所だった。スミスもまたそこへ押し込められ、監視役としてデストラクターとレギオンの二人が同室に入っている。
ISの研究所と仮眠室があるだけの素っ気ない物だが、霧島としては作業に専念出来るだけで申し分なかった。到着するやいなや、即座にクリムゾン・フォウマルバウトとシルヴァレインの解析を始めている。
ボマーはフレイの護衛任務を続行していた。
「……カナデー、カナデ~。ウチすんごい暇なんだけど~?」
「そうですか? まぁ仕方ない事だと思います。ここで監視ですから」
「なぁんでよー。どうせならボマーに任せれば十分じゃん」
「そう私に言われても……」
スミスは銃の手入れを始めている。コルト・ガバメント、コルト・パイソン、デザートイーグルの三丁。どれもマグナム弾を使用している。それを全て片手で撃つのだから並大抵の筋力ではない。デストラクターは暇を持て余し、その作業を見ていた。
「こんなん片手で撃ってるとか正気?」
「ったりめぇだ」
「人間?」
「あのなぁ、俺だって初めから片手で撃ってたわけじゃないんだぞ? 肩の骨が外れたりとかしてたもんさ。今じゃ両手で撃っても余裕だがな」
「マグナム二挺拳銃とか考えたくないわ」
ボマーが聞いたら泣き喚きそうである。
奏は霧島の傍に寄り添って画面を見ていた。というよりは懸命に作業に打ち込む想い人の横顔をだが。
「失礼、長らく待たせたな」
フレイとボマーが戻ってきた。その手にはある程度余裕のある食糧とアタッシュケースに封筒。それらを全て霧島に渡す。
「その封筒の中がデストラクター、レギオンのISに関する資料だ。こちらから開示出来る情報の全てだな。こっちのアタッシュケースは、我々が入手している技術に関して簡潔にまとめたものだ。有効に活用し、我々に尽くしてくれ」
「はい。ご丁寧にありがとうございます」
「それでは私は失礼する」
「姐さん。オレは?」
「お前も同室待機だ。進展があれば連絡を寄越せ、以上。何か質問は」
「ありません」
「よろしい。それではな」
霧島は資料へ適当に目を通すと、種類別に分けて手にすると早速二人の機体を観察した。
「……二機で一体のIS。絶対数の確定と同時に分断、別個にて製作──これは興味深い。つまり本来は従来のISを大幅に上回る全長の機体だったというわけですか。いつか再現してみたいものですねぇ」
続いて、黒い武者のIS──否、対IS専用兵器。霧島が心血を注いだ機体。そちらの完成が先決だった。
通常ISは女性でしか動かせない。それは世界共通の規律であるはずだった、織斑一夏を例外として。
男性でも動かせるISに匹敵する機体。それこそが霧島の設計している兵器だった。だが動力源の確保から性能の実用性まで肝心な部分が未完成のまま月日が流れてきている。それに日の目を見せる為ならば、自分は鬼にでも悪魔にでもなろう。
「……もうすぐだ。もうすぐだからな、エクスペリエンス01。必ず戦わせてやるから」
その完成を疑わない霧島は、廃棄処分。又は実用性の無さ、条約違反によって凍結処分を余儀なくされたISの設計図を手にして静かに微笑んだ。
銀の福音への奇襲は紅椿、白式の二体によって行われたが、それでも暴走が止まる事はなかった。一夏が意識不明の重体を負うこととなるが、無情にも銀の福音は移動を続けようとする。
──その挙動を見逃さない姿があった。
不意に銀の福音が動きを止めた。一夏と箒が撤退した今、消費したシールドエネルギーの回復に専念しようと動く。
《ライフリング:完了》
《倍率:拡大》
《目標確認》
《展開可能武装:リリウス射出用意完了》
《迷彩武装:ステルスシールド限界稼働時間残り100秒》
呼吸を止める。逆手に握りしめたグリップを握り直し、銀の福音へ刺すような眼で狙撃用スコープを覗いていた。レールガンの性質上、発射した際に多少電撃が迸る。それを覆う形で迷彩武装を施していたが、シールドエネルギーを変換している為稼働時間に限界があった。そのうえ攻撃と同時展開は不可能であり、使用した場合は移動のみで維持できる。だが狙撃の面で見れば非常に有用性の高い武装だった。
(…………
電光が青空を切り裂き、迷彩が剥がれる。着弾を確認するまでもなくルナリアは飛行した。
単発に設定したリリウスの威力は
放った弾丸は銀の福音に命中したかに見えたが、驚異的な速度でエネルギー弾を形成して軌道をずらされ、僅かに威力を相殺された。大きく吹き飛ぶが体勢を整えると、すぐさま応戦してくる。
全砲門36個を展開、周囲に放ったエネルギー弾がルナリアに目掛けた軌道を執るが正面に大型シールドを構えて特攻した。小型のエネルギー弾ではびくともしない。その豪雨を抜けた先でリリウスを突きつけて引金を引く。しかし回避行動へと入っていた銀の福音へ命中はしなかった。
その後を追う。だが背後に向けても発射が可能なのかルナリアの行く手をエネルギー弾が向かい風となって阻む。大型シールドで防げるのはいいが、その間こちらの視界が制限されるのが難点だ。
追跡していたはずの銀の福音がいない。ハイパーセンサーで周囲の索敵を行い、上空を取られたことに舌打ちしながら背面飛行に移りながらリリウスを構えた。銀の福音はそのまま距離を離しながら移動を続ける。それを始めはスコープで追っていたルナリアだったが、途中から狙撃用に切り換えた。
銀の福音を狙っていたが、上昇した姿を追っていると強烈な光に目をやられる。即座にスコープから目を離したから良かったものの、もうしばらく見ていたら失明するところだった。
(迂闊だった……!)
狙撃に集中するあまり、太陽を背にされたことに気付かなかったことに自省する間もなく銀の福音から放たれたエネルギー弾の直撃を受けてルナリアは海原へと沈む。
暴走している割に、随分と人間臭い動きを──海中を移動しながらルナリアは怪訝に思っていた。それに遅れを取った事もだが、視力の回復には時間が掛かりそうだ。撤退するのが賢明と言える。
(……それに)
シールドエネルギーの残量も少ない。海中に没したことでリリウスも停止させたのでまた0から充填を開始しなければならなかった。銀の福音の火力を前にそんな悠長なことは出来ない。ほぼ敗北は決定していた。
海岸まで戻ったルナリアは旅館へと戻る。一夏は意識不明、箒は意気消沈。肝心の自分も一手遅れを取った。絶望的な空気が広がるが、それでもまだ諦めるわけにはいかない。
右目を軽く押さえながら、ルナリアは笑っていた。胸の高鳴りがそうさせている。
久しぶりの実戦は何処か居心地が良かった。他では味わえない緊張感に胸が躍る。
(…………馬鹿らしい)
そんな物でしか自分が生きている心地がしないのは、おかしいのだろう。理解している。ルナリアはそんな自分が可笑しくて、自嘲した。
(次は、負けない。負けるもんか)
右目を閉じたまま、濡れた髪をかき上げて旅館へと戻る。
狙撃に失敗した事を報告すると、千冬から労いの一言。真耶は右目の負傷を心配して治療を受けるように勧めた。
医師からの検査では明日まで右目は使えないらしい。右目に眼帯を付けて出てきたルナリアに鈴が驚きの声をあげていた。
「ちょ、アンタどうしたのよその眼帯? もしかして福音の奴に?」
『ちょっとドジしちゃっただけ。明日には治る』
「ならいいんだけど。そうだ、箒のこと知らない?」
ルナリアが首を横に振る。
「そっか……。まぁ、お大事に。それじゃね」
ともあれ今ここで黙っているわけにもいかない。左腕や片足までならいいが、片目が使えないのは非常に痛かった。距離感が掴めない以上、トライアレンドの射撃に支障が出る。この状態では援護射撃もままならない。
ともあれ、早い回復の為にルナリアは仮眠を取ることにした。