インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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織斑一夏と沢山の女子──時々鉄拳

 社長の怒鳴り声に博士はしょんぼりと肩を落としながら社長室へと急いで向かった。勿論廊下を走らずに早歩きで。

 

 

 

 少女は会社の地下に降りる。赤いランプがついている電子ロックを自分の社員証をかざすことで解除、開いた扉の中へと足を踏み入れ、暗闇の中に佇む一機のISを見上げた。

 ライトを点灯させて照らされた少女の専用IS──《トライアレンド》が鎮座している。

 それに手を触れると、僅かにだが輝いた。

「………………」

 IS学園──その名前を胸中で少女は繰り返す。

 出来ればここから離れたくはなかった。ここには社長も博士もいる。だがISを持っている以上、やはり自分も行かなければならない。

 少女はロールアウトカラーのまま起動を待つトライアレンドを見上げた。自分は、これからどんな人達と出会うのだろうか。

 人見知りがちな少女は少々の不安を抱えるも、大丈夫だと自分に言い聞かせた。

 翌朝、博士と少女は予約していた飛行機に乗り遅れないように社長の運転する車で空港へと向かう。

 二人は日本へ向かう便に移動するが、社長はフランス行きだ。

「デュノア社に行くんですよね?」

「んー、まぁな。それよか博士」

「いえ、外では名前で呼んでくれませんかね? 私も社長と呼ぶのは気が引けますし」

「誰も気にしたりしねーよ、乙女かお前は」

「貴方ほど豪胆ではないのですよ。分かってください」

「まぁいいか。じゃあ頑張ってこいよ、霧島」

「といっても彼女に同伴するだけです」

「その帰りの足でデュノア社に来いって言ってるんだよ」

「経費落としましたね?」

「俺が社長だ。俺が問題ないと言えば白でも黒になる」

「そういうのは社内だけにしてください。世間様との無駄な衝突だけは避けましょうよ」

「戦わずして何が男だ! ほら早く行け」

 空港のアナウンスに従って二人は社長と別れる。

 

「はぁ~あ、社長にも困りましたね」

 飛行機に乗るなり博士は言葉を漏らした。少女もそれには苦笑いを浮かべる。

「さて、ルナリア。飛行機……乗った事あったっけ……?」

 首を横に振った。確か、あの時は──記憶に残っていないのならこれが初めてということになる。

 緊張気味なのか座席に座るのもどこか動きがたどたどしい。背中を預けるのも慎重だ。

「まぁそう簡単に落ちたりとかしないから安心していいよ。ってこれはこの状況で言うべきじゃなかったかな」

 少女──ルナリア・ポードレットは力強く頷く。博士と呼ばれていた男性、霧島深崎(きりしま みさき)は笑って誤魔化した。

 気を紛らわせようとしてるのか、ルナリアはいそいそと手荷物から資料を取り出す。分厚い書物を見て霧島は初めは流した。が、二度見して眉を寄せる。

「……それ、もしかして社長から?」

 頷き、タイトルを見せてきた。

『現代改訂版・漢の魅せる45口径の魅力』

 頭を抱えそうになる。しかもしおりを外した所から察するにもう読み始めていたようだ。これには社長の悪癖に頭を悩ませる。

 尚、内容としては──ただひたすらに45口径の銃について熱いレビューが書かれており、やれ火薬がどうだストッピングパワーがどうだ打つ時の反動が全身を駆け巡る時の衝撃に痺れるだのと辟易するほどの『45口径信仰』である。

 だがルナリアがそれに惹かれたのは決して社長から勧められたからではなく、単に45口径の銃について知りたいが故にだ。どの銃に何発装弾されているか、どんな癖があるかなどについてまで詳しく載っている。その為、社長対策のマニュアルとして秘かに社内では回し読みされていた。──尚、社長の私物である。朝に一読、昼休憩に一読、夜に一読と三度の飯より45口径。一時期『そこまで好きなら火薬食べればいいじゃないですか!』と霧島は言った。

 すると社長は──

『お前の祖国には“かやく”という野菜があるそうじゃないか。持って来い!』

 ……そう言って一時期はまるで錠剤のように乾燥した野菜くずをお湯で飲んでいた。ワイルド過ぎて結局その後は霧島が謝罪している。

(まぁ、ルナリアは勉強熱心だからいいかな。ちょっと無茶しちゃうこともあるけど)

「…………」

 黙々と、それこそ黙々と読み耽るルナリアの紺色の髪を撫でた。それに気にした様子もなく熱中している。

 旅客機のアナウンスが間も無く離陸することを告げていた。シートベルトを確認し、いよいよフライトする。

(……日本、か。故郷の土を踏むのは……何年ぶりだろう)

 目を閉じ、揺れもなく安定した飛行に移行したところで霧島は長い間離れていた生まれ故郷に想いを馳せた。

 第二世代IS、純国製の《打鉄(うちがね)》を一目でも見れたらと切に願う。

 

 

 ──その頃のIS学園。織斑一夏は放課後の訓練という名の拷問を受けていた。逆かもしれないが、拷問という名目で行われている特訓ではない。箒、セシリア、鈴からの生かせそうにないアドバイスに思考回路をパンクさせながら、視界の端にちらりとスタンバイしているシャルルとラウラ。

「ですから聞いてますの、一夏さん!」

「ちょっと一夏、聞きなさいよ!」

「だから一夏。お前は」

(俺は生まれ変わったら聖徳太子になりたい……十人の話を同時に聞いて、全員に反論してやりたい……)

 可能ならば論破して黙らせもしたい。

 がっくりとうなだれる一夏は自分の専用IS《白式(びゃくしき)》を纏っている。肩を落としているからか白いカラーとフォルムがなんとも情けない。

 そして、その日もこってりと照り焼きにされそうな程の特訓をしこたまこれでもかと行い(半強制的に付き合わされ)、アリーナでぐったりと倒れる。

「一夏、今日はこれぐらいにしておかないと……」

「そう思うならシャル、お前も手加減してくれ」

「手加減したら訓練にならないし」

 それでも血の通う友達なら情けを掛けて欲しい。それが友情という物だ。

 みんなを先に帰らせてからのクールタイム。一人の余韻に浸っていた一夏はISスーツから制服に着替えて寮へと戻った。

「なんだ一夏。まだ寮に戻ってなかったのか」

「千冬姉──」

 拳が落ちてくる。星が見えた。日が落ちている。そりゃあ星も見えよう──北斗七星の隣に輝くアレは見えなかったことにした。

「お前は何度言えば分かる。織斑先生、だ。脳細胞に叩き込んでやらなければ、その間違いは何度でも繰り返しそうだな」

「織斑先生……!」

「それでいい」

 織斑千冬。一夏の姉であり、世界最強のIS操縦者としての過去を持つが、本人は今現在この通り普通の教員である。

「それはともかく、織斑先生はこんな遅くまで何を?」

「ああ。……そうだな、いや明日になれば分かる事だ」

「は? 何が」

「だから、明日になれば分かる。今日はもう部屋に戻ってさっさと寝ろ」

「あ、あぁ……分かりました」

 右拳が唸りをあげて頭上に落ちてくる前に一夏は寮へと足早に退散した。それを見届けて、千冬は深いため息を吐く。

「……アメリカから、か。やれやれ」

 どんな問題児が手を焼かせてくれるのか。そう思うだけで頭と気が重くなる。ただでさえ騒がしい学園だと言うのに。

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