インフィニット・ストラトス―IB―   作:アメリカ兎

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戦場への予感

 飛行機での移動中、霧島の隣に座った依頼屋の青年は一冊の本を取り出す。

「私は霧島深崎。今回は宜しくお願いします。えーと……」

「……ヴォルフでいい。亡国機業の方じゃそれで通してるからな」

「それは?」

「暇潰しだ」

 

 そして、到着した日本での昼食。

「……霧島」

「はい」

「ここは何処だ」

「日本です」

「オーケー、ジャパンだ。で。ここは何処だ?」

「マックですが?」

「なんで日本に来てまでハンバーガー食う必要がある? 喧嘩売ってるのか!」

「頼むから静かに飯を食わせてくれよ………」

 ボマーが頭を抱える空港の近くでの食事。ヴォルフは淡々とハンバーガーを頬張っていた。スミスは霧島に延々文句を言いながら平らげる。

 その後、ボマーの運転で霧島を倉持技研へと送るのだが、ヴォルフも同行してきた。

 車内で待機しているスミスとボマーは特にすることが無いので煙草を吸っていたが、運転席で肩を叩かれる。

「ん?」

「ライター。ガス切れちまった」

「ほい」

「どうも。……ふぃー。返すぜ」

「あいよ。……なぁ、社長さん」

「なんだ? ジョークでも聞かせてくれるのか?」

「あー、ネタがあったら。あんた銃持ってきてるか?」

「あの依頼屋のガキがどうにかして持ちこんだらしいけどな。まだ受け取ってねぇ」

 (ヴォルフ)と名乗った青年はボマーと同い年くらいだろうか。依頼屋という組織についても詳しく知らなかった。

「……日本は平和な国だなぁ」

「あーまったくだ。その意見には同感するぜ」

「……暇だ……」

 護衛任務と言われてはいたが、その仕事も必要なさそうだ。それよりもやらなければならないのは織斑一夏の拉致なのだが、いい方法が思い浮かばない。ボマー、爆弾魔の名前通りに誘拐やそういった物は専門外だ。それが何故爆破工作部隊である自分達に回されたのかと言えば、やはり依頼屋の所為である。貧乏神、というよりは厄介者だ。

 ボマーは煙草の灰を灰皿に落とし、倉持技研の出入り口を見張っていた。早く戻って来ないものかと待つ。

 

 霧島の設計プランには倉持技研の面々も顔色を渋らせた。しかしそれには構わずに雪片弐型の設計図を見せて欲しいと言いだすが、それも叶わなかった。

「うーん、困りましたね」

「……」

 ヴォルフは壁に寄りかかってその交渉の行く末を見守っていたが、ざっと見渡した施設の片隅に見えた物に興味を示す。スタッフの一人に話を聞いた。

「あそこに置かれてるのは?」

「あれかい? ISのサポートユニットのような物だよ。といっても白式がそれを後付装備と認識する可能性が高いから放置してるんだ」

「……使い道はあんのかい」

「今のところはないね」

「オーケー、買った。責任者に話を付けてくれ。買い手が見つかったってな」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。あれは白式専用のサポートユニットとして」

「そういう方針で開発してたのは分かるさ。ただ、買った後にどうしようが俺の勝手だ」

 足元を見た金額を提示されたが、ヴォルフは躊躇なく全額支払った。後日振り込みという形で商談はあっさり成立する。

「あんなのを買ってどうするんだい?」

「気にすんな。アンタは自分の仕事をすりゃあいい」

「それもなんだか旗色が悪くてね、困ったものさ」

「……ちょいと見せてもらえねぇかい」

 霧島の持ちこんだ設計図を見てヴォルフも眉を寄せた。それから開示された設計図と見比べて、霧島に返すと携帯を取り出す。

「倉持技研じゃ無理だな、それ。俺が用意しとく」

「えっ?」

「図面だけはな。国際条約に縛られたくなけりゃ任せとけ」

「……一体何者なんだい?」

「俺が化け物にでも見えるか?」

 

 倉持技研で得られたのは僅かな情報だったが、ヴォルフの協力で滞りなく手に入りそうだった。車のトランクには白式専用のサポートユニットが解体されて入れられている。

「たっけぇ買い物させられたぜ、ったく」

「いくらしたんだ?」

 ヴォルフが開いて見せた指の数に、スミスは吸っていた煙草でむせた。

「さて、私の用事は済んでしまいましたけど……どうしますか?」

「織斑一夏の拉致はどーやんだい、依頼屋さん」

「適当に」

「そんなんでいいのか……」

「微力ながら私も手伝いますよ? 一夏君には久しぶりに会いますからね」

「ゲッホ……あぁ、クソ。俺も一目会ってみたいもんだ。世界で初めてISを動かした男と」

「全員乗り気じゃねぇか」

「オレをカウントしないでくれ」

 ボマーの言葉は聞き流された。

 IS学園の敷地と、最寄りのショッピングモールを確認する。一般人も立ち入れるのはショッピングモール側だけだが、一夏が一人で来る状況は想像し難い。そうなると周りの人間関係から引き出す方法も考えるのだが、それでも難しかった。

「どうにか出来ねぇか」

「IS学園でも襲撃すりゃあ簡単なんだが、そうもいかねぇ」

「誰がやるかそんなん!」

 ボマーからの激しい抗議に襲撃は断念。

「平日に利用する可能性は低いからな。となると週末にショッピングモールでも張り込むか」

「それで。そっからどう連れ出すんだよ?」

「成るようにならぁ、そんなもん」

「……ヒッデェ作戦だな」

 

 

 

 臨海学校が終わり、夏も全盛期を迎えていた。学生の長期休暇である夏休みはIS学園も例外ではなく、女子は羽目を外している。ただし学園側から出された課題の山に阿鼻叫喚となっていた。

 一夏もまたその犠牲者の一人である。肩を落とした状態で歩く廊下で、すれ違ったルナリアに声を掛けた。

「よ、ルナリア。課題は終わったか?」

 首を横に振る。

『もう少し』

 乾いた笑いしか出てこなかった。さすがに見せてくれと言えるはずもない。

『終わりそう?』

「まだ時間はかかりそうだけど、なんとか出来そうだ」

『セシリアは終わらせたみたいだから教えてもらったら?』

 指された先にはセシリアがいた。しかし一夏は悩む。

「う~ん……いや、出来るだけ自分の力でやる。誰かに頼るのは最後の手段だ」

(セシリアと二人きりにしようとしたけど駄目か……)

 去っていく姿を見送り、海を眺めていたセシリアの肩を叩いた。

「あら、ルナリアさん。どうかしました?」

『なにしてたのかなって』

「……はぁ……」

『悩み事?』

「そうですわね……聞いてくれますの?」

 力になれるかどうかはともかくとして、聞くだけ聞いてみる。すると、ブルー・ティアーズの戦績が伸び悩んでいる事に悩んでいたらしい。射撃戦に特化した機体ではあるが、チームプレーでは活躍の場が少なかった。その上、紅椿の参上によってますます影が薄くなることを危惧している。

(考えすぎだと思うけども……)

 否定できる材料も少ない。ルナリアのトライアレンドは立ち上がりが遅い為に味方との連携は必須だが、リリウスの充填さえ終われば単機でも十分に活躍できる。その点を考慮すると二人の機体は相性がいいかもしれなかった。難点と言えば近距離の攻撃手段に乏しいことだが。

 こういう時は悩んでいても悪い方向にしかいかない。ルナリアはせっかくの夏休みなので何処かに出かけるようセシリアに提案した──自分ではなく一夏を誘うように。

「い、一夏さんとデー、むぎゅ!?」

 素早くその口を塞いだ。ただでさえ噂が広まるのが早いのだから迂闊な発言は遅れを取るきっかけになる。唇に指を当てて、何も言わないようにアピールすると頷いた。

「で、ですがどのように誘えば……」

(そこからかぁ……)

 ルナリアは呆れた視線でセシリアを見る。

「なんですの?」

『服でも買いに行きたいとか』

「ですけど」

『おりむーの服でもいいんじゃない?』

「……文字が雑になってきてますわよ」

 呆れて物も言えない。……もとから何も言わないルナリアだが、ここまで来ると呆れ果てる。

『いいから』

「で、ですけど私そのような経験」

 メモ帳に書くのも面倒になってきた。グイグイとセシリアの背中を押して一夏の後を追う。

 姿を見つけたが、ルナリアが曲がり角の先に鈴音を見つけたので大きく振りかぶった。ハーフズボンでなければここまで足を振り上げられない。

「イッテ! ……な、なんだ?」

(よし)

 小さくガッツポーズを取り、全力投球したメモ帳を拾い上げた一夏にセシリアを突き出し、メモ帳に走り書きで簡潔に用件をまとめると曲がり角に飛び出して鈴音とぶつかった。

『セシリアがかいものにいきたいからつきあってあげて』

「……それがなんで俺に?」

「えーと。それは……ル、ルナリアさんが他の用事で行けないから、代わりにですわ」

「そっか。課題やってばっかで気晴らししたかったから別にいいぜ」

「では……」

 日時を決めている後ろで鈴音とルナリアがてんやわんやしている。

 

「な、なによ突然出てきて……大丈夫?」

 額を押さえて涙目のルナリアがなんとか頷いていた。

『これから時間ある?』

「え、うーん……あるけど」

『ちょっと付き合ってくれない?』

「……もしかして模擬戦?」

『ダメ?』

「今はそういう気分じゃないし。んー、まぁアンタでもいいか。ちょっと買い物に付き合ってくれる?」

(……あ、何かやな予感)

 ルナリアの予感は週末に的中することとなる。

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